エンドトキシンの除去:大腸菌プロセスで出さない・止める・補う
大腸菌で作ったタンパク質には、エンドトキシンが必ず付いてきます。エンドトキシンは熱に強く、0.2 µmの除菌フィルター0.2µm前後の細かい孔で液を通し、細菌などの微生物を捕らえて無菌のろ液を得るための除菌用フィルターです。詳しく →も基本的には通り抜けます。入ってしまったら、精製で落とすしかありません。
落とし方は、まず出さない、次に電荷で止める、それでも足りない分を別の原理で補う、という順に組みます。主役は陰イオン交換の素通し運転です。ところが、樹脂や膜のカタログに並ぶ結合容量の数字の多くは、ウシ血清アルブミンのような別のタンパク質で測った値です。エンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →をどれだけ落とせるかを、直接示す数字ではありません。

工程を組む人にも、樹脂や膜を選ぶ購買や営業にも、規格を読む品質保証にも、この違いが効いてきます。エンドトキシンそのものの測り方と入り込む経路はエンドトキシンとは?で、大腸菌の精製全体の流れは微生物由来タンパク質の精製とは?で解説しています。
出どころを減らす ― 壊し方と宿主で持ち込み量が決まる
エンドトキシンは大腸菌の外膜にあります。だから、菌をどう壊し、目的のタンパク質をどこに出すかが、持ち込み量を決めます。
菌体をまるごと破砕すると、細胞質、ペリプラズム大腸菌の内膜と外膜の間の区画。細胞質より酸化的で、ジスルフィド結合が形成されやすい。詳しく →(内膜と外膜のあいだの空間)、外膜の中身が一緒に出てきます。エンドトキシンもこのとき一気に遊離します。目的のタンパク質をペリプラズムや培養上清へ出す設計にできれば、全菌体を壊さずに済み、持ち込み量を入口で減らせます。宿主と局在の選び方は微生物の宿主・発現系の選び方に、破砕条件は菌体破砕の条件の決め方に任せます。封入体(不溶性の塊)で回収する場合も手はあります。可溶化の前に、界面活性剤タンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく →を入れた緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →で洗うと、エンドトキシンが付いた膜の断片をかなり落とせます(封入体の洗い方)。
宿主そのものを変える手もあります。ClearColi(Lucigen が開発し、現在は Biosearch Technologies が販売)は、エンドトキシンの構造を改変して、ヒトの免疫のスイッチを入れにくくした大腸菌株です。ただしメーカー自身が、LAL試験には反応が残ると説明しています。規格を測る物差しが変わるわけではないので、製造で使うなら、試験法と規格の扱いを先に決める必要があります。
除去の工程を強くする前に、そもそも壊さない、持ち込まないという上流の設計から見直すと、後段の負荷を確実に下げられます。
電荷で止める ― 陰イオン交換の素通しと、樹脂か膜か
エンドトキシン(LPS)にはリン酸基があり、ふつうのpHで強い負の電荷を帯びています。
この性質を使うのが、陰イオン交換(AEX)の素通し運転(フロースルークロマトグラフィーで担体に結合せず素通りして流れ出る画分。不純物を通過させて除く場合などに利用する。詳しく →)です。正の電荷を持つ担体にエンドトキシンだけを付け、通り抜けた液を集めます。成り立つ条件は、目的のタンパク質が、その緩衝液のpHで担体に付かないことです。等電点抗体全体の正味電荷がゼロになるpH。電荷の性質を表す指標で、会合や粘度に関わる。詳しく →がpHより高い、中性から塩基性側のタンパク質なら、素通りします。酸性のタンパク質は、タンパク質自身も担体カラムに充填する多孔質ビーズ。表面のリガンドと成分の相互作用差で目的物と不純物を分離する。詳しく →に付くので、素通しでは分けられません。塩の濃さとpHを作り込んで分けるか、別の原理の段に回すかを、精製戦略の早い段階で見極めます。
使う担体の候補には、Cytiva の Capto Q ImpRes(粒子径約40 µm)、東ソーの TOYOPEARL GigaCap Q-650(35 µmと75 µmの2種)、Merck の Fractogel EMD TMAE などがあります。樹脂そのものの選び方はイオン交換レジンの選び方で解説しています。
担体の形も選べます。樹脂は、ビーズの内側にある結合部位まで、エンドトキシンが拡散して届くのを待つ仕組みです。流す速さを上げるほど、届く前に素通りしやすくなり、容量が下がります。膜は、液が孔を直接通り抜ける対流型です。Pall の Mustang Q は、孔径フィルター膜に存在する細孔の公称上の大きさを示す値で、保持できる粒子・微生物の最小サイズの目安となる指標(ただし実際の保持性能はバクテリアチャレンジ試験で実証される)。詳しく →0.8 µmの膜に四級アミンを結合し、膜の体積の10〜40倍の液を毎分流せると説明されています。拡散する距離が短いので、流量を上げても容量が落ちにくく、開発から商用まで同じ条件を使い回せます。その代わり、膜1本あたりの絶対容量は樹脂より小さく、大量の生産では本数を増やすか、樹脂に戻すかを考えます。
