「体内で作るCAR-T」が動き出した──製造に問うこと
細胞治療の製造ラインを預かっていると、ex vivo CAR-Tの自動化にどこまで投資し続けるべきか、という問いにいずれ行き当たります。Sartoriusの「Eveo」のように、患者ごとの採血・培養・品質検査を自動化・集約する装置は今も進化を続けています。その隣で、患者の体内へ直接投与してT細胞にCARを組ませる「in vivo生きた動物の体内で試験を行うこと。物質が吸収・代謝を受けた実際の状態での影響を見られる。詳しく →」型が、2025年から2026年にかけての相次ぐ大型買収で急に現実味を帯びてきました。細胞そのものを運ばず、遺伝子を運ぶ側の製造が主役に躍り出ています。

核心は一点だけです。in vivo CAR-Tはひとつの技術ではありません。脂質ナノ粒子(LNP)mRNAなどを包んで細胞へ届ける脂質の微粒子。全身投与では肝細胞に取り込まれやすい。でmRNAを届けて一過性に発現させる型と、レンチウイルス分裂していない細胞にも遺伝子を組み込めるレトロウイルスベクター。CAR-Tで広く使われる。詳しく →でT細胞のゲノムに遺伝子を組み込む型があります。運ぶものが違えば、製造の中身も規制上の扱いも、根本からまるで別物になっています。
本稿では、この二つの型がなぜ分かれるのか、標的への当て方が製造の管理点をどう決めるか、それぞれの型の製造で何が問われるか、そして買収額という数字の読み方から導入前に確認する順番まで、設計から量産、投資判断へと工程の入口から出口へ向かって順に整理します。
- in vivo CAR-Tは一つの技術ではなく、LNP型とレンチウイルス型で製造の中身がまったく異なります。
- 標的への当て方(CD3活性化・CD7指向・CD8指向)が、品質管理で見るべき指標を分けます。
- AbbVieの21億ドル、Eli Lillyの70億ドルという買収額は臨床的な証明ではなく、選ぶ基準は対象疾患と自社の製造基盤で決まります。
「in vivo」は一つの技術ではない ― LNP型とレンチウイルス型
in vivo CAR-T患者や健常ドナーのT細胞にCAR(キメラ抗原受容体)を導入し、がん細胞を攻撃させる細胞治療。詳しく →とひとくくりにされます。ですが中身は二つの系列に分かれます。
一つはLNP-mRNA型です。Capstan TherapeuticsのtLNP(CellSeeker)は、CD8陽性T細胞を狙う結合分子をLNP表面に付け、抗CD19 CARのmRNAを届けます。mRNAは分解されて発現が終わるので、ゲノムには残りません。Circioも、環状RNA両端がつながって環状になったRNA。分解されにくく安定した発現が期待され、in vivo CAR-Tで検討される。詳しく →技術circVecをAcuitas TherapeuticsのLNPmRNAなどを包んで細胞へ届ける脂質の微粒子。全身投与では肝細胞に取り込まれやすい。で製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →化する契約を2026年4月に結びました。
もう一つはレンチウイルス型です。Umoja BiopharmaのUB-VV111、Interius BioTherapeuticsのINT2104、Eli Lillyが買収したKelonia TherapeuticsのKLN-1010が並びます。レンチウイルスは感染した細胞のゲノムに遺伝子を組み込みます。発現目的タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞内で転写・翻訳させ、機能的なタンパク質として産生させる工程。詳しく →は基本的に恒久的です。
同じ「in vivo CAR-T」の中に、薬事上も製造上もまったく異なる二つの製品カテゴリーが同居しています。
標的の狙い方が製造の管理点を決める ― CD3活性化とCD7指向
同じレンチウイルス型でも、T細胞へどう当てるかは会社ごとに違います。
UmojaのVivoVecは、抗CD3のscFvとCD80・CD58という共刺激リガンドを1本の融合分子にして粒子表面に載せています。これがT細胞を直接活性化しながら形質導入します。InteriusのINT2104はCD7を指向します。CD7はT細胞だけでなくNK細胞にも出ています。だから1回の投与でCAR-T細胞とCAR-NK細胞の両方が生まれます。CapstanのtLNPはCD8だけを狙い、非ヒト霊長類サルなど、ヒトに生理が近く標的交差を得やすい実験動物。費用・福祉の制約が大きい。詳しく →モデルではCD8陽性T細胞の最大80%がCAR特定の抗原を認識するよう設計し、細胞に導入して指向性を与える人工の受容体。詳しく →を発現するまで絞り込めたと報告されています。
