発酵培地とフィード設計とは?密度を決めるのは培地より糖の与え方

ところが、密度を決めているのは培地の銘柄より、炭素源微生物発酵でエネルギー源となる糖類などの炭素源と、目的遺伝子の発現を促す誘導物質のことです。詳しく →(糖などのエネルギー源)を与える速さです。糖を一度に入れすぎると、大腸菌は取り込んだ糖をさばききれず、酢酸という副産物を出して自分の増殖と発現目的タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞内で転写・翻訳させ、機能的なタンパク質として産生させる工程。詳しく →を妨げます(オーバーフロー代謝と酢酸生成)。培地を替えても、与える速さの設計までは変わりません。
培地を選ぶ研究者だけでなく、原料を手配する購買や、培地を扱うメーカーの営業にとっても、どこまでが培地で決まり、どこからが運転で決まるのかを知っておく価値があります。
培地の選び方 ― 合成培地と複合培地の違い
発酵培地は、組成がすべて分かっている合成培地と、分からない部分が残る複合培地に分かれます。
複合培地は、酵母エキスやペプトンのような天然原料の混合物を含みます。TB(Terrific Broth)や2xYT、自己誘導培地を Teknova や Formedium が粉末や液体で揃えています。立ち上がりが速い反面、ロットごとに組成がぶれます。動物由来の成分を避けたい原薬製造化学反応を段階的に重ねて低分子の有効成分(原薬)を合成し、精製・結晶化して仕上げる工程です。各段階で不純物を管理しながら目的物質を作ります。詳しく →では、ここが管理項目品質に影響しうる要素を、規格や手順で規定し・実行し・記録し・検証する対象として管理するもの。GMPでは原材料から出荷判定まで多岐にわたります。詳しく →として増えます。
合成培地は成分がすべて読めるので、培地由来のぶれが結果に混ざりにくく、再現しやすくなります。
規制対応と再現性を重視する原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →製造では、組成が読める合成培地をベースに高密度発酵を組み立てるのが基本線です。
糖を与えすぎると止まる ― 酢酸とCrabtree効果
高密度培養菌体を高い密度まで増やして、容積あたりの生産性を高める培養。詳しく →でいちばん多い失敗は、炭素源の与えすぎです。
大腸菌は、糖を取り込む速さがある値を超えると、さばききれない分を酢酸として外へ出します。酢酸は増殖を妨げ、細胞の中のタンパク質を不安定にして、収量を下げます(Eiteman らの2006年の総説)。pHも下げます。出芽酵母(パン酵母)では同じ現象が Crabtree 効果として現れ、糖が呼吸に回らずエタノールの発酵に流れます。原因も対策も共通で、一度に渡さず、少しずつ渡すことです。
少しずつ渡すフェドバッチ種培養で増やした細胞を大型の培養槽に移し、目的物質を本格的に産生させる最終段階の培養です。栄養を追加しながら育てるフェドバッチが広く使われます。詳しく →培養では、大腸菌を乾燥菌体重量で100 g/Lを超える濃さまで育てる方法が開発されてきました(Lee の1996年の総説)。同じ槽で生産量を増やす手段として、高密度発酵が選ばれる理由です。
Pichia pastorisメタノールを炭素源にできる酵母。強力なAOX1誘導と分泌生産に向き、高密度培養で組換えタンパク質を作る。詳しく →(メタノール資化性酵母メタノールを炭素源として利用できる酵母。Pichiaが代表で、この性質をAOX1誘導による生産に活かす。)では、増殖の段階でグリセロールを、誘導の段階でメタノールを与えます。メタノールは炭素源であると同時に、目的タンパク質の遺伝子を動かす AOX プロモーターRNAポリメラーゼが結合して転写を開始するDNA上の特定の塩基配列領域。詳しく →のスイッチを兼ねます。だから Pichia では、フィードフェドバッチで追い足す濃縮した栄養液。いつ・どれだけ・どう入れるかが生産性と品質を左右する。詳しく →の制御がそのまま発現の制御です(Cregg らの2000年の総説)。
「糖は多いほど良い」ではなく、「呼吸と酸素の供給が追いつく速さで渡す」ことが、高密度発酵の出発点です。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べるフィードの出し方 ― 指数供給・DO-stat・pH-stat
糖を少しずつ渡す方法は、大きく3つあります。
一つ目は指数供給です。目標とする増える速さ(比増殖速度細胞集団が増える速さの指標。高浸透圧で大きく低下し、比生産性とトレードオフになる。詳しく →)を決め、菌が増えるのに合わせて糖の量を増やし続けます。Riesenberg らが1991年に大腸菌で報告した、増える速さを制御する流加培養培養の途中で栄養(フィード)を追加しながら細胞を高密度まで育てる培養方式。詳しく →がこの考え方です。天気予報を見て先に傘を用意するやり方で、酢酸が出る速さを超えないよう先回りできます。ただし菌体量の見積もりが外れると、ずれたまま進みます。
