コロニーピッキングの自動化とは? 拾う基準、記録、装置の比べ方

拾ったコロニーが、目的の遺伝子を持っていない。大腸菌のクローニングで、アンピシリンを入れた寒天プレートに育った小さな点(サテライトコロニー)を拾うと起こります。大きなコロニーが抗生物質を分解する酵素をまわりに漏らし、その近くだけ薬が効かなくなる。そこで、プラスミド大腸菌の中で複製・増幅させる環状DNA。核酸医薬やベクター製造の伝統的な出発材料。詳しく →を取り込んでいない細胞が育つためです。
コロニーピッキングは、プレートに育ったコロニーから目的のものを選び、次の培養に移す作業です。この例のとおり、難しいのは拾う手の動きより、どれを拾うかの判断にあります。自動化の中身は、その判断を画像の条件に書き下して毎回同じに適用し、選んだ根拠を記録に残すことです。
対象は、微生物のスクリーニングと、抗体医薬の細胞株開発目的タンパク質を安定して高く産生する細胞のクローンを選び出し、製造に使える産生細胞株として確立する工程です。詳しく →で大きく違います。培養の担当者にも、装置を選ぶ購買や営業にも、比べる軸は「何を見て選ぶか、何を記録に残すか、後ろの工程につながるか」です。
- 自動化で変わるのは何か:拾う判断が画像の条件になり、毎回同じに適用され、根拠が記録に残る。
- 微生物と細胞株開発で何が違うのか:微生物では拾う数、哺乳細胞では単一細胞由来だと示す根拠が主題になる。
- 装置は処理量で選べるのか:選べない。培地、回収の方式、記録、後ろの工程とのつながりで比べる。
コロニーピッキングの目的は、微生物と哺乳細胞の細胞株開発でどう違うのか?
同じコロニーピッキングでも、微生物では拾う数が、哺乳細胞では単一細胞由来だと示す根拠が主題です。
大腸菌や酵母では、形質転換した菌や、変異を入れたライブラリのプレートから、数千から数万のコロニーを評価することがあります。CHO細胞やハイブリドーマ免疫でできた抗体産生B細胞と骨髄腫細胞を融合し、単一の抗体を安定に作らせ続ける細胞。詳しく →(抗体を作るB細胞と骨髄腫細胞無限に増える性質を持つがん細胞。B細胞と融合させてハイブリドーマを作る。詳しく →を融合させた細胞)の細胞株開発は違います。半固形培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →(寒天のように固めた培地)に細胞を播種し、育ったコロニーのうち、増殖が良く抗体をよく分泌するものを選びます。
| 微生物のスクリーニング | 哺乳細胞の細胞株開発 | |
|---|---|---|
| 探すもの | 目的の遺伝子や性質を持つ菌 | 高産生で安定なクローン |
| 拾う場所 | 寒天プレート | 半固形培地 |
| 選ぶ根拠 | 大きさ、形、孤立度、蛍光 | 増殖、分泌量(蛍光)、孤立度 |
| 重い課題 | 数と、拾ったあとの評価のボトルネック | 単一細胞由来だという記録 |
| 装置の例 | Molecular Devices の QPix 420 | Molecular Devices の ClonePix 2、Sartorius の CellCelector Flex |
表の装置の例のうち、微生物用と細胞株開発用の代表について、資料に書かれている仕組みと処理量は次のとおりです。処理量の数値は、誰が出したものかを併せて示します。
液体のウェルに細胞を1個ずつ播種する方式は、ピッキングではなく分注の話です。その違いはモノクローナリティ証明の記事にあります。
画像の基準(大きさ・形・孤立度・蛍光)は、何を見分けて、何を見分けられないのか?
装置が拾うかどうかは、大きさ・形・孤立度・蛍光という、画像から測れる性質で決まります。品質や継代安定性継代を重ねても生産性や品質を保てるかという性質。培養条件変動への耐性(robustness)とは分けて評価する。詳しく →は、画像では見分けられません。
| 基準 | 何の目安か | 外れたときに疑うこと |
|---|---|---|
| 大きさ | 増殖の目安 | 小さすぎる:増殖が遅いか、まだ若い。大きすぎる:隣と融合している |
| 形(円形度) | 輪郭のいびつさ | 複数のコロニーが接している |
| 孤立度 | まわりに別のコロニーがないか | 拾うときに隣と混ざる |
| 蛍光 | 目的の性質(発現の強さ、分泌量) | ― |
実務でいちばん効くのは孤立度です。隣と近いと拾うときに混ざり、混ざったウェルに入るのは2種類のクローンの混合物になる。1つのクローンを取るという目的は、そこで崩れます。
冒頭のサテライトコロニーも、大きなコロニーのすぐ脇にできる小さな点なので、孤立度と大きさの条件で避けられます。培養を長くしすぎるとサテライトが増えます。アンピシリンの代わりに分解されにくいカルベニシリンを使う、培養時間を短くする、といった対策もあります。
蛍光は、目的の性質を直接映す手がかりです。微生物のブルー・ホワイトセレクションやレポーター遺伝子遺伝子発現を蛍光や発光などで検出可能にするために導入する標識用の遺伝子。詳しく →では、発現の強さが色や蛍光に出ます。哺乳細胞なら、培地に混ぜた検出試薬で捕捉した分泌抗体が蛍光を出します。
ただし、画像で分かるのはここまで。抗体の品質(糖鎖の形など)や、継代増殖した細胞を定期的に希釈・移植して培養を維持する操作で、回数が増えると細胞の性質が変化するリスクがある。詳しく →を重ねても産生が保たれるかは、拾ってから調べるしかありません。
閾値は、どこまで厳しくするのか?
