装置・ユーティリティの適格性評価(DQ/IQ/OQ/PQ)とは?
バイオリアクター細胞やウイルスの培養を制御された環境下で大規模に行うための培養槽で、商業規模の製造に用いられる。詳しく →が培養中に温度制御を外れた。注射用水(WFI)製造装置の水質が規格を逸脱した。こうした事態が品質判断をどれほど複雑にするか、製造現場の実務者なら覚えがあるでしょう。その根本には「設備が信用できるか」という問いがあります。適格性評価(Qualification製造装置やユーティリティが意図どおりに据え付けられ、動き、性能を出せることを文書で裏づける活動。詳しく →)とは、製造に使う装置やユーティリティ水・空調・ガスなど、製造を直接支える設備の総称。適格性評価や汚染管理の対象になる。詳しく →(水・空調・ガスなど製造を支える設備)が「意図した目的どおりに、正しく据え付けられ、正しく動き、期待した性能を出せる」ことを、文書化された証拠で裏づける活動です。設備が信用できるという前提がなければ、そこで作られた製品も信用できません。

適格性評価は、DQ・IQ・OQ・PQという4つの略語で語られることが多い。設計を確認するDQに始まり、据え付けを確認するIQ、運転を確認するOQ、そして実際の負荷をかけた性能を確認するPQへと、上流から下流へ段階を追って積み上げていく構造です。その出発点にはURS(要求仕様)装置を選ぶ前に、使う側が求める機能・性能・規制要件を文書化した適格性評価の起点。詳しく →があり、いったん合格させた設備も条件が変われば再適格性評価稼働後の装置が適格な状態を保っているか、定期的に、または重要な変更時に改めて確認する活動。の対象です。
装置の適格性評価は、プロセスバリデーション(PPQ)の土台です。設備の適格性が崩れれば、その上に積んだ工程の裏づけも足元から揺らぎます。本稿では、起点のURSそのシステムに何をさせたいかを定義する文書。Vモデルで検証項目をひもづける起点になる。詳しく →から順に見ていきます。DQ、IQ、OQ、PQ。そのうえで、試験室の機器が別の枠組みで動いていることと、稼働後の再適格性評価、進める順番までを整理します。
- 適格性評価は、製造装置やユーティリティが意図どおりに使えることを文書化された証拠で裏づける活動です。
- 出発点のURSから、設計を確かめるDQ、据付のIQ、運転のOQ、性能のPQへと段階を積み上げます。
- 設備の適格性が整って初めて工程のプロセスバリデーションが成り立ち、稼働後も再適格性評価で維持を確認します。
適格性評価とは何を保証する活動か
適格性評価は、設備そのものを対象にした裏づけ活動です。工程(プロセス)を対象にするバリデーション試験法が目的に合う性能を持つことを立証する妥当性確認。正確さ・精度などを評価する。詳しく →と混同されやすいのですが、対象が違います。 適格性評価は「設備が意図どおりに使える状態にある」ことを、バリデーションは「工程が一貫して規格品を作れる」ことを裏づける と分けて捉えると、全体像が整理しやすくなります。
EU GMPのAnnex 1無菌医薬品の製造に関するEU GMPの付属書。汚染管理戦略などを求める無菌製造の基準。詳しく →5(Qualification and Validation)は、この適格性評価を段階的なアプローチとして示しています。上流のURSで「何を求めるか」を定め、そこからDQ・IQ・OQ・PQへと確認を積み上げていく流れです。前の段階が済んでいることが、次の段階に進む前提です。据え付けが確認できていない装置の運転試験をしても、結果を信用できないからです。
段は5つあります。URS(User Requirements Specification、要求仕様)は使う側が求める要件を明文化するもので、発注前に作ります。DQ(Design Qualification、設計時適格性評価)は設計がURSを満たすかを見る段で、発注の前後。IQ(Installation Qualification、据付時適格性評価システムが正しく設置・構成されているかを確認する検証。Vモデルで設計仕様に対応する。詳しく →)は仕様どおりに設置されたかを据え付け後に確認します。OQ(Operational Qualification、運転時適格性評価各機能が機能仕様どおりに動くかを確認する検証。Vモデルの右側に位置づけられる。詳しく →)は設計範囲で意図どおり動くかを立ち上げ時に、PQ(Performance Qualification、稼働性能適格性評価実運用条件で意図した用途・狙いの性能を満たすかを確認する検証。ユーザ要求仕様に対応する。詳しく →)は実運用条件で性能を出せるかを本格稼働前に確かめます。
