細胞治療の出荷試験とは?迅速無菌・迅速マイコプラズマの考え方
細胞治療の製品は、無菌試験製品や細胞に細菌・真菌の汚染がないかを確認する試験。薬局方に準拠して行う。詳しく →の最終結果が出る前に、患者に投与されることがあります。TIL療法(lifileucel)の臨床試験の計画書には、その判断が書かれています。出荷の時点でそろうのは工程内の無菌試験とグラム染色の結果で、すぐに治療が必要な患者にとっては、最終結果の前に投与する危険より、投与する利益が大きいと判断した、という内容です。陽性が後から出たときは、実施施設に直ちに連絡する決まりです。

理由は二つあります。生きた細胞は最終製品を除菌ろ過できないので、無菌性は試験で確かめるしかありません。ところが、薬局方の無菌試験は14日、マイコプラズマ細胞培養に混入しうる微小な細菌。セルバンクなどで否定試験が求められる。詳しく →の培養法は数週間かかり、製品の有効期間医薬品が規定の品質を保てると保証される期間。安定性データの経時変化から設定する。詳しく →より長いのです。
そこで、結果の早い迅速法に置き換え、それでも間に合わない試験は出荷後に回します。何を迅速にし、何を後に回し、陽性が出たら誰が何をするか。出荷判定製造したロットを規格に照らして出荷の可否を決める判断。有効期間の短い製品では時間との戦いになる。詳しく →の設計は品質保証の仕事ですが、迅速法従来より短時間で結果が出る試験法。有効期間の短い細胞製品の出荷判定に使い、従来法との同等性検証が前提。詳しく →の装置や受託先の選定は購買に、試験に回せる検体量は製造に関わります。
待てない理由 ― 有効期間と従来法の日数
出荷試験製品を患者に投与する前に安全性・品質・有効性を確認するために実施する一連の規格試験。詳しく →の結果を待てるかどうかは、製品の有効期間で決まります。
抗体医薬のように原薬や製剤に保存性があれば、14日の無菌試験も工程の予定に織り込めます。患者自身の細胞を使う自家(autologous)患者本人の細胞を採取・加工して同じ患者に戻す細胞治療の方式。1患者1ロットで製造する。詳しく →製品はそうはいきません。投与日が決まった患者1人のために作り、製造後の有効期間は数時間から数日です。凍結して保管する製品でも、解凍してから投与までの猶予は短く、患者の状態に合わせた日程は動かしにくくなります(CAR-T細胞療法の製造工程)。
一方、微生物の試験は、菌を増やして見つける方法が基本です。薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。詳しく →の無菌試験は、検体を培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →に接種して14日間培養し、増殖がないことを確かめます。マイコプラズマの培養法は、増えの遅い種まで拾うために、数週間(おおむね28日)かかります(マイコプラズマ試験)。どちらも増えるのを待つ試験なので、日数は縮められません。
待てない試験を迅速法に置き換えるか、出荷後に回すか。出荷判定の設計は、この振り分けから始まります。
迅速法の種類 ― 速くする仕組みと、確かめる点
迅速法は、増殖を待つ時間を縮める方式と、増殖を待たずに菌の成分や遺伝子を直接とらえる方式に分かれます。
| 方式 | 何を待たずに済ませるか | 確かめる点 |
|---|---|---|
| 自動培養 | 濁りが目に見える前に、機械が増殖の兆候を検知する | 増えにくい酵母・カビの検出時間 |
| 微小コロニーの検出 | コロニーが育つ前に、画像や発光で見つける | 細胞を含む検体での背景の影響 |
| ATP生物発光 | 生きた菌が持つATPを光で測る | 細胞自身のATPとの区別 |
| 核酸増幅法標的の核酸を増幅して検出する手法。マイコプラズマなどの迅速な検出に使われる。詳しく →(NAT、qPCR核酸を増幅しながら蛍光の増え方を追い、標的DNA・RNAの量を測る装置です。増幅の立ち上がりの早さから濃度を求めます。詳しく →) | 培養せず、遺伝子を増幅して検出する | 死んだ菌も拾う可能性、検体中の阻害物質試料に混入し、PCRの増幅反応を妨げてシグナルの低下や偽陰性を引き起こす夾雑物質の総称。詳しく → |
無菌試験の迅速化では、bioMérieux の BacT/ALERT のような自動培養や、Merck の Milliflex Rapid のような微小コロニーの検出が使われます。マイコプラズマでは、核酸増幅法(NAT、nucleic acid amplification test)のうち、リアルタイムPCR(qPCR、DNAを増やして検出する方法)を使う Thermo Fisher Scientific の MycoSEQ のようなキットが使われます。
