抗体医薬基礎知識・製剤

抗体製剤の凝集を防ぐ設計は何で決まるか

処方検討が進むほど、凝集の問題が顔を出します。高濃度製剤でにじり寄ってくる会合体や、凍結融解のたびに増えていく高分子量体(HMW)モノマーより大きい分子種の総称。二量体・多量体など凝集体がこれにあたる。には、抗体医薬の製剤開発有効成分を安定に保ち投与しやすくするため、pH・緩衝剤・添加剤などの処方を検討して決める工程です。詳しく →に携わる人なら一度は頭を抱えた経験があるものです。凝集体は有効成分の目減りだけでなく、免疫原性薬そのものが患者の免疫応答を誘発しやすい性質。凝集体や不純物、投与経路、患者背景などが要因になる。詳しく →、つまり体が薬を異物と認識してしまう懸念からも、管理対象です。

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抗体製剤の凝集を防ぐ設計は何で決まるか

処方の相談を受けたとき、多くの開発者は、まず融解温度(Tm)加熱でタンパク質の折りたたみがほどける温度の目安。構造安定性の指標に使う。を上げようとします。Tmが高いほど安定だという発想です。けれど、Tmが高い分子でも高濃度では会合しますし、Tmが低くても薄めれば安定に見える分子もあります。実際に効くのは、Tmという1つの数字ではありません。折りたたみがほどけにくいかという構造安定性と、分子どうしが近づいても反発し合うかというコロイド安定性抗体が水溶液中で会合せず、安定に散らばっていられる性質。凝集のしにくさに関わる。詳しく →。この二つの軸です。

本稿では、凝集を可逆と不可逆に分けるところから入ります。天然状態からの会合と変性を経る経路、界面・凍結融解・攪拌といった引き金へ進みます。そのうえで、二つの安定性をそれぞれ何で測るか、pH・賦形剤・界面活性剤タンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく →をどう組み合わせて抑えるかまで、実際の製品名とともに整理します。最後に、処方を決める順番まで見ていきます。

この記事の要点
  • 凝集は可逆的な会合から不可逆・共有結合性の多量体まで連続的に分布し、天然状態からの会合と変性を経る経路の二通りで進みます。
  • Tm(構造安定性)が高くても、コロイド安定性が低ければ高濃度で会合します。二つは別の軸で、別の機器で測ります。
  • 抑制策はpH・賦形剤・界面活性剤を、引き金と経路に対応づけて選びます。単一の合格基準はありません。

凝集とは何か ― 可逆と不可逆

凝集(aggregationタンパク質医薬品中で複数の分子が非共有結合または共有結合により集合した高分子量体の含有量で、免疫原性リスクと関わる品質指標。詳しく →)とは、抗体モノマーが複数寄り集まって高分子量体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →(HMW)をつくる現象です。ただし、中身は一様ではありません。

可逆的な会合は、高濃度製剤の中で分子どうしが弱く引き合ってできます。薄めると解けることがあります。一方、いったん構造がほどけてから絡み合った不可逆的な凝集や、ジスルフィド結合システイン残基どうしが作るS-S結合。タンパク質の立体構造を留める橋になる。詳しく →の掛け違いで固定された共有結合性の凝集は、条件を戻しても元には戻りません。

サイズの幅も広く、数nmの二量体から、100 µm前後のサブビジブル粒子おおむね2〜100μmの目に見えない微粒子。SECなどの守備範囲を外れ、光遮蔽や画像式で計数する。詳しく →まで連続します。USP <788>が定める光遮蔽法光をさえぎる粒子を検出して注射剤の不溶性微粒子を数える方法。詳しく →では、10 µm以上と25 µm以上の粒子数がそれぞれ規格の対象です。USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく → <787>は、より小さな容量の製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →向けに同じ考え方を当てており、この幅広さゆえに1つの分析法だけで全域を見ることはできません。詳しくは凝集体分析を参照してください。

