細胞治療基礎知識・製造工程

細胞治療の洗浄・濃縮とは?装置の選び方

CAR-TやNK細胞、間葉系幹細胞免疫抑制や組織修復に働く体性幹細胞。免疫や炎症を鎮める向きで効くため、効力の測り方がCAR-Tと逆になる。詳しく →(MSC)の製造を担当していると、培養や遺伝子導入の合間に、地味だが避けて通れない工程に必ず行き当たります。培地や試薬を洗い流し、患者に投与できる体積まで細胞を濃縮する工程です。抗体医薬なら、この段階に近い作業は限外ろ過や透析ろ過で済みます。最後は無菌ろ過で仕上げられます。ところが細胞は生きています。フィルターの目を通せば、それだけで壊れてしまいます。洗浄が甘ければ培地成分やDMSO水に溶けにくい薬物やリンカーを溶かし込み、抗体との結合反応を進めるために少量加える有機溶媒です。詳しく →が製品に残り、濃縮の操作が乱暴なら生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。詳しく →が落ちて力価そのものが下がります。

CHO細胞用トランスフェクション#細胞治療#CAR-T#向流遠心#閉鎖系製造
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細胞治療の洗浄・濃縮とは?装置の選び方

核心は一点です。遠心力や膜を使って、細胞を傷めずに周りの液体だけを入れ替えられるかどうかに尽きます。力をかけすぎればせん断流れの中で分子にかかる物理的な力。強すぎると抗体の凝集や微粒子発生を招く。詳しく →で壊れます。浸透圧溶液中の溶質濃度で決まる、水を引き込む圧。培養では上昇が細胞ストレスになる管理項目。詳しく →を急に変えれば死んでしまいます。この綱渡りを、どの原理で、どの装置でこなすかが問われるのです。

本稿では、なぜ細胞治療にはこの工程が最終ろ過の代わりとして必須なのか、向流遠心向流遠心などを使って細胞を洗い、余分な液を除いて濃く集める(濃縮する)装置です。詳しく →という基本原理、細胞をサイズで仕分けるエルトリエーション、ペレット化を避ける回転膜ろ過、洗浄回数と回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。詳しく →のせめぎ合い、そして自動化された統合プラットフォームへの組み込みまで、実機の数字を追いながら整理します。

この記事の要点
  • 細胞治療は最終ろ過ができないため、洗浄・濃縮が不純物と細胞の状態を決める最後の工程です。
  • 向流遠心・エルトリエーション・回転膜ろ過は原理が異なり、装置によって入力容量も回収率もかなり違います。
  • 洗浄回数を増やせば残留物は減りますが、処理時間と細胞への累積ストレスが増えるという代償があります。

洗浄・濃縮という工程 ― 最終ろ過ができない理由

細胞治療生きた細胞そのものを有効成分とする医薬。CAR-Tなどが代表。詳しく →には、抗体医薬にあるような最後の砦がありません。

抗体は変性さえしなければ、0.22µmのフィルターを通して無菌性を担保できます。細胞はそうはいきません。フィルターを通せば壊れてしまうからです。だからアフェレーシスや培養、遺伝子導入のあとに残る培地成分、DMSO、電気穿孔用の緩衝液、ウイルスベクターの残渣は、下流の洗浄・濃縮工程で物理的に置き換えるしかありません。この工程が、製品の不純物プロファイル製造プロセスに由来する類縁物質・分解物・プロセス関連不純物の種類と量を包括的に把握した品質情報の集合体。詳しく →を決める実質的な最後の関門です。加えて、細胞の生存率や機能を保ったまま、体積を数Lから数十mLへ絞り込む必要もあります。

細胞治療の洗浄・濃縮は、抗体医薬の無菌ろ過微細な孔のフィルターに液を通し、菌などの微生物を取り除く工程です。加熱できない製品を無菌にする手段で、0.22µm前後の膜が広く使われます。詳しく →に相当する最後の関門であり、しかも生きた細胞という制約付きです。

向流遠心という原理 ― 流動層に浮かせる仕組み

向流遠心(counterflow centrifugation)は、遠心力と逆向きの流れを釣り合わせる技術です。

遠心分離比重差を利用して固形分を沈降・分離する操作。清澄化では大きな細胞塊や固形分の粗取りに使う。詳しく →チャンバーの中で、外向きにかかる遠心力と、内向きに流れる緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →の力を釣り合わせます。すると細胞は、チャンバーの中に浮いたまま留まります。これが流動層です。ペレットに固めずに、浮遊させたまま緩衝液だけを入れ替えられます。だから洗浄のたびに細胞を再懸濁する手間も、せん断も減ります。SartoriusのKsep 400は21〜200 Lを扱い、1チャンバーあたり毎分408 mLの流量で処理します。より大きなKsep 6000Sは100〜2,000 Lまで対応し、6チャンバー構成で毎分2,600 mLを流します。Thermo FisherのCTS Roteaはこれより小さいスケール向けです。50 mLから20 Lの入力を、3,000×gの遠心力とチャンバー容量10 mLで処理します。DirectDrawという機構を使えば、最終体積5 mL、細胞濃度は最大で5×10⁸ cells/mLまで濃縮できます。

