自動セルカウンターで何が変わるか:計数の揺れと生存率の読み方

同じ培養液を、同じ人が血球計算盤格子状のマス目が刻まれたガラス製スライドで、顕微鏡下で細胞を直接数えるための古典的な計数器具。詳しく →で数えても、数字は毎回少しずつ違います。作業が下手だからではありません。
理由は、数える細胞の個数が少ないことにあります。細胞が液の中にばらばらに散っているとき、視野に入る個数は偶然に揺れます。100個を数えた時点で、計数そのものに標準偏差で1割ほどの揺れが残り、どれだけ丁寧に数えても、これより下には行けません。
自動セルカウンター培養液中の細胞の数や生存率(生死の割合)を自動で数え、培養の状態を把握するために使う装置です。詳しく →が効くのは、判定を機械に任せるからだけではなく、数える個数が数千に増えるからです。ただし、自動化しても残る誤差があります。フィードのタイミングや収穫の判断が、生細胞密度と生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。詳しく →という二つの数字で動く現場では、何が減って何が残るかを知ってから装置を選ぶほうが、導入後に困りません。
手作業の数字が揺れる理由 ― 個数と判定と記録
揺れの原因は三つあります。
一つめは、数える個数です。血球計算盤では、1区画に20〜50個が入るよう希釈して、4区画を数えるのが定石です。合計は80〜200個で、計数由来の揺れは7〜11% あります。5% まで下げるには400個、つまり8〜20区画を数えなければならず、現実的な作業量ではありません。数千個を数える自動機なら、この揺れは1〜2% まで下がります。
二つめは、判定の主観です。トリパンブルー(死んだ細胞だけを青く染める色素)で染めたとき、淡く染まった細胞や、縁だけ染まった細胞を生と数えるか死と数えるかは、観察者に委ねられます。格子の境界にかかった細胞を含めるかどうかも、人によって違います。
三つめは、手間と記録です。染色、充填、鏡検、計数、記録の一連が1サンプルごとに人の手を要します。灌流培養のように高頻度で測る工程では、計数そのものが工程の律速段階です。手書きや手入力の記録は転記ミスの温床で、データインテグリティの面でも後から追いにくくなります。
手作業のばらつきは、腕前の問題というより、数える個数が足りないという算数の問題でもあります。
自動化で減るもの、減らないもの
自動セルカウンターは、原理を変えていません。トリパンブルー色素排除法細胞膜が損傷した死細胞のみが青色色素を取り込む性質を利用して、生細胞と死細胞を染め分けて判別する方法。のまま、染色、撮像、計数、判定を機械に移したものです。サンプルを入れると、装置が色素と混ぜ、フローセル液体サンプルを一定の流れで流しながら光学的に撮像・計測するための、装置内部に組み込まれた薄い流路構造体。詳しく →へ送り、画像を撮って、細胞を1個ずつ判定します。
減るものは四つあります。作業者ごとの判定の揺れは、基準が明るさやサイズの数値で固定されるので消えます。計数の統計的な揺れは、個数が増えて小さくなります。染色から測定までの時間の揺れも、機械なら一定に保たれます。この時間は意外に効きます。トリパンブルーは時間が経つと生きた細胞にも入り込み、待つほど生存率が低く出るからです。記録は電子データで残るので、ロット間と日間の比較や傾向管理測定値の時系列変化を継続的に追跡し、工程の異常や品質の逸脱を早期に検知するための品質管理手法。にそのまま使えます。
減らないものもあります。サンプルの取り方と希釈の誤差は、装置の手前の作業なので残ります。凝集した細胞の数え間違いも残ります。そして、色素排除法が見ているのは膜が無傷かどうかで、細胞が生きているかどうかそのものではない、という限界も残ります。
三つの計数法を比べた検証報告(2015年)が、この区別をよく表しています。血球計算盤、半自動、全自動の三つのトリパンブルー法を比べたところ、自動法の精度と正確さは手作業と同じ範囲にありました。一方で、自動法が同等の性能を出すには、染色の調整、画像の表示条件、細胞の形に合わせた設定が要る、と報告者らは述べています。装置を入れれば自動的に揃うのではなく、自社の細胞に合わせた設定を作って、はじめて揃います。
生存率の数字が測っているもの ― 膜の健全性
生存率の数字は、思っているより「生死」を測っていません。
色素排除法が判定しているのは、細胞膜が色素を通すかどうかです。アポトーシス細胞が遺伝的プログラムに従って自発的に死に至る過程で、壊死とは異なり膜の完全性が初期段階では保たれる。詳しく →(細胞が自ら死んでいく過程)の初期は、膜がまだ保たれているので、すでに回復できない細胞が生細胞として数えられます。逆に、操作の物理的な刺激で膜が一時的に傷ついただけの細胞は、回復できるのに死細胞と判定されます。
このずれは、自動化しても消えません。生存率が高いことと細胞が健全であることは、色素排除法の上では同じではないのです。そこで、役割を切り分けます。日々の工程管理と傾向の監視は、再現性と処理量に優れる色素排除法の自動機で回します。アポトーシスの進行や代謝の健全性が論点になる場面では、別の原理を当てます。核を蛍光で染める方式(ChemoMetec の NucleoCounter など)や、グルコースの消費、酸素消費のような代謝の指標です。方法ごとに「生きている」の定義が違う話は、細胞数・生存率の測定法で解説しています。
もう一つ大切なのは、生存率の閾値を測定法とセットで決めることです。方法を切り替えると、生存率の絶対値が変わります。「生存率80% で収穫」という基準は、どの装置のどの設定で測った80% なのかが決まって、はじめて運用できます。装置を更新するときは、閾値の読み替えも一緒に検討します。