DQ・IQ・OQ・PQは、それぞれ独立した試験ではなく、上流から下流へつながる一連のV字構造です。URSで定めた要件がDQで設計に落とし込まれ、IQ・OQ・PQで一段ずつ検証されて要件に戻ってきます。だからこそ、出発点であるURSの質が全体の質を決めます。
URS ― すべての起点は「使う側が何を求めるか」
適格性評価は、装置を据え付けてから始まるものではありません。
手前のURS(要求仕様)から始まります。 URSは装置を選ぶ前に「使う側が求める要件」を文書にしておく起点です。後段の検証は、すべてここに照らして合否が決まります。
URSには、装置に求める機能や性能、運転範囲、材質、洗浄性、そして規制上の要件(GMP適合、データインテグリティ記録が正確で完全・改ざんされていないことを保証する考え方で、ALCOA+などの原則で健全性を管理します。詳しく →対応など)を書き込みます。バイオリアクターを例にとれば、培養容量、温度・pH・溶存酸素(DO)の制御範囲と精度、CIP(定置洗浄)装置を分解せず、据え付けた状態のまま内部の配管や容器を自動で洗浄する方式。詳しく →・SIP(定置滅菌)装置を分解せず、据え付けた状態のまま蒸気などを使って内部を滅菌する方式。詳しく →への対応、記録の完全性などが要件として並びます。ここで曖昧に書いた項目は、後段のどの試験でも検証できません。
URSが起点になるのは、後段の各段階がURSの各要件に「トレース(追跡)」できる形で作られるからです。ある要件がどの試験で確認されるのかを対応づけたトレーサビリティマトリクスURSの各要件がどの試験で確認されるかを対応づけ、検証の抜け漏れを防ぐ一覧表。を作っておくと、確認の抜け漏れを防ぐことができます。記録の完全性という観点はデータインテグリティ(ALCOA+)と地続きで、米国なら 21 CFR Part 11、日本なら GMP医薬品を一定の品質で安全に造るために守るべき製造・品質管理の基準(適正製造規範)です。詳しく →省令 がその根拠にあたります。
URSに書かれていない要件は、どの段でも確認されません。
DQ ― 設計がURSを満たすかを紙の上で確かめる
DQは、装置が届く前の段です。
設計や仕様書の段階で、URSを満たしているかを確認します。 DQは装置を据え付ける前に「この設計で要件を満たせるか」を紙の上で確かめる関門であり、ここでのずれは後段で直すほど高くつく という性質があります。
具体的には、供給者から提出される設計仕様(機能仕様ユーザ要求仕様を受けて、システムが実現すべき各機能を技術的に詳述した仕様書。詳しく →・詳細設計仕様など)が、URSの各項目に応えているかを一つずつ照合します。制御できる範囲、使われている材質、洗浄性を確保する構造、計器の精度など、URSで求めた性能を設計が担保しているかを見ます。装置を作ってから設計の誤りに気づけば、据え付けをやり直すことになりかねない。DQは、手戻りを紙の上のうちに防ぐための段です。
なお、供給者側が実施する試験(工場出荷前のFAT:Factory Acceptance Test装置を工場から出荷する前に供給者側で行う受入試験。適格性評価に活用されることがある。、現地据付後のSAT:Site Acceptance Test装置を現地に据え付けた後に行う受入試験。適格性評価の一部として使われることがある。)を、適格性評価の一部として活用する考え方も広がっています。EU GMP の Annex 15 も、供給者の試験や文書を適格性評価に取り込んでよいと示しています。リスクに応じて検証の重さを配分する考え方は ASTM E2500 にも整理されていて、ICH Q9 の品質リスクマネジメントリスクに基づいて品質を判断する、品質リスクマネジメントの考え方を示すICHのガイドライン。詳しく →と同じ方向を向いています。二重の試験を避け、リスクに応じて労力を配分するための整理です。
IQ・OQ・PQ ― 据付→運転→性能を段階で積み上げる
装置が届いてからの検証は、3段階です。 据え付け(IQ)→設計範囲での動作(OQ)→実運用条件での性能(PQ)へと、確認する負荷を一段ずつ上げていく のが基本の流れです。前の段階が合格していることが、次の段階に進む前提です。
IQ(据付時適格性評価)
IQは、据え付けの確認です。装置が仕様どおりに設置されたかを見ます。型式・部品・材質が仕様と一致しているか、配管・配線・ユーティリティ接続が図面どおりか、必要な文書(取扱説明書・校正証明・部品リストなど)がそろっているかを確認します。計器の校正状態もここで押さえます。まだ「動かして確かめる」段階ではない。「正しく据え付けられている」ことの確認です。