凝集は「解離しうる可逆的会合」から「戻らない不可逆的・共有結合性凝集ジスルフィド架橋などの共有結合で固定された凝集。変性条件でも解けにくい。」まで連続します。まずこの区別から入るのが実務的です。

Tmという数字の誤読 ― 高ければ安定とは限らない

処方検討の初期、開発者がまず測る数字がTmです。示差走査熱量測定(DSC)試料を加熱しながら熱の出入りを測り、融解や転移などの熱事象を捉える分析法。や示差走査蛍光測定分子がほどけるのに伴う蛍光の変化を追って融解温度を求める手法。少量・多検体で回しやすい。詳しく →(nanoDSF)で得られる、折りたたみがほどけ始める温度です。カタログや社内資料でTmが高いと分かると、その分子は安定だと判断しがちです。

けれど、Tmが測っているのは1つの分子がどれだけほどけにくいかだけであり、溶けた分子どうしが近づいたときに反発し合うかどうかは、Tmには表れません。高濃度の製剤では、分子どうしがぶつかる頻度そのものが上がります。Tmが高くても、電荷が遮蔽されて反発が弱まれば、分子は会合します。逆にTmが多少低くても、反発が強く保たれていれば、薄めた製剤では長く安定に見えることがあります。

Tmが高いことは、折りたたみがほどけにくいことしか保証しません。分子どうしが近づいたときに何が起きるかは、まったく別の測定で確かめる必要があります。

「Tmが高い抗体なら凝集しにくいか」という問い自体への直接の答えは、短い一問一答にまとめています。

二つの経路 ― 天然状態からと、変性を経る道

凝集の起点は、大きく分けて二通りです。

1つ目は、天然状態のまま分子どうしが会合する経路です。表面の一部が疎水性を帯びていると、その部分どうしが寄り合って弱く結びつき、高濃度になるほど分子が近づく頻度が上がるため、この経路は高濃度製剤抗体を150〜250mg/mL級まで濃くした製剤。皮下注の自己注射に向くが、粘度や凝集の課題が生じる。詳しく →で顕在化しやすくなります。多くは可逆的ですが、会合体が長くとどまるうちに不可逆化することもあります。

2つ目は、部分的に変性してから凝集する経路です。熱・pH・界面などのストレスで構造が緩むと、内側に隠れていた疎水性の部分が表に出て、この露出面どうしが強く結びつくと元に戻らない多量体へ進みます。多くの不可逆的凝集一度構造がほどけて絡み合い、条件を戻しても解離しなくなった凝集。は、この経路をたどると考えられています。

実際の製剤では、この二つが同時に、あるいは連鎖して進むことも珍しくありません。界面で軽くほどけた分子が核になり、そこへ天然状態の分子が付着して成長する、という複合的な挙動も報告されています。

天然状態のまま会合する経路はコロイド安定性が、変性を経る経路は構造安定性タンパク質の折りたたみがどれだけほどけにくいかの安定性。変性を経る凝集のしにくさに効く。詳しく →が、それぞれ律速を決めます。

引き金を一つずつ ― 界面・凍結融解・攪拌・光・微量金属

代表的な引き金を、1つずつ見ていきます。

界面は、抗体製剤でとりわけ重要な引き金です。空気と液の境目、容器の壁、プレフィルドシリンジあらかじめ薬液を充填した注射器そのものを製品にする容器形式。自己注射やオートインジェクターに用いる。のシリコーン油はいずれも水になじみにくい環境で、そこに吸着した分子は部分的に構造を緩めやすくなります。攪拌や輸送中の揺れは、この界面を何度も新しく作り直し、吸着と脱離の繰り返しを通じて凝集を後押しします。

