MCBとWCBの違いは?使い分けと作り足しの勘どころ

日々の製造で使うのは、大元のマスターセルバンク(MCB)ではありません。MCBから作った二つ目の在庫、ワーキングセルバンク(WCB)MCBを解凍・拡大して作る、日常製造で取り崩す細胞在庫。製造のたびにここから始めます。を1本融かして、製造を始めます。MCBを開けるのは、基本的にWCB目的物質を作る細胞をあらかじめ大量に凍結保存し、製造のたびに同じ素性の細胞を使えるようにした細胞の在庫(MCB/WCB)のことです。詳しく →を作り足すときだけです。
MCBを温存するのは、なくなっても補充がきかないからです。ただ、二段に分けるだけでは足りません。WCBを作り足すたびに、前のWCBと同じ細胞だと示す手間が生じます。培養を重ねた日数や継代増殖した細胞を定期的に希釈・移植して培養を維持する操作で、回数が増えると細胞の性質が変化するリスクがある。詳しく →の回数も、WCBを作る分だけ進みます。
製造や品質保証の担当には「WCBはあと何年もつか、次をいつ作るか」が、購買や受託先を選ぶ担当には「何を頼み、何を受け取るか」が実務の問いです。凍らせ方、保管庫、記録の残し方はセルバンクとはにまとめました。この記事は、二段の使い分けと、WCBの作り足しを扱います。
MCBとWCBの違い
MCBは試験を厚くして温存する在庫、WCBは製造のたびに減っていく在庫です。
家の鍵にたとえると、MCBは金庫にしまった元の鍵、WCBは毎日持ち歩く合鍵です。合鍵をなくしても元の鍵から作り直せますが、元の鍵をなくせば同じ鍵は作れません。
順番はこうです。細胞株開発で選んだ単一細胞由来のクローンを増やし、小分けにして同時に凍らせたものがMCBです。次に、MCBの1本を融かして増やし、また小分けにして同時に凍らせたものがWCBです。製造は、いつもWCBの1本を融かすところから始まります。WCBが減ってきたら、MCBの別の1本から新しいWCBを作ります。
試験の重さが違うのは、役割が違うからです。外から入り込んだウイルスを調べるような重い試験は、大元のMCBに集めます。WCBでは、無菌、マイコプラズマ(細胞の見た目を変えずに住みつく、ごく小さな細菌)、細胞が目的の株かを確かめる同一性を中心に調べるのが一般的です。考え方は、国際的な指針の ICH Q5D(細胞基材の由来と特性解析)と ICH Q5A(R2)細胞株由来のバイオ医薬品について、ウイルス安全性評価の枠組みを示すICHガイドライン。詳しく →(ウイルス安全性)が示しています。実際にどのバンクで何を調べるかは製品ごとの申請資料で決まるので、自社の記載を品質保証に確かめてください。
細胞の年齢 ― in vitro cell age
二段に分ける理由は、大元を守るためだけではありません。どのロットも、同じ年齢の細胞から始めるためでもあります。
細胞は培養を重ねると、増え方や抗体を作る量が少しずつ動くことがあります。そこで製造では、使ってよい細胞の年齢(in vitro cell age細胞が継代を重ねて進む培養上の年齢。製造に許容する上限を設計で管理する。詳しく →)に上限を決めます。年齢は、MCBのバイアルを融かしてから生産槽の収穫までの長さで、日数、継代の回数、倍加の回数のどれかで数えます(ICH Q5D生物薬品の製造に使う細胞基材の樹立と特性解析について定めた国際調和ガイドライン。詳しく →)。
見落とされやすいのは、WCBを作るための培養も、この年齢に入ることです。MCBを融かして増やし、WCBとして凍らせるまでに重ねた継代の分だけ、製造に残る余裕は減ります。だからWCBは、できるだけ少ない継代で、一度にまとめて凍らせます。作り足しをWCBからではなく、MCBの別の1本から始めるのが基本なのも、年齢を積み上げないためです。
WCBの1本から製造を始めれば、どのロットも年齢の起点が同じです。起点がロットごとにばらつくと、力価や品質の違いが培養条件のせいなのか、細胞の年齢のせいなのか、切り分けられなくなります。上限に近づいたときの扱いはシードトレインとはで読めます。
WCBの作り足し
作り足しは、凍らせて終わりではありません。試験の結果がそろい、次のWCBとして使ってよいと判断されて、はじめて製造に回せます。この期間を見込まず、残りがわずかになってから動くと、次のロットに間に合いません。残りの本数と、1年に作るロットの数を見比べて、いつまでに着手するかを決めます。
もう一つの手間は、新しいWCBが前のWCBと同じ細胞だと示すことです。業界団体の BioPhorum は2022年の寄稿記事で、WCBの作り足しに求められる手続きは国ごとに大きく違い、当局の期待もそろっていないと指摘しました。そのうえで、作り方と資材が登録時と同じ場合と、変える場合に分けた考え方を提案しています。同じか、ごく小さな変更なら、融解後の増え方と生存率を確かめれば足り、製品品質を調べる正式な試験までは要らず、変更が中程度なら、代表的な小スケールのモデルで製品品質への影響を調べる、という整理です。
どの国にどの手続きで届け出るかは、薬事担当と早めに詰めておく項目です。培地や凍結保存液細胞を凍らせて保存する際、氷の結晶による傷みを抑えて生存率を保つための保護液です。詳しく →を前回から変えるなら、変えること自体を計画に載せます。製造方法を変えたときの同等性変更前後が完全に同一でなくても、品質・安全性・有効性で高い類似性を保ち差異が悪影響しないと言える状態。詳しく →の考え方は、比較可能性試験(ICH Q5E)にあります。
WCBの作り足しは、減ってから考えるのでは遅い仕事です。試験に要る期間、同じ細胞だと示す材料、届け出の段取りを、先に決めておきます。
