細胞治療基礎知識・製造工程

細胞治療の凍結保存とコールドチェーンとは?生存率を保って届ける

製造が終わった瞬間、次の問いが立ちます。どうやって患者のもとへ届けるか。作ることと届けることが、これほど地続きの医薬品は多くありません。

抗体やワクチンなら、常温か冷蔵で運べます。分子は止まっていても壊れませんし、動き出す必要もありません。細胞治療生きた細胞そのものを有効成分とする医薬。CAR-Tなどが代表。詳しく →製品はそうはいきません。細胞そのものが医薬品なので、投与されるその瞬間まで生きていなければならない。しかも製造拠点と投与施設が離れていれば、数日から、在庫品なら数か月の保管と輸送が挟まります。その間ずっと、細胞は生きたまま止まっていなければなりません。

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細胞治療の凍結保存とコールドチェーンとは?生存率を保って届ける

だから止めて運び、また動かす技術が要ります。ただし温度を下げればよいわけではありません。水が氷になる過程で、細胞は二種類の傷害を同時に受けます。しかもその二つは、避け方が互いに逆を向いています。本稿では、その二つの傷害から始めて、DMSOが抱える相反、制御速度凍結毎分1℃前後でゆっくり降温し、氷晶損傷と浸透圧ストレスの両方を抑える凍結法。詳しく →で見落とされる潜熱、容器の選択、気相保管検体を液体窒素に浸さず上部の極低温ガス層で保つ長期保管。交差汚染を避けられる。詳しく →を選ぶ理由、輸送、そして解凍後の品質を整理します。最後に、鎖を設計する順番を並べます。自家か他家健常ドナー由来の細胞から在庫型で製造するCAR-T。拒絶やGvHDを避ける改変を要する。詳しく →かで守る対象が変わるところまで含めて見ていきます。以下は製造と品質の技術解説で、特定製品の効能効果を示すものではありません。

この記事の要点
  • 細胞治療製品は生きた細胞が医薬品であり、投与の瞬間まで生存率と力価を保って届ける必要があります。
  • 二要因仮説に基づく最適冷却速度を、DMSO等の凍害保護剤とプログラムフリーザーの制御速度凍結で実装します。
  • 液体窒素の気相保管とバリデート済みパッシブシッパーで低温を保ち、自家と他家で在庫戦略が根本から異なります。

二つの傷害 ― 氷晶と溶質濃縮

細胞を凍らせると、まず細胞の外の水が凍り始めます。

氷ができると、周りの溶質が濃縮されます。細胞の外が高浸透圧溶液中の溶質濃度で決まる、水を引き込む圧。培養では上昇が細胞ストレスになる管理項目。詳しく →になり、細胞内の水が外へ引き出される。細胞は脱水のストレスを受けます。これが一つめの傷害です。

では速く冷やせばよいかというと、逆の問題が出ます。細胞内の水が出ていく前に凍れば、細胞の中で氷の結晶ができる。膜も細胞小器官も物理的に壊れます。これが二つめです。

ゆっくり冷やせば脱水で傷み、速く冷やせば氷晶で壊れる。この相反を体系化したのが Mazur らの二要因仮説凍結時に溶液効果による傷害と細胞内氷晶による傷害が両立し、最適冷却速度が存在するとする説。詳しく →で、細胞ごとに両方の傷害が最小になる最適冷却速度が存在する、という整理です。凍結保存生きた細胞を低温で止めて保管し、後で融解して使えるようにする技術。詳しく →の設計は、どちらの傷害を選ぶかではなく、両方が最小になる一点を探す作業です。

DMSOの相反 ― 守るほど投与しにくい

最適冷却速度を実現しやすくするのが凍害保護剤凍結時の氷晶や浸透圧ストレスから細胞を守る添加剤。DMSOが代表的。詳しく →です。代表が DMSO水に溶けにくい薬物やリンカーを溶かし込み、抗体との結合反応を進めるために少量加える有機溶媒です。詳しく → で、細胞膜を透過して細胞内に入り、氷晶の成長を抑え、浸透圧のストレスを緩和します。