基準の厳しさは、後ろの工程から決めます。
- 閾値を厳しくする:確かなものが取れる代わりに、良いクローンを取り逃がす。
- 閾値を緩める:取りこぼしは減るが、拾った数だけ評価の手間が増える。
拾う数を決めるのは、拾う手の速さではなく、拾ったあとに評価できる数です。基準は「確実に取る」と「取り逃がさない」の釣り合いで、そこから逆算して決めます。
重要:抗体の細胞株開発では、なぜ1つのコロニーに見えても足りないのか?
隣り合った2個の細胞から育っても、1つのコロニーに見えるからです。半固形培地のコロニーは、形だけでは単一細胞由来とは言えません。
治療用抗体の産生細胞株では、良いクローンを見つけるだけでは終わりません。その株が1個の細胞から増えたことを示す必要があります(モノクローナリティの証明)。複数の由来が混ざっていると、継代するうちに構成比が動き、産生量や品質がぶれるおそれがあるためです。
そこで、播種した直後の画像を残す運用が広がっています。メーカーの資料では、ClonePix 2 に播種直後(Day 0)のシングルセルの撮像を追加して、モノクローナリティ産生細胞株が単一の細胞に由来していること。単クローン性。詳しく →の確認を加えた構成も案内されています。
見落とされやすいのは、拾ったあとの記録です。残しておきたい記録は、次のように分かれます。
| 記録 | 何を残すか | 残っていると何ができるか |
|---|---|---|
| 播種直後の画像 | 単一細胞から始まったことを示す撮像 | あとから足せない記録になる |
| 選んだ根拠 | どのコロニーを、どの画像と閾値で選んだか | 同じ基準で拾えたかを説明できる |
| 移した先 | どのウェルへ移したか | のちにマスターセルバンク製造の起点となる細胞を段階的に均質に凍結保存した在庫(マスター/ワーキングセルバンク)。詳しく →に使ったクローンまで、さかのぼって説明できる |
選抜と記録が同じ装置の中で一続きなら、対応づけの手間と取り違えの余地が減ります。細胞株開発の装置は、速さより先に、拾ったクローンを画像と履歴でさかのぼれるかで選びます。
選んだクローンをその後どう絞るかは細胞株開発の記事、セルバンク目的物質を作る細胞をあらかじめ大量に凍結保存し、製造のたびに同じ素性の細胞を使えるようにした細胞の在庫(MCB/WCB)のことです。詳しく →を作製する段階はセルバンクとMCBとWCBの違いで読めます。
コロニーピッカーは、カタログの処理量ではなく、何で比べるのか?
比べる軸は、対象の培地、回収の方式、キャリーオーバー前のサイクルの成分が次に持ち越されてしまうこと。樹脂の繰り返し使用で進みうる。詳しく →対策、培地の高さへの対応、前後の装置との接続です。処理量は、数値が何の数かを確かめてから比べます。
| 比べる軸 | 確かめること |
|---|---|
| 対象の培地 | 寒天プレートか、半固形培地か、液体のウェルか。使える装置の系統が分かれる |
| 回収の方式 | 微生物では生物種に合ったピンで拾う。哺乳細胞では、細胞への負担が小さいキャピラリーなどで吸い上げる装置がある |
| キャリーオーバー対策 | 多数のコロニーを続けて扱うので、ピンやチップを交換するのか洗浄して使うのか。前のコロニーのキャリーオーバーがないことの確認があるか |
| 培地の高さ | 硬さや高さがばらつくと、ピンが沈み込んだり届かなかったりする。高さを測るセンサーの有無 |
| 前後の装置 | 拾ったプレートを搬送し、分注装置(リキッドハンドラー)で培地を添加し、プレートリーダーで測る流れまでつながると、滞留が減る |
回収の方式の例として、Sartorius の CellCelector Flex は、画像で選んだ細胞やコロニーをキャピラリーのモジュールで回収します。選抜から分注、撮像、評価までを一台で扱う構成もあります。範囲が広いほど記録はそろいますが、既存のワークフローとの相性を確かめる手間が増えます。
処理量の数値は、何を数えたものか?
