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細胞治療基礎知識・製造工程シリーズ自家と他家、いろいろな細胞の薬5/9基本

γδT細胞療法の製造とは?他家で使える理由と増やし方の壁

Proglenth 編集部公開 2026-07-24更新 2026-10-18約5分で読めます
γδT細胞療法の製造とは?他家で使える理由と増やし方の壁

γδT細胞療法の製造は、末梢血に少数しかいないγδ(ガンマデルタ)型のT細胞を選んで増やし、投与できる形にする工程です。γδ型はT細胞受容体(TCR)T細胞が抗原を認識する受容体。他家CAR-Tではこれを壊してGvHDを防ぐ設計がある。詳しく →を持ちながら、相手のMHC(ヒトではHLA)の違いを手がかりにしないため、TCRを壊すゲノム編集標的の遺伝子を狙って改変する技術。他家CAR-TでTCRを壊してGvHDを抑えるなどに使う。をしなくても他家で使える見込みがあります。

ただし、編集の工程が1つ減る代わりに、少数派を選んで増やすこと、ドナーで増え方が変わること、投与した細胞が患者の免疫に排除されやすいことが壁として前に出ます。

この記事では、他家で使える理由、増やし方、ドナーで変わるもの、投与したあとの設計、CAR特定の抗原を認識するよう設計し、細胞に導入して指向性を与える人工の受容体。詳しく →を載せる判断、工程を決める前に確かめる点を順に説明します。

この記事の要点

  1. 他家で使えるかどうかを決めるのは、TCRの有無ではなく、読む相手がMHCではないことです。1. 他家で使える理由 ― TCRはあるが、MHCを読まない ↓
  2. 他家にすると、自家では患者ごとに散らばっていたばらつきが、ドナー選びという1点に集まります。3. ドナーで変わるもの ― 増え方・内訳・凍結後 ↓

1. 他家で使える理由 ― TCRはあるが、MHCを読まない

他人のαβ型のT細胞を患者に入れると、患者の体を攻撃して移植片対宿主病(GvHD)投与した他家T細胞が患者の正常組織を攻撃する反応。他家細胞治療で重大なリスクになる。を起こすため、他家のCAR-T患者や健常ドナーのT細胞にCAR(キメラ抗原受容体)を導入し、がん細胞を攻撃させる細胞治療。詳しく →の多くはTCRの遺伝子をゲノム編集で壊してから使います。

αβ型のT細胞は、TCRで「MHCに載せられたペプチドの断片」を読みます。MHCは細胞を見分けるための標識で、型の違う他人の細胞は、この標識が違うだけで異物と判定され、GvHD投与した他家T細胞が患者の正常組織を攻撃する反応。他家細胞治療で重大なリスクになる。につながります。

γδ型もTCRを持ちますが、読む対象が違います。末梢血に多いVγ9Vδ2型は、細胞の代謝の途中でできるリン酸化合物(ホスホ抗原)を、細胞表面のブチロフィリンという分子を介して感知します。細菌が作る物質や、がん細胞に溜まる物質が引き金です。

組織に多いVδ1型は、ストレスを受けた細胞が表面に出す分子を、NKG2Dなどの受容体で拾います。どちらも「誰の細胞か」ではなく「異常な細胞か」を見ています。

αβ型T細胞とγδ型T細胞が標的を見分けるしかたを左右に並べた概念図。左のαβ型は、他人のT細胞のTCRが、患者の細胞にあるMHCに載ったペプチドの断片に取りつく。他人の細胞はMHCが違うだけで異物と判定され、患者の体を攻撃する(GvHD)ので、他家のCAR-Tの多くはTCRの遺伝子を編集で壊して使う。右のγδ型は、TCRを持つがMHCを読まない。末梢血に多いVγ9Vδ2型は、患者の異常な細胞の中に溜まったホスホ抗原を、細胞表面のブチロフィリンを介してTCRで感知する。組織に多いVδ1型は、ストレスを受けた細胞が出す分子を、NKG2Dなどの受容体で拾う。細胞表面のMHCは薄く描かれ、読まないことを示す。MHCの型の違いは手がかりにならないので、TCRを壊す編集をしなくても他家で使える見込みがある。下の一文は、他家で使える鍵はTCRの有無ではなく、読む相手がMHCではないことだと示す。
αβ型とγδ型のT細胞が、標的を見分けるしかたの違いの概念図
図をダウンロード(会員・無料)

