T細胞の活性化と拡大培養とは?CAR-Tの質を決める培養日数

ところが、日数をかけて増やすほど良いとは限りません。多くのCAR-T患者や健常ドナーのT細胞にCAR(キメラ抗原受容体)を導入し、がん細胞を攻撃させる細胞治療。詳しく →の工程は9〜14日ほど培養しますが、2018年の報告では、同じCAR-T細胞を3日目に回収すると細胞が若く、マウスでは用量を6分の1に減らしても腫瘍を抑えました。Novartis は、体外での処理を2日未満にした工程を、すでに臨床試験に持ち込んでいます。培養日数は、細胞の質を決める設計項目です。
製造なら刺激の強さと日数、購買なら活性化T細胞を抗原刺激や人工的な刺激試薬で活性化し、増殖・機能発揮できる状態に誘導する操作。詳しく →試薬をどの型にするか、品質保証なら残るビーズの管理で、この工程の判断が仕事に響きます。
休止中のT細胞を起こす ― CD3とCD28、2つのスイッチ
T細胞は、抗原(異物の目印)に出会うまで休んでいるように作られています。免疫が無駄に暴れないための安全装置です。
起こすには、スイッチが2つ要ります。1つ目はCD3で、T細胞受容体T細胞が抗原を認識する受容体。細胞治療で改変の対象になる。詳しく →につながる部分を押して「標的を見つけた」と伝える合図です。2つ目はCD28で、「続けて増えてよい」という許可に当たります。1つ目だけを押した細胞は、増えるどころか、反応しなくなる不応答(アネルギー)に陥ることがあります。
体内では、この2つを抗原提示細胞が同時に渡します。製造では、抗CD3抗体と抗CD28抗体初回ヒト投与でサイトカイン放出の重篤な反応を起こした抗CD28抗体で、MABEL普及の契機。詳しく →を担体に付け、細胞に同時に、密に触れさせて、抗原提示細胞取り込んだ抗原をT細胞に提示して免疫応答の引き金を引く細胞。樹状細胞がその代表格。詳しく →の代わりを務めさせます。
休止中のT細胞は、CD3とCD28を同時に刺激しないと、増える状態に入りません。
活性化試薬の選び方 ― 除去の要否と閉鎖系への適合
抗体を何に載せるかで、活性化試薬は3つの型に分かれます。
| 型 | 仕組み | 製造後の扱い | 代表例 |
|---|---|---|---|
| 磁気ビーズ抗CD3/抗CD28抗体を結合させた磁性粒子。T細胞を活性化しつつ磁場で選択するのに使う。詳しく →型 | 抗体を磁気ビーズに固定する | 磁石でビーズを取り除く工程が要り、残るビーズ数を規格にする | Thermo Fisher の CTS Dynabeads CD3/CD28 |
| ナノマトリックス型 | 抗体を小さな高分子の足場に付ける | 磁石による除去の工程が要らない | Miltenyi Biotec の TransAct |
| 可溶性の抗体複合体型 | 抗体を複合体にして培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →に溶かす | 磁石による除去が要らず、培地交換や洗浄で薄まる | STEMCELL Technologies の ImmunoCult |
磁気ビーズ型は実績が厚く、確立した活性化と拡大の手順を取りやすい型です。代わりに、製造の途中でビーズを磁気で取り除く工程を回せること、最終製品に残るビーズを計数して規格にすることが前提です。除去が要らない型は、閉鎖系外気と触れずに培地交換やサンプリングを行う閉鎖された流路。無菌を保ち汚染を防ぐ。詳しく →の自動装置で工程を増やしたくないときに向きます。その代わり、残る試薬を何でどう評価するかを決めておく必要があります。
試薬を別の型に替えると、刺激の強さが変わり、増え方も、できる細胞の性質も変わります。同じCAR-Tのつもりでも、工程の変更として扱われ、製品の同等性変更前後が完全に同一でなくても、品質・安全性・有効性で高い類似性を保ち差異が悪影響しないと言える状態。詳しく →を示す対象です(自家細胞治療の同等性評価)。メーカーの資料にある性能は、自社の患者の細胞で確かめ直してから使います。
選ぶときの軸は、GMPグレード医薬品の製造品質管理基準(GMP)に適合した製造管理と品質試験のもとで製造・出荷された試薬・原料の品質区分。詳しく →か研究用か、動物由来成分を含まないか、閉鎖系の自動装置に合うか、ビーズ除去の要否、残留の管理のしやすさ、ロット間の差と供給の安定です。製品ページはT細胞活性化試薬とCAR-T用の細胞選別・活性化試薬で比べられます。
活性化試薬は、刺激の強さだけでなく、あとでどう取り除き、何を残留として測るかまで含めて選びます。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べる増やす条件 ― サイトカインと、増えないときの判断
活性化した細胞は、サイトカインをアクセルにして増えます。昔からの定番はIL-2です。ただしIL-2は、攻撃力は高いが長続きしない終末分化型の方向へ、細胞を強く押す傾向があります。そこで、より若いメモリー型を残すために、IL-7やIL-15NK細胞の増殖と活性化を促すサイトカインで、IL-2とともに拡大培養の培地に加える。詳しく →を組み合わせる設計も検討されています。サイトカインの種類と濃度は、増える数だけでなく、できる細胞の性質を決める条件です(細胞治療の培地・無血清培地)。
培養中は、細胞数と生きている割合を毎日測り、密度が上がって栄養が足りなくなる前に、培地交換や希釈を入れます。この判断をレシピどおりに繰り返せるかが、バッチ間の差を左右します。患者ごとにバッチが違うCAR-Tでは、閉鎖系の自動装置が、開放操作流路や容器を外気に触れさせて行う操作。その回数が無菌操作品における汚染確率の主な原因になる。詳しく →を減らして汚染の機会を断つと同時に、この再現性を支えます(閉鎖系での細胞製造)。
いちばん困るのは、思うように増えないバッチです。前の治療でT細胞が減ったり弱ったりしている患者では、同じ条件でも増え方が違います(白血球アフェレーシス)。目標の数に届かないとき、培養を延ばして待つのか、そこで打ち切るのか。延ばせば次の節で見る疲弊が進み、打ち切れば投与量が足りません。この基準は、バッチが走る前に、製造と品質保証で決めておきます。
培養日数と品質 ― 長いほど失われる若さ
