微生物発酵の運転方式とは?回分・流加・連続の違いと選び方
同じ大腸菌でも、栄養をいつ入れるかを変えるだけで、育つ菌の量が7倍前後も変わることがあります。栄養が菌の邪魔にならない濃さで最初に全部入れる回分培養では、菌体は乾燥重量で1リットルあたり15グラム前後が上限の目安です。少しずつ足していく流加培養培養の途中で栄養(フィード)を追加しながら細胞を高密度まで育てる培養方式。詳しく →では、100グラムを超えた例が総説(Lee, 1996)に報告されています。

発酵槽の運転方式は、回分(バッチ)、流加(フェドバッチ)、連続(ケモスタット)、灌流(パーフュージョン培養液を連続的に入れ替えながら細胞を高密度に保ち、長期間生産を続ける培養方式です。細胞を装置で保持し、老廃物を除きつつ栄養を補給します。詳しく →)の4つに分けられます。違いは、栄養をどう入れ、培養液をどう抜くかだけです。それでも、1バッチで取れる量、槽を占める日数、汚染や品質ぶれの危うさ、ロットの数え方まで変わるので、製造の担当だけでなく、委託先の見積もりを読む購買や営業の人にも関わります。
原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →の製造では、回分か流加が基本線で、その中でも流加が標準です。連続と灌流には、汚染、菌の遺伝的な安定性、ロットの決め方という壁があります。
四つの運転方式の違い
違いは、栄養を入れるタイミングと、培養液を抜くタイミングです。
回分は、弁当を最初にすべて広げて、食べ終わるまで待つやり方です。流加は、食べる速さに合わせて少しずつ配ります。連続は、蛇口から入れた分だけ排水口から抜き続ける浴槽に似ていて、水位は変わりません。灌流は、その排水口に網を付けて、水だけ抜いて菌は槽に残す方式です。

| 方式 | 栄養の入れ方 | 培養液の抜き方 | 主な使いどころ |
|---|---|---|---|
| 回分(バッチ) | 最初に全部 | 最後にまとめて | 操作が単純で、汚染の機会が少ない |
| 流加(フェドバッチ種培養で増やした細胞を大型の培養槽に移し、目的物質を本格的に産生させる最終段階の培養です。栄養を追加しながら育てるフェドバッチが広く使われます。詳しく →) | 途中から少しずつ | 最後にまとめて | 菌を高密度まで増やす。原薬製造化学反応を段階的に重ねて低分子の有効成分(原薬)を合成し、精製・結晶化して仕上げる工程です。各段階で不純物を管理しながら目的物質を作ります。詳しく →の標準 |
| 連続(ケモスタット) | 入れ続ける | 入れた分だけ抜き続ける | 条件をそろえた研究、一定の状態での長時間生産 |
| 灌流(パーフュージョン) | 入れ続ける | 培養液だけ抜き、菌は残す | さらに高い密度を保つ。動物細胞の培養で発達 |
流加は途中で液が増えるので、槽には余裕を持たせて仕込みます。発酵槽大腸菌や酵母などの微生物を高密度で培養する培養槽で、高い酸素供給や蒸気滅菌に対応した発酵用の設備です。詳しく →そのものの構成は微生物発酵の製造解説で扱っています。
流加が標準になった理由
回分の壁は、栄養を最初に全部入れておく構造そのものにあります。菌を増やしたくて糖を濃く仕込むほど、かえって増えなくなるという皮肉が起きます。
糖を一度に大量に入れると、菌は食べる速さに限りがあるため、処理しきれなかった分を副産物として吐き出します。大腸菌なら酢酸、酵母ならエタノールです。これが増殖と目的物の生産を邪魔します(オーバーフロー代謝と酢酸)。大腸菌では、糖を食べる速さがある値を超えると酢酸が出はじめることが知られていて、培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →の糖を低く抑えるのが定石の対策です(Eiteman and Altman, 2006)。
流加は、この定石をそのまま運転にしたものです。低めの糖で始め、菌が食べる速さに合わせて少しずつ足します。食べ残しを出さないので酢酸が溜まりにくく、回分では届かない菌体の量まで増やせます。何を合図に足すかには流儀があります。あらかじめ決めた増え方に合わせて足す方法のほか、糖が尽きたときに溶存酸素(DO)培養液などに溶け込んでいる酸素の量。細胞培養では制御対象となる重要なパラメータ。が急に上がるのを合図にするDO-stat、pHの変化を合図にするpH-statがあります。供給の設計は発酵培地とフィード設計で解説しています。
もう一つの利点は、増やす段階と作らせる段階を分けられることです。まず菌を十分に増やし、目標の密度に達してから誘導をかけて、生産に切り替えます。
ただし、菌が増えるほど酸素の消費も増え、最後は槽の酸素供給能力が上限を決めます(高密度発酵と酸素供給)。糖を足しても酸素が追いつかなければ、酢酸が溜まって、そこで頭打ちです。