ClonePix 2 の「1日に1万クローン超」は、メーカーの説明ではスクリーニングの速さです。
移した先で、すべてが増殖するとは限りません。ClonePix 2 を使ったあるアプリケーションノートでは、クローンを移すはずの90ウェルのうち、79ウェルで増殖が見られました(88%)。
画像で評価する数と実際に拾う数は、別のことがあります。自社のコロニー密度とプレートの形式で拾える数を、見積もりの段階で聞きます。
基準・サテライト・後段のボトルネックで、どんな失敗が起きるのか?
失敗の多くは、拾う手の動きではなく、基準の決め方と、拾ったあとの工程との釣り合いから起きます。
| 失敗 | 何が起きるか | |
|---|---|---|
| 1つめ | 孤立度の条件を緩めすぎる | 混ざったウェルができる。拾った時点では分からず、培養してから評価の途中で気づく |
| 2つめ | 培養を長く置きすぎる | コロニーが融合し、サテライトコロニーも増えるので、拾える個数がかえって減る |
| 3つめ | 拾う数が評価の能力を超える | 数千のコロニーを拾えても、そのあとの培養と測定が追いつかなければ、プレートが溜まり、細胞が過剰に増殖する |
| 4つめ | 画像で分からない性質を最初から期待する | 品質や継代安定性は、拾ったあとの評価で決まる。ピッキングは絞り込みの第一段階 |
| 5つめ | 基準が担当者の頭の中にある | 閾値を変えたのに履歴が残らないと、ロットや担当者が変わったとき、同じ基準で拾えたかを説明できない |
導入前のチェックリスト:装置を検討するとき、何を確かめるのか?
確かめるのは、培地と基準、数の釣り合い、処理量の中身、記録、前後の装置とのつなぎです。 自分の工程や、検討している装置について、次の点を見てみてください。
- 培地とプレート:拾う対象の培地(寒天、半固形、液体)と、装置が対応するプレートの形式。
- 拾う基準:大きさ、円形度、孤立度、蛍光の基準を誰が決め、閾値をどこに記録しているか。
- 数の釣り合い:拾う数と、拾ったあとに評価できる数が釣り合っているか。
- 処理量の中身:メーカーの処理量が、スクリーニングの数か、実際に拾う数か。自社の密度での実測値。
- 増殖した割合:移したウェルで、拾ったコロニーが増殖した割合。
- キャリーオーバー:ピンやチップの交換か洗浄か、キャリーオーバーを確かめる方法。
- 記録:画像、位置、閾値の設定の履歴が残るか。細胞株開発なら、播種直後の画像が撮れるか。
- 前後の装置:プレートの搬送、液体分注、プレートリーダー多数の穴が並ぶプレートの各ウェルの吸光度や蛍光、発光をまとめて測る装置です。多数の検体や条件を一度に測定できます。詳しく →とのつなぎ。
装置はシングルセルピッキングと自動クローン選抜ワークフローで、撮像はクローン性確認イメージングで比べられます。液体のウェルに1個ずつ播種する装置はシングルセル分注、拾ったあとの分注はリキッドハンドラーにあります。1回のクローニングでモノクローナリティの確率を実測した研究は論文の解説で読めます。
参考文献
- GoldBio, What are Satellite Colonies?(アンピシリン選択でサテライトコロニーができる仕組み、カルベニシリンや培養時間での抑え方)
- Molecular Devices, ClonePix 2 System(半固形培地、蛍光検出試薬、1日1万クローン超のスクリーニング。メーカーの説明)
- Molecular Devices, ClonePix 2 colony picker enhanced for monoclonality verification(播種直後の単一細胞撮像を加えた構成)
- Beckman Coulter Life Sciences, Cell Line Development - Selection and Enrichment(ClonePix 2 を使った選抜のアプリケーションノート。90ウェル中79ウェルで増殖)
- The Royce Institute, High Throughput Microbial Colony Picker(QPix 420 の施設紹介。白色光で1時間に最大3,000コロニー、蛍光で2,000コロニー)
- Zingaro K, et al. Implementation of Plate Imaging for Demonstration of Monoclonality in Biologics Manufacturing Development. PDA J Pharm Sci Technol. 2018;72(4):438-450. doi:10.5731/pdajpst.2018.008789(モノクローナリティが規制上の期待であること)
- ICH Q5D生物薬品の製造に使う細胞基材の樹立と特性解析について定めた国際調和ガイドライン。詳しく →, Derivation and Characterisation of Cell Substrates Used for Production of Biotechnological/Biological Products(細胞基材の由来と履歴)
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