NK細胞・CAR-NK療法の製造工程とは?拡大培養から品質管理まで

NK細胞にはその受容体がありません。だからドナー由来の細胞を他人へ入れても、同じ機序の反応が起きにくい。HLA を一致させる必要もありません。核心は一点で、これがオフザシェルフ健常ドナーやiPS株など患者以外の細胞源から大ロットを作り、凍結在庫として供給する細胞治療の方式。詳しく →製造という発想の根拠です。あらかじめ作って凍らせておき、必要なときに解凍して投与する。患者が来てから製造を始める必要がなく、待ち時間もロットの取り違えの機会も減ります。製造の設計思想が、CAR-T患者や健常ドナーのT細胞にCAR(キメラ抗原受容体)を導入し、がん細胞を攻撃させる細胞治療。詳しく → とは根本から変わります。ただし、その利点を手にするには解凍後の機能を示せなければなりません。
本稿では、NK細胞FcγRIIIaを持つリンパ球。パーフォリンやグランザイムで標的を傷害するADCCの主役。詳しく →が何を持っていて何を持っていないかから始めて、由来の三つ、拡大培養遺伝子改変したT細胞を投与に必要な数まで増やす工程。増やしすぎると細胞が疲弊する。詳しく →の実数、CAR導入で T細胞 と同じ手が効かない理由、2020年の臨床データ、品質管理の項目、そして凍結保存生きた細胞を低温で止めて保管し、後で融解して使えるようにする技術。詳しく →という関門を整理します。最後に、決める順番を並べます。数値は由来と培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →によって動きますが、設計の分岐そのものは共通です。
- NK細胞はTCRを持たないので、他家でも移植片対宿主病が起きにくく、オフザシェルフに向きます。
- K562系フィーダーに膜結合型IL-21を載せた系では、21日で平均 47,967倍 の拡大が報告されています。
- 凍結融解で細胞傷害活性が落ちるため、オフザシェルフの前提そのものが工程の課題です。
NK細胞は何を持っていないのか
まず、T細胞との違いを押さえます。
NK細胞は自然免疫のリンパ球で、表面マーカー細胞表面に出るタンパク質などの目印。MSCではCD73・CD90・CD105の発現などで細胞を見分けます。詳しく →では CD56NK細胞の同一性確認に用いる表面マーカーで、CD3陰性と併せて評価する。 が陽性、CD3 が陰性。末梢血のリンパ球のうち 5〜15% を占めます。特定の抗原を認識する受容体を持たず、活性化T細胞を抗原刺激や人工的な刺激試薬で活性化し、増殖・機能発揮できる状態に誘導する操作。詳しく →受容体と抑制受容体のバランスで標的を選びます。
持っていないのがT細胞受容体です。だから他人の組織を抗原として認識しない。他家健常ドナー由来の細胞から在庫型で製造するCAR-T。拒絶やGvHDを避ける改変を要する。詳しく →で投与しても移植片対宿主病が起きにくいのは、この構造から来ています。
機能の面では二つに分かれます。CD56 が強く出る集団は免疫調節寄りで、CD56 が弱い集団のほうが細胞傷害活性標的細胞をどれだけ殺傷できるかで測る、NK細胞製品の効力(ポテンシー)指標。詳しく →が高い。もう一つ重要なのが CD16 で、抗体のFc部分を認識して抗体依存性の細胞傷害を担います。抗体医薬と組み合わせる設計では、ここが効きます。
T細胞受容体を持たないという一点が、他家製造とオフザシェルフという設計全体を支えています。
由来の三つ ― 末梢血、臍帯血、iPS
出発材料には三つの系統があります。
末梢血は、健常ドナーからアフェレーシス血液成分を分離して目的の細胞(単核球など)を採取する手法。細胞治療の出発材料の採取に使う。詳しく →で集めます。得られる細胞数は多い一方、NK細胞はリンパ球の一部なので、分離してから増やす工程が要ります。ドナーごとの差も残ります。
臍帯血分娩時に採取され凍結保存される造血幹細胞源。1単位あたりの細胞数が少ないという制約がある。詳しく →は、分娩時に採取して凍結保存されたものを使います。あらかじめ集めてバンク化できるので、必要なときに取り出せる。後述する2020年の臨床試験も、この由来です。細胞数は末梢血より少なく、拡大培養への依存が高くなります。
iPS細胞体細胞を初期化して作る多能性幹細胞。同一株から繰り返し分化・製造でき均質性を高めやすい。詳しく →由来は、単一のクローンから何度でも作れるのが利点です。遺伝子改変もクローン段階で済ませられるので、均一性が高い。そのかわり分化の工程が長く、細胞治療のCQAで扱っている残存未分化細胞iPS細胞などに由来する製品で、分化しきらず腫瘍化する恐れのある細胞が残っていないか調べる安全性評価です。詳しく →と造腫瘍性の評価が加わります。