凍結融解は、複数の効果が重なる点で注意が要ります。凍る過程で氷が排除した溶質が濃縮され、緩衝剤の成分によっては局所的にpHが動くこともあります。氷の表面への吸着も起こります。融解の速度や凍結容器細胞などを凍結保存するために使う、極低温に耐える小型の容器(チューブ)です。詳しく →の形状によって挙動が変わるため、条件による差が大きい引き金です。

光と微量金属は、いずれも酸化を介して構造を傷める点で共通します。光は特定のアミノ酸残基の酸化・分解を進めることがある一方、鉄や銅などの微量金属イオンは酸化反応を触媒します。原材料製造の起点となる原料で、その品質や持ち込む不純物が最終製品の品質に影響しうるため、規格管理が重視される物質。詳しく →や容器由来の微量金属が、思わぬ引き金になることもあります。

引き金ごとに効くメカニズムが違うため、抑制策も引き金ごとに変える必要があります。1つの対策で全部を防げるわけではありません。

POINT
凍結融解は、濃縮・pH変動・氷界面への吸着という複数の効果が同時に重なる、扱いにくい引き金です。単一の原因を疑って対策を1つ打つより、凍結速度・融解速度・容器形状を含めて条件そのものを見直すほうが、原因を取り違えにくくなります。

測る側の選び方 ― 構造安定性とコロイド安定性を何で測るか

二つの安定性は、測る機器も違います。

構造安定性を測る定番は、示差走査熱量測定温度を上げながら分子がほどける際の熱の出入りを測り、融解温度(Tm)を求める手法。詳しく →と示差走査蛍光昇温による疎水部の露出を蛍光変化で捉える簡便な熱安定性評価法。多検体を並行測定できる。詳しく →測定です。Malvern PanalyticalのMicroCal PEAQ-DSCは、高感度DSCでTmとΔH(変性エンタルピー)を測り、オートサンプラーで複数処方を自動比較します。NanoTemper TechnologiesのPrometheusは、キャピラリー方式のnanoDSFでTmと凝集開始温度(Tagg加熱で凝集が始まる温度。DLSなどで測り、会合の起こりやすさの指標にする。詳しく →)を高精度に測ります。同社のTycho NT.6は、10 µLの試料で約3分という短時間で、折りたたみ品質の簡易スクリーニングに使われます。TA InstrumentsのNano DSC試料を加熱しながら熱の出入り(DSC)や重量の変化(TGA)を測り、融点・結晶性・水分や分解の挙動を調べる装置です。詳しく →は、希薄な溶液でも構造安定性を高精度に測れる機種です。

コロイド安定性を測る側は、光散乱が中心です。Malvern PanalyticalのZetasizer Advanceシリーズは、動的光散乱(DLS)と静的光散乱(SLS)で、拡散相互作用パラメータ(kD)濃度に応じた拡散係数の変化から分子間の相互作用を表す指標。コロイド安定性の評価に使う。詳しく →やゼータ電位を測ります。Unchained LabsのStunnerは、わずか2 µLの同一試料から、UV濃度・DLS溶液中の粒子がブラウン運動で散乱させる光の揺らぎから、タンパク質や凝集体の粒径分布を測る手法です。凝集の有無を素早く確認できます。詳しく →・SLSをまとめて取得できます。同社のUncleは、DSF・静的光散乱・DLSを1台に統合し、少量の試料からTmと粒子径の両方を取得します。

構造安定性とコロイド安定性を別々に測って初めて、どちらが律速かが分かります。Tmだけを見て処方を決めるのは、片目で製剤を見ているのと同じです。

POINT
よく折りたたまれている(Tmが高い)分子でも、電荷が遮蔽されて分子どうしが引き合えば会合します。逆に反発が強くても、ストレスで簡単にほどけてしまえば不可逆凝集に進みます。両方を測ってはじめて、どちらの安定性が律速かを見極められます。