膜は使い切りなので、洗浄の妥当性確認試験法が目的に合う性能を持つことを立証する妥当性確認。正確さ・精度などを評価する。詳しく →が要りません。樹脂は繰り返し使うぶん、購入費を回数で割って回収できます。同じ品目を回し続ける商用の生産なら樹脂が、品目が頻繁に替わる開発段階や、洗浄の確認そのものを避けたい工程なら使い切りの膜が、立ち上げやすくなります。膜の特徴はメンブレンクロマトグラフィーとは?にあります。
樹脂は拡散で容量を稼ぎ、膜は対流で速く流します。どちらを選ぶかは、原理の優劣ではなく、バッチの頻度と品目の入れ替わりの速さで決まります。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べる電荷だけで足りない分 ― 疎水性とサイズで補う
電荷だけでは、規格まで落とし切れないことがあります。
エンドトキシンは、リン酸基の負電荷と、アシル鎖(脂肪酸の長い鎖)の疎水性を併せ持ちます。このため目的のタンパク質と、電気的にも疎水的にも結びついた複合体を作ります。複合体になると、陰イオン交換正に帯電した担体に負電荷の物質を吸着させて分離する手法。フロースルーでDNAやウイルスを除くのに使う。詳しく →だけでは分けきれません。疎水性分子が水と親和せず、油脂や非極性溶媒と相互作用しやすい性質で、二本鎖RNAと一本鎖RNAではその程度が異なり分離の指標となる。詳しく →を突く手段を重ねます。
代表が、界面活性剤 Triton X-114温度を上げると相分離する界面活性剤で、疎水性を利用してLPSを抽出除去する。 の相分離です。曇点(溶液が濁り始める温度)が22〜23℃と低く、冷やしておけば均一で、温めると界面活性剤の相と水の相に分かれます。エンドトキシンは界面活性剤の相に移るので、遠心して水の相を取ります。1990年の古典的な報告では、3種類のタンパク質で、1回の相分離でエンドトキシンが約1,000分の1に下がり、タンパク質の損失は1回あたり約2%でした。残る微量の界面活性剤は、ゲルろ過や吸着で除きます。
使う前に確かめることがあります。Triton X-100 を含むオクチルフェノールのエトキシレートという群は、環境への内分泌かく乱作用を理由に、EUのREACH規則で2021年1月から認可がないと使えなくなりました(研究開発の用途などは対象外です)。X-114 も同じ系統の界面活性剤です。EUで使うなら、自社の用途がどう扱われるかを、薬事の担当に先に確かめます。
ポリミキシンBを固定した担体は、エンドトキシンの脂質の部分に強く結合し、選択性に優れます。ただしリガンドが漏れ出すおそれがあり、最終段には置きにくい手段です。限外ろ過半透膜で目的物質を濃縮したり(限外ろ過)、緩衝液を目的の組成に置き換えたり(ダイアフィルトレーション)する工程です。膜面に沿って液を流すTFF方式が使われます。詳しく →は、エンドトキシンが会合して大きな塊になる性質を使いますが、タンパク質の溶液では効果が小さいとされ、補助にとどまります。
電荷を主役に据え、疎水性やサイズは、それで届かない残りを埋める二の矢として組み合わせます。
落ちたかの確かめ方 ― カタログの容量では分からない
結合容量担体が結合できる目的物の量。大きな粒子は樹脂ビーズの細孔に入りにくく、結合容量を稼ぎにくい。詳しく →が大きいほど、エンドトキシンもよく落ちると読みたくなります。
動的結合容量(DBC)実際の流速で溶液を流したときに樹脂が現実に捕まえられる目的物の量。負荷量設計の基準になります。の多くは、ウシ血清アルブミン血漿中に最も多く存在するタンパク質で、脂肪酸などの疎水性分子を可逆的に結合・運搬する機能をもつ。詳しく →を、決められたpHと流速、出口に10%漏れた時点まで流して測った値です。たとえば Capto Q ImpRes の「55 mg/mL超」も、BSAで測った公称値です。エンドトキシンは、会合して見かけの大きさが変わり、タンパク質との複合体でも挙動が変わるので、同じ担体でも、エンドトキシンに対する結合容量はモデルタンパク質のDBC実際に液を流しながら測る、担体が破過するまでに結合できるタンパク質量。樹脂の使い切りの指標。詳しく →とは別の数字です。DBCが大きくても、エンドトキシンが何桁減るかの保証にはなりません。