分離には磁気ビーズ抗CD3/抗CD28抗体を結合させた磁性粒子。T細胞を活性化しつつ磁場で選択するのに使う。詳しく →を使うのが一般的で、CD3 を陰性選択で除いてから CD56 を陽性選択する構成が取られます。Miltenyi Biotec の CliniMACS のようなGMP対応の磁気分離システムが使われます。培養の容器は Cytiva の Xuri、Terumo BCT の Quantum、Lonza の Cocoon のような閉鎖系外気と触れずに培地交換やサンプリングを行う閉鎖された流路。無菌を保ち汚染を防ぐ。詳しく →が選ばれ、培地は FUJIFILM Irvine Scientific や Stemcell Technologies の無血清系が使われます。 由来の選択は細胞数の問題ではなく、どこまで均一化できるかの問題です。
拡大培養 ― 47,967倍 という数字
NK細胞の製造で中心になるのが、拡大培養です。
サイトカイン細胞が放出する免疫の情報伝達物質。細胞治療では効果と安全性のリードアウトになる。詳しく →だけでも増えます。IL-2 を 100〜500 IU/mL、あるいは IL-15NK細胞の増殖と活性化を促すサイトカインで、IL-2とともに拡大培養の培地に加える。詳しく → を 10〜20 ng/mL の桁で加える構成が一般的です。ただし、この方法では増殖が早期に頭打ちです。
ここで効くのがフィーダー細胞NK細胞の増殖を助けるために一緒に加える支持細胞です。刺激因子を提示してNK細胞を増やす役目を持ち、あらかじめ放射線処理して自らは増えないようにします。詳しく →です。K562NK細胞の拡大用フィーダーや、細胞傷害活性を測る標的として広く使われる細胞株。 という白血病由来の細胞株に刺激分子を載せ、放射線を当ててから共培養する。2012年の報告では、膜結合型の IL-21 を発現目的タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞内で転写・翻訳させ、機能的なタンパク質として産生させる工程。詳しく →させた K562 を使い、22人 のドナー由来 NK細胞 を 21日間 培養したところ、平均で 47,967倍 まで増えました。同じ系で膜結合型 IL-15 を使った場合は 825倍 だったので、差は 約58倍 です。
さらに、この系では 6週間 まで対数増殖が続き、老化の兆候が見られませんでした。刺激分子の選択が、増殖の速さだけでなく持続にも効いているということです。
実務では、フィーダー細胞の放射線照射と、最終製品からの除去の確認が要ります。NK拡大用フィーダー細胞とNK細胞用培地の組み合わせが、そのまま工程の骨格です。 拡大の倍率はサイトカインの量ではなく、どの刺激分子を細胞表面で提示するかで決まっています。
フィーダー細胞を使う工程では、最終製品への残存が規格項目に入ります。放射線照射で増殖能を失わせていても、細胞として残れば不純物です。照射の線量と、残存細胞の検出限界を、工程開発の早い段階で決めておきます。フィーダーを使わない系を選ぶかどうかも、ここでの判断です。
CAR導入 ― T細胞と同じ手が効かない
キメラ抗原受容体特定の抗原を認識するよう設計し、細胞に導入して指向性を与える人工の受容体。詳しく →を載せる設計も進んでいます。
ところが、T細胞で確立した手順がそのままは使えません。NK細胞はレンチウイルスベクター宿主ゲノムに組み込まれる遺伝子導入ウイルス。長期発現できるが挿入変異のリスクが伴う。詳しく →での導入効率が低い。標準的な VSV-G水疱性口内炎ウイルス由来の外被糖タンパク質。多くの細胞に感染でき、レンチウイルスのシュードタイプに広く使われる。詳しく → を載せたベクターでは、T細胞 に比べて明らかに入りにくいことが知られています。
対策として、別のエンベロープを載せたレンチウイルスや、レトロウイルスベクター宿主ゲノムに組み込まれる遺伝子導入ウイルス。初期の治療で挿入変異による白血病が報告された。詳しく →を使う構成が取られます。導入効率が上がれば、必要なベクター量も減る。レンチウイルスの製造で扱っているとおり、ベクターの調達は日程にもコストにも効きます。
設計の側にも工夫があります。CAR と一緒に IL-15 を発現させて、体内での生存を延ばす構成。そして誘導型カスパーゼ9のような安全スイッチを載せ、必要なときに細胞を排除できるようにする構成です。
CAR の設計そのものはCAR-NKの分子設計で、T細胞側との対比はCAR-Tの製造工程で扱っています。 導入効率の差が、そのままベクターの必要量と工程の日程の差へ跳ね返ります。
2020年の臨床データ ― CRSもGVHDも出なかった
安全性の面で、方向性を示したデータがあります。
2020年に報告された第1/2相試験では、臍帯血由来の NK細胞 に抗CD19 CAR、IL-15、そして誘導型カスパーゼ9 を載せたものを、再発または難治性の CD19陽性 腫瘍の患者 11人 に投与しました。HLA細胞表面にあり自己と非自己を見分けるヒトの主要な組織適合抗原。他家では不一致が拒絶の原因になる。詳しく → は一致させていません。