細胞治療では最終濃度 5〜10% の DMSO を含む凍結保存液が広く使われます。ヒトアルブミンやデキストランブドウ糖が連なった標準物質で、同一条件で流してGU値の目盛りづくりに使う。詳しく →、各種の糖を組み合わせた処方もあります。製品としては BioLife Solutions の CryoStor、Thermo Fisher Scientific の Synth-a-Freeze、STEMCELL Technologies や Miltenyi Biotec の凍結保存液細胞を凍らせて保存する際、氷の結晶による傷みを抑えて生存率を保つための保護液です。詳しく →が並びます。

ここに相反があります。DMSO は投与時に悪心や血圧の変動、心血管系の反応といった副反応と結びつくことが知られています。濃度を上げれば凍結中の保護は厚くなりますが、投与時の負荷が増える。洗浄して除く運用もありますが、洗浄そのものが細胞にストレスをかけ、回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。詳しく →も落ちます。

しかも施設によって、使用量も洗浄の有無もばらつくと報告されています。 凍結保存液の設計は、凍結中の保護と投与時の負荷という相反の配分で、濃度だけを安易に動かせません。

POINT

DMSOの濃度は凍結の都合だけでは決められません。投与する側の負荷と、洗浄するなら洗浄でのロスまで並べて決めます。凍結の成績が良い処方が、臨床で使いやすい処方とは限りません。

制御速度凍結と潜熱

最適冷却速度を狙って実装するのが制御速度凍結です。多くの細胞治療製品では 毎分 1 ℃ 前後でゆっくり下げる緩慢凍結が採られます。

これを再現するのがプログラムフリーザーです。液体窒素の噴霧量を制御してチャンバーの温度を設定どおりに下げ、サンプルの温度を記録します。Thermo Fisher Scientific の CryoMed、Planer の Kryo シリーズ、Cytiva の VIA Freeze といった装置が使われます。

ここで見落とされるのが潜熱です。過冷却した水が一気に凍る瞬間、結晶化溶液中の目的物質を固体の結晶として析出・単離する精製操作で、不純物の除去にも利用される。詳しく →の熱が出てサンプルの温度が跳ね上がります。放っておけば、設定は 毎分 1 ℃ でも実際の温度履歴はまったく別物になる。だからプロファイルには、この発熱を打ち消す急冷のステップを組み込みます。

冷却速度と解凍の速度は組み合わせで効きます。ある報告では、冷却が 毎分 1 ℃ 以下なら検討した範囲の解凍速度の影響は小さく、急冷した場合は解凍速度の影響が大きくなるとされます。 プログラムフリーザー冷却する速度を細かく制御して細胞をゆっくり凍らせ、凍結によるダメージを抑える装置です。詳しく →の値打ちは冷やすことではなく、潜熱補償を含むプロファイルを毎ロット再現し、記録を残せることです。

バッグかバイアルか ― 熱の伝わり方が違う

容器は二系統です。

凍結バッグは 数十〜数百 mL の大容量を扱え、投与時にそのまま輸液ラインへつなぐ閉鎖系を組めます。CAR-T患者や健常ドナーのT細胞にCAR(キメラ抗原受容体)を導入し、がん細胞を攻撃させる細胞治療。詳しく → のような自家・単一患者バッチでは、患者1人分をバッグ単位で凍結して解凍して投与する運用が一般的です。ただしフィルムが薄く、低温では脆くなります。割れとピンホールのリスクがあるので、保護スリーブの使用と取扱手順の整備が要ります。

クライオバイアル細胞などを凍結保存するために使う、極低温に耐える小型の容器(チューブ)です。詳しく →は少量を複数に分けて凍結でき、リテインサンプルを取りやすい。他家製品で1ドナーから多数の投与単位を作るなら、バイアル分注で在庫管理する設計が成り立ちます。

容器の厚みと表面積は熱の伝わり方を変えます。だからバッグとバイアルでは、同じプログラムでも実際の冷却履歴が違う。プロファイルは製品ごとではなく、容器ごとに検証します。

気相保管を選ぶ理由

凍結した製品は、ガラス転移点これを下回ると分子運動が止まり氷の再結晶が進みにくくなる温度。凍結保管温度の目安。詳しく →より十分低い温度で保ちます。DMSO を含む系では おおむね -130 ℃ 前後 がその目安で、これを上回ると保管中に氷の再結晶化ガラス転移温度より高い温度帯で、小さな氷が集まって大きく育つ現象。細胞を傷つける原因になる。が進んで品質が落ちます。

だから液体窒素保存タンクで長期保管します。装置は Chart Industries の MVE、Custom Biogenic Systems、Taylor-Wharton といったメーカーのものが使われます。

