細胞数・生存率の測定法とは?方法で数字が変わる理由と選び方

ノバルティスのCAR-T患者や健常ドナーのT細胞にCAR(キメラ抗原受容体)を導入し、がん細胞を攻撃させる細胞治療。詳しく →製品キムリアは、生きた細胞の割合が80%に届かなければ、米国では商用の製品として出荷できません。同社が2019年12月に公表した米国の実臨床データでは、リンパ腫で評価できた102人のうち29人が、この規格を下回る製品を受け取っていました。規格を外れた製品は商用品として販売できないため、拡大アクセスの枠組みで無償で提供されていました。
細胞数と生存率は、細胞が何個あり、そのうち何割が生きているかを表す数字です。培養の判断から細胞治療の出荷判定製造したロットを規格に照らして出荷の可否を決める判断。有効期間の短い製品では時間との戦いになる。詳しく →まで、あらゆる場面で使われます。ところが、この2つには決まった正解がありません。測る方法ごとに「生きている」の定義が違い、同じ細胞でも値が動きます。
細胞数と生存率の使い道
抗体などを作る培養では、生細胞密度培養液中の生きた細胞の密度。灌流速度はCSPR×密度×体積で決まる。詳しく →(VCD、viable cell density、液1 mLあたりの生きた細胞の数)と生存率の推移を見て、フィードフェドバッチで追い足す濃縮した栄養液。いつ・どれだけ・どう入れるかが生産性と品質を左右する。詳しく →(栄養の追加)の日や回収の日を決めます。前の段の培養がどこまで増えたかで次の段へ植え継ぐかを決めるのがシードトレインで、そこで決めた細胞の濃さが本培養(生産培養)の立ち上がりを左右します。灌流培養では、細胞の濃さを一定に保つために、増えた分を抜き取る量もこの数字で決めます。
細胞治療生きた細胞そのものを有効成分とする医薬。CAR-Tなどが代表。詳しく →では、数字の重みがもう一段上がります。投与する量そのものが「生きた細胞の数」で決まり、生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。詳しく →は出荷規格の1項目に入るからです。品質特性の全体像は細胞治療のCQAで解説しています。
冒頭のキムリアでは、米国の商用規格が生存率80%以上、ほかの承認国では70%以上でした。ノバルティスは、商用の規格が臨床試験のときより厳しく設定されたことを、規格外試験結果が規格の範囲を外れること。原因調査の対象になる。詳しく →が出る理由として説明していました。同社は、規格を下回った製品を受けた患者でも、有効性と安全性は商用品と変わらなかったと報告しています。
規格の数字は、どの方法で測ったかとセットで初めて意味を持ちます。
方法で数字が変わる理由
多くの方法は、細胞膜に穴が開いているかどうかで生死を分けています。代表がトリパンブルーです。この青い色素は、傷のない細胞膜を通れません。生きた細胞は透明のまま残り、膜が壊れた細胞だけが青く染まります。破れた袋にだけ色水がしみ込むのと同じ理屈です。
ただし、膜が無傷なら生きている、とは限りません。代謝が止まりかけた細胞や、アポトーシス細胞が遺伝的プログラムに従って自発的に死に至る過程で、壊死とは異なり膜の完全性が初期段階では保たれる。詳しく →(細胞が自ら死んでいく過程)の初期の細胞は、膜がまだ保たれていて「生きている」側に数えられます。膜の状態は、生死を近似する目印の1つにすぎません。
色素そのものが結果を動かすこともあります。蛍光式の計数装置を手がける Nexcelom(現 Revvity)の研究者らは2020年、トリパンブルーに触れた死細胞や死にかけの細胞がその場で破裂して消える様子を、タイムラプスの映像で示しました。同じ実験で、蛍光色素のヨウ化プロピジウム(PI)ではこの現象は起きませんでした。消えた死細胞は数に入らないので、生存率は実際より高く出ます。
時間も効きます。トリパンブルーに長く浸すと、生きていた細胞まで傷んで染まり、今度は生存率が低く出ます。広く使われている手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →は、色素と混ぜてから3〜5分以内に数えるよう求めています。
4つの測り方の違い
細胞を数える方法は、大きく4つあります。違いは「何を生きている細胞として数えるか」に出ます。
| 方法 | 生きている細胞の見分け方 | 向いている場面 | 弱いところ |
|---|---|---|---|
| トリパンブルー+血球計算盤格子状のマス目が刻まれたガラス製スライドで、顕微鏡下で細胞を直接数えるための古典的な計数器具。詳しく → | 色素が入らない細胞 | 少ない検体、自動法の確認 | 人による判定の差、手間 |
| 自動セルカウンター培養液中の細胞の数や生存率(生死の割合)を自動で数え、培養の状態を把握するために使う装置です。詳しく →(画像) | 明視野のトリパンブルー、または蛍光(AO/PI) | 日々の培養管理、多検体 | 細胞種ごとの判定設定に左右される |