CD8だけを狙えば、的を絞れるぶん副作用のリスクは下げやすくなります。ただしCD4陽性T細胞は改変されません。CAR-Tとして働く細胞の総量は、そのぶん増やせません。
標的への当て方は薬効の設計であると同時に、何を測るかという品質管理遺伝子治療製品の品質・安全性・有効性を保証するために製造・出荷の各段階で実施する試験・管理の総体。詳しく →の設計でもあります。
LNP型の製造で問われること ― 混合の一瞬とターゲティング効率
LNP型の製造は、抗体医薬の細胞培養とはまったく別物です。
工程はin vitro転写からLNP化までを通します。粒子径とPDIは、脂質とmRNAを混ぜる一瞬に決まります。GMPグレード医薬品の製造品質管理基準(GMP)に適合した製造管理と品質試験のもとで製造・出荷された試薬・原料の品質区分。詳しく →のイオン化脂質脂質ナノ粒子(LNP)の主要材料で、pHによって電荷が変わる脂質です。核酸を包み込み、細胞の中へ送り込む役割を担います。詳しく →はMerck、Avanti(Croda)、NOF Corporationが供給し、混合にはCytivaのNanoAssemblrやKNAUERのIJM NanoProducerが使われます。ここに、T細胞への選択的送達ゲノム編集ツールや核酸医薬などを標的細胞・組織まで安全かつ効率よく運ぶための技術・方法論の総称。詳しく →という新しい要求が乗ります。
既存のLNPは静脈内投与後、多くが肝臓へ集積します。届く割合が減れば、必要な投与量が増えます。Navaは2026年7月、この肝臓問題を解くために8900万ドルを調達しました。CREATEは同年8月、Monash大学のLNP技術で送達効率を約8倍に高めたと発表しています。肝臓への取り込みを抑えるほど、脂質組成の自由度は狭まります。
LNP型の製造で問われるのは、粒子をつくる技術そのものより免疫細胞だけに届けるターゲティングの精度です。
レンチウイルス型の製造で問われること ― 力価という物差し
AAV遺伝子治療で遺伝子を運ぶウイルスベクター。血清型によって集まりやすい組織が異なる。詳しく →ではなくレンチウイルスを選ぶのには理由があります。
AAVの積載上限は約4.7kbです。CARの遺伝子に加えてUmojaのように共刺激スイッチまで積むと、容量が足りません。レンチウイルスなら6kbを超えても効率を保ち、8kbから10kb近くまで運べるとされます。ただし別の関門があります。粒子の数を数える物理力価と、実際に遺伝子を届けられる機能力価は、100対1から1,000対1ほどずれます。KeloniaのKLN-1010は、用量そのものを6×10⁶ IU/kgや2×10⁷ IU/kgという力価の単位で規定しています。細胞数で用量を決めるex vivo患者やドナーから取り出した細胞を体外(生体外)で操作すること。編集や加工の後に体内へ戻す。詳しく → CAR-Tとは、設計思想が違います。
FDAは2017年、レンチウイルスで遺伝子導入したT細胞製品について、1細胞あたりのコピー数を低く保つよう求めました。2024年にはリスクに基づく根拠があれば上回ってもよいとする運用に改めています。規格が緩んだわけではありません。レンチウイルス型はICH Q5A(R2)細胞株由来のバイオ医薬品について、ウイルス安全性評価の枠組みを示すICHガイドライン。詳しく →が定める外来性因子細胞や製品に意図せず混入しうるウイルスなどの汚染因子。特にMCBで重点的に評価する。詳しく →や増殖性ウイルスの評価対象にもなります。uBriGeneが発表したレンチウイルス製造基盤「uVivo」でも、空粒子比率の低減と力価の維持が課題に挙がっています。組み込みという恒久性のかわりに、検査の負担は重くなります。
レンチウイルス型の用量は力価という物差しそのもので決まります。測り方を取り違えると、投与設計ごとずれます。
買収額という数字の誤読 ― 大きさは証明ではない
AbbVieの21億ドル、Eli Lillyの70億ドルという数字を見ると、技術がすでに確立されたと読みたくなります。