ここで重要なのが、液相ではなく気相を選ぶ点です。気相ではサンプルを液体窒素に浸さず、タンク上部の窒素ガス層に置きます。

理由は交差汚染です。液相に浸すと、バッグの破損部やバイアルのネジ部から液体窒素が侵入し、別の検体に由来する病原体を持ち込む経路になりえます。気相ならこのリスクが下がります。

かわりの代償が温度の不均一です。気相はタンク内に勾配ができやすく、上部ほど温度が高くなります。全棚が -150 ℃ 以下 を保てるかのマッピングと、連続の温度監視、液面の警報、自動補充が運用の要件です。 気相は交差汚染を下げるかわりに温度の均一性を難しくするので、タンクのマッピングがそのまま保管の適格性です。

輸送 ― ドライアイスでは足りない

製造拠点から投与施設へ運ぶ区間が、鎖の最後の難所です。

まず、ドライアイスでは足りません。ドライアイスの温度は 約 -78 ℃ で、前節のガラス転移点よりずっと高い。短距離なら成り立つ場合もありますが、細胞治療製品の長距離輸送には不十分なことが多くなります。

主流は液体窒素を使ったパッシブシッパー電源を使わず保冷材の力だけで内部の温度を保ち、低温を維持したまま製品を輸送する容器です。詳しく →、いわゆるドライシッパー多孔質材に液体窒素を含ませ、自由液を持たずに気相の超低温を数日から2週間ほど保つ輸送容器。詳しく →です。吸着材に液体窒素を含ませて気相の環境を作る二重壁の容器で、電源なしに 数日から10日 ほど極低温を保てます。Cryoport や CRYOPDP、Chart Industries といった事業者がこの領域を担います。

バリデート済みという言葉の中身も確かめてください。想定する輸送時間、外気温、姿勢、そして振動。横倒しにされても内部が規定温度を保つことを試験で確認済み、という意味です。

実運用ではデータロガーで全行程の温度を記録し、規格を外れたときに出荷判定をどうするかを先に手順化します。GPSと温度の遠隔監視を併用し、税関や悪天候による遅延に備えた追跡の体制も組みます。温度逸脱輸送・保管中に規定の温度範囲を外れること。出荷判定の扱いを事前に手順化しておく。詳しく →が起きてから判断を考えると、生きている製品を前に会議をする羽目に陥ります。

解凍と、規格は満たすが無傷ではないという問題

最後の関門が解凍です。

一般には 37 ℃ 前後の水浴か、乾式の解凍装置で行い、できるだけ短時間で氷を溶かして再結晶化を避けます。乾式は水浴より汚染のリスクが低く、解凍のプロファイルを記録できます。BioLife Solutions の ThawSTAR、Cytiva の VIA Thaw といった装置がこの用途です。

解凍後は DMSO の毒性が時間とともに効くので、規定の時間内に投与するか洗浄します。ベッドサイドで解凍してそのまま輸注する運用も少なくありません。

ここで一つ、注意しておきたい報告があります。CAR-T を対象とした研究では、製造途中での凍結保存が最終製品の拡大培養効率や形質導入効率、臨床応答に大きな影響を与えなかったとされる一方、凍結解凍後にアポトーシス細胞が遺伝的プログラムに従って自発的に死に至る過程で、壊死とは異なり膜の完全性が初期段階では保たれる。詳しく →関連マーカーの上昇など微細な細胞ストレスが観察されたとも報告されています。

つまり、規格は満たすが無傷ではない可能性がある。 解凍後の生存率だけで判断せず、サイトカイン細胞が放出する免疫の情報伝達物質。細胞治療では効果と安全性のリードアウトになる。詳しく →産生や増殖能といった機能まで含めて評価を組みます。

自家と他家で変わる在庫戦略

鎖の設計は、自家か他家かで根本的に変わります。

自家は患者1人分を単一患者バッチで作るので、在庫という概念が薄い。製造から投与までを最短でつなぐ vein-to-vein患者から細胞を採取してから、製品を投与できる状態で戻すまでの総時間。細胞治療の重要指標。詳しく → の時間最適化が中心です。1ロットが1人の治療機会そのもので、凍結と輸送のどこか1点の失敗が取り返しのつかない結果に直結します。容器はバッグ単位が多く、配送は個別で、追跡を重視します。