| フローサイトメトリー細胞を一つずつ測定し、表面マーカーや性質を調べる手法です。細胞の種類・純度・活性の確認に使います。詳しく → | 生死の色素と、目的の細胞の目印 | 細胞治療の用量、混ざった細胞集団 | 設定が複雑、絶対数にはビーズなどが要る |
| 静電容量プローブ培養液の静電容量から生細胞密度をオンラインで測定するセンサーのこと。詳しく → | 無傷の膜に囲まれた細胞の体積 | 培養槽の中で途切れなく追う | 個数ではない、計数値での補正が前提 |
血球計算盤は、格子の刻まれたガラスの容器に細胞を入れ、顕微鏡で目で数える方法です。特別な装置が要らず、細胞の見え方を自分の目で確かめられます。弱点は、数えられる細胞の数が少ないことです。100個ほど数えただけでは、偶然のばらつきだけで結果が1割ほど動きます。それでも原理が透明なので、自動法の値を確かめる参照法として今も使われています。
自動セルカウンターは、撮った画像を装置が解析して、細胞の大きさや染まり方から1個ずつ判定します。Beckman Coulter の Vi-CELL BLU は、トリパンブルー染色と画像解析で細胞数・生存率・細胞の大きさを出す機種です。ChemoMetec の NucleoCounter NC-202 は蛍光染色で数えます。蛍光の代表はアクリジンオレンジ(AO)とPIの組み合わせで、AOは核を持つ細胞をすべて、PIは膜の壊れた細胞だけを染めます。赤血球や細胞の破片(デブリ破砕で生じる細胞の破片。過度な破砕で微細化すると後段の遠心・ろ過を妨げる。詳しく →)は核を持たないので数に入りません。血液から採った細胞や、凍結から戻した細胞のように、余計なものが混ざった検体で差が出ます。
フローサイトメトリーは、細胞を1列に流してレーザーを当て、1個ずつ光を読む方法です。強みは、表面の目印(抗原マーカー)で目的の細胞だけに絞れることです。CAR-T製品では、用量の実体は「生きた遺伝子改変T細胞が何個あるか」で、総細胞数では足りません。数の絶対値を出すには、数の分かったビーズを一緒に流して比べる方法がよく使われます。造血幹細胞血液細胞のもとになる幹細胞。採取して体外で遺伝子を編集し、体内に戻す治療に使う。詳しく →の目印であるCD34表面マーカーCD34を発現する細胞画分。造血幹・前駆細胞が濃縮された指標として採取・選別で用いられる。詳しく →陽性細胞の数え方を定めた USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく →〈127〉も、このビーズを使う方式をとっています。T細胞を増やす工程で何を測るかはT細胞の活性化と拡大培養、装置の型の違いはフローサイトメーターの通常型とスペクトラル型で解説しています。
静電容量プローブは、培養槽に差し込んだまま、サンプルを抜かずに生きた細胞の量を追うセンサーです。交流の電場をかけると、膜の無傷な細胞は小さなコンデンサのようにふるまいます。死細胞やデブリはこの反応をほとんど示しません。Sartorius の BioPAT Viamass や Hamilton の Incyte Arc がこの方式です。ただし測っているのは個数ではなく、無傷の膜に囲まれた細胞の体積の合計(バイオボリューム)です。工程の途中で細胞の大きさが変わると、数が同じでも信号が変わります。
方法を比べるときは、精度の高さより先に、その方法が何を数えているかを確かめます。
よくある失敗 ― 染色の時間・判定の設定・方法の切り替え
失敗の多くは、装置の性能ではなく運用のずれから起きます。
1つ目は、染色してから数えるまでの時間です。検体が多い日ほど、混ぜてから読むまでの間隔がばらつきます。時間がそろっていないと、ロットの差なのか待ち時間の差なのか見分けがつきません。
2つ目は、自動セルカウンターの判定の設定です。何 µm 以上を細胞とみなすか、どの明るさから死細胞とするかといった設定がずれると、同じ検体でも結果が動きます。細胞の種類を変えたら、血球計算盤と並べて測り、設定が合っているかを確かめ直します。凝集した塊やデブリの多い検体では、判定がとくに難しくなります。
3つ目は、方法や装置を切り替えたときです。新しい装置の値は、古い装置の値とそのままでは並べて比べられません。しばらく両方で測り、差を把握してから切り替えます。拠点をまたぐ場合の進め方は分析法の移管と同じ考え方です。
ここで問題になるのが、細胞数には「正解の値」を持つ標準品力価の基準に定めた品。検体と同じアッセイで並べて測り、相対力価の基準にする。詳しく →がほとんど無いことです。ISO 20391-2 はこの問題に対して、検体を段階的に薄めて測る方法を示しています。薄めた割合どおりに数が減るか(比例性)と、繰り返したときのばらつき(%CV)を見れば、正解を知らなくても方法の良し悪しを比べられます。米国の NIST(国立標準技術研究所)は、この評価のための計算ツール COMET を公開しています。
