細胞治療基礎知識・製造工程

エクソソーム(細胞外小胞)治療の製造と品質の考え方

細胞外小胞の製造で最初につまずくのは、装置でも工程でもありません。何を作っているのかを言葉にするところです。ここが曖昧なまま装置の話へ進むと、あとで全部やり直しです。エクソソーム細胞が分泌する直径数十〜百数十ナノメートルの膜小胞。タンパク質や核酸を運び細胞間で情報を伝える。と呼びたくなりますが、その名前は生合成の経路を指しています。多胞体から放出されたことを示さない限り、手元の粒子をエクソソームと断定はできません。サイズが合っているというだけでは、名乗る根拠として足りません。

TFFシステムSEC-HPLC超遠心機動的光散乱(DLS)#再生医療#細胞治療#細胞外小胞#エクソソーム
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エクソソーム(細胞外小胞)治療の製造と品質の考え方

核心は一点で、この名前の問題がそのまま品質管理遺伝子治療製品の品質・安全性・有効性を保証するために製造・出荷の各段階で実施する試験・管理の総体。詳しく →の問題です。目的物を一意に定義できなければ、同一性出荷ロットが意図した細胞集団であることを、表現型マーカーや追跡記録によって確認する品質項目。詳しく →の試験も純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →の定義も立たない。細胞のように形態とマーカーで押さえることも、タンパク質のように配列で押さえることもできない粒子を、どう規格化するか。分析装置の性能ではなく、定義の問題として立ちはだかります。ここが製造の実務でいちばん難しいところです。

本稿では、名前の扱いから始めて、産生の条件、分離の四つの手法、純度を数字で言う方法、マーカーの陽と陰、規格が立たない理由、そして規制がいまどこにいるのかを整理します。最後に、決める順番を並べます。数値は細胞ソースと工程によって動くので、考え方の枠組みのほうを持ち帰ってください。

この記事の要点
  • 生合成を示さない限りエクソソームと断定できないので、細胞外小胞という総称で扱います。
  • 純度の指標として、粒子数をタンパク質量で割った比が使われ、3×10¹⁰ 個/µg 超が高純度の目安です。
  • FDAは2019年12月6日に公衆安全通知を出しており、承認された製品はまだありません。

名前の問題 ― エクソソームと呼べるか

用語の整理から始めます。

細胞外小胞は、細胞が放出する脂質二重膜の小胞の総称です。その中で、多胞体の内腔小胞が細胞膜と融合して放出されたものをエクソソームと呼びます。細胞膜から直接くびれて出たものはマイクロベシクル細胞膜から直接出芽して生じる細胞外小胞。エクソソームと大きさが重なり区別が難しい。。つまりエクソソームという語は、大きさではなく生まれ方を指しています。

ところが、精製した粒子を見ても生まれ方は分かりません。サイズで言えばエクソソームは おおむね 30〜150 nm、マイクロベシクルは 100〜1,000 nm で重なります。マーカーも共有されている。だから国際細胞外小胞学会の指針である MISEV細胞外小胞の研究・報告で満たすべき最低要件を示すISEVのガイドライン。事実上の共通言語とされる。 は、生合成を示せない限り細胞外小胞という総称を使うよう求めてきました。

最新版の MISEV2023 は2024年に公表され、約1,000名 の会員への調査を経た合意として、産生と分離と特性解析規格試験より高い分解能で製品の品質特性を詳しく調べること。比較可能性の評価などで用いる。詳しく →の方法を整理しています。細胞外小胞の放出と取り込み、そして生体内での評価についての節が新たに加わりました。

目的物を定義できない状態で規格を書こうとすると、分析法の選択より手前で行き詰まります。

産生 ― 細胞ソースと無血清培養

産生の側は、細胞培養そのものです。

細胞ソースとしては間葉系間質細胞がよく使われます。MSCの製造で扱っている培養がそのまま前段になる。ほかに樹状細胞や特定の株化細胞を使う構成もあります。

ここで避けて通れないのが血清です。ウシ胎児血清には、もともとウシ由来の細胞外小胞が大量に含まれています。血清入りの培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →で培養すれば、回収した画分に由来の違う小胞が混ざる。だから無血清培地を使うか、あらかじめ小胞を除いた血清を使うか。どちらかが前提です。

無血清に切り替えると、今度は細胞の状態が変わります。増殖が落ち、小胞の放出量も組成も動く。血清を抜いてから回収するまでを 2〜3日 に置く設計がよく使われ、この日数と細胞の生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。詳しく →が、そのまま回収量と品質に効いてきます。培養上清中の粒子数は、条件にもよりますが 10⁸〜10¹⁰個/mL の桁です。

回収する培養液の量も問題です。灌流の構成にして上清を連続的に抜けば、同じ槽からより多くを集められる。 産生側の設計は、細胞をどう育てるかではなく、小胞を含まない培地でどれだけ長く回せるかの設計です。

