白血球アフェレーシスとは?細胞治療の出発材料で確かめること

白血球アフェレーシス血液成分を分離して目的の細胞(単核球など)を採取する手法。細胞治療の出発材料の採取に使う。詳しく →は、血液から単核球だけを集めて残りを体に戻す採取法で、CAR-T患者や健常ドナーのT細胞にCAR(キメラ抗原受容体)を導入し、がん細胞を攻撃させる細胞治療。詳しく →などの細胞治療生きた細胞そのものを有効成分とする医薬。CAR-Tなどが代表。詳しく →の出発材料を得るために使われます。CAR-Tの製造が成功するかどうかは、細胞が工場に届く前に、かなりの部分が決まっています。
ただし、出発材料の質は採取装置の性能だけでは決まらず、患者の前治療、採取装置とプログラム、採取後の運び方の3つで決まります。
この記事では、採取装置の違いと収集効率の読み方、患者側の事情、新鮮輸送と凍結の違い、受け入れ規格、採取施設とメーカーに確かめる点を順に説明します。
1. 採取装置の違い ― 連続流・間欠流と、収集効率の読み方
白血球アフェレーシス(leukapheresis)は、血液を装置に通して遠心し、単核球の層だけを採取バッグアフェレーシス(成分採血)で採取した細胞を入れ、製造施設まで運ぶための使い捨てバッグです。細胞療法の出発材料を収める容器です。詳しく →に集め、残りを患者に戻す採取法です。CAR-Tの出発材料は、この産物です。
装置は大きく、連続流遠心式と間欠流式の2種類に分かれます。
- 連続流遠心式:血液を回し続けながら層を分けます。Terumo BCT の Spectra Optia は光学センサーで層の境目を見て流量を自動で調整し、Fresenius Kabi の COM.TEC と Amicus はプログラムを切り替えて使います。
- 間欠流式:Haemonetics の MCS+ のように、遠心ボウルに血液をためては送り出す方式で、1回に処理できる量に制約が出ます。
同じ連続流でも、構成とプログラムで産物の中身は変わります。COM.TEC には、単段チャンバの MNC プログラムと、二段チャンバの PBSC-LYM プログラムがあります。
単段で単球(CD14陽性細胞)の収集効率が高く出た報告では、血小板の残留も多く見つかっています。血小板や単球の混入は、T細胞の活性化や遺伝子導入、培養のしやすさに響きます。
収集効率(CE2、collection efficiency)は、処理した血液にあった目的の細胞のうち、何割を採取バッグに集められたかを示す割合です。帳票やカタログで最初に目に入る数字ですが、産物の質の結果として出てくる数字の一つにすぎず、これだけで装置や産物を比べると誤ります。
採取される人が白血球を増やす薬で動員されているか、処理した血液量はいくらか、どのプログラムかで、値が動くためです。収集効率が高くても、血小板が多く混ざっていれば、使いやすい産物とは限りません。
収集効率は「どれだけ採れたか」の数字で、「どれだけきれいか」の数字ではありません。条件とセットで読みます。
2. 患者側の事情 ― 前治療とリンパ球数
同じ装置と同じプログラムを使っても、採れる細胞の質は患者で大きく違います。
化学療法やステロイドの影響で、採取の時点でリンパ球が減っている患者がいます。採取前の絶対リンパ球数(ALC、absolute lymphocyte count)が少なければ、同じ量の血液を処理しても採れるT細胞は少なくなります。その場合は処理する血液量を増やして対応しますが、それでも目標の細胞数に届かない例は珍しくありません。
薬の選び方も、材料の質に響きます。ヨーロッパ7施設の大細胞型B細胞リンパ腫の患者439人を調べた解析では、ベンダムスチンという抗がん剤を使っていた患者は、採取時のCD3陽性細胞と血小板が少なくなっていました。採取の前の9か月以内に使っていた患者では、CAR-Tの奏効率と生存期間も低くなっていました。
日本の全国規模の解析は、tisagenlecleucel の製造が成立しなかった例を調べています。ベンダムスチンの繰り返しの使用と短い間隔が、血小板の少なさやCD4/CD8比の低さとともに、製造の不成功に関連していました。どちらも過去の症例を振り返った解析で、薬が原因だと証明したものではありません。
採取日に数字を見てからでは、材料は変えられません。そのため、製造側と病院が採取前の治療歴を共有できているかが、受け入れ規格より前に効いてきます。
産物の組成では、単球や血小板、血液がんの患者では血液中を循環する腫瘍細胞(芽球)が、どれだけ混ざっているかを見ます。
T細胞の中身も一様ではなく、未分化なナイーブ寄りの細胞が多いほど、培養での増え方や体内での持続に有利とされます。前治療を重ねた患者では、エフェクター寄りに偏りやすい傾向があります。
細胞数だけでなく、T細胞の割合と混入細胞も受け入れ時に測っておくと、培養で増えなかったときに、原因を採取の段階までさかのぼれます。