よくある失敗
一つ目は、MCBを日常の用途に開けてしまうことです。「念のため」「研究用に少し」と融かす本数が増えると、いずれWCBを作る分が足りなくなります。MCBを出すのはWCBを作るときに限る、と線を引き、誰の承認で出すかまで決めておきます。
二つ目は、WCBの残りを製造計画と照らし合わせないことです。本数は足りていても、試験の期間を見込んでいなければ、次のWCBは間に合いません。
三つ目は、WCBを作る培養で継代を重ね、製造に残る細胞の年齢の余裕を使い切ることです。あとからシードトレインを一段増やしたくなったときに、上限に当たります。
四つ目は、作り足しのたびに培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →や手順を少しずつ変えることです。一回ごとの変更は小さく見えても、積み重なると、最初のWCBとは別の条件で作った細胞になりかねません。
五つ目は、受託先に任せきりにすることです。MCBとWCBがどこに誰の名義で保管され、受託先を変えるときに移せるのかや、試験の報告書と作製の記録をどの形で受け取れるのかを契約書に書いていないと、製造を移す段になって初めて困ります。
失敗の多くは細胞の扱いではなく、本数、年齢、契約といった、数えて書き残せる項目の抜けから起きます。
担当ごとの確認項目
品質保証や製造の担当なら、MCBとWCBの残り本数と、次のWCBを作り始める時期を確かめてください。購買や受託先を選ぶ担当なら、下の項目をそのまま受託先への質問に使えます。
MCB・WCBの確認チェックリスト
- MCBとWCBの残り本数、製造1ロットで使う本数、尽きる時期の見通し
- 次のWCBを作り始める時期。作製と試験の結果が出るまでの期間を見込んでいるか
- WCBをMCBの別の1本から作っているか。作製で重ねる継代と、製造で許す細胞の年齢の上限
- MCBとWCBで調べる項目の分け方が、申請資料の記載と合っているか
- 作り足しで培地、資材、手順を変える予定の有無と、変えるときの確認方法
- 各国への届け出の手続きと、薬事担当との段取り
- 受託先の場合、MCBとWCBの保管場所と名義、出庫の条件、試験報告書と作製記録の受け渡し
作製から保管までを請ける受託先はMCB/WCB作製受託サービス、試験は細胞同一性試験、マイコプラズマ試験、ウイルス安全性試験で比べられます。凍結と保管の設計はセルバンクとは、試験の割り振りはマイコプラズマ試験とはで読めます。
参考文献
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q5D, Derivation and Characterisation of Cell Substrates Used for Production of Biotechnological/Biological Products(Step 4、1997年7月。2段階のセルバンク、細胞基材の特性解析、in vitro生きた動物の体外で、試験管やシャーレなどを用いて細胞・組織・分子レベルで行う実験を指す用語。詳しく → cell age)
- ICH Q5A(R2), Viral Safety Evaluation of Biotechnology Products Derived from Cell Lines of Human or Animal Origin(Step 4、2023年11月。セルバンクのウイルス試験)
- WHO, Technical Report Series No. 978, Annex 3: Recommendations for the evaluation of animal cell cultures as substrates for the manufacture of biological medicinal products and for the characterization of cell banks(2013年。セルバンクの作製と特性解析規格試験より高い分解能で製品の品質特性を詳しく調べること。比較可能性の評価などで用いる。詳しく →)
- BioPhorum, How to Use a Risk-Based Scientific Approach to Qualify Replenishment Working Cell Banks(American Pharmaceutical Review。同内容の Bioprocess Online 掲載版 は2022年9月6日。WCBの作り足しの手続きが国ごとに違うこと、登録時と同じ場合と変更する場合に分けた確認の考え方)
次に読む
抗体医薬/モノクローナル抗体この製造の全体像を、工程マップで見るこの記事に関連する工程
この分野の新着を、メールで受け取る
こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを毎週水曜の朝にお届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。
登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。閲覧の記録(どのページから、どの会社のサイトへ移ったか)を、ご案内のために使います。
目次・関連閉じる
Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/mcb-wcb-cell-bank-difference