OQ(運転時適格性評価)
OQは、動きの確認です。設計で意図した範囲で正しく動くかを見ます。温度・圧力・回転数・流速などの制御が設定どおりに働くか、上限・下限や運転範囲の境界で意図どおりに振る舞うか、アラームやインターロック安全を保つため、決めた条件が整わないと装置が作動しないようにする連動の仕組み。(安全連動機能)が正しく作動するかを試験します。製品は使わず、水などのプラセボ有効成分を含まないが外観・剤形などを実薬と同一に見せた製剤で、対照群への投与や盲検維持のために用いられる。詳しく →や空運転で確認することが多い段階です。ここで「設計範囲のどこでも意図どおり動く」ことを示しておきます。
PQ(稼働性能適格性評価)
PQは、性能の確認です。実際の運用条件で、求める性能を安定して出せるかを見ます。OQが「単体の装置が設計どおり動くか」を見るのに対し、PQは「実際の材料・手順・負荷をかけたときに、期待した性能が出るか」を見ます。実製品や本番相当の条件を使うことも多く、ここまで来て初めて「使える設備」として認められます。
段が上がるほど、使うものも変わります。IQは現物と図面と書類で確かめ、OQは水やプラセボ、空運転で確かめる。PQは実製品か本番相当の条件です。前の段が合格していないうちに次へ進めば、どの段で失敗したのかが分からなくなる。
ユーティリティの適格性評価も、この枠組みで進みます。製薬用水システム(WFI注射剤などに使う高純度の水(注射用水・精製水)を、蒸留やろ過などでつくる装置です。詳しく →や精製水経口剤など非注射用途に使う製薬用水で、導電率とTOCで管理されるが、日本薬局方・米国薬局方ではエンドトキシン規格は設けられていない(欧州薬局方では一部規定あり)。詳しく →)のPQは単発ではなく、長期にわたる採水と試験で水質の安定を確認する、時間をかけた段階です。空調(HVAC)や圧縮空気、純蒸気なども同様に、製造環境を支える設備として適格性評価の対象です。
PQが終わるまで、その装置は「置いてあるだけ」です。
試験室の機器は別の枠組みで動く ― USP <1058>
ここで混同されやすいものがあります。
製造装置のIQ・OQ・PQと、試験室の分析機器のIQ・OQ・PQは、同じ略語を使いますが別の枠組みで動いています。分析機器のほうは USP <1058>(Analytical Instrumentation Qualification)が扱い、機器をグループA・B・Cに分けて、要求される適格性評価の深さを変えます。目盛りを読むだけの単純な器具と、HPLCイオン対試薬を使い疎水性の差で分ける液体クロマト。一本鎖と二本鎖RNAの分離やdsRNA除去に使われます。詳しく →のような制御系を持つ装置では、同じ手順を当てても意味がありません。
製造装置の適格性評価の手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →を、そのまま試験室のHPLCに当てはめると、要らない試験が並ぶか、必要な確認が抜けます。 どちらの枠組みに乗る機器なのかを、SOPを書く前に決めておきます。分析法そのものの妥当性はバリデーションとベリフィケーションの枠組みで、日々の運用はシステム適合性で見ます。
IQ・OQ・PQはどれも「装置が意図どおりか」を見ます。工程が一貫して規格品を作れるかを見るのはPPQで、別の活動です。名前が似ているぶん、設備の合格をもって工程の裏づけとしてしまう取り違えが起きます。
プロセスバリデーションとの関係と、再適格性評価
適格性評価は、単独では完結しません。 設備の適格性評価が済んで初めて、その設備で回す工程のプロセスバリデーションに進める という前後関係があります。PQ(設備の性能確認)とPPQ(工程性能適格性評価)確立した管理戦略のもと、商業規模のロットで品質の再現性を実証する段階。上市前に行います。は名前も概念も近いため混同されやすいのですが、PQは「設備が性能を出せるか」、PPQ決めた製造工程が、いつも安定して規格に合う製品を作れることを事前に実証し、その後も確認し続ける取り組みです。承認申請や品質保証の土台になります。詳しく →は「工程が一貫して規格品を作れるか」を対象にします。設備が信用できるという足場の上に、工程の裏づけが載る構造です。
現在の規制は、この一連をライフサイクル(製品の一生涯にわたる活動)として捉えます。適格性評価は上市前に完結するイベントではなく、稼働後も設備が適格な状態を保っているかを見続けます。ここで登場するのが再適格性評価(Requalification稼働後の装置が適格な状態を保っているか、定期的に、または重要な変更時に改めて確認する活動。)です。装置は使い続ければ摩耗し、部品交換や改造も入ります。だからこそ、定期的に、あるいは重要な変更があったときに、適格な状態を保っているかを改めて確認します。