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分離の四つの手 ― 何を犠牲にするか

分離には四つの系統があり、どれも何かを犠牲にします。

超遠心分離比重差を利用して固形分を沈降・分離する操作。清澄化では大きな細胞塊や固形分の粗取りに使う。詳しく →は古典的な方法です。100,000 ×g で 70〜120分 回して沈める。処理できるのは一度に 数十 mL の桁です。Beckman Coulter のような超遠心機で行い、密度勾配ショ糖やイオジキサノールで密度差の層を作り、粒子と夾雑物を密度で分けて純度を上げる遠心分離法。詳しく →を組めば純度も上げられます。ただしスケールが効かず、せん断流れの中で分子にかかる物理的な力。強すぎると抗体の凝集や微粒子発生を招く。詳しく →で小胞が壊れる。研究では標準でも、製造規模では上限が来ます。

TFFは、分画分子量膜がふるい分ける境目となる分子サイズ。約150kDaの抗体では30kDaが定番で、目的物を留め小分子を通す。詳しく → 300〜750 kDa分子の質量を表す単位。水素原子1個ぶんの重さをおおよそ1とし、抗体は約15万ダルトンの大きな分子。詳しく → の膜でサイズによって分けます。処理量が大きく、濃縮とバッファ交換を同時にできるのが利点。中空糸とカセットのどちらを使うかで、せん断の受け方が変わります。装置は Repligen の KrosFlo、Cytiva の ÄKTA flux、Merck の Pellicon、Sartorius の Sartoflow といったところが使われます。原理はUF/DF・TFFの基本で扱っています。弱点は、サイズの近いタンパク質複合体が一緒に残ること。

サイズ排除クロマトグラフィー多孔質の担体を通る時間差で分子をサイズ順に分離し、抗体の凝集体や断片がどれくらい含まれるかを測る手法です。詳しく →は、分離能が高く小胞へのダメージも小さい。Izon Science の qEV のような専用カラムや、SEC樹脂を充填処方済みの溶液をバイアルやシリンジなどの容器へ無菌的に充填し、封止する製造工程。詳しく →した系が使われます。負荷できる試料は カラム体積の 2〜5% ほどで、溶出で 2〜4倍 に希釈されます。弱点は処理量と希釈で、通すたびに液量が増えます。

アフィニティ特定の相互作用を使って目的物を選択的に捕まえる精製法。ヘパリンやタグへの親和性などを利用する。詳しく →は、CD9 や CD63 のような表面マーカー細胞表面に出るタンパク質などの目印。MSCではCD73・CD90・CD105の発現などで細胞を見分けます。詳しく →を狙って捕まえます。選択性目的物と不純物を、溶出位置をどれだけ離して分けられるかの度合い。分離の分解能を左右する。詳しく →は高い一方、そのマーカーを持たない小胞は取れません。目的の集団を絞れるとも言えるし、回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。詳しく →を捨てているとも言える。

実務では組み合わせます。TFF膜面に液を平行に流しながらろ過し、目詰まりを抑えつつ濃縮やバッファ交換を行う限外ろ過(クロスフロー)装置一式です。詳しく → で濃縮してから SEC分子を天然に近い条件でサイズにより分ける液体クロマトグラフィー。凝集体の主要な定量法。詳しく → で仕上げる構成が典型です。 どの手法を選んでも純度と回収率のどちらかを削るので、後工程で何が許されるかから逆算します。

POINT

分離法を変えると、得られる粒子の集団そのものが変わります。超遠心で取った画分と SEC で取った画分は、粒子数もマーカーの陽性率も違う。だから開発の途中で分離法を変えるなら、それは工程変更ではなく製品の定義の変更に近い。非臨床のデータがどの分離法で取ったものかは、早い段階で記録に残します。

純度を数字で言う ― 粒子数とタンパク質量の比

純度をどう定義するかは、この分野の中心的な論点です。

粒子の数そのものは、ナノ粒子トラッキング解析個々のナノ粒子の動きを一粒ずつ追跡し、粒径と数(濃度)を求める手法です。ウイルスやエクソソーム、微小な凝集体の計測に使います。詳しく →で測ります。Malvern Panalytical の NanoSight や Particle Metrix の ZetaView が代表で、液中を動く粒子のブラウン運動から個数と粒径分布を出します。測定できる粒径は おおむね 30〜1,000 nm の範囲で、1回の測定で数百から数千個を追跡します。動的光散乱も粒径分布を見ますが、個数の絶対値は出しにくい。

ここで、粒子数だけでは純度が言えません。夾雑のタンパク質が大量に残っていても、粒子数は変わらないからです。そこで使われるのが、粒子数をタンパク質量で割った比です。2013年の報告以来、3×10¹⁰個/µg を超えるものを高純度とする目安が広く使われています。

この指標の良いところは、両方の測定が独立していることです。粒子数は光散乱、タンパク質量は比色法LAL反応で活性化された酵素が発色基質を切断する吸光度変化を測定し、エンドトキシンを定量する方法。詳しく →。片方を良く見せるともう片方が悪くなるので、操作しにくい。

もちろん限界もあります。小胞そのものにもタンパク質が含まれるので、比には上限がある。そして粒子数の測定自体が装置と設定に依存します。 純度の議論は、粒子数とタンパク質量という二つの独立した数字を同じ表に載せるところから始まります。