この性質と合う結果が、移植の現場で報告されています。親のように半分だけ一致する提供者から造血幹細胞血液細胞のもとになる幹細胞。採取して体外で遺伝子を編集し、体内に戻す治療に使う。詳しく →を移植するとき、αβ型のT細胞とB細胞だけを取り除いた移植片を使う方法があります。

Locatelliらが2017年に報告した小児の急性白血病80人では、急性GvHDは皮膚だけのⅠ〜Ⅱ度が約3割で、広範な慢性GvHDは出ませんでした。

GvHDが軽い主な理由はαβ型を取り除いたことですが、取り除いたのはαβ型とB細胞だけで、γδ型は移植片に残っています。

γδT細胞そのものを他家で投与した臨床試験もあります。Xuらが報告した第Ⅰ相試験では、健常なドナーの血液から増やしたVγ9Vδ2型を、進行がんの患者132人に延べ414回投与しました。

著者らは、他家のVγ9Vδ2型の安全性を臨床で確かめられたと結論し、HLA細胞表面にあり自己と非自己を見分けるヒトの主要な組織適合抗原。他家では不一致が拒絶の原因になる。詳しく →に依らない作用の仕組みが他家で使える根拠だと述べています。ただし、第Ⅰ相の主目的は安全性の確認なので、効果の大きさはここからは判断できません。

NK細胞が他家で使えるのは、そもそもTCRを持たないからです(NK細胞療法の製造工程)。γδT細胞は、TCRを持ちながらMHCを読まないという別の理由で、同じ位置に立っています。

他家で使えるかどうかを決めるのは、TCRの有無ではなく、読む相手がMHCではないことです。

2. 少数派を増やす ― ゾレドロン酸とIL-2、Vδ1型は別の道

出発材料は、健常ドナーのアフェレーシス血液成分を分離して目的の細胞(単核球など)を採取する手法。細胞治療の出発材料の採取に使う。詳しく →で集めた単核球リンパ球などを含む血液中の細胞画分。アフェレーシスで採取しT細胞分離の出発材料になる。詳しく →です(白血球アフェレーシス)。γδ型はこのなかの1〜10%しかいないので、γδ型だけが増える条件を作ります。

Vγ9Vδ2型には、ゾレドロン酸を使う方法があります。骨粗しょう症やがんの骨転移に使われる薬で、細胞のなかの代謝経路を途中で止め、先ほどの「合図」になる中間体を溜めます。培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →に加えるだけで、Vγ9Vδ2型に選択的な刺激が入る仕組みです。

そこにIL-2を加えて2週間ほど培養すると、αβ型は合図に反応せず増えないので、培養の終わりにはγδ型が大半を占めます。

Vδ1型には、この方法が効きません。抗CD3抗体とサイトカイン細胞が放出する免疫の情報伝達物質。細胞治療では効果と安全性のリードアウトになる。詳しく →を組み合わせる別の培養法が報告されていて、3週間ほどかかります。

Vδ2型は血液に多く、Vδ1型は組織に多いため、どちらを狙うかは疾患と作用機序薬が効果を発揮する仕組み。抗体医薬ではADCCやCDCなどが該当し、アッセイで裏づける。詳しく →から決めます。培養の日数と、装置を占有する期間は、この選択で決まります。

資材と装置は、CAR-Tとほぼ共通です。αβ型を培養の前に除くなら、磁気ビーズを使うGMP対応の磁気分離システム(Miltenyi BiotecのCliniMACSなど)が使えます。