二つ目はDO-statです。糖が尽きると菌は呼吸をやめ、溶存酸素(DO)培養液などに溶け込んでいる酸素の量。細胞培養では制御対象となる重要なパラメータ。が急に跳ね上がります。この跳ね上がりを「糖切れ」の合図にして、糖を足します。雨が降ってから傘をさすやり方で、装置は簡単ですが、応答が振動しやすい方式です。
三つ目はpH-statです。糖が尽きると、菌が酢酸などの有機酸を再び使い始めて、pHが上がります。これを合図に糖を足しますが、アンモニアグルタミンの代謝と化学分解で生じる代謝副産物。蓄積すると増殖・生存を落とし、糖鎖の質にも影響する。詳しく →でpHを調整している系では、読みが乱されます。
3つは、ベンチ発酵槽のコントローラ(Sartorius の Biostat B や Eppendorf の SciVario twin など)に組み込んで運転します。DOやpHという間接の合図を通さず、生きている菌体の量を直接追う静電容量プローブ培養液の静電容量から生細胞密度をオンラインで測定するセンサーのこと。詳しく →(Aber Instruments の FUTURA など)もあります。
DO-statとpH-statは装置が簡単ですが、どちらも「何かが起きたあとに気づく」方式です。指数供給は先回りできる代わりに、初めの菌体量の見積もりを外すと、ずれたまま進みます。
フィードは、酢酸を出さない範囲であると同時に、槽の酸素供給と冷却が受け止められる範囲でなければなりません(高密度発酵と酸素供給の解説)。流加と連続の違いは微生物発酵の運転方式にまとめています。
3つの方式に優劣はなく、どの失敗を自社の工程が許容できないかで選びます。
上げるほど良いとは限らない操作 ― 微量金属・誘導・消泡剤
糖のほかにも、増やすほど逆効果になる操作が3つあります。
1つ目は微量金属です。鉄、マンガン、亜鉛、コバルト、銅、ニッケル、モリブデン、セレン、ホウ素は、酵素を働かせる部品(補因子)で、高密度の発酵では1つ切れると増殖が突然止まります。Teknova の 1000X Trace Metals Mixture はこの9種を含む原液で、培地に1,000倍に薄めて加えます。Merck の Trace Elements Ready Made Solution も同じ役割の100倍の原液です。製品を比べるときは、原液の濃縮の表示ではなく、培地に入れたあとの濃度で比べます。リン酸は緩衝とエネルギー代謝に欠かせませんが、高濃度では金属塩の沈殿を招きます。
2つ目は誘導です。早すぎれば、菌が増える前に代謝の負担がかかって密度が伸びず、遅すぎれば発現の時間が足りません。Merck の Overnight Express や Thermo Fisher Scientific の MagicMedia E.coli Expression のような自己誘導培地は、菌がまずグルコースを使い切り、そのあとにラクトースを取り込み始めることで、誘導が自動でかかります。Studier が2005年に整理した方法で、振とう培養で多くのクローンを並べて試すときに向き、通常のIPTG大腸菌などで目的タンパク質の発現スイッチを入れる試薬で、培養の適切な時点で加えて生産を開始させます。詳しく →誘導より収量が数倍高くなるのが普通とされています。
IPTGで誘導する場合、Gold Biotechnology はlac・T7系T7ファージ由来の強力な誘導性プロモーター系。大腸菌での発現制御に使う。詳しく →で0.1〜1.0 mMを推奨しています。濃度を上げれば発現も比例して増えると考えがちですが、IPTGで始まる発現は菌にとって代謝の負担そのものです。発現は伸びても、増殖と密度がそのぶん削られます。メーカーに聞くのは「推奨濃度は何 mMか」ではありません。「その濃度でDOの低下と酢酸の蓄積がどれだけ増えるかを、対照試験で確かめてあるか」です。
3つ目は消泡剤です。通気と撹拌で出る泡は、シリコーン系の消泡剤で抑えます。Merck の Antifoam培養や撹拌で生じる泡を抑えるために加える添加剤で、泡による酸素供給の低下やあふれを防ぎます。詳しく → Y-30 Emulsion が代表例で、1〜100 ppmという低い濃度で効きます。ただし、消泡剤は酸素の溶け込みやすさ(kLa小型培養で確立した条件を、より大きなバイオリアクターへ拡大する取り組みです。酸素供給の指標kLaなどを揃え、性能を再現します。詳しく →)を落とす方向に働きます。入れるほど泡は消えますが、そのぶん酸素は入りにくくなります。条件検討では、消える量ではなく、泡が液面制御やフィルターを壊さない最小の量を探します(消泡剤と泡の制御)。
IPTGも消泡剤も、増やすほど効く操作ではなく、効きと代償の釣り合いを選ぶ操作です。