中身はまだ薄いデータです。Eli Lillyが2026年4月に買収を発表したKLN-1010は、同年5月末のASCO年次会議で更新データが出たばかりでした。投与された患者は合計18人、奏効率は100%でしたが、第1相の用量漸増段階の話です。AbbVieが同年6月に買収したCPTX2309は、自己免疫疾患で第1相を始めたところです。強い結果は、まだ非ヒト霊長類の前臨床データです。
買収額は、企業がプラットフォームに見出したオプションの価値であって、承認された治験結果ではありません。開発企業に聞くべきは買収額の大きさではなく、その数字の根拠になった治験の相と症例数です。
大きな買収額は賭けている企業が増えた証拠にはなりますが、個々の製品が患者で効く証拠にはまだなりません。
結論を出さないところ ― LNP型かレンチ型か
LNP型とレンチ型、どちらが勝つかという話ではありません。
決まるのは、対象疾患が求める発現の長さです。B細胞を一時的に減らせば足りる自己免疫疾患なら、ゲノムに残らないLNP-mRNA型で十分な場合があります。多発性骨髄腫のように長く効かせたい腫瘍領域では、レンチウイルス型の恒久性が効きます。CircioのcircVecは最大6か月の発現を謳い、一過性と恒久のあいだを埋めます。もう一つの軸は自社の製造基盤です。mRNAワクチンの設備を持つ会社はLNP型に、ウイルスベクター治療用の遺伝子を細胞へ運ぶために改変したウイルス。AAVやレンチウイルスが代表で、遺伝子・細胞治療に使う。詳しく →CDMO医薬品の開発・製造を他社から受託する企業。設備投資を負わずに専門能力を使える。詳しく →の実績がある会社はレンチ型に寄りやすくなります。
どちらの型を選ぶかは、対象疾患が要る発現の長さと、自社がすでに持つ製造インフラのどちらに近いかで決まります。
導入前に決めておく順番
最後に、確認する順番を整理します。
まず、対象疾患が一過性の発現で足りるのか、恒久的な組み込みが要るのかを決めます。ここでLNP型かレンチ型かの入り口が決まります。次に、自社または提携するCDMOがmRNA-LNP系とウイルスベクター系のどちらの製造基盤を持つかを確かめます。基盤が無ければ、そこから作る前提で投資を判断します。
そのうえで、開発企業にターゲティング機構のオフターゲットデータを求めます。どの細胞に、どれだけ入ったのか。CD3活性化型か、CD7指向型か、CD8指向型かで聞くべき数値は変わります。最後に、用量設定の根拠が物理力価粒子が物理的にいくつあるかを測った力価。感染性の有無は問わず、p24やベクターRNAの量から求める。か機能力価実際に細胞へ遺伝子を届けられた粒子を数える力価。効き目に最も近く、TUやVCN、陽性率から求める。詳しく →かと、VCN遺伝子・細胞治療で、細胞1個あたりに組み込まれたベクターの平均コピー数です。導入効率や安全性を見る指標です。詳しく →の規格値を契約前に確認します。ここを飛ばすと、導入後にロットごとの用量がぶれます。
参考文献
- FDA, Considerations for the Development of Chimeric Antigen Receptor (CAR) T Cell Products
- Eli Lilly and Company, Lilly to acquire Kelonia Therapeutics to advance in vivo CAR-T cell therapies
- AbbVie, AbbVie to Acquire Capstan Therapeutics, Further Strengthening Commitment to Transforming Patient Care in Immunology
- Kelonia Therapeutics, Kelonia Therapeutics Presents Updated First-in-Human Data from Phase 1 inMMyCAR Study of KLN-1010 in vivo BCMA CAR-T Therapy at the 2026 American Society of Clinical Oncology (ASCO) Annual Meeting
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