培養は、バッグを揺らして培養するCytivaのXuri W25のような装置か、一体型の閉鎖系装置です。培地は、T細胞用の無血清培地血清を加えずに調製された培地で、血清の代わりに精製タンパク質や成長因子などの個別成分を補った設計のもの。詳しく →(LonzaのTheraPEAK X-VIVO 15など)から試せます。

POINT

ゾレドロン酸とIL-2の培養でαβ型が増えないとしても、出発材料にいたαβ型がゼロになるわけではありません。出荷時に残るαβT細胞の割合はGvHDのリスクに直結するので、規格に上限を置きます。培養の前に磁気分離で除くのか、培養条件で比率を落とすのかで、置く工程が変わります。

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3. ドナーで変わるもの ― 増え方・内訳・凍結後

他家の細胞療法で品質を左右するのは、どのドナーの細胞かです。

γδ型の割合も、増えやすさも、増えたあとのVδ1型とVδ2型の内訳も、ドナーによって違います。

感染の履歴でγδ型の構成が変わることは知られていますが、採取の前に増えやすさを言い当てるのは難しく、少量の試験培養で増え方を見てから本採取に進む設計が考えられます。

在庫型あらかじめ製造・凍結して在庫し、需要に応じて出荷できる在庫型の供給運用。他家製品で成り立つ。では、凍結が前提です。出荷の規格は融解後の生細胞率と傷害活性で置くので、そのドナーのロットが凍結融解に耐えるかも、試験培養の段階で一緒に見ておくと後戻りが減ります。

凍結の設計は細胞治療の凍結保存とコールドチェーンで、ドナーからロット、患者までの追跡は細胞治療のChain of Identityで解説しています。

他家にすると、自家では患者ごとに散らばっていたばらつきが、ドナー選びという1点に集まります。

4. 投与したあと ― 排除されやすさと、繰り返し投与

GvHDが起きにくいことと、患者の免疫に排除されにくいことは、別の話です。

患者のT細胞やNK細胞は、型の違う細胞を異物として見つけます。他家のγδT細胞が体内に残る期間は限られると考えられ、前処置でリンパ球を減らす方法を使っても、自家の細胞ほど長く残ることは期待しにくいとされます。

そこで、1回の投与で長く増え続けることを前提にせず、数回に分けて投与する設計を採ります。Xuらの試験も、132人に延べ414回と、1人に複数回投与する形でした。

繰り返し投与を前提にすると、1回の製造で何回分を作って小分けに凍結するか、1ロットで何人分を賄うかが、在庫の設計と費用に直結します。

5. CARを載せるか ― 他家の利点に足す負担

γδ型は異常な細胞全般に反応するので、攻撃の対象を設計で狭めにくい性質があり、狙いを絞る方法の1つがCARを載せることです。

ただしCARを載せた時点で、ベクターのコピー数や導入効率といった、CAR-Tと同じ試験が付いてきます(CAR-T細胞療法の製造工程、CAR-Tのベクターコピー数測定)。

編集の工程が1つ減れば、分析も規格もそのぶん軽くなります。その利点に導入の負担を足すかどうかは、CARを載せる前に見積もります。

もう1つの方向が、iPS細胞体細胞を初期化して作る多能性幹細胞。同一株から繰り返し分化・製造でき均質性を高めやすい。詳しく →です。iPS細胞のバンクからγδT細胞を作れば、同じ細胞から繰り返し作れるので、ドナー差が出発点から消えます。

マウスの大腸がんのモデルで腫瘍の増殖を抑えた前臨床の報告が出ています(iPSC由来アロジェニックγδT細胞を大量産生)。代わりに、分化の工程と、未分化な細胞が残っていないかを見る試験が加わります。

