T細胞の活性化と拡大培養とは?CAR-T製造の中核ステップ
CAR-T細胞療法患者から採取したT細胞にがんを狙う受容体(CAR)遺伝子を導入し、増やして体に戻す一連の細胞加工の流れです。詳しく →をはじめとするT細胞を用いた細胞治療では、患者から採取したごく少数のT細胞を、投与に必要な数まで体外で大きく増やす必要があります。ところが、末梢血から取り出したばかりのT細胞の大半は、分裂を止めた休止(静止)状態にあります。培地に浮かべて栄養を与えるだけでは、これらの細胞はほとんど増えません。休んでいるT細胞に「増えてよい」という指令を与え、そこから一気に数を増やす工程が、活性化(activation)と拡大培養遺伝子改変したT細胞を投与に必要な数まで増やす工程。増やしすぎると細胞が疲弊する。(expansion)です。

活性化とは、休止状態のT細胞に増殖と機能発揮のスイッチを入れる操作を指し、拡大培養とは活性化した細胞をサイトカイン細胞が放出する免疫の情報伝達物質。細胞治療では効果と安全性のリードアウトになる。入りの培地で投与量まで増やす操作を指します。この二つは単に細胞数を稼ぐだけの工程ではありません。どのように活性化し、どれだけの期間・条件で増やすかによって、出来上がる細胞の性格(分化段階や疲弊の度合い)が変わり、それが最終的なCAR-T患者や健常ドナーのT細胞にCAR(キメラ抗原受容体)を導入し、がん細胞を攻撃させる細胞治療。製品の効力製品が示す生物学的な効力。細胞治療などで規格として測る品質指標。(力価)や体内での持続性を大きく左右します。
本記事では、CAR-T製造の中核である活性化と拡大培養に絞って、その原理と品質への影響を解説します。遺伝子導入や採取から凍結までの全体像は、CAR-T細胞療法の製造工程を参照してください。
なぜT細胞は「活性化」なしに増えないのか
体内のT細胞は、ふだんは分裂を止めた静止期(G0期)にとどまっています。これは免疫のむだ打ちを防ぐための安全装置で、T細胞は本来、自分の標的となる抗原に出会ってはじめて増殖と攻撃を始めるように設計されています。したがって、採取したT細胞をただ培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。に入れても、増殖の指令が来ない限り細胞周期には入りません。拡大培養の前に、まず人工的に活性化シグナルを与える必要があるのはこのためです。
さらに重要なのは、T細胞の活性化には「二つのシグナル」が必要だという原則です。第一のシグナルは、T細胞受容体(TCR)T細胞が抗原を認識する受容体。他家CAR-Tではこれを壊してGvHDを防ぐ設計がある。とそれに結合したCD3複合体を介した抗原認識シグナルです。しかし第一のシグナルだけでは細胞は十分に活性化せず、むしろ反応しなくなるアネルギー(不応答)に陥ることが知られています。ここに第二のシグナル、すなわちCD28などの共刺激分子T細胞を活性化するために樹状細胞表面に発現する分子。CD80・CD86が代表格。を介した補助シグナルが加わって、はじめてT細胞は完全に活性化し、増殖能を獲得します。
抗CD3/CD28刺激による活性化
製造現場では、本物の抗原提示細胞を使わずに、この二つのシグナルを人工的に再現します。代表的な方法が、抗CD3抗体と抗CD28抗体初回ヒト投与でサイトカイン放出の重篤な反応を起こした抗CD28抗体で、MABEL普及の契機。を用いた刺激です。抗CD3抗体がTCRT細胞が抗原を認識する受容体。他家CAR-Tではこれを壊してGvHDを防ぐ設計がある。/CD3複合体を架橋して第一シグナルを、抗CD28抗体がCD28を架橋して第二シグナルを供給します。両者を細胞表面で同時に、かつ密に架橋することが、効率的な活性化の鍵になります。
この二種類の抗体を微小な磁気ビーズの表面に固定し、細胞と混ぜ合わせる方式が広く用いられています。ビーズは抗原提示細胞取り込んだ抗原をT細胞に提示して免疫応答の引き金を引く細胞。樹状細胞がその代表格。の代わりとして働き、T細胞の受容体を物理的に束ねて強い活性化シグナルを与えます。ビーズを使うもう一つの利点は、磁石を使って目的のT細胞を分離・濃縮する操作を、活性化と一体で行える点です。抗体をビーズではなく可溶性の試薬やナノマトリックスの形で与える方式もありますが、いずれも「CD3とCD28を同時に刺激する」という原理は共通します。
