Thermo Fisher Scientific が、細胞治療製造の製剤化(formulation)と充填を対象とした 「Gibco CTS Compleo Fill and Finish System」 を投入した。同社の発表によれば、内容は次のとおりである。
- 自動化された機能的閉鎖系(functionally closed)で、コンパクト・モジュール式のベンチトップ機
- プラットフォーム非依存で、Gibco CTS Rotea 向流遠心システムを含む既存の細胞処理技術と統合できる
- ラベル付きの滅菌バイアルまたはクライオバッグへの自動充填に対応。閉じたチューブ経路と組み合わせ、交差汚染の可能性を下げつつ、患者ごとの正確な用量を支える
- 処理時間は CTS Compleo で最短15分、手作業は平均45分としている。凍結保護剤への曝露時間が短くなる
- クライオバッグからの空気抜きを、出力バッグを外して安全キャビネットへ移しシリンジで抜くことなく行える
- 計算を自動化するソフトを備え、手作業のミスを減らすとしている
- 据付、アプリケーション・工程開発支援、グローバルサービスを含む導入支援も提供する
細胞治療の工程列で、最後まで手作業が残っていた区間に装置が入ってきた形になる。
なぜ充填だけが手作業で残ったのか
CAR-Tの製造では、上流の工程から順に閉鎖系・自動化が進んできた。細胞の選別、活性化、遺伝子導入、拡大培養、洗浄・濃縮。閉鎖系での細胞製造やCAR-T製造の自動化で扱われる領域である。
最後の製剤化と充填は、そこから取り残されやすかった。理由は工程の性格にある。
- 量が小さい。最終製品は数十mLから、場合によっては数mL。装置で扱うには小さすぎる
- 容器が製品ごとに違う。バイアルか、クライオバッグか。本数も投与計画で変わる
- 計算が入る。細胞数を測り、目標濃度に合わせて希釈し、1本あたりの充填量を決める。ここは判断に近い
- 凍結保護剤を入れてから時間が効く。DMSO を加えた後、細胞は待ってくれない
結果として、安全キャビネットの中で人がピペットとシリンジを使う運用が残った。製造の最後で系を開けるという、汚染管理の観点では最も避けたい形である。
「45分が15分」が意味するもの
処理時間の短縮は、スループットの話に見えて、実際には品質の話でもある。
凍結保護剤(多くは DMSO)は、細胞を凍結時の損傷から守る一方、常温では細胞に毒性を示す。したがって添加してから凍結するまでの時間は、製品の性能に直接効く。
CAR-Tの充填仕上げと凍結製剤化で議論されるのは、まさにこの時間の管理である。装置化の価値は、平均時間の短縮そのものより、本数によらず同じ時間で処理できる点にあると読める。
空気抜きを装置内で済ませること
発表が名指ししている「クライオバッグからの空気抜き」は、細かいが実務では厄介な作業である。
バッグ内に空気が残ると、凍結時に膨張・収縮して細胞に物理的な損傷を与え、凍結保存の再現性を落とす。液体窒素の気相での保管や輸送でも問題になる。
従来はこれを、バッグを外して安全キャビネットへ移し、シリンジで抜くという手順で行っていた。つまり、
- 閉鎖系がここで一度開く
- 作業者の手技に依存する
- 同一性の担保の観点でも、検体を動かす回数が増える
これを装置内で完結させるという設計は、閉鎖系を最後まで閉じたままにすることを狙っている。容器閉塞性を保ったまま工程を終えられるかどうかは、無菌性の主張の根拠に関わる。
Rotea との接続と、消耗品としての流路
既存の細胞処理装置と統合できる、という点も設計の要になっている。Gibco CTS Rotea は向流遠心により細胞の洗浄・濃縮・バッファー交換を閉鎖系で行う装置で、単回使用のキット(流路とバッグ)を装着して使う。
洗浄・濃縮を終えた細胞をそのまま充填へ渡せるなら、中間で系を開けずに済む。逆に、装置ごとに接続が切れていれば、そのたびに無菌接続か開放操作が必要になる。
一方で、この構成は消耗品側の管理を重くする。
- 流路とバッグの溶出物・浸出物。DMSO を含む液に接触する部材では、通常より評価が要る
- キットの供給者管理。装置と消耗品が同一供給者に固定されると、供給が止まったときの代替がない
- 装置間の接続部が、無菌性の弱点になりうる
単回使用の閉鎖系は、開放操作を減らす代わりに、部材の品質と供給に依存する構造を持ち込む。単回使用かステンレスかの議論と同じ形が、細胞治療の下流でも現れる。
導入時に問われること
装置が入っても、GMP下で回すための作業は残る。
- 装置の適格性評価と、計算を行うソフトの検証
- 工程バリデーション。自動化された充填が、規定の用量精度で安定して動くことを示す
- 同等性の評価。手作業から装置へ切り替えるとき、製品が同等であることを示す必要がある
- 迅速出荷試験との整合。工程が速くなっても、試験が間に合わなければ出荷は早くならない
三点目は、既に臨床段階にある製品では重い。工程を良くする変更でも、変更であることに変わりはない。導入の判断は、新規プログラムのほうが取りやすい構図になる。
細胞治療は、自家細胞治療である限り1患者1バッチの構造から逃れられない。装置を入れて単価を下げる動きが、そこにどこまで効くかは今後の実測を待つことになる。
※ 本ページは公開情報(Thermo Fisher Scientific の発表)をもとにしたProglenth編集部による整理です。仕様・性能値・比較条件の詳細は一次情報および同社の公式発表をご確認ください。本文中の解説は細胞治療の充填仕上げ一般の構造に関する説明であり、同製品の具体的な性能や適用範囲を示すものではありません。