菌体破砕の条件をどう決めるか:圧力・パス数・熱
高圧ホモジナイザー高い圧力で試料を細い隙間に通し、その力で細胞や菌体を壊す装置です。中の目的物を取り出す破砕工程に使います。詳しく →のカタログで、いちばん大きく書かれている数字は最高圧力です。2,000 bar、1,500 bar、1,000 bar。この数字を見て装置を選び、そのあと現場で「何 bar で何パス回すか」を試行錯誤する。よくある順序ですが、実は決め方が先にあります。破砕率と運転条件の関係は、60年近く前から式の形で分かっているからです。

核心は一点です。破砕はパス数懸濁液がホモジナイザーを通過する回数。圧力とともに破砕度を決めるが上げすぎは弊害を招く。詳しく →の1乗で進み、圧力の 2.2乗 で進みます。大腸菌の場合の指数が 2.2、酵母では 2.9。圧力を2倍にすると速度定数は 4.6倍 になり、酵母なら 7.5倍 になります。パスを2回に増やしても2倍にしかなりません。つまり圧力を上げるほうが圧倒的に効率が良い。ところが圧力を上げると、もう一つの量が同じ勢いで増えます。熱です。
この記事では、破砕率の式が何を言っているかを確かめたうえで、圧力に比例して増える発熱、宿主と株で変わる壊れやすさ、壊しすぎたときに後段が払う代償、機械を使わない手立て、そして清澄化培養液から細胞や破片を取り除いて目的物質を含む上清を回収し、後工程に渡せる清澄な液にする工程です。詳しく →までを含めた設計範囲を順に整理します。破砕の下流は微生物ダウンストリーム精製にまとめてあります。最後に、条件を決める順番を並べます。
- 破砕率はパス数の1乗、圧力の 2.2乗(酵母は 2.9乗)で効きます。
- 1,000 bar を1パス通すと、液温はおよそ 15〜25℃ 上がります。
- 組換え株は親株より壊れやすいという実測があり、宿主株で決めた条件は流用できません。
破砕率の式 ― パス数は1乗、圧力は 2.2乗
破砕は一次反応として書けます。
Hetheringtonらが1971年に酵母で示した関係で、その後、細菌や真菌にも当てはまることが確かめられました。未破砕の割合の対数が、パス数と圧力のべき乗の積に比例して減っていく。式の中でパス数は1乗で入り、圧力は指数 a のべき乗で入ります。この a が宿主によって違い、およそ 1.5 から 2.9 の範囲に収まります。
大腸菌では a がおよそ 2.2、出芽酵母では 2.9 で、壁が固いほど指数が大きくなります。意味するところは単純で、圧力を 500 bar から 1,000 bar へ上げると、大腸菌では速度定数が 2 の 2.2乗、つまり 4.6倍 になります。酵母なら 7.5倍。同じ効果をパス数で稼ごうとすれば、5回近く回す必要があります。
実測も残っています。Sauerらが1989年に報告した検討では、大腸菌を 30〜95 MPa、つまり 300〜950 bar の範囲で最大5パスまで処理し、950 bar なら2〜3パスで 95〜98% が壊れました。圧力とパス数は代替できる二つのつまみではなく、効き方の桁が違う二つのつまみです。
熱 ― 1,000 bar を1パスで 15〜25℃
圧力を上げれば、そのぶん熱が付いてきます。
高圧で加圧した液を狭い隙間から噴出させると、投入したエネルギーの大半は最終的に熱に変わります。水を主体とする液では、断熱昇温の目安として 100 bar あたり 2.5℃ が使われ、実測では 1.5〜2.0℃ の範囲に入ります。1,000 bar なら、1パスで 15〜25℃ です。
ここを見落とすと後で困ります。4℃ に冷やした懸濁液を 1,000 bar で3パス通し、パスのあいだに冷却を挟まなければ、出口の液温は 50〜80℃ に届きます。熱に弱いタンパク質なら、破砕率を上げた代償として目的物を失う。だからパス間の熱交換器は、あれば便利な付属品ではなく、多パス運転の前提です。
装置は、Microfluidics(IDEX MPT)の Microfluidizer、GEA の Ariete や PandaPLUS、SPX FLOW の APV、Avestin の EmulsiFlex、Constant Systems の Cell Disruptor、BEE International の DeBEE などが使われます。メーカーに聞くべきは「最高圧力はいくつか」ではなく、「その圧力で連続運転したとき、出口温度が何℃ まで上がるか」です。
圧力の指数が 2.2 なのに対し、発熱は圧力に比例します。つまり圧力を2倍にすると、破砕は 4.6倍 進み、熱は 2倍 しか増えません。この比較だけ見れば、圧力を上げてパスを減らすほうが熱の総量では有利です。冷却が追いつかないのは、1パスあたりの温度上昇が一気に来るからで、総量の問題ではなく速度の問題です。熱交換器の能力を、パスあたりの昇温で見積もるのはそのためです。
宿主と株で変わる壊れやすさ
指数が宿主で変わることは、もう一つの含意を持ちます。
同じ大腸菌でも、株が違えば壊れやすさが変わります。Sauerらの検討では、組換え株のほうが親株より容易に壊れました。生産株は発現目的タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞内で転写・翻訳させ、機能的なタンパク質として産生させる工程。詳しく →の負荷を抱えているぶん、壁の状態が親株と同じではないということです。宿主株で条件を決めておいて、生産株にそのまま持ち込むと、壊しすぎる側に振れます。