自動培養は、細胞を含む検体での検証が報告されています。間葉系幹細胞免疫抑制や組織修復に働く体性幹細胞。免疫や炎症を鎮める向きで効くため、効力の測り方がCAR-Tと逆になる。詳しく →の製品を使った検証では、ごく少数(6個)の菌を加えたボトルが、細菌は36時間以内、カンジダは48時間以内、アスペルギルスは72時間以内に陽性となりました。細胞が入っていても、検出の遅れは見られませんでした。14日と比べれば大幅に短い一方で、いちばん遅いのがカビの仲間である点は、方法を選ぶときの注意点です。

薬局方も代替法の枠組みを整えています。欧州薬局方欧州医薬品品質局(EDQM)が発行する、医薬品の品質基準を定めた公定書で、署名国・加盟国の規制に法的効力を持つ。詳しく → 2.6.27 は、無菌試験(2.6.1)をそのまま適用できない細胞由来の製品を対象にした章です。米国薬局方米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく →〈1071〉は、有効期間の短い無菌製品の出荷判定に使う迅速試験を扱います。どちらも、従来法と同等以上であることを確かめるのが前提です(無菌試験と迅速微生物試験)。
迅速法は、メーカーの資料にある性能がそのまま自社の製品で出るとは限りません。細胞を含む自社の検体で検証して、はじめて使えます。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べる出荷後に結果が出る項目 ― 陽性が出たときの手順
迅速法を使っても、すべての試験を出荷前に終えられるとは限りません。
無菌の確定培養や、iPS細胞のような多能性幹細胞由来の製品での造腫瘍性の長期評価のように、投与に間に合わない試験は残ります。そこで、迅速法の結果に加えて、無菌操作、環境モニタリング無菌製造区域の空気・表面・作業者を微粒子や微生物で継続監視し、汚染管理の状態を記録する活動。詳しく →、原材料製造の起点となる原料で、その品質や持ち込む不純物が最終製品の品質に影響しうるため、規格管理が重視される物質。詳しく →の管理を根拠に条件付きで出荷し、確定結果を後から確認する運用が取られます。
では、後から陽性が出たらどう動くのか。CAR-T患者や健常ドナーのT細胞にCAR(キメラ抗原受容体)を導入し、がん細胞を攻撃させる細胞治療。詳しく →の臨床試験の計画書の例を見ると、その流れが書かれています。微生物検査室が担当医に直ちに連絡し、担当医が患者に説明して、感染症の検査をし、必要なら抗菌薬を始めます。同時に、安全性を評価する委員会、倫理審査委員会、FDAに報告します。制御性T細胞(Treg)の臨床試験の計画書はさらに踏み込み、出荷後に陽性が出たら、原因を特定して是正するまで患者の登録を一時停止することがあると定めています。
商用の製品でも、決めておく項目は同じです。連絡の相手、連絡までの時間、患者の評価、原因調査と是正(CAPA問題の原因を除く是正と、再発を防ぐ予防をあわせた品質活動。照査で見つかった事項をつなぐ。詳しく →)、当局への報告。製造側と病院の間で、誰が誰に何時間以内に何を伝えるかを、文書にしておきます。
出荷後に陽性が出る可能性を認めたうえで、連絡と是正の手順を先に決めておくことが、条件付き出荷を成り立たせる前提です。
出荷判定の設計 ― 自家製品の制約から逆算
出荷判定は、合否の線を一本引く作業ではありません。
どの試験を出荷前に置き、どれを迅速法に替え、どれを後に回すか。それを製品ごとに決める設計です。土台は、同一性・純度・力価・安全性という重要品質特性(CQA)製品の品質・安全性・有効性を保証するため規格内に収めるべき重要な品質特性。で、何を測り、どこまでを出荷の可否に結びつけるかは、ここから逆算します(細胞治療のCQA)。力価は、短時間で再現よく測れる代替の指標を出荷試験にどう置くかが論点で、TIL療法では力価試験細胞や生体分子に実際に作用させ、医薬品の生物活性(どれだけ効くか)を数値化する試験。詳しく →が承認審査の論点になりました(細胞治療の効力試験、TIL療法の製造)。
自家製品の「1ロット=1患者」という制約が、設計をさらに絞ります。限られた製品から試験に回せる検体はわずかで、不合格なら作り直す、という選択もありません。少量で成立する迅速法の価値が、そのぶん上がります。取り違えも致命的なので、採取から投与まで患者を一意に結びつける記録(Chain of Identity)が、出荷判定と一体で求められます(Chain of Identity / Chain of Custody)。
製品の有効期間、検体の量、取り違えの防止。この3つの制約が、出荷前に置ける試験の数と種類を決めます。
明日から確かめられること ― 試験法・受託先・病院との取り決め
試験法の選定や、受託先との契約、病院との取り決めに、そのまま使える項目です。
- 解凍後を含む製品の有効期間と、試験ごとの所要日数を並べた一覧があるか
- 迅速法ごとに、細胞を含む自社の検体での検証と、従来法との同等性の確認が済んでいるか。メーカーのバリデーション試験法が目的に合う性能を持つことを立証する妥当性確認。正確さ・精度などを評価する。詳しく →資料と、自社製品での検証は別のものとして扱う
