細胞治療の製造で、最後まで人の手に頼りがちだった工程を自動化する装置が登場しました。Thermo Fisher Scientific が2026年4月に発表した Gibco CTS Compleo Fill and Finish System で、受け持つのは製剤化と充填です。製剤化は、育てた細胞を凍結保護剤入りの保存液に移して投与できる形に整える作業で、充填はそれを決めた量ずつバイアルやクライオバッグ(凍結用の袋)に詰める作業を指します。手作業では平均45分かかる処理を、最短15分で終えられると同社は説明しています。
手作業で残っていた最後の区間
同社によると、装置は卓上に置ける小型のモジュール式で、「機能的閉鎖系」(functionally closed)として作られています。これは、つなぎ替えなどで開ける箇所があっても、無菌接続や滅菌・消毒で閉じ直してから液を通す系を指します。滅菌したバイアルとクライオバッグのどちらにも自動で充填でき、手作業で生じやすい汚染のリスクと用量のばらつきを減らすとしています。特定の装置に縛られない設計で、細胞の洗浄と濃縮に使う同社の CTS Rotea などともつなげられるといいます。
細胞の培養や洗浄では、閉鎖系の自動装置がすでに広く使われています。ところが最後の充填は、安全キャビネット(HEPA フィルターを通した空気で、製品と作業者の両方を守る作業台)の中で、作業者がピペットやシリンジを使う工程として残りがちでした。扱う量が小さく、容器の種類や本数が製品や患者ごとに変わるため、装置に任せにくかったのです。CAR-Tのように1人の患者のために1ロットを作る製品では、測った細胞数から1回分の投与量に合う液量を決める計算も、ここで毎回入ります。新装置はこの工程の計算を自動で行うソフトウェアも備え、手作業での誤りを減らせるとしています。
同社が名指しした作業の1つが、クライオバッグの空気抜きです。同社によると、従来は充填を終えたバッグを流路から外して安全キャビネットへ移し、シリンジで空気を抜く必要がありました。新装置ではバッグを外さずに空気を抜けるとしており、凍らせる直前に系を開ける手順が1つ減ります。空気抜きが欠かせないのは、一般に、空気が残ったまま凍らせるとバッグの厚みがそろわず、凍り方にむらが出やすいためです。
凍結保護剤に触れる時間
凍結保護剤として広く使われるジメチルスルホキシド(DMSO)は、凍結中の細胞を守る一方で、常温では細胞を傷めます。加えたらできるだけ早く凍結へ移すのが、凍結製剤づくりの基本です。同社は、処理時間が短くなることで、細胞が凍結保護剤に触れる時間を減らせるとしています。
ただし、縮んだ時間がどう効くかは現場の手順で変わります。保存液にDMSOを一度に加えてから順に詰め、全部をまとめてプログラムフリーザー(決まった速さで温度を下げる凍結装置)に入れるなら、どの容器もDMSOに触れる時間は同じです。この場合に縮めたいのは、全体の処理時間です。一方、DMSOを容器ごとに加える運用や、詰めた順に凍結へ回す運用では、1本目と最後の1本で触れる時間に差が出ます。導入を考えるなら、自社の手順がどちらに近いかを先に見ておくと、効果を見積もりやすくなります。
導入で増える仕事
据付や工程開発の支援、世界各地でのサービス対応は同社が用意するといいます。それでも、装置に任せる代わりに増える仕事があります。閉鎖系の装置では、液の通り道を使い捨てのチューブやバッグでまかなうのが一般的です。CTS Compleo も、ガンマ線で滅菌した使い捨てのキットを装着して使います。DMSOに触れる部材からの溶け出し(溶出物・浸出物)の評価や、消耗品の供給元が限られる場合の供給者管理が、購買と品質保証の担当に回ってきます。すでに承認を得た製品で手作業から装置へ切り替えるなら、変更管理を通し、切り替え前後で製品が同等であることを示す必要もあります。
導入を検討する段階では、次の点をメーカーに確かめておくと話が早く進みます。
- 「平均45分と最短15分」は、何本・何mLを詰めた場合の比較か
- 自社で使っているクライオバッグやバイアルの型に、そのまま対応するか
- 1患者あたりの消耗品の費用と納期、供給が止まったときに代わりの手段があるか
- 計算ソフトに、誰がいつ何を操作したかの記録(監査証跡)が残るか
充填を装置に任せる意味は、凍結保護剤に触れる時間を縮め、凍結の直前に系を開ける手順を減らせることにあります。
※ 本ページは公開情報(Thermo Fisher Scientific の発表)をもとにしたProglenth編集部による整理です。詳細・数値は一次情報もあわせてご確認ください。