向流遠心はペレット化を経ないので、遠心のたびに細胞を潰したり再懸濁したりする従来のバッチ遠心より、細胞へのダメージを抑えられます。

エルトリエーション ― サイズによる細胞の分画

向流遠心の流量を段階的に変えると、細胞をサイズや密度で分けられます。これがエルトリエーション(counter-flow elutriation)です。

流量を上げるたびに、その速度でも留まれない細胞から順に流れ出ていきます。小さく、軽い細胞からです。Terumo BCTのElutraは、この原理でPBMC(末梢血単核球)濃縮液を5つの分画に分けます。赤血球や血小板、リンパ球は早い分画に出ます。単球や好中球は最後の分画に濃縮されます。臨床検体59件を使った報告では、最終分画の単球純度は約90%に達しました。単球は樹状細胞ワクチン樹状細胞を体外で育ててがん抗原を覚え込ませ、体内に戻してT細胞免疫を立ち上げる細胞免疫療法。詳しく →の原料に、リンパ球分画血液中の白血球に占めるリンパ球の割合や絶対数を指し、免疫系への影響を示す基本的な血液学的指標。はT細胞療法の原料に、それぞれ使われています。研究用にはBeckman CoulterのJE-5.0やJE-6Bローターもあります。直径2〜50 µm程度の細胞を、サイズ別に分離できます。

POINT

エルトリエーションは分離であって、精製ではありません。最終分画の単球純度が9割前後というのは、裏を返せば1割は狙った細胞以外が混ざるということです。ここで完全に仕分けようとせず、後段の磁気分離や抗体パニングと組み合わせて純度を上げる設計のほうが、装置に無理をさせずに済みます。

エルトリエーションは細胞をサイズという1つの軸で粗く仕分ける工程で、最終的な純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →は後段の選択工程に委ねる前提で使うものです。

回転膜ろ過という代替 ― ペレット化しない洗浄

遠心力を使わずに洗う方法もあります。回転する膜でろ過するのです。

Fresenius KabiのLovoは、スピニングメンブレン(回転膜)を使った洗浄・濃縮装置です。膜を高速回転させながら液体だけを膜の外へ通します。細胞は膜の内側にとどめます。最大22 Lの原料を、標準的なアフェレーシス血液成分を分離して目的の細胞(単核球など)を採取する手法。細胞治療の出発材料の採取に使う。詳しく →産物1回分ならおよそ11分で処理できるとされています。公表データでは、有核細胞の回収率は98%を超えます。生存率の低下は2%未満、血小板は90%以上を除去できるとしています。CD34表面マーカーCD34を発現する細胞画分。造血幹・前駆細胞が濃縮された指標として採取・選別で用いられる。詳しく →陽性細胞の選択前処理細胞移植の前に患者へ行う処置。生着の場を空けるために既存の骨髄細胞を減らす目的で実施される。詳しく →にLovoを使った報告もあり、手作業に比べて前処理の時間を大きく短縮しています。向流遠心とは違う原理で、同じ課題を解いています。

回転膜ろ過は遠心力を使わないぶん、遠心機よりコンパクトな設置面積で、同等以上の回収率を狙える選択肢です。

COBE 2991という定番機 ― バッチ式遠心の役割

洗浄・濃縮の装置には、何十年も使われ続けている型式もあります。

Terumo BCTのCOBE 2991は、回転シール式のバッチ遠心プロセッサです。骨髄や末梢血幹細胞の洗浄、そして凍結保護剤であるDMSOの除去に使われてきました。報告によれば、3回の洗浄でDMSO濃度は0.1%未満まで下がるとされています。最新の閉鎖系自動装置に比べれば、処理はバッチ単位です。連続処理はできません。それでも今なお、骨髄移植領域を中心に採用され続けています。確立された手順とバリデーション試験法が目的に合う性能を持つことを立証する妥当性確認。正確さ・精度などを評価する。詳しく →実績の蓄積があるからです。新しい原理が出てきても、古い装置がすぐに置き換わるとは限りません。