- 酵母やカビのように検出の遅い菌まで、検出時間を確かめたか。NATなら、死んだ菌の扱いを決めているか
- 試験に回せる検体量で、必要な試験がすべて足りるか
- 出荷後に陽性が出たときの連絡先、連絡までの時間、患者の評価、原因調査、当局への報告を、病院と文書で決めているか
- 受託試験機関なら、結果が出るまでの日数、休日の対応、検体の受け渡し、報告書の様式を確かめているか
- 従来法から迅速法へ切り替えるとき、並行して測る期間と変更管理工程・設備・手順などの変更を評価・承認し、品質への影響とともに記録する仕組み。詳しく →の手順があるか
営業の立場なら、顧客に「どの製品で、細胞を含む検体の検証データがあるか」を聞かれたときに答えられるよう、データを用意しておくことが、提案の前提です。
試験の入口は、無菌試験、マイコプラズマ試験、リアルタイムPCR装置、細胞治療製品 力価・機能評価の製品ページです。製造から投与までの流れを追うなら、閉鎖系での細胞製造と凍結保存と輸送が続きます。
参考文献
- ClinicalTrials.gov, Study of Lifileucel (LN-144), Autologous Tumor Infiltrating Lymphocytes, in the Treatment of Patients With Metastatic Melanoma(NCT02360579)プロトコル(出荷時の工程内無菌試験とグラム染色、陽性時の連絡)
- ClinicalTrials.gov, PSCA-CAR T Cells in Treating Patients With PSCA+ Metastatic Castration Resistant Prostate Cancer(NCT03873805)プロトコル(最終の無菌試験結果が出る前の使用、陽性時の担当医への連絡)
- ClinicalTrials.gov, Study of CAR-20/19-T Cells in Patients With Relapsed Refractory B Cell(NCT03019055)プロトコル(陽性時の患者評価と報告)
- ClinicalTrials.gov, Polyclonal Regulatory T Cells (PolyTregs) for Pemphigus(NCT03239470)プロトコル(出荷後に陽性が出たときの登録の一時停止)
- GMP-Compliance.org, European Pharmacopoeia - Chapter 2.6.27 Microbiological Examination of cell-based Preparations revised(2.6.27の対象)
- Ruiz García ら, Validación del sistema automatizado BacT/ALERT en el control microbiológico de productos celulares de terapias avanzadas. Actualidad Médica. 2016;101(797):24-29.(間葉系幹細胞製品での自動培養の検証)
- 日本薬局方 一般試験法(無菌試験法 4.06、参考情報「マイコプラズマ否定試験」)(PMDA/厚生労働省)
- 欧州薬局方 Ph. Eur. 2.6.1 Sterility / 2.6.7 Mycoplasmas / 2.6.27 Microbiological examination of cell-based preparations / 5.1.6 Alternative methods for control of microbiological quality(EDQM、有償規格): https://www.edqm.eu/en/european-pharmacopoeia
- 米国薬局方 USP <71> Sterility Tests / <63> Mycoplasma Tests / <1071> Rapid Microbial Tests for Release of Sterile Short-Life Products / <1223> Validation of Alternative Microbiological Methods(USP、有償規格): https://www.usp.org/
- ICH Q2(R2)分析法バリデーションのガイドライン。分析手順が妥当性を持つことを確認する枠組みを定める。詳しく → Validation of Analytical Procedures(分析法バリデーション試験・分析方法が目的とする測定を正確・精密・再現性よく実施できることを科学的に確認するプロセス。詳しく →): https://www.ich.org/
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/cell-therapy-rapid-release-testing