出発材料の質は、採取の日ではなく、その何か月も前の治療の選び方から始まっています。受け入れ規格は、採取日の数字と、前治療の情報の両方で組みます。
3. 新鮮輸送か凍結か ― 運び方で変わる運用
採取した産物の運び方は、新鮮のまま運ぶか、採取施設で凍結して運ぶかの2つです。
新鮮輸送では、採取から出荷までの時間に上限があります。Yescarta と Tecartus の採取産物は、ある臨床試験の計画書によると、新鮮のまま採取後48時間以内に出荷されます。
運ぶときは、2〜8℃程度に冷やしたまま搬送します。採取日と製造枠が一対一で結びつくため、週末をはさむ採取や輸送の遅れが、そのまま材料の質に響きます。
凍結は採取日と製造日を切り離せるため、製造枠の調整がしやすく、材料を手元に保管する選択肢も生まれます。その代わり、採取施設に凍結の設備と手順が要ります。
凍結保存液細胞を凍らせて保存する際、氷の結晶による傷みを抑えて生存率を保つための保護液です。詳しく →には、DMSO(ジメチルスルホキシド)を含む無血清のもの、たとえば BioLife Solutions の CryoStor CS10 がよく使われます。凍結の速度は制御して下げ、採取から凍結開始までの時間、凍結速度、保管と輸送の温度を記録して管理します(細胞治療の凍結保存と輸送)。
採取施設が増えるほど、この手順を各施設で同じ水準に保つ負担が大きくなります。
新鮮か凍結かは、保存方法の好みで決める話ではありません。採取施設の数、製造枠の取り方、遅れたときの代わりの手順をどう設計するかの選択です。
4. 受け入れ規格 ― 線をどこに引くか
受け入れ規格に一律の正解はなく、総有核細胞数、CD3陽性細胞数、生存率の下限を数値で決めるのが一般的です。
判断が難しいのは、ぎりぎりの材料でも受け入れて製造のリスクを負うか、規格外試験結果が規格の範囲を外れること。原因調査の対象になる。詳しく →として見送るかです。自家製品では患者に代わりの材料がなく、見送れば再採取の負担や治療の遅れが患者に及びます。一方で、規格をゆるめれば製造の不成功が増えます。
そのため規格は品質保証だけで決めず、外れたときに誰が判断するか、再採取を依頼する基準は何か、採取の前倒しや複数回の採取を検討するのはどの時点かを、病院側と先に決めます。
細胞数と生存率の測り方が採取施設と製造施設で違えば、同じ産物でも数字が食い違うので、測定法もそろえます(細胞数・生存率の測定法)。
規格を厳しくする前に、外れたときに誰が何を判断するかを決めておきます。そうしないと、代わりのきかない患者の材料を、機械的にはじくことになりかねません。
5. 明日から確かめられること ― 採取施設とメーカーへの質問
品質保証なら受け入れ規格の引き方、購買なら採取装置や凍結資材の選び方、製造なら採取施設とのスケジュールの組み方が、ここまでの内容に関わります。採取施設への依頼や、装置・資材の見積もりの前に、次の順に確かめます。
- 前治療の情報:採取前の治療歴(薬剤名と最終投与日)を、受け入れ情報として受け取れるかを確かめます。
- 装置と混入:採取装置とプログラムは何か、血小板や単球の混入量を受け入れ時に測っているかを確かめます。
- 収集効率の条件:収集効率を示す資料に、動員の有無、処理した血液量、プログラムが書かれているかを確かめます。メーカーには「何%か」より「どの条件で測った値か」を聞きます。
- 運び方:新鮮輸送なら、採取から到着までの上限時間、温度の記録、遅れたときの代替手順があるかを確かめます。凍結なら、採取施設に凍結の設備と手順があり、採取から凍結を始めるまでの上限時間、凍結速度、保管と輸送の温度を記録できるかを確かめます。
- 受け入れ規格と測定法:受け入れ規格の下限(総有核細胞数、CD3陽性細胞数、生存率)と、外れたときの判断者と手順が文書になっているかを確かめます。細胞数と生存率の測定法が、採取施設と製造施設でそろっているかも見ます。
資材を選ぶときは、まず採取施設の装置の型式を確かめます。採取ラインのディスポーザブルセットは装置ごとに専用のものが多く、型式で使える資材の範囲が決まるためです。
装置と資材は、アフェレーシス・輸送バッグ、アフェレーシスシステム、凍結バッグ、凍結保存液、プログラムフリーザー、液体窒素保存タンク、温度モニタリングの製品ページで比べられます。受け入れ時の測定には、セルカウンターとフローサイトメトリーが使われます。
採取した細胞がこの先どう作られるかはCAR-T細胞療法の製造工程、取り違えを防ぐ記録はChain of Identity / Chain of Custodyで解説しています。出発材料の質を上げる試みはCAR-Tの出発材料を健常時に預ける、他人の細胞を使う方式との違いは自家と他家の細胞治療で読めます。
参考文献