培養条件でも変わります。増殖速度、培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →、菌体濃度、収穫のタイミング。どれも壁の厚みや強度に影響するので、培養の条件を変えたら破砕の条件も確かめ直す必要があります。微生物発酵のスケールアップで運転条件を動かしたときは、下流の破砕まで見ておくほうが安全です。
壁が固い相手には、別の装置が向きます。酵母や糸状菌には、NETZSCH のようなメーカーが供給するビーズミル微小なガラス・セラミックビーズと菌体を高速撹拌し、衝突・摩擦で細胞を擦り潰す破砕装置。が使われます。ビーズ径は、細菌のような小さい細胞には 0.2〜0.5 mm、酵母には 0.5〜1.0 mm が目安です。a が 2.9 ということは、酵母では圧力を上げる効果も大きいということです。それでもビーズミルが選ばれるのは、必要な圧力まで上げると熱が先に問題になるからです。
壊しすぎの代償 ― デブリと粘度
壊す度合いを上げると、後段が支払います。
一つ目が細胞デブリの微細化です。破片が細かくなるほど遠心で落ちにくくなり、デプスフィルターろ材の厚み全体で不純物を捕らえる深層ろ過フィルターで、細胞培養液の清澄化など、細胞残渣や粒子を多く含む液の一次ろ過に使います。詳しく →も早く詰まります。清澄化が効かなくなると、カラムに持ち込む濁りが増え、樹脂の寿命まで短くなります。破砕率を 95% から 99% へ上げた見返りが、清澄化の収率低下で消えることは珍しくありません。
二つ目が粘度です。細胞が壊れると宿主のゲノムDNAが液中に出てきて、長い鎖が液をねばらせます。ねばった液は遠心でも膜でも扱いにくい。だからヌクレアーゼで切ります。Merck の Benzonase核酸を分解する酵素です。製造では培養由来の残存DNA/RNAを分解・除去して製品の純度を高める目的で使い、ベンゾナーゼが代表例です。詳しく → Nuclease、c-LEcta の DENARASE、Thermo Fisher Scientific の Pierce Universal Nuclease、GMPグレード医薬品の製造品質管理基準(GMP)に適合した製造管理と品質試験のもとで製造・出荷された試薬・原料の品質区分。詳しく →なら Roche CustomBiotech の製品が使われます。
ただし、加えた酵素は次の不純物です。残存ヌクレアーゼバイオ医薬品製造工程で使用した、DNAやRNAを分解する酵素が製品中に微量残留したもの。詳しく →の試験法を用意し、除去を工程として示す必要があります。宿主細胞タンパク質の管理と同じ枠組みで、原材料製造の起点となる原料で、その品質や持ち込む不純物が最終製品の品質に影響しうるため、規格管理が重視される物質。詳しく →に由来するものを工程から取り除いていく作業です。壊しすぎないことは、後段に渡す宿題を減らすことです。
機械を使わない手立て
せん断流れの中で分子にかかる物理的な力。強すぎると抗体の凝集や微粒子発生を招く。詳しく →そのものを避ける道もあります。
リゾチームは細菌のペプチドグリカンを切って壁を弱めますが、単独では細胞膜が残るので、EDTAで外膜を不安定にするか、界面活性剤タンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく →を併用するか、軽い機械処理を加えるのが普通です。Triton X-100 やデオキシコール酸は膜脂質を可溶化大腸菌内で不溶性の塊(封入体)になったタンパク質を可溶化し、正しい立体構造へ巻き戻して活性を回復させる操作です。詳しく →しますが、目的物の変性と、後段での界面活性剤除去という課題が付いてきます。
ペリプラズムに溜まる目的物なら、浸透圧ショックが効きます。高浸透圧の緩衝液に置いてから低浸透圧へ移すと、外膜が緩んでペリプラズムの中身だけが出る。細胞質の成分をほとんど混ぜずに回収できるので、後段の負荷が大きく下がります。抗体フラグメント全長抗体から抗原認識に必要な部分だけを取り出した分子。Fcを持たず小さく、微生物でも作れる。詳しく →のように、ペリプラズム大腸菌の内膜と外膜の間の区画。細胞質より酸化的で、ジスルフィド結合が形成されやすい。詳しく →で折りたたませる設計と相性のよい手法です。
代償は、加えたものを除く手間です。酵素も薬剤も、注射剤の原薬では除去とバリデーション試験法が目的に合う性能を持つことを立証する妥当性確認。正確さ・精度などを評価する。詳しく →の対象です。だから化学処理は単独で使うより、機械破砕の前処理細胞移植の前に患者へ行う処置。生着の場を空けるために既存の骨髄細胞を減らす目的で実施される。詳しく →として弱めに組み合わせる設計が多くなります。
破砕の後 ― 清澄化までが設計範囲
破砕条件は、清澄化の側から逆算して決めます。