静電容量プローブでは、計数値との対応を一度とって終わりにしないことが大切です。細胞の大きさが動く工程では、その対応そのものが動きます。
装置を替える、細胞の種類を変える、凍結から戻した検体を測る。このどれかに当たったら、今の方法と並べて測るところから始めます。
装置選びで確かめること
細胞治療の出荷判定に使う方法は、薬局方でも整備が進んでいます。欧州薬局方は2022年、細胞数と生存率の一般試験法 Ph. Eur.欧州医薬品品質局(EDQM)が発行する、医薬品の品質基準を定めた公定書で、署名国・加盟国の規制に法的効力を持つ。詳しく → 2.7.29 の改訂案を公表し、画像サイトメトリーなどの自動の方法と、バリデーション試験法が目的に合う性能を持つことを立証する妥当性確認。正確さ・精度などを評価する。詳しく →の節を加えました。有効期間医薬品が規定の品質を保てると保証される期間。安定性データの経時変化から設定する。詳しく →の短い製品で出荷判定をどう組むかは細胞治療の迅速出荷試験で解説しています。
装置を選ぶとき、また今の運用を見直すときは、次の点を確かめておくと判断の材料がそろいます。
- 何を数えたいか(膜が無傷の細胞か、目的の細胞だけか、培養中の推移か)
- 検体に赤血球・デブリ・凍結から戻した死細胞が多いか、多いならAO/PIなどの蛍光に対応しているか
- 自社の細胞種に合う判定の設定をメーカーが持っているか、どこから自社で決めて確かめるか
- 染色から読み取りまでの時間を、手順書で決めているか
- 今の方法と並べて測る期間と、比べる指標(薄めて測ったときの比例性と%CV)
- 出荷判定に使う場合に、結果と設定変更の履歴をどう残せるか
- 静電容量プローブなら、計数値との対応をいつ、どの条件でとり直すか
画像式流れる粒子を撮像して数や形態を評価する粒子計数法。タンパク質医薬の微粒子評価を補う。詳しく →の機種はセルカウンター、フロー式はフローサイトメトリー、静電容量プローブを含む培養槽まわりの計測はバイオプロセス分析計で横断できます。数えた生細胞密度から倍加時間を出したいときは比増殖速度・倍加時間の計算ツールが使えます。
次に読むなら、手作業のばらつきが自動化でどこまで減るかを掘り下げた自動細胞計数・生存率測定で手作業のばらつきをなくす、数えた細胞がその後どの工程を通るかを追うCAR-T細胞療法の製造工程が続きます。
参考文献
- Novartis, Novartis Kymriah® demonstrates consistent efficacy and safety outcomes in US patients when used in real-world setting(2019年12月、米国の生存率規格と規格外製品を受けた患者数)
- BioPharma Dive, キムリアの製造と生存率規格についての報道(2019年12月。規格外製品は拡大アクセスの枠組みで無償提供)
- Chan LL, Rice WL, Qiu J. Observation and quantification of the morphological effect of trypan blue rupturing dead or dying cells. PLoS ONE. 2020.
- Strober W. Trypan Blue Exclusion Test of Cell Viability. Curr Protoc Immunol. 2015;111:A3.B.1-A3.B.3.
- European Pharmacopoeia (Ph. Eur.) General Chapter 2.7.29, Nucleated cell count and viability(Pharmeuropa 34.1 の改訂案告知). EDQM.
- USP General Chapter <127>, Flow Cytometric Enumeration of CD34+ Cells. United States Pharmacopeia (USP).
- ISO 20391-2:2019, Biotechnology - Cell counting - Part 2: Experimental design and statistical analysis to quantify counting method performance.
- NIST, Evaluating the Quality of Cell Counting Methods: Experimental Design and Statistical Analysis
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/cell-counting-viability-methods