他家は1ドナーから多数の投与単位を作れるので、あらかじめ凍結しておく在庫型あらかじめ製造・凍結して在庫し、需要に応じて出荷できる在庫型の供給運用。他家製品で成り立つ。の運用が成り立ちます。論点は長期保管中の安定性、バイアルやバッグ単位の追跡、そして需要に応じた解凍と出荷のリードタイム管理へ移ります。配送は計画的になり、在庫の補充をどう最適化するかが課題です。

失敗の影響も違います。自家なら1人の治療機会の喪失で、他家なら複数の投与単位に波及します。自家は時間を、他家は安定性を守る設計で、同じ凍結保存でも守る対象が違います。

POINT

自家と他家で、コールドチェーンに求めるものが変わります。自家は速さと確実性、他家は長期の安定性と在庫の追跡。同じシッパーを使っても、逸脱が起きたときの判断基準は別々に決めておきます。

鎖を設計する順番

最後に、順番を並べます。

先に決まるのは容器です。バッグかバイアルか。投与の形と、自家か他家かで決まります。容器が決まらないと、冷却のプロファイルが検証できません。 プロファイルは製品ではなく容器に付くので、容器を後から変えると全部やり直しです。

次に凍結保存液の処方を決めます。DMSO の濃度をどこに置くか。洗浄するのかしないのか。投与側の負荷まで含めて決めます。

そのうえでプロファイルを作り込みます。毎分 1 ℃ を基準に、潜熱の補償を組み込み、サンプルの実温度で確かめる。設定値ではなく実測の履歴を見ます。

最後に保管と輸送を組みます。タンクのマッピング、シッパーの選定、温度逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →が起きたときの判断基準。 判断基準だけは、逸脱が起きる前に文書にしておきます。

凍結保存の位置づけは再生医療全体で共通する基盤技術で、再生医療 特集でも横断的に扱っています。

参考文献

ガイドライン・基準

  • ICH Q5Cバイオテクノロジー応用医薬品の安定性試験の考え方を示す国際調和ガイドライン。詳しく →: Quality of Biotechnological Products — Stability Testing of Biotechnological/Biological Products(生物薬品の安定性試験出荷時から有効期限まで品質特性が規格内にとどまることを確認する試験。詳しく →)
  • ICH Q5D生物薬品の製造に使う細胞基材の樹立と特性解析について定めた国際調和ガイドライン。詳しく →: Derivation and Characterisation of Cell Substrates Used for Production of Biotechnological/Biological Products
  • FDA Guidance for Industry: Considerations for the Development of Chimeric Antigen Receptor (CAR特定の抗原を認識するよう設計し、細胞に導入して指向性を与える人工の受容体。詳しく →) T Cell Products(2024)
  • EMA Guideline on Human Cell-Based Medicinal Products(EMEA/CHMP/410869/2006)
  • ISCT/ISBT/AABB/FACT 等による Cellular Therapy Coding and Labeling(ISBT 128)標準
  • ISSCR Guidelines for Stem Cell Research and Clinical Translation
  • 厚生労働省(PMDA)「再生医療等製品の品質、非臨床試験及び臨床試験の実施に関する技術的ガイドライン」

主な文献

  • Mazur P, Leibo SP, Chu EH. A two-factor hypothesis of freezing injury. Evidence from Chinese hamster tissue-culture cells. Exp Cell Res. 1972;71(2):345-355. PMID: 5045639. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/5045639/
  • Hubel A. Parameters of cell freezing: implications for the cryopreservation of stem cells. Transfus Med Rev. 1997;11(3):224-233. PMID: 9243775. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9243775/
  • Windrum P, Morris TC, Drake MB, et al. Variation in dimethyl sulfoxide use in stem cell transplantation: a survey of EBMT centres. Bone Marrow Transplant. 2005;36(7):601-603. PMID: 16044141. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16044141/
  • Panch SR, Srivastava SK, Elavia N, et al. Effect of Cryopreservation on Autologous Chimeric Antigen Receptor T Cell Characteristics. Mol Ther. 2019;27(7):1275-1285. PMID: 31178392. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31178392/
  • Baboo J, Kilbride P, Delahaye M, et al. The Impact of Varying Cooling and Thawing Rates on the Quality of Cryopreserved Human Peripheral Blood T Cells. Sci Rep. 2019;9(1):3417. PMID: 30833714. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30833714/

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、細胞治療に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。