破砕液はデブリ破砕で生じる細胞の破片。過度な破砕で微細化すると後段の遠心・ろ過を妨げる。詳しく →と微粒子を含む濁った液なので、そのままではカラムに載りません。標準は遠心と深層ろ過の組み合わせで、Alfa Laval の CultureOne や GEA の kytero のような連続遠心機で粗く落とし、Merck の Millistak+ や Cytiva の ULTA のようなデプスフィルターで仕上げます。緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →の交換と濃縮にはTFFシステムが入ります。
ここで効いてくるのが、破砕で作ったデブリの粒径分布です。同じ破砕率でも、高圧ホモジナイザーとビーズミルでは生成するデブリの性質が違い、その違いが遠心とろ過の効きに出ます。破砕率だけを揃えても、清澄化の負荷は揃いません。
だから破砕の評価は、破砕率と目的物の回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。詳しく →だけでは足りず、清澄化の収率、フィルターの処理量、液の粘度液体の流れにくさを表す物理的性質で、タンパク質濃度の上昇に伴い非線形に増大する。詳しく →まで含めて見る必要があります。破砕は独立した工程ではなく、清澄化と一緒に条件を決める一つの単位です。
条件を決める順番
菌体破砕細胞内に溜まった目的タンパク質を回収するため、微生物の細胞を壊す精製の入口工程。詳しく →の条件を決めるとき、次の順で判断します。
一番目は、目的物がどこにあるかを確かめることです。 細胞質なら全体を壊す必要がありますが、ペリプラズムなら浸透圧ショック高浸透圧から低浸透圧へ急に移して外膜を緩め、ペリプラズムの内容物を選択的に放出させる手法。で足ります。封入体として不溶性で溜まっているなら、破砕のあとに巻き戻しが続くので、求める破砕率そのものが変わります。ここを飛ばすと、壊す必要のないものまで壊します。
二番目に、生産株そのもので指数を測ります。親株や文献値の a を使わず、実際に使う株で圧力とパス数を振り、破砕率の曲線を取る。三番目が熱の見積もりです。1パスあたりの昇温を 100 bar につき 2〜2.5℃ で概算し、必要なパス数を掛けて、熱交換器の能力が足りるかを先に確かめます。足りなければ、圧力を上げてパスを減らす設計に振ります。
四番目に、清澄化まで通して評価します。破砕率だけで条件を決めず、その条件で出た液を遠心とデプスフィルターに通し、処理量と収率を測る。最後に、ヌクレアーゼを入れるかどうかを決めます。 粘度が問題にならないなら、入れないほうが後が楽です。入れるなら、残存の試験法と除去の根拠を同時に用意します。
参考文献
- Hetherington PJ, Follows M, Dunnill P, Lilly MD. Release of protein from baker's yeast by disruption in an industrial homogeniser. Trans Inst Chem Eng. 1971;49:142-148(一次速度式と圧力のべき乗)
- Sauer T, Robinson CW, Glick BR. Disruption of native and recombinant遺伝子組換え技術を用いて微生物や細胞に目的タンパク質を産生させることで製造された成分を指し、動物由来成分を含まない点が特徴。詳しく → Escherichia coli in a high-pressure homogenizer. Biotechnol Bioeng. 1989;33(10):1330-1342. PMID: 18587868. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18587868/
- Middelberg APJ. Process-scale disruption of microorganisms. Biotechnol Adv. 1995;13(3):491-551. PMID: 14536098. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14536098/
- Agerkvist I, Enfors SO. Characterization of E. coli cell disintegrates from a bead mill and high pressure homogenizers. Biotechnol Bioeng. 1990;36(11):1083-1089. PMID: 18595048. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18595048/
- Balasundaram B, Harrison S, Bracewell DG. Advances in product release strategies and impact on bioprocess design. Trends Biotechnol. 2009;27(8):477-485. PMID: 19573944. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19573944/
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