結果は、11人中8人 が奏効し、そのうち 7人 が完全奏効でした。安全性の側では、サイトカイン放出免疫が短時間で信号物質を大量に放出し、発熱・血圧低下・臓器障害へ進む激しい反応。詳しく →症候群も、神経毒性も、移植片対宿主病も観察されていません。炎症性サイトカインの上昇も、IL-6 を含めて見られませんでした。
この最後の点が重要です。CAR-T で問題になる二つの毒性が、同じ標的を狙った NK細胞 では出なかった。症例数は限られていますが、他家投与という前提と合わせて、オフザシェルフ製造の現実味を押し上げました。
毒性の出方が違うということは、投与の場所も、管理の体制も、CAR-T とは別に設計できるということです。
品質管理 ― 表現型と細胞傷害活性
規格は、表現型と機能の両方で組みます。
表現型はフローサイトメトリーで見ます。CD56 陽性かつ CD3 陰性が同一性の軸で、CD3 陽性細胞の混入率は他家製品では安全性の項目にもなります。残った T細胞 が移植片対宿主病を起こしうるからです。CD16 の発現は、抗体併用を想定する製品では機能に直結します。
機能は細胞傷害活性です。標的細胞と共培養して、死んだ割合を測る。脱顆粒の指標として CD107a の表面発現を見る方法もあります。測定には Beckman Coulter の CytoFLEX や Sartorius の iQue のような機種が使われます。CAR を載せた製品では、標的抗原を出す細胞株と出さない細胞株の両方に当てて、特異性まで示します。
そのほかは細胞治療に共通です。生細胞密度と生存率、無菌性、マイコプラズマ、エンドトキシン。CAR を導入した製品では、ベクターコピー数と複製可能ウイルスの否定が加わります。
表現型だけでは効き目を示せず、細胞傷害活性だけでは何を投与したかを示せません。
凍結保存という関門
最後に、オフザシェルフの前提そのものにかかる問題です。
あらかじめ作って凍らせておくという設計は、解凍後に機能が保たれていて初めて成立します。ところが NK細胞 は、凍結融解で細胞傷害活性が落ちやすい。生存率は保たれていても、機能が戻らないことがあります。
だから保護液の組成と凍結の速度が、そのまま製品の性能に効きます。ジメチルスルホキシドを 5〜10% の範囲で使う凍結保存液が一般的で、BioLife Solutions の CryoStor のような製品が使われますが、組成と濃度の最適化が要ります。制御速度凍結のプログラムも、細胞種ごとに詰めます。
そして規格の置き方が問題として残ります。凍結前の値で判定するのか、解凍後の値で判定するのか。投与されるのは解凍後の細胞なので、そちらで示すのが筋です。ただし解凍してしまえば投与できないので、代表サンプルでの評価に頼ります。細胞の凍結保存とコールドチェーンで扱っている論点が、ここに集約されます。
オフザシェルフの利点は、解凍後の機能を規格で示せて初めて手に入ります。
決める順番
最後に、順番を並べます。
先に決まるのは、自家か他家かです。他家なら由来をどれにするか。末梢血、臍帯血、iPS由来で、均一性も工程の長さも変わります。 由来が決まらないと、拡大培養に求める倍率も決まりません。
次に、拡大の方式を決めます。サイトカインだけか、フィーダー細胞を使うか。フィーダーを使うなら、照射の条件と最終製品での残存の確認を工程に組み込みます。
そのうえで、CAR を載せるかどうかと、載せる場合の導入手段を決めます。NK細胞では T細胞 と同じベクターが同じようには効かない。 導入効率を実測してから、必要なベクター量と調達の日程を引きます。
最後に、凍結保存の条件と規格の置き方を決めます。解凍後の細胞傷害活性をどう示すか。ここが立たないと、オフザシェルフという設計そのものが成立しません。
参考文献
- Denman CJ et al., Membrane-bound IL-21 promotes sustained ex vivo proliferation of human natural killer cells. PLoS ONE. 2012;7(1):e30264.
- Liu E et al., Use of CAR-Transduced Natural Killer Cells in CD19-Positive Lymphoid Tumors. New England Journal of Medicine. 2020;382(6):545-553.
- FDA, Potency Assurance for Cellular and Gene Therapy Products(Draft Guidance, 2023年12月)
- ICH Q5D, Derivation and Characterisation of Cell Substrates Used for Production of Biotechnological/Biological Products
- PMDA, 再生医療等製品の品質・安全性に関する情報
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