磁気ビーズ抗CD3/抗CD28抗体を結合させた磁性粒子。T細胞を活性化しつつ磁場で選択するのに使う。を用いた場合、製造の後半でビーズを磁気的に取り除く工程が必須になります。残ったビーズは異物として管理対象となり、最終製品での残存量が規格化されます。何をどれだけ加え、いつ確実に除くかまで含めて、活性化工程は設計されます。
サイトカインによる拡大培養
活性化したT細胞は、増殖のためのアクセルとしてサイトカインを必要とします。もっとも古典的に用いられるのがインターロイキン2(IL-2)で、活性化したT細胞自身が受容体を発現し、IL-2の刺激を受けてクローン増殖します。適切な濃度のIL-2を含む培地の中で、活性化したT細胞は数日のあいだに指数関数的に数を増やしていきます。
一方で、IL-2は細胞をエフェクター(終末分化)方向へ強く押し進める傾向があることも分かってきました。そこで、より未分化でメモリー性の高い細胞を残す目的で、IL-7やIL-15NK細胞の増殖と活性化を促すサイトカインで、IL-2とともに拡大培養の培地に加える。といった別のサイトカインを組み合わせる方式も広く検討されています。どのサイトカインをどの濃度で使うかは、後述する細胞の分化状態のコントロールに直結します。培地の組成そのものも増殖と品質を左右するため、細胞治療の培地・無血清培地も併せて参照してください。
拡大培養では、細胞数と生細胞率を経時的に測定しながら、増殖の勢いと栄養・老廃物のバランスを管理します。細胞密度が高くなりすぎれば栄養の枯渇や代謝産物の蓄積で増殖が鈍るため、培地交換や希釈のタイミングが重要になります。
培養期間と疲弊・分化のトレードオフ
拡大培養は「長く続けるほど良い」わけではありません。ここに活性化・拡大培養の最大の難所があります。培養を長引かせ、強い刺激を与え続けるほど細胞数は稼げますが、その過程でT細胞は分化を進め、やがて疲弊(exhaustion)していきます。疲弊したT細胞は増殖能や攻撃力が落ち、PD-1などの抑制性受容体を高く発現するようになります。
品質の観点で特に重視されるのが、細胞の分化段階(メモリー表現型分子が標的に結合するかなど、実際に現れる働き・性質のこと。)です。T細胞はナイーブから、幹細胞様メモリー・セントラルメモリー・エフェクターメモリーを経て、終末分化したエフェクターへと段階的に変化します。一般に、より未分化な(若い)メモリー系の細胞ほど、投与後に体内で長く生き残り、自己複製しながら持続的に効果を発揮しやすいと考えられています。逆に終末分化・疲弊した細胞は、その場の攻撃力はあっても長続きしにくいとされます。
閉鎖系・自動培養で活性化と拡大を回す
活性化と拡大培養は、無菌を保ったまま行わなければなりません。細胞治療製品は最終滅菌ができないため、培地交換やサンプリングを含む一連の操作を、外気に触れさせない閉鎖系(クローズド系外気と触れずに培地交換やサンプリングを行う閉鎖された流路。無菌を保ち汚染を防ぐ。)で進めるのが原則です。近年は、磁気分離・活性化・遺伝子導入・拡大培養・洗浄までを一つの使い捨て使い捨ての樹脂製バッグや容器を用いる製造方式です。洗浄・滅菌の手間を減らせる一方、ステンレス設備と比べて特徴が異なり、目的に応じて選び分けます。詳しく →流路の中で自動実行する一体型の装置も実用化されています。
自動化には二つの意味があります。一つは開放操作流路や容器を外気に触れさせて行う操作。その回数が無菌操作品における汚染確率の主な原因になる。を減らして汚染機会を物理的に断つこと、もう一つは培地交換や継代のタイミングをレシピどおりに再現し、作業者によるばらつきを抑えることです。活性化の強さや培養期間といった、品質を左右するパラメータを一定に保てることは、患者ごとにバッチが異なるCAR-T製造では特に大きな意味を持ちます。閉鎖系外気と触れずに培地交換やサンプリングを行う閉鎖された流路。無菌を保ち汚染を防ぐ。・自動化の考え方は細胞治療のクローズドシステムで詳しく解説しています。
