CAR-NK細胞の作り方とは?ソースで決まる製造の難しさ

CAR-NK細胞の作り方は、NK細胞をどこから得るかを決めるところから始まります。CAR-Tの工程をそのまま使えないのは、NK細胞がウイルスのような外から来たものを真っ先に警戒する自然免疫の細胞で、CAR-T用のウイルスベクター治療用の遺伝子を細胞へ運ぶために改変したウイルス。AAVやレンチウイルスが代表で、遺伝子・細胞治療に使う。詳しく →の条件では遺伝子があまり入らないからです。
ただし、ソースごとの導入効率や拡大の倍率は、測った細胞やドナーで変わるため、前提を確かめないと自社の工程の見積もりには使えません。
この記事では、4つのソースとそれぞれの代償、遺伝子導入の壁、拡大培養、規格と凍結、確かめる点を順に説明します。
1. ソースの選び方 ― 4つの出発点と、それぞれの代償
NK細胞のソースには、健常ドナーの末梢血、臍帯血、iPS細胞体細胞を初期化して作る多能性幹細胞。同一株から繰り返し分化・製造でき均質性を高めやすい。詳しく →、細胞株のNK-92の4つがあり、入手のしやすさと代償が違います。
| ソース | 出どころ | 強み | 代償 |
|---|---|---|---|
| 末梢血 | 健常ドナーのアフェレーシス血液成分を分離して目的の細胞(単核球など)を採取する手法。細胞治療の出発材料の採取に使う。詳しく →産物 | 入手しやすい | NK細胞はリンパ球の5〜15%ほど。大幅な拡大培養が前提で、ドナーごとのばらつきが残る |
| 臍帯血分娩時に採取され凍結保存される造血幹細胞源。1単位あたりの細胞数が少ないという制約がある。詳しく → | 臍帯血バンクの在庫 | バンクの在庫を使える | 1回の採取量が少なく、拡大工程で補う |
| iPS細胞 | 樹立したiPS細胞株 | 1つのマスターセルバンク製造の起点となる細胞を段階的に均質に凍結保存した在庫(マスター/ワーキングセルバンク)。詳しく →から、同じ性質の細胞を繰り返し作れる | 分化誘導幹細胞を、発生過程を模した因子の切り替えによって神経・心筋など目的の細胞へ段階的に方向づける操作。詳しく →に数週間かかる |
| NK-92 | リンパ腫患者に由来する細胞株 | サイトカイン細胞が放出する免疫の情報伝達物質。細胞治療では効果と安全性のリードアウトになる。詳しく →のIL-2だけで増え続ける | 腫瘍由来なので、投与前に放射線を当てて増殖を止める。そのぶん体内で長く働かない |
iPS細胞由来だけは、考え方が違います。CAR特定の抗原を認識するよう設計し、細胞に導入して指向性を与える人工の受容体。詳しく →の遺伝子をiPS細胞の段階で入れ、うまく入った株を選んでマスターセルバンクにしてから、NK細胞へ分化させます。遺伝子の入りにくい成熟NK細胞に導入する工程そのものを避けられるので、Fate Therapeutics の FT596 のように、この方式で臨床試験まで進んだ製品があります。
どのソースも、患者ごとに作る自家ではなく、健常ドナーや細胞株から作り置きする他家で使うのが前提です。NK細胞は、T細胞のようにHLAの違いを引き金にして強く反応する仕組みを持たず、他家でもGvHD(移植片対宿主病投与したドナー細胞が患者の体を攻撃する反応。他家細胞治療で避けるべき有害事象。詳しく →、投与した細胞が患者の組織を攻撃する病気)を起こしにくいとされるためです。
2020年に NEJM に報告された臍帯血由来のCD19 CAR-NK(IL-15も同時に出す設計)では、11人中8人で効果があり、うち7人が完全奏効でした。サイトカイン放出免疫が短時間で信号物質を大量に放出し、発熱・血圧低下・臓器障害へ進む激しい反応。詳しく →症候群、神経毒性、GvHD投与した他家T細胞が患者の正常組織を攻撃する反応。他家細胞治療で重大なリスクになる。は見られていません。
裏返しの弱点は、体内での持続です。NK細胞は一般にT細胞より体内に残りにくいとされ、IL-15を同時に出させて生き延びさせる工夫が加わります。持続が短いことは安全面では利点ですが、長い寛解を狙う治療では不利です。
期待の大きい領域でも、順調とは限りません。武田薬品は、同種のCD19 CAR-NK(TAK-007)の血液がん向けの開発を2024年に中止し、2025年には細胞治療生きた細胞そのものを有効成分とする医薬。CAR-Tなどが代表。詳しく →の研究開発から撤退する方針を示しました。
同社は中止を「データに基づく判断」と説明しており、製造が理由とは言えません。ただ、取引先がCAR-NKの開発会社なら、後ろ盾の提携先が抜けても製造と供給が続くのかを、契約の段階で確かめておく理由にはなります。
ソースの選択は、遺伝子導入の方法、増やし方、在庫の持ち方をまとめて決める、最初の分岐です。
2. 遺伝子導入の壁 ― T細胞の条件が通じない理由
成熟したNK細胞には遺伝子が入りにくく、これがCAR-NKの製造でいちばん大きな技術の壁です。