何を測って同一性とするか ― マーカーの陽と陰

同一性は、陽性マーカーと陰性マーカーの両方で押さえます。

陽性側の定番がテトラスパニンCD9・CD63・CD81など、エクソソーム系EVに多いとされる膜タンパク質。EVの陽性指標に使われる。詳しく →で、CD9、CD63、CD81 の三つ。小胞の膜に埋まっているので、表面から検出できます。細胞質細胞内部の区画。大腸菌では還元的で、そのままではジスルフィド結合ができにくい。詳しく →側の因子として TSG101、ALIX、syntenin も使われます。測定にはフローサイトメトリーやELISA、ウェスタンブロットが当たります。

陰性側も同じくらい重要です。小胞体真核細胞内でタンパク質の折りたたみや分泌経路への送り出しを担う区画。酵母は持ち、大腸菌にはない。詳しく →のカルネキシン、ゴルジ体の GM130、ミトコンドリアのシトクロム c。これらが検出されるなら、小胞ではなく細胞の破片が混ざっている証拠です。陽性マーカーだけを並べた資料では、この判定ができません。

組成の全体像を見るならLC-MSでタンパク質を網羅的に調べ、積荷の核酸を見るなら RNA の解析へ進みます。安全性の側ではエンドトキシンと無菌性が必須で、静脈内投与なら 5 EU/kg/hr という一般的な上限から規格を逆算します。ウェスタンブロットの試薬や検出系は Thermo Fisher Scientific や Bio-Rad の製品が使われます。

陽性マーカーは何が入っているかを、陰性マーカーは何が入っていないかを示す。規格には両方が要ります。

ロット間差と、規格が立たない理由

この分野で規格化が難しいのは、ロット間差が大きいからです。

原因は三つに分かれます。細胞ソース側の差。ドナーが違えば、同じ間葉系間質細胞でも放出される小胞の組成が変わります。培養条件側の差。培地、酸素濃度、継代数細胞を植え継いだ回数。培養履歴を表し、産生量や品質の再現性に影響する。詳しく →、播種密度、回収のタイミング。どれも小胞の量と中身に効きます。そして分離法側の差。前節のとおり、方法が変われば取れる集団が変わります。

さらに、力価をどう定義するかが決まりません。細胞のように増殖能や分化能で測ることも、抗体のように標的結合で測ることもできない。作用機序薬が効果を発揮する仕組み。抗体医薬ではADCCやCDCなどが該当し、アッセイで裏づける。詳しく →が特定されていない製品では、代替の指標に頼るほかありません。細胞治療のCQAで扱っている力価試験細胞や生体分子に実際に作用させ、医薬品の生物活性(どれだけ効くか)を数値化する試験。詳しく →の難しさが、ここではさらに強く出ます。

規格が立たないのは分析技術が未熟だからではなく、何が効いているのかが特定されていないからです。

POINT

ロット間差を議論するときは、どの層の差かを分けます。ドナー差なのか、培養条件の揺れなのか、分離法の再現性なのか。同じドナー由来の細胞を同じ条件で培養し、分離だけを繰り返せば、分離法の寄与が切り出せます。層を分けずに「ばらつきが大きい」と言っていると、手の打ちどころが決まりません。

規制の現在地 ― 承認された製品はまだない

規制の側は、まだ枠組みが固まっていません。

FDAは2019年12月6日に、細胞外小胞を含むとうたう未承認製品について公衆安全通知を出しました。ネブラスカ州で、こうした製品の投与を受けた患者に重篤な感染症を含む有害事象が複数報告されたことを受けたものです。通知は、承認された細胞外小胞製品は存在しないと明記しています。

つまり、市場に出回っている製品の多くは承認の枠外にあります。開発の側から見れば、先行する承認品の規格を参照できないということでもある。自社で定義し、自社で正当化する作業です。

その正当化の材料になるのが MISEV2023 です。規制文書ではありませんが、産生と分離と特性解析について何を示すべきかの共通言語を与えます。規制当局との議論でも、この枠組みに沿って説明を組むほうが通りやすい。

参照できる先行品がない以上、指針に沿って自分で定義した記録が、そのまま申請の中身です。

決める順番

最後に、順番を並べます。

先に決まるのは、目的物の定義です。何を有効成分と呼ぶのか。粒径の範囲、陽性マーカー、陰性マーカー。 定義が言葉になっていないと、同一性の試験も純度の指標も選べません。

次に、細胞ソースと培養条件を固定します。ドナー、継代数、培地、回収のタイミング。ロット間差の最大の原因がここにあるので、先に締めます。

そのうえで分離法を決めます。超遠心、TFF、SEC、アフィニティ。組み合わせも含めて、純度と回収率のどちらを取るかを選ぶ。 分離法を変えることは製品の定義を変えることに近いので、非臨床のデータを取る前に固めます。

最後に、純度と同一性の指標を数字で置きます。粒子数とタンパク質量の比、マーカーの陽性率、陰性マーカーの不検出。承認された先行品がない以上、この記録がそのまま規格の根拠です。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、細胞治療に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。