流加は「たくさん入れる」方式ではなく、「菌が食べる速さに合わせて入れる」方式です。
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連続には、一定の状態を長く保てるという魅力があります。それでも原薬製造の基本線になっていないのは、壁が3つあるからです。
ケモスタットは、新しい培地を一定の速さで入れ、同じ速さで抜き続けて、槽の液量を一定に保ちます。入れる速さを変えるだけで菌の増える速さを決められ、菌の状態を長時間そろえられます(原理は連続発酵(ケモスタット)で解説しています)。ただし、入れる速さを菌の最大の増殖速度より上げると、菌が増えるより先に流し出されて、槽から菌がいなくなります。これをウォッシュアウトと呼びます。
一つ目の壁は汚染です。入れ続けて抜き続ける以上、無菌を何日も何週間も保たなければならず、運転が長いほど雑菌の入り込む機会が増えます。
二つ目は遺伝的安定性です。長く回すと世代数が積み重なって、変異が溜まります。組換えタンパク質遺伝子組換えで微生物や細胞に作らせた目的タンパク質。宿主により折りたたみやコスト、糖鎖が異なる。詳しく →を作ることは菌にとって負担なので、作るのをやめた変異株や、遺伝子の入ったプラスミド大腸菌の中で複製・増幅させる環状DNA。核酸医薬やベクター製造の伝統的な出発材料。詳しく →を失った株が、よく作る菌より速く増えます。長く回すほど、よく作る菌がしだいに作らない菌に置き換わっていきます。
三つ目は、ロットの数え方です。回分と流加には「1回仕込んで1回回収する」という自然な区切りがありますが、連続にはありません。連続製造の国際ガイドラインICH Q13原薬・製剤の連続生産に関する品質・規制の考え方を整理した国際調和ガイドライン。詳しく →(2022年11月に最終化。低分子と治療用タンパク質が対象)は、連続でも原薬GMPのバッチの定義(ICH Q7原薬(API)製造へのGMP適用を国際調和したICHの指針。出発物質の定義や工程管理、バリデーションなどを示す。詳しく →)が当てはまるとしています。バッチの大きさは、出てきた量、入れた量、決めた流量で運転した時間のいずれかで示せます。連続を選ぶと、この区切りを自社で決めて説明する作業が加わります。
灌流は連続の仲間で、フィルターや膜の細胞保持装置灌流培養で使用済みの培地を入れ替えつつ、細胞は培養槽に残すための装置です。中空糸膜などで細胞と液をより分けます。詳しく →で菌を槽に残す点が違います。培地だけを入れ替えて、増殖を妨げる副産物を洗い流しながら、連続よりさらに高い密度を保てます。もともとは、増殖が遅くせん断(かき混ぜの力)に弱い動物細胞の培養で発達した方式です。微生物でも考え方は使えますが、保持装置の目詰まり微粒子や凝集体、タンパク層が膜の孔を塞いでろ過が落ちる現象。プレフィルターでの前段保護が効く。詳しく →が加わり、汚染と遺伝的安定性の壁は連続と同じです。装置の比較はATFとTFFの違いと、製品データベースの灌流用細胞保持装置にあります。
連続と灌流の難しさは、菌の増やし方より、無菌と菌の性質を長く保つことにあります。
方式を選ぶ判断軸と、よくある失敗
方式は、作りたい量と、ロットの管理のしやすさから決めます。
欲しい量が多く、ロット単位で品質を保証したいなら、流加が第一候補です。高い菌体密度と、1バッチごとに区切れる管理を両立できるからです。回分は、菌体が中程度で足りる場合や、汚染の機会を最小にしたい場合に残ります。連続と灌流は、定常状態増殖と引き抜きが釣り合い、細胞密度や代謝の指標が時間で大きく動かない状態。詳しく →や超高密度という明確な利点がある代わりに、前の節の三つの壁を自社で解く前提です。
よくある失敗の一つは、密度を稼ごうとして糖を増やし、酢酸で頭打ちになることです。もう一つはスケールアップ小型培養で確立した条件を、より大きなバイオリアクターへ拡大する取り組みです。酸素供給の指標kLaなどを揃え、性能を再現します。詳しく →で、小さな槽で見つけたフィードフェドバッチで追い足す濃縮した栄養液。いつ・どれだけ・どう入れるかが生産性と品質を左右する。詳しく →の条件が、大きな槽では酸素の供給が追いつかずに再現しません(微生物発酵のスケールアップ)。
汚染は、起きたあとの調べ方で差が出ます。ICH Q7の18章(細胞培養・発酵で作る原薬)は、汚染を検出して対応を決める手順を持つよう求めています。FDAが2025年1月にサノフィ傘下のジェンザイム、米国フレーミングハム工場へ出した警告書は、2022年1月から2024年7月に回したバイオリアクター細胞やウイルスの培養を制御された環境下で大規模に行うための培養槽で、商業規模の製造に用いられる。詳しく →の培養のうち約2割が、汚染などの品質問題で不合格になっていると指摘しました。FDAはこの割合を多すぎるとし、原因の調査が不十分だとも述べています。原薬を作るバイオリアクターの例ですが、槽の汚染をどう調べて再発を防ぐかは、微生物発酵大腸菌などの微生物を培養槽で増やし、目的タンパク質などを作らせて回収する製造工程です。詳しく →でも同じ問いです。