二つの方法が違う値を返したときは、測定の誤差ではなく、違うものを測っている可能性を先に疑います。
装置を比べる勘どころと、よくある失敗
仕様表で見るべきは、精度の数字よりも、自分の工程がその装置の窓に入るかどうかです。
Beckman Coulter の Vi-CELL BLU を例に取ります。測れる濃度は 50,000〜15,000,000 cells/mL、サンプル量は通常モードで 200 µL です。上限を超えるサンプルは希釈が要り、そこで希釈誤差が乗ります。下限を下回ると、撮れる細胞の数が減って、計数の揺れが手作業に近づきます。シードトレインの初期のように密度の低い段階では、この下限が効いてきます。サンプル量も見落としがちです。1点200 µL を、小スケールの並列培養や、1日に何度も測る工程で抜き続けると、培養液が目減りします。同じ枠組みの装置には、Roche CustomBiotech の Cedex HiRes、Thermo Fisher Scientific の Countess などもあり、濃度範囲とサンプル量は機種で違います。
現場でつまずくのは、次のようなところです。
最も多いのは、凝集した細胞の過少計数です。塊を1個と数えるので、凝集の強い培養では、自動計数の値をそのまま信じられません。分散処理を入れるか、判定の設定を調整します。細胞の径や形が典型から外れる場合も、サイズの閾値で判定する以上、誤判定が起きます。細胞株開発の段階で、細胞種ごとの判定条件を作り込んでおかないと、その偏りが系統的な誤差として工程全体に乗ります。
次に、カタログの再現性の数値を信じすぎることです。この数字は、同じサンプルを繰り返し測ったときの値であることが多く、希釈を含めた一連の操作の再現性ではありません。同じ培養液を複数人が別々に希釈して測り、そのばらつきを見ると、装置ではなく手順の性能が分かります。希釈の計算は希釈計算ツールで確かめられます。
最後に、装置を替えたのに、閾値の読み替えをしないことです。しばらく新旧の両方で測り、差を把握してから切り替えます。
自動計数の誤差は、装置の中だけでなく、装置に入れるまでの操作にも残ります。
明日から確かめられること ― 選定と運用の質問
装置の選定や見直しで使える確認項目です。
- その数字は何の判断に使うか(フィード、収穫、傾向の監視)。判断の重さに見合う精度は、何個数えれば出るか
- 培養の初期から後期まで、細胞密度が装置の濃度範囲に収まるか。希釈が要る場面はどこか
- 1点あたりのサンプル量と、1日に測る点数から、抜く培養液の合計はいくらか
- 凝集しやすい細胞株か。細胞株ごとの判定設定は誰がいつ決め、血球計算盤と並べて確かめたか
- 同じ培養液を複数人が別々に希釈して測り、ばらつきを見たことがあるか
- 生存率の閾値は、どの装置のどの設定の値か、手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →に書いてあるか。装置を更新するとき、新旧を並行して測る期間はあるか
- 結果と設定変更の履歴が、電子記録として残るか
装置の一覧はセルカウンターのページに、フロー式はフローサイトメトリーのページにまとめています。
次の疑問に応える記事も用意しています。色素と蛍光、フロー、静電容量プローブ培養液の静電容量から生細胞密度をオンラインで測定するセンサーのこと。詳しく →の違いは細胞数・生存率の測定法、数えた生細胞密度培養液中の生きた細胞の密度。灌流速度はCSPR×密度×体積で決まる。詳しく →で判断するフィードフェドバッチで追い足す濃縮した栄養液。いつ・どれだけ・どう入れるかが生産性と品質を左右する。詳しく →の組み方はCHO細胞フェドバッチのフィード設計、灌流培養培養液を連続的に入れ替えながら細胞を高密度に保ち、長期間生産を続ける培養方式です。細胞を装置で保持し、老廃物を除きつつ栄養を補給します。詳しく →で細胞を抜く量を決める考え方は灌流培養のセルブリードで読めます。
参考文献
- Beckman Coulter, Vi-CELL BLU Cell Viability Analyzer(製品仕様)
- Beckman Coulter, Vi-CELL BLU Cell Viability Analyzer Against 3 Automated Cell Counting Devices(アプリケーションノート)
- Cadena-Herrera D, et al. Validation of three viable-cell counting methods: Manual, semi-automated, and automated. Biotechnol Rep. 2015;7:9-16.
- ChemoMetec, Manual vs. Automated Cell Counting
次に読む
抗体医薬この分野の解説記事を、まとめて見る(299本)この記事に関連する工程
この分野の新着を、メールで受け取る
こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを毎週水曜の朝にお届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。
登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。閲覧の記録(どのページから、どの会社のサイトへ移ったか)を、ご案内のために使います。
目次・関連閉じる
Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/automated-cell-counting-viability-application