T細胞は、ナイーブ(まだ出会いのない細胞)から、幹細胞様メモリー、セントラルメモリー、エフェクターメモリーを経て、終末分化したエフェクターへと、段階的に変わっていきます。若い側の細胞ほど、投与後に体内で長く生き、自分で増えながら効き続けやすいと考えられています。刺激が強く、培養が長いほど細胞は先の段階へ進み、やがて疲弊(exhaustion、増える力も攻撃力も落ちた状態)に入ります。
これを日数で確かめたのが、2018年の Ghassemi らの報告です。多くの工程は9〜14日ほど培養します。同じCD19 CAR-T細胞を3日目や5日目に回収すると、9日目の細胞より若く、働く力も強いままでした。白血病のマウスでは、3日目に回収した細胞は、用量を6分の1にしても腫瘍をよく抑えました。
Novartis は、この考え方を工程にしました。T-Charge と呼ぶ工程で作る rapcabtagene autoleucel(YTB323)は、体外での処理が2日未満で、従来の約10日と比べて大幅に短くなっています。CAR特定の抗原を認識するよう設計し、細胞に導入して指向性を与える人工の受容体。詳しく →は Kymriah と同じです。初期の臨床試験では、Kymriah の25分の1の用量で、体内での増え方は同程度だったと報告されています。ただし、少人数の初期のデータです。

培養を短くすれば、体外で作れる細胞の数は減ります。そのぶん、体内で増える力を持つ若い細胞をそろえることが前提となり、工程全体の組み立てが変わります。最終製品では、CD4とCD8の比率、メモリー型の割合、PD-1などの疲弊の指標を、品質の規格として見ます(細胞治療のCQA、細胞治療の力価試験)。
培養日数は、短いほど良いと言い切れるものではありません。必要な数に届く範囲で、どこまで若さを残せるかを探すことが、工程設計の核心です。
明日から確かめられること ― 試薬・日数・規格
活性化と拡大の工程を見直すとき、また試薬や装置を選ぶときに、そのまま使える確認項目です。
- 活性化試薬の型と、除去の要否。磁気ビーズ型なら、除去の工程と、残存ビーズを計数して規格にしているか
- 除去が要らない型なら、残る試薬を何で評価しているか
- 試薬を替える計画があるなら、変更管理工程・設備・手順などの変更を評価・承認し、品質への影響とともに記録する仕組み。詳しく →と、製品の同等性の確認が見込まれているか
- サイトカインの種類と濃度、培養日数が、バッチ記録製造ロットごとに手順・使用資材・実施者・確認結果を定められた様式で記録した原本。そのとおりに作ったことを証明する文書です。詳しく →に残り、規格に結びついているか
- 目標の細胞数に届かないとき、培養を延ばすか打ち切るかの基準が決まっているか
- 最終製品で、CD4とCD8の比率、メモリー型の割合、疲弊の指標を見ているか
- 試薬のロットと供給元の変更が、通知される契約になっているか
- 閉鎖系の自動装置で回すなら、装置と試薬の組み合わせを自社の細胞で検証したか。メーカーの資料と自社の検証は別のものとして扱う
営業の立場なら、顧客に「ビーズを取り除く工程を許容できるか」を聞くと、提案する型が絞れます。
培養の資材と装置は、T細胞・CAR-T培養培地、自動細胞培養装置、セルカウンターの製品ページで比べられます。
次の疑問に応える記事も用意しています。工程全体の流れはCAR-T細胞療法の製造工程、遺伝子を入れるベクターはCAR-Tのウイルスベクター、閉鎖系で一貫して作る例は閉鎖系・自動化でCAR-Tを作る、培養そのものをなくす方向は「体内で作るCAR-T」で読めます。
参考文献
- Ghassemi S, et al. Reducing Ex Vivo Culture Improves the Antileukemic Activity of Chimeric Antigen Receptor (CAR) T Cells. Cancer Immunol Res. 2018;6(9):1100-1109. PMID: 30030295.(3日目・5日目・9日目の回収、マウスでの比較)
- Novartis YTB323(rapcabtagene autoleucel)の前臨床と初期の臨床試験を報告した論文. PMC10481129(体外処理2日未満、Kymriahの25分の1の用量での増え方)
- Levine BL, et al. Global Manufacturing of CAR T Cell Therapy. Mol Ther Methods Clin Dev. 2017;4:92-101. PMID: 28344995. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28344995/
- June CH, Sadelain M. Chimeric Antigen Receptor Therapy. N Engl J Med. 2018;379(1):64-73.
- FDA Guidance for Industry: Chemistry, Manufacturing, and Control (CMC医薬品の化学・製造・品質管理に関する申請資料。原薬と製剤で章立てが分かれる。詳しく →) Information for Human Gene Therapy Investigational New Drug Applications (INDs). https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/chemistry-manufacturing-and-control-cmc-information-human-gene-therapy-investigational-new-drug
- 「再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(GCTP再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準。日本で細胞培養加工施設での製造に適用される省令。詳しく →省令)」(厚生労働省/PMDA)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/t-cell-activation-expansion