NK細胞はウイルスや外来の核酸に反応する細胞なので、ウイルスベクターを近づけると、遺伝子が入る前に細胞が弱ることがあります。同じレンチウイルス分裂していない細胞にも遺伝子を組み込めるレトロウイルスベクター。CAR-Tで広く使われる。詳しく →でも、T細胞で通じた条件ではNK細胞の導入率が低くとどまりがちです。越え方は大きく3つあります。
1つ目は、ウイルスの外殻(エンベロープ一部のウイルスが持つ脂質の外膜。レンチウイルスではVSV-Gなどをまとうが、温度・剪断・凍結融解に弱い。詳しく →)を替えることです。CAR-T患者や健常ドナーのT細胞にCAR(キメラ抗原受容体)を導入し、がん細胞を攻撃させる細胞治療。詳しく →で標準的な外殻はVSV-G水疱性口内炎ウイルス由来の外被糖タンパク質。多くの細胞に感染でき、レンチウイルスのシュードタイプに広く使われる。詳しく →型です。ヒヒの内在性レトロウイルス由来のエンベロープ(BaEV)を付けたレンチウイルスは、VSV-G型、RD114型、麻疹ウイルス型よりNK細胞に高い効率で入ったと、2019年に報告されています。
報告された導入率は、新鮮なNK細胞で約23%、活性化して増やしたNK細胞で約83%でした。1つの研究室の結果なので、自社の細胞でも同じとは限りません。
2つ目は、導入促進剤です。RetroNectin(Takara Bio)のように、ウイルスと細胞を同じ場所に近づける試薬や、ポロキサマータンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく →系の試薬があります。
3つ目は、ウイルスを使わない方法です。mRNAを電気穿孔法(電気パルスで穴を開けて入れる方法)で入れると、感染や挿入変異の心配はありませんが、CARは数日で消えます。長く出させたいなら、トランスポゾンゲノムを動き回る転移因子を応用し、ウイルスを使わず遺伝子を組み込む非ウイルス法。詳しく →(酵素の力で遺伝子をゲノムに組み込む仕組み)を使う方法が候補です(非ウイルスの細胞改変)。
ゲノムに入れるほど、組み込まれたコピー数や挿入位置を見る試験が増えます。ウイルスベクターの基本はCAR-Tのウイルスベクターで解説しています。
メーカーに導入効率を聞くときは、何倍に上がるかより先に、その数字をどの細胞で測ったかを確かめます。T細胞やCD34陽性の造血幹細胞血液細胞のもとになる幹細胞。採取して体外で遺伝子を編集し、体内に戻す治療に使う。詳しく →での値が、NK細胞の話として語られていることがあります。
NK細胞への導入は、外殻、促進剤、非ウイルスのどれで越えるかが工程開発の中心で、iPS細胞だけがこの壁を迂回できます。
3. 拡大培養 ― フィーダーと、倍率の数字の読み方
NK細胞は、サイトカインを加えるだけでは十分に増えにくい細胞です。高い倍率が欲しいときは、増殖の合図を出す支持細胞(フィーダー細胞NK細胞の増殖を助けるために一緒に加える支持細胞です。刺激因子を提示してNK細胞を増やす役目を持ち、あらかじめ放射線処理して自らは増えないようにします。詳しく →)を一緒に入れる方法がよく選ばれます。
代表は、慢性骨髄性白血病に由来するK562NK細胞の拡大用フィーダーや、細胞傷害活性を測る標的として広く使われる細胞株。詳しく →細胞に、膜結合型のIL-21と4-1BBLを出させたフィーダーです。2012年の報告では、22人のドナーのNK細胞を21日間培養し、平均で約4万8千倍(中央値は約3万2千倍)に増えました。
ところが、IL-21の代わりにIL-15NK細胞の増殖と活性化を促すサイトカインで、IL-2とともに拡大培養の培地に加える。詳しく →を膜に付けたフィーダーでは、平均が約800倍強、中央値が325倍にとどまっています。同じ21日間でも、合図の種類だけで中央値で約100倍の差が出ます。
平均と中央値が離れているのは、ドナーによる差が大きいからです。「このフィーダーなら何万倍増える」と聞いたら、そのまま受け取らず、何人のドナーで、何日で、どの合図で、平均なのか中央値なのかを確かめます。
自社のドナーと培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →で取り直した値が、いちばん頼れる数字です。培地はNK細胞 培養・拡大培地、フィーダーはNK拡大用フィーダー細胞の製品ページで比べられます。
フィーダーは製品に残さない原材料ですが、負担は軽くありません。フィーダー用のセルバンク目的物質を作る細胞をあらかじめ大量に凍結保存し、製造のたびに同じ素性の細胞を使えるようにした細胞の在庫(MCB/WCB)のことです。詳しく →を持ち、ウイルスや造腫瘍性の試験をし、放射線で増殖を止め、最終製品に残っていないことを示す必要があります。
フィーダーを使わない方式もあり、倍率は下がるかわりに、これらの試験と除去の負担が減ります。
拡大の倍率は、フィーダー単体の性能ではなく、合図の種類、ドナー、培養日数で決まる数字です。
4. 規格と凍結 ― 融解後の状態で測る
CAR-NKの品質は、何がどれだけ入っているか、CARは出ているか、働くか、の3つで裏づけます。