- Iacoboni G, et al. Recent bendamustine treatment before apheresis has a negative impact on outcomes in patients with large B-cell lymphoma receiving chimeric antigen receptor T-cell therapy. J Clin Oncol. 2024;42(2):205-217. DOI: 10.1200/JCO.23.01097. https://doi.org/10.1200/JCO.23.01097(欧州7施設439人の解析。ベンダムスチンの使用と9か月以内の使用)
- The ASCO Post, Effect of Bendamustine Prior to Apheresis on Outcomes in Large B-Cell Lymphoma Treated With CAR T-Cell Therapy(2023年11月)
- Jo らによる Br J Haematol 2023年の論文(日本輸血・細胞治療学会を通じた全国の後ろ向き解析。tisagenlecleucel の製造不成功の要因。京都大学学術情報リポジトリ掲載). https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/284127/1/bjh.18831.pdf
- ClinicalTrials.gov, MT2017-45: CAR-T Cell Therapy for Heme Malignancies(NCT03642626)プロトコル(Yescarta・Tecartus の採取産物を新鮮のまま、採取後48時間以内に出荷、との記載)
- Karafin MS, et al. Spectra Optiaによる単核球(MNC)採取効率の評価. J Clin Apher. 2014.
- Strasser EF, et al. COM.TECによるCD14+細胞採取. Transfusion. 2006.
- STEMCELL Technologies, CryoStor® CS10 製品情報
- 1CAR-T細胞療法の製造工程とは?採取から凍結、品質の確認点まで
- 2白血球アフェレーシスとは?細胞治療の出発材料で確かめることいま読んだ記事
- 3T細胞の活性化と拡大培養とは?CAR-Tの質を決める培養日数
- 4CAR-Tのベクター選択:レンチウイルスとγレトロウイルスの違い
- 5CAR-TのVCNとは?qPCRとddPCRの違いと、規格の数字の読み方
- 6CAR-Tの凍結製剤とは?DMSO、凍結速度、容器の選び方
- 7Chain of Identity / Custody とは?細胞治療の取り違えを防ぐ仕組み
- 8閉鎖系・自動化でCAR-Tを作る:Prodigy院内製造の報告で見る使いどころ
- 9CAR-Tの出発材料を健常時に預ける:自動閉鎖系バンキング論文
- 10体内で作るCAR-T(in vivo CAR-T)とは?製造で何が変わるか
- 11論理ゲート型CARとは?2つの抗原で正常細胞を避ける設計
次に読む
細胞治療/CAR-T細胞療法この製造の全体像を、工程マップで見るこの記事に関連する工程
この分野の新着を、メールで受け取る
こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを毎週水曜の朝にお届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。
登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。閲覧の記録(どのページから、どの会社のサイトへ移ったか)を、ご案内のために使います。
目次・関連閉じる
- 1CAR-T細胞療法の製造工程とは?採取から凍結、品質の確認点まで
- 2白血球アフェレーシスとは?細胞治療の出発材料で確かめること
- 3T細胞の活性化と拡大培養とは?CAR-Tの質を決める培養日数
- 4CAR-Tのベクター選択:レンチウイルスとγレトロウイルスの違い
- 5CAR-TのVCNとは?qPCRとddPCRの違いと、規格の数字の読み方
- 6CAR-Tの凍結製剤とは?DMSO、凍結速度、容器の選び方
- 7Chain of Identity / Custody とは?細胞治療の取り違えを防ぐ仕組み
- 8閉鎖系・自動化でCAR-Tを作る:Prodigy院内製造の報告で見る使いどころ
- 9CAR-Tの出発材料を健常時に預ける:自動閉鎖系バンキング論文
- 10体内で作るCAR-T(in vivo CAR-T)とは?製造で何が変わるか
- 11論理ゲート型CARとは?2つの抗原で正常細胞を避ける設計
Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/leukapheresis-apheresis-starting-material