メーカーに聞くのは「DBCはいくつですか」ではありません。「自社に近いpHと電気伝導度溶液のイオン濃度を反映する指標。フロースルーでは負荷液の伝導度を下げる脱塩が必要になることがある。詳しく →の液で、エンドトキシンが何桁減ったかを実測したデータはありますか」です。何桁減ったかを表す数字がログリダクション値(LRV製造工程がウイルスをどれだけ除去・不活化できるかを評価し、製品の安全性を確保する取り組みです。各工程の低減能力を対数の値で示します。詳しく →)で、10分の1に減れば1です。多くのメーカーは、アプリケーションノートに代表的な条件での値を載せています。その条件が自社の工程からどれだけ離れているかで、自前でやり直す実測の量が決まります。実測は、自社の液にエンドトキシンを加えて担体に通し、通る前後を測る小さな試験で足ります。
測る側の落とし穴もあります。エンドトキシンがタンパク質と結びついていると、測定値が実態より低く出ることがあります(低エンドトキシン回収)。除去の成績を測ったつもりが、見えなくなっただけという誤読を避けるため、加えた量がきちんと見つかるかを先に確かめます(エンドトキシン試験の実務)。LAL試薬から組換え試薬に替える場合の注意はrFC(組換えC因子)とは?にあります。
規格は、投与経路ごとに決まった許容量(注射剤は体重1 kgあたり5 EU、髄腔内に投与するものは0.2 EU)と、製品の最大投与量から逆算します。計算はエンドトキシン限度値の計算ツールで試せます。
DBCは担体どうしの性能を比べる目安で、エンドトキシンがどれだけ落ちるかは、自社の液で実測した値でしか分かりません。
明日から確かめられること ― 除去を組む順番
決める順番は、出どころ、止め方、補い方、確かめ方です。
- 目的のタンパク質の等電点と、使う緩衝液のpH。陰イオン交換分子の電荷の違いを利用して分離するクロマトグラフィー。フラグメントなど定型ツールが効かない分子でも使える。詳しく →の素通しが成り立つか
- 分泌やペリプラズム発現シグナル配列でタンパク質を大腸菌のペリプラズムへ送り、そこでジスルフィド結合を形成させる発現法。詳しく →に寄せられるか。封入体大腸菌内で不溶性の塊(封入体)になったタンパク質を可溶化し、正しい立体構造へ巻き戻して活性を回復させる操作です。詳しく →なら、洗いをどこまで作り込めるか
- 電荷で止めたあと、規格まで足りない桁を、疎水性やサイズの段で何段重ねるか
- 樹脂にするか膜にするか。判断材料はバッチの頻度と、品目の入れ替わりの速さ
- メーカーの資料に、自社に近い液でのエンドトキシンの実測データ(LRV)があるか
- 除去の前後を、タンパク質と結びついた分を含めて、正しく測れる試験法になっているか
メーカーの値は候補を絞る材料で、決めるのは自社の液で取ったデータです。
製品は陰イオン交換レジン(AEX)とメンブレンクロマトグラフィーから、測定の試薬と装置はエンドトキシン試験から比べられます。
参考文献
- Cytiva, Capto Q ImpRes 製品情報(粒子径約40 µmと、BSAで測った動的結合容量)
- Pall(Cytiva), Mustang Q Chromatography Capsules 製品情報(孔径0.8 µmと、毎分10〜40倍容量の流量)
- Sartorius, Sartobind Q 製品情報(対流型の大孔径の膜)
- USP-NF 〈85〉 Bacterial Endotoxins Test製品中のエンドトキシンを検出・定量するバクテリアエンドトキシン試験の総称。詳しく →(有償。注射剤5 EU/kg、髄腔内0.2 EU/kgの許容量)
- Petsch D, Anspach FB. Endotoxin removal from protein solutions. J Biotechnol. 2000;76(2-3):97-119.
- Magalhães PO, et al. Methods of endotoxin removal from biological preparations: a review. J Pharm Pharm Sci. 2007;10(3):388-404.
- Aida Y, Pabst MJ. Removal of endotoxin from protein solutions by phase separation using Triton X-114. J Immunol Methods. 1990;132(2):191-195.(3種類のタンパク質で1回の相分離で約1,000分の1、タンパク質の損失は1回あたり約2%)
- Merck, Detergents and REACH(オクチルフェノールのエトキシレートの認可制と、2021年1月4日の期限)
- Biosearch Technologies(Lucigen), ClearColi BL21(DE3) User Manual(改変したエンドトキシンの構造と、LAL試験への反応)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/microbial-endotoxin-removal