- 細胞の組成:NK細胞の割合(CD56NK細胞の同一性確認に用いる表面マーカーで、CD3陰性と併せて評価する。陽性でCD3陰性)と、混じる不要な細胞の量を測ります。
- CARの発現:CARを出している細胞の割合を測ります。
- 働き:標的の細胞をどれだけ殺せるかを測ります(細胞傷害性アッセイ)。
他家なら、残るT細胞(CD3陽性)の量がGvHDの管理上、規格に入ります。フィーダーやNK-92を使った場合は、その細胞が残っていないことも見ます。
ウイルスを使ったなら、増殖能のあるウイルスができていないことも確かめます。項目の全体像は細胞治療のCQAにあります。
他家のCAR-NKは、凍結して在庫にします。ところがNK細胞は凍結と融解に弱いとされ、生きている細胞の割合も殺傷力も落ちやすい細胞です。
凍結前に規格を満たしていても、融解後に落ちていれば患者には効かないため、出荷の規格は、凍結前ではなく融解後の状態で決めます。
融解後にIL-2やIL-15で短時間培養して力価を戻す設計も検討されています(細胞治療の凍結保存と輸送)。
他家の在庫は、融解後に規格を満たして初めて製品です。規格の基準点は融解後に置きます。
5. 明日から確かめられること ― ソースから凍結まで
製造なら導入条件の立ち上げ、購買ならフィーダーや培地の調達、品質保証なら残るT細胞やフィーダーの規格まで、最初に選ぶソースが仕事全体に響きます。どの立場でも、次の順に確かめます。
- ソースの前提:患者ごとの即時性を優先するのか、在庫できる他家でよいのかを先に決めます。ここでソースが絞られます。
- 導入効率の測り方:導入効率の数字が、成熟NK細胞で測ったものかを確かめます。T細胞やCD34表面マーカーCD34を発現する細胞画分。造血幹・前駆細胞が濃縮された指標として採取・選別で用いられる。詳しく →陽性細胞の値ではないかを見ます。
- 拡大の倍率の前提:拡大の倍率に、ドナーの数、培養日数、フィーダーの合図の種類、平均か中央値かが書かれているかを確かめます。
- フィーダーと残存の試験:フィーダーを使うなら、セルバンクの来歴(ICH Q5D生物薬品の製造に使う細胞基材の樹立と特性解析について定めた国際調和ガイドライン。詳しく →)、安全性試験、放射線の条件、最終製品への残存の試験がそろっているかを確かめます。他家なら、残るT細胞の規格と、その測り方が決まっているかも見ます。
- 出荷の規格と供給の継続:出荷の規格が、融解後の生細胞率と殺傷力で設定されているかを確かめます。サイトカインや培地の供給元から変更の通知が届く契約か、提携先や委託先が変わっても製造と供給が続く取り決めがあるかも確かめます。
営業の立場なら、顧客のCAR-NKがどのソースかを最初に聞くと、必要な試薬と試験の範囲が見えます。
凍結の資材と装置は、凍結保存液、プログラムフリーザー、融解装置の製品ページで比べられます。遺伝子導入の装置はエレクトロポレーターが入口です。
次の疑問に応える記事も用意しています。NK細胞療法の工程全体はNK細胞療法の製造工程、iPS細胞からの分化はiPS細胞の分化誘導、自家と他家の違いは自家と他家の細胞治療で読めます。
参考文献
- Liu E, et al. Use of CAR-Transduced Natural Killer Cells in CD19-Positive Lymphoid Tumors. N Engl J Med. 2020;382(6):545-553.(臍帯血由来CD19 CAR-NKの第1/2相試験の結果)
- Denman CJ, et al. Membrane-Bound IL-21 Promotes Sustained Ex Vivo Proliferation of Human Natural Killer Cells. PLoS One. 2012;7(1):e30264.(K562フィーダーでの21日間の拡大倍率)
- Colamartino ABL, et al. Efficient and Robust NK-Cell Transduction With Baboon Envelope Pseudotyped Lentivector. Front Immunol. 2019;10:2873.(BaEV型レンチウイルスの導入率)
- American Pharmaceutical Review, Takeda Exits Cell Therapy, Shifting Focus to Biologics and Small Molecules(武田薬品の細胞治療からの撤退)
- Fierce Biotech, Takeda culls cancer, gut and inflammation drugs in R&D rethink(武田薬品のパイプライン整理)
- Takara Bio, RetroNectin 製品情報
- ICH Q5D:生物薬品の製造に用いる細胞基材の由来、調製及び特性解析規格試験より高い分解能で製品の品質特性を詳しく調べること。比較可能性の評価などで用いる。詳しく →
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