6. 明日から確かめられること ― 工程を決める前に

製造、購買、品質保証のどの立場でも、壁の位置を知っておくと、委託先や取引先の説明が読みやすくなります。工程を決める前に、次の順に確かめます。

  1. 狙うサブセット⁠:Vδ2型とVδ1型のどちらを狙うかを決めます。培養の日数と装置を占有する期間が、それに合わせて決まっているかを確かめます。
  2. αβT細胞の扱い⁠:αβT細胞を培養の前に除くのか、培養で比率を落とすのかを決め、出荷時に残るαβT細胞の上限を置きます。
  3. ドナーの選び方⁠:ドナーの適格性と、試験培養で見る増え方、そのドナーを採用する基準が書面にあるかを確かめます。
  4. 出荷の規格⁠:融解後のどの時点の生細胞率と傷害活性で判定するかを決めます。γδ型の割合とVδ1型・Vδ2型の内訳を、フローサイトメトリーでどう測るかも決めておきます。
  5. 投与の回数とCAR⁠:投与は1回か繰り返しか、1ロットで何回分を作るかを決めます。CARを載せる場合は、ベクターの試験が規格に入っているかを確かめます。

必要な分離、培地、培養装置の範囲は、狙うサブセットとαβT細胞の扱いが決まると絞れます。

資材と試験は、T細胞・CAR-T培養培地、細胞治療の効力試験、凍結保存液の製品ページで比べられます。

次の疑問に応える記事も用意しています。自家と他家の違いは自家と他家の細胞治療、品質項目の全体像は細胞治療のCQA、傷害活性の測り方は細胞傷害性アッセイで読めます。

参考文献

  • Xu Y, et al. Allogeneic Vγ9Vδ2 T-cell immunotherapy exhibits promising clinical safety and prolongs the survival of patients with late-stage lung or liver cancer. Cellular & Molecular Immunology.(DOI: 10.1038/s41423-020-0515-7)(健常ドナー由来のVγ9Vδ2型の第Ⅰ相試験。132人、延べ414回の投与)
  • Locatelli F, et al. Outcome of children with acute leukemia given HLA-haploidentical HSCT after αβ T-cell and B-cell depletion. Blood. 2017.(αβ型とB細胞を除いたハプロ移植の小児80人)
  • Silva-Santos B, Mensurado S, Coffelt SB. γδ T cells: pleiotropic immune effectors with therapeutic potential in cancer. Nature Reviews Cancer. 2019;19(7):392-404.(γδT細胞の認識の仕組みの総説)
  • FDA, Considerations for the Development of Chimeric Antigen Receptor (CAR) T Cell Products(2024年1月)
  • FDA, Potency Assurance for Cellular and Gene Therapy Products(2023年12月、ガイダンス案)
  • ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく →, Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products
  • 「再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(GCTP再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準。日本で細胞培養加工施設での製造に適用される省令。詳しく →省令)」(厚生労働省)
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この記事の目次
  1. 1. 他家で使える理由 ― TCRはあるが、MHCを読まない→
  2. 2. 少数派を増やす ― ゾレドロン酸とIL-2、Vδ1型は別の道→
  3. 3. ドナーで変わるもの ― 増え方・内訳・凍結後→
  4. 4. 投与したあと ― 排除されやすさと、繰り返し投与→
  5. 5. CARを載せるか ― 他家の利点に足す負担→
  6. 6. 明日から確かめられること ― 工程を決める前に→
  7. 参考文献→
シリーズ5 / 9
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  1. 1自家と他家の細胞治療とは?製造・品質保証・調達で変わること
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  1. 1. 他家で使える理由 ― TCRはあるが、MHCを読まない→
  2. 2. 少数派を増やす ― ゾレドロン酸とIL-2、Vδ1型は別の道→
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編集メモ:この記事は Proglenth 編集部が、規制文書・論文・メーカーの公開資料をもとに整理した一般的な解説です。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断するときは、薬局方・ガイドライン(ICH・GMP など)やメーカーの一次情報を確かめてください。誤りやご指摘はお問い合わせからお知らせください。

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