COBE 2991のような枯れた装置が使われ続けるのは、新しさより手順の確立度と実績が評価される場面が製造現場には残っているからです。

洗浄回数と回収率のせめぎ合い ― Sefiaという実例

洗浄は多いほど良いわけではありません。回数には代償があります。

CytivaのSefia S-2000は、FlexCellというソフトウェアで最大10 Lの入力を扱い、最終体積を15 mLまで絞り込めます。洗浄サイクルは最大4回まで選べます。処理温度も4℃から37℃の範囲で設定できます。洗浄回数を増やせば、培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →成分や試薬の残留は減ります。ですが、そのたびに細胞は遠心と再懸濁にさらされ、処理時間も伸びます。残留物の規格をどこまで厳しく取るかと、細胞の累積ストレスをどこまで許容するかは、トレードオフの関係にあります。回数を固定の手順として決め打ちしないほうがいい。除きたい物質の種類ごとに、必要な回数を検証しておく設計が要ります。

POINT

洗浄回数を増やせば安全という発想は、DMSOのような低分子には当てはまっても、ウイルスベクターの残渣のように細胞表面に吸着しやすい物質には効きにくい場合があります。回数を増やす前に、対象物質が単純な希釈で落ちる性質かどうかを確かめておくほうが、無駄な洗浄回数を重ねずに済みます。

洗浄回数は多いほど安全ではなく、除きたい物質の性質に応じて必要な回数を個別に決める設計事項です。

統合プラットフォームへの組み込み ― 単独装置から一体化へ

洗浄・濃縮は、単独の装置から工程全体の一部品へと位置づけが変わりつつあります。

Miltenyi BiotecのCliniMACS Prodigyは、遠心チャンバーと培養チャンバーを1つの閉鎖系外気と触れずに培地交換やサンプリングを行う閉鎖された流路。無菌を保ち汚染を防ぐ。詳しく →にまとめ、洗浄・リバッファーから遺伝子改変、培養、製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →化までを1台で完結させます。LonzaのCocoonも、播種から洗浄・濃縮、収穫までをカセット内で自動化する統合プラットフォームです。FDAのAdvanced Manufacturing Technology指定を受けたCellaresのCell Shuttleは、向流遠心のエルトリエータと磁気選択、電気穿孔、バイオリアクタを1つのカートリッジペン型インジェクターなどに装填する円筒容器。複数回投与や特定デバイスとの組合せで選ばれる。詳しく →に統合し、洗浄・濃縮を工程の一部として組み込んでいます。Thermo FisherもCTS Roteaを充填・製剤化装置のCTS Compleoと連携させる構成を打ち出していて、単独の洗浄機というより、前後の工程とつながる部品としての位置づけが強まっています。

洗浄・濃縮を単独装置で選ぶ時代から、前後の工程とどう連携するかで選ぶ時代に移りつつあります。

装置選定で決めておくこと ― 導入前の順番

最後に、装置を選ぶ前に決めておく順番を整理します。

まず、扱う体積の範囲を確認します。自家細胞療法のように1バッチが数百mL規模なのか、他家細胞療法のように数L規模を扱うのかで、候補になる機種はほぼ絞られます。次に、対象の細胞種がどれだけせん断や浸透圧の変化に弱いかを確認します。T細胞なのか、NK細胞FcγRIIIaを持つリンパ球。パーフォリンやグランザイムで標的を傷害するADCCの主役。詳しく →なのか、幹細胞なのか。ここによって、遠心方式が向くか回転膜方式が向くかが変わってきます。そのうえで、除去したい物質ごとに必要な洗浄回数を、実際の残留量を測って検証します。この検証を飛ばして規定回数を決め打ちすると、前節で触れたとおり無駄な洗浄を重ねかねません。続いて、単独の装置として導入するのか、統合プラットフォームの一部として組み込むのかを判断します。将来の工程拡張も見据えたうえでのことです。最後に、閉鎖系としてのバリデーション範囲と、キット交換や消耗品供給の体制を確認しておきます。

この順番を踏んでおけば、カタログに並ぶ入力容量や回収率の数字を、自社の細胞種と生産規模に照らして比較できます。

参考文献

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間葉系幹細胞全17工程全工程を見る →
  1. 採取・分離2工程
  2. 培養・産生4工程
  3. 回収・清澄化2工程
  4. 製剤・充填2工程
  5. 品質特性・分析7工程
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  • 17工程の基準法と、その選び方の根拠
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CAR-T細胞療法全18工程全工程を見る →
  1. 採取・選別4工程
  2. 活性化1工程
  3. 遺伝子導入1工程
  4. 培養・産生1工程
  5. 回収・清澄化2工程
  6. 品質特性・分析9工程
より詳しい工程情報を見る
  • 18工程の基準法と、その選び方の根拠
  • 各工程の装置・試薬とメーカー
  • 代替・補完の選択肢 52件

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、細胞治療に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。