抑える側の選び方 ― pH・賦形剤・界面活性剤

処方で凝集を抑える手立ては、単独で万能な一手がありません。組み合わせを探るのが実際です。

pHの選定では、折りたたみが安定し、かつ分子間の反発が保たれる領域を探します。等電点(pI)タンパク質の正味電荷がゼロになるpH。付近では反発が弱まり凝集しやすいため処方pHは離す。詳しく →に近づくと反発が弱まり会合しやすくなる傾向がありますが、化学的分解とのバランスもあるため単純には決まりません。

賦形剤は、糖やポリオールが構造安定性を支えます。Merckの Emprove エクシピエント有効成分そのもの以外に製剤へ加え、安定性や溶解性を保つために用いる添加物の総称です。詳しく →は、スクロース・トレハロース・マンニトールなど、低エンドトキシン・低微粒子グレードの賦形剤を揃えます。Pfanstiehlの高純度スクロース・トレハロースは、注射剤グレードの糖類として、凍結乾燥製剤の安定化に使われます。Roquette のPEARLITOL マンニトールは、凍結乾燥のバルク剤や張度調整に使われます。塩は分子間の電荷を遮蔽するため、濃度によっては会合を促す方向にも働きます。

界面活性剤は、界面という引き金にピンポイントで効きます。Croda PharmaのSuper Refined Polysorbate 20/80は、独自の精製工程で過酸化物やアルデヒドなどの酸化不純物を除いており、酸化に敏感な分子の界面保護に使われます。NOF CorporationのPolysorbate 80(HX2)も、高純度オレイン酸を使い、同様に不純物を抑えたグレードです。ポリソルベートは自身が時間とともに分解する弱点があるため、代替としてBASFのKolliphor P188のようなポロキサマーが検討されることもあります。

界面が主因なら界面活性剤、熱変性が主因なら糖やpH、会合が主因なら塩とpH。原因の見立てが、処方の方向を決めます。

両論で終わらせない ― どちらの安定性が律速かで決める

構造安定性とコロイド安定性、どちらを優先すべきかという問いに、一律の答えはありません。

高濃度の皮下注製剤を狙うなら、分子どうしがぶつかる頻度が上がるため、コロイド安定性のほうが律速になりやすくなります。凍結融解を繰り返す工程や、長期の熱ストレスにさらされる製剤なら、構造安定性のほうが効いてきます。どちらが律速かは、分子と用途によって変わります。

メーカーや分析部門に聞くべきは、「Tmは何度か」だけではなく、「同じ試料でkDやB22も測ったか」です。片方だけの数字は、処方の半分しか説明しません。

規格の設定と工程管理は、ICH Q5C(生物薬品の安定性試験)とICH Q6B(品質特性の位置づけ)が土台です。ESPEC のCSH/CWHシリーズやBINDER のKBFシリーズのような恒温恒湿チャンバーは、25℃/60%RHの長期条件と、40℃/75%RHの加速条件を含む、ICH Q1A準拠の安定性試験に使われます。抑制策の効果は、最終的にこうした安定性試験と凝集体分析で確認します。

どちらの安定性が優れているかという話ではありません。自社の分子と製剤で、どちらが先に崩れるかを見極めることが出発点です。

製剤設計を決める順番

最後に、凝集対策を組み立てる順番を整理します。

まず、構造安定性とコロイド安定性の両方を測ります。DSCやnanoDSFでTmを、DLSやSLSでkDやB22を、同じ候補処方で並行して取得します。

次に、どちらが低いか、どちらが先に崩れるかを見極めます。ここで初めて、律速が構造かコロイドかが分かります。

そのうえで、律速に対応する手立てを選びます。構造側なら糖やpHの最適化、コロイド側なら塩濃度やpHの調整です。

界面ストレスが想定される投与経路や工程なら、界面活性剤を別枠で足します。プレフィルドシリンジや高攪拌の工程では、ここを省けません。

最後に、選んだ処方を安定性試験にかけます。長期・加速・苛酷の条件で凝集体分析と突き合わせて確かめ、ここまで来て処方は初めて確定します。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。