適格性評価は上市前に終わるイベントではなく、設備が現役でいるあいだ続く活動です。
きっかけは四つあります。定期的な見直しなら、リスクに応じた周期でOQとPQの項目を再確認する。部品交換や改造なら、影響範囲を評価して必要な段階を再実施します。移設やスケール変更は据え付けからのやり直しで、IQ以降を通す。逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →や不具合が出たときは、原因調査のうえで関連項目を再評価します。
どの範囲を、どの周期で再確認するかは、単一の固定ルールがあるわけではなく、リスクに基づいて決めるのが一般的な考え方です。変更のたびに全項目をやり直すのではなく、影響を受ける範囲を見極めて必要な段階だけを再実施する、という整理をとります。この考え方は、プロセスバリデーションにおける変更時の再評価とも共通しています。
まとめ
適格性評価は、製造に使う装置やユーティリティが「意図どおりに使える状態にある」ことを、文書化された証拠で裏づける活動です。出発点はURS(要求仕様)で、そこから設計を確かめるDQ、据え付けを確かめるIQ、運転を確かめるOQ、実運用の性能を確かめるPQへと、上流から下流へ段階を積み上げていきます。URSの各要件が後段の各段階に追跡できる構造になっているため、起点であるURSの質が全体の質を左右します。
適格性評価は、それだけで完結するものではありません。設備が適格だという足場があって初めて、その設備で回す工程のプロセスバリデーションが成り立ちます。稼働後も、再適格性評価によって適格な状態を保っているかを見続けます。GMPの全体像やプロセスバリデーション、データインテグリティと並べて読むと、設備の裏づけが日々の製造判断にどう効いてくるかが見えてきます。
進める順番
最後に、設備の適格性評価をどの順で進めるかを並べます。
先に書くのはURSです。装置を選ぶ前に、使う側が求める要件を文書にする。培養容量、温度・pH・DOの制御範囲と精度、CIP/SIPへの対応、記録の完全性。ここで曖昧に書いた項目は、後段のどの試験でも検証できません。 カタログを見てから要件を書けば、その装置ができることが要件になってしまう。
次に、供給者の試験をどこまで使うかを決めます。EU GMP Annex 15 は、FAT や SAT のような供給者側の試験や文書を適格性評価に取り込んでよいとしています。二重の試験を避けるための整理なので、契約の段階で「どの試験の記録をもらうか」を決めておきます。
そのうえで、トレーサビリティマトリクスを作ります。URSの各要件が、DQ・IQ・OQ・PQのどの試験で確認されるのか。監査で「その要件はどこで確認したのか」と問われたときの答えが、この表です。試験を実施してから作ると、対応づかない要件が出てきます。
最後に、再適格性評価の周期と引き金を決めます。定期見直しの周期、部品交換や改造のときの判断基準、移設のときにどこから戻すか。稼働後に決めようとすると、最初の変更が起きた時点で判断の根拠がありません。
参考文献
- EMA / European Commission, EU GMP Annex 15: Qualification and Validation
- FDA, Guidance for Industry: Process Validation — General Principles and Practices (2011)
- ICH Q10, Pharmaceutical Quality System
- ICH Q9(R1), Quality Risk Management
- ASTM E2500, Standard Guide for Specification, Design, and Verification of Pharmaceutical and Biopharmaceutical Manufacturing Systems and Equipment.
- USP General Chapter <1058>, Analytical Instrumentation Qualification.
- PIC/S, Guide to Good Manufacturing Practice for Medicinal Products (PE 009)
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