大腸菌の発酵には、ファージ細菌に感染するウイルス。表面に抗体断片を提示させ、その設計図の遺伝子と一体で選抜に使う。詳しく →(細菌に感染するウイルス)という固有の相手もいます。同じ菌を高い密度で育てる産業発酵は、遺伝的な多様性がないことと密度の高さから、ファージに狙われやすいと、産業発酵を扱った書籍の1章は述べています(Zahn and Halter, 2018)。同じ章は、ファージが出ると設備の洗浄や無菌の防壁の改修のために、操業を長く止める場合があると述べています。汚染の原因究明と設備の除染を含めて、対応の手順を持っているかが、委託先を選ぶ目印です。
方式の選び方より、汚染が起きたときの調べ方と止め方に、製造の実力が出ます。
明日から確かめられること
社内の工程説明や、委託先の提案書を読むときに、次の点を確かめてみてください。
- 運転方式が回分、流加、連続のどれかを確かめる。流加なら、何を合図に栄養を足すのか(決めた増え方、DO、pH)も聞く
- 目標の菌体密度に対して、槽の酸素供給能力が足りているかを見る。同じ規模での実績も聞く
- 酢酸やエタノールなどの副産物を、ロットごとに測っているかを確かめる
- 1バッチの培養日数と、槽が空くまでの日数を聞き、年間に何バッチ回せるかを出す
- 雑菌やファージが見つかったときの手順と、過去の発生とその対応の記録を求める
- 連続や灌流を提案されたら、ロットの決め方(出てきた量か、運転時間か)と、運転を続けてよい期間の上限を聞く
- 糖などフィード原料の調達先と、切り替えの手順を押さえる
営業や購買の立場なら、「流加ですか」と一言尋ねるだけで、先方の説明が具体的に返ってきます。流加を支える装置と資材は、製品データベースの培養制御システム、大腸菌 高密度発酵用培地・フィード、フィード調製装置で比べられます。2回の菌体濃度から増える速さを自分で出してみたい人は、計算ツールの比増殖速度μ・倍加時間が使えます。宿主の選び方は微生物の宿主・発現系の選び方、委託先の見方はCDMOとCMOの違いが次の一歩です。
参考文献
- Lee SY. High cell-density culture of Escherichia coli. Trends Biotechnol. 1996;14(3):98-105.(流加で100 g/L超)
- Shiloach J, Fass R. Growing E. coli to high cell density: a historical perspective on method development. Biotechnol Adv. 2005;23(5):345-357.(阻害の出ない濃さの栄養を最初に入れた場合の菌体濃度として約15 g/L)
- Eiteman MA, Altman E. Overcoming acetate in Escherichia coli recombinant遺伝子組換え技術を用いて微生物や細胞に目的タンパク質を産生させることで製造された成分を指し、動物由来成分を含まない点が特徴。詳しく → protein fermentations. Trends Biotechnol. 2006;24:530-536.
- Novick A, Szilard L. Description of the chemostat. Science. 1950;112(2920):715-716.
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく →, Q13 Continuous Manufacturing of Drug Substances and Drug Products(Step 4、2022年11月)
- ICH, Q7 Good Manufacturing Practice Guide for Active Pharmaceutical Ingredients(18章 細胞培養/発酵で製造する原薬)
- FDA, Warning Letter to Sanofi(Genzyme, Framingham, MA、2025年1月15日)
- Zahn JA, Halter MC. Surveillance and Elimination of Bacteriophage Contamination in an Industrial Fermentation Process. In: Bacteriophages. IntechOpen; 2018.
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/microbial-fermentation-modes