なお、活性化・拡大培養に続く遺伝子導入の工程では、レンチウイルス分裂していない細胞にも遺伝子を組み込めるレトロウイルスベクター。CAR-Tで広く使われる。やレトロウイルスなどのベクターが用いられます。ベクターの種類と特徴はCAR-Tのウイルスベクター(レンチ/レトロ)を参照してください。
活性化・拡大が製品品質(力価・持続)を決める
活性化と拡大培養は、単なる「数合わせ」ではなく、CAR-T製品の効き目を作り込む工程です。まず、活性化が不十分だと細胞が十分に増えず、そもそも投与量に届きません。逆に刺激が強すぎたり培養が長すぎたりすれば、前述のとおり疲弊・終末分化が進み、力価(ポテンシー製品が示す生物学的な効力。細胞治療などで規格として測る品質指標。)と体内での持続性が損なわれます。
品質に効くパラメータは複数あります。活性化の方式と強さ、サイトカインの種類と濃度、培養期間、そして出来上がった細胞集団の組成(CD4とCD8の比率や、メモリー系細胞の割合)などです。これらは最終製品の重要品質特性(CQA)製品の品質・安全性・有効性を保証するため規格内に収めるべき重要な品質特性。として管理され、規格に照らして評価されます。細胞治療生きた細胞そのものを有効成分とする医薬。CAR-Tなどが代表。における品質特性の考え方は細胞治療の重要品質特性(CQA)を、効力の測り方は細胞治療の力価試験(ポテンシー)を参照してください。
まとめ
CAR-T製造における活性化と拡大培養は、休止状態のT細胞に二つのシグナル(CD3/TCRとCD28)で増殖のスイッチを入れ、IL-2などのサイトカインで投与量まで増やす、製造の中核ステップです。ただし培養を延ばすほど細胞は分化・疲弊し、体内での持続性が犠牲になるため、「十分に増やす」と「若さを保つ」のあいだの最適点を探ることが求められます。これらの操作は無菌を保つ閉鎖系・自動培養で行われ、活性化条件・サイトカイン・培養期間といったパラメータが、CAR-Tの力価と持続性という製品品質を最終的に決定づけます。
参考文献
ガイドライン・基準
- FDA Guidance for Industry: Chemistry, Manufacturing, and Control (CMC医薬品の化学・製造・品質管理に関する申請資料。原薬と製剤で章立てが分かれる。) Information for Human Gene Therapy Investigational New Drug Applications (INDs). https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/chemistry-manufacturing-and-control-cmc-information-human-gene-therapy-investigational-new-drug
- 「再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(GCTP再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準。日本で細胞培養加工施設での製造に適用される省令。省令)」(厚生労働省/PMDA)
主な文献
- Levine BL, et al. Global Manufacturing of CAR特定の抗原を認識するよう設計し、細胞に導入して指向性を与える人工の受容体。 T Cell Therapy. Mol Ther Methods Clin Dev. 2017;4:92-101. PMID: 28344995. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28344995/
- June CH, Sadelain M. Chimeric Antigen Receptor Therapy. N Engl J Med. 2018;379(1):64-73.
- Ghassemi S, et al. Reducing Ex Vivo Culture Improves the Antitumor Activity of CAR T Cells. Cancer Immunol Res. 2018;6(9):1100-1109.