明日から確かめられること
培養の担当なら、直近の発酵の記録で、糖の添加量、DO、酢酸(酵母ならエタノール)を1枚のグラフに重ねてみてください。糖を足した直後に酢酸が立ち上がっていれば、与える速さが呼吸を超えています。
購買の担当なら、複合培地の原料にロット間の差と動物由来成分の有無を確かめ、微量金属の原液は表示の倍率ではなく、培地中の濃度で比べます。
条件検討は、まずベンチスケールの発酵槽で詰めます。使い捨て使い捨ての樹脂製バッグや容器を用いる製造方式です。洗浄・滅菌の手間を減らせる一方、ステンレス設備と比べて特徴が異なり、目的に応じて選び分けます。詳しく →なら Eppendorf の BioBLU f(65 mL〜3.75 L)、繰り返し使うガラス槽なら Getinge の Applikon Bio(2〜20 L)などがあります。見るのは、密度の到達値そのものより、翼と散気の構成が本番機と同じ挙動を返すかどうかです(微生物発酵のスケールアップ)。
決める順番は、宿主と誘導系テトラサイクリンやクメートなどで、必要なときだけ遺伝子発現をオンにする仕組み。毒性のある因子の制御に使う。詳しく →、炭素源を渡す方式、窒素・リン・微量元素、消泡剤の量と誘導のタイミングです。逆にすると、消泡剤の量だけ最適化して、肝心の供給方式が決まらないまま実生産に進みます。
発酵培地とフィードの確認チェックリスト
- 宿主と誘導系(IPTG、自己誘導、Pichia のメタノール)を先に決めたか
- 炭素源を渡す方式を、自社の計装と菌体量の見積もりの精度で選んだか
- 糖を足したあとの酢酸(エタノール)とDOを、毎回の記録に残しているか
- 複合培地の原料のロット間差と、動物由来成分の有無を把握しているか
- 微量金属の原液を、培地中の濃度で比べたか
- IPTGの濃度と消泡剤の量を、増殖と酸素の側から確かめたか
- 小さな槽で、翼と散気の構成が本番機と揃っているか
培地の候補は大腸菌 高密度発酵用培地・フィードと酵母 発酵培養用培地で、検討用の槽は卓上型バイオリアクターで探せます。工程全体は微生物発酵(大腸菌)の製造工程で、宿主の選び方は微生物の宿主・発現系の選び方で読めます。
参考文献
- Riesenberg D, et al. High cell density cultivation of Escherichia coli at controlled specific growth rate. J Biotechnol. 1991;20(1):17-27. PMID: 1367102. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1367102/(比増殖速度を制御した流加培養)
- Eiteman MA, Altman E. Overcoming acetate in Escherichia coli recombinant遺伝子組換え技術を用いて微生物や細胞に目的タンパク質を産生させることで製造された成分を指し、動物由来成分を含まない点が特徴。詳しく → protein fermentations. Trends Biotechnol. 2006;24(11):530-536. PMID: 16997410. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16997410/(糖の取り込み速度と酢酸の生成、増殖と収量への影響)
- Lee SY. High cell-density culture of Escherichia coli. Trends Biotechnol. 1996;14(3):98-105. PMID: 8867291. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8867291/(大腸菌の高密度培養)
- Cregg JM, et al. Recombinant protein expression in Pichia pastoris. Mol Biotechnol. 2000;16(1):23-52. PMID: 11098467. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11098467/(Pichia の増殖相と、メタノール誘導)
- Studier FW. Protein production by auto-induction in high density shaking cultures. Protein Expr Purif. 2005;41(1):207-234.(グルコースが尽きたあとにラクトースを取り込んで誘導がかかる仕組み)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/microbial-fermentation-media-feed-design