CAR-Tの凍結製剤とは?DMSO、凍結速度、容器の選び方

同じCAR-Tでも、凍結保存液細胞を凍らせて保存する際、氷の結晶による傷みを抑えて生存率を保つための保護液です。詳しく →の中身は製品ごとに違います。米国の添付文書では、YescartaはDMSO(ジメチルスルホキシド、凍結から細胞を守る薬剤)5%とヒトアルブミン2.5%、Kymriahは7.5%のDMSOに、デキストラン40やアルブミンなどを加えた液です。配合に決まった正解はなく、細胞の性質、凍らせ方、容器、投与の手順を合わせて決めた結果です。
細胞は除菌ろ過細菌を止めることを実証したフィルターに液を通し、無菌のろ液を得る工程です。除菌ろ過・ろ過滅菌とも呼び、菌の数を下げるだけのバイオバーデン低減ろ過とは区別します。0.22µm前後の膜が広く使われます。詳しく →のフィルターを通れないので、無菌性は「混入させない作り方」で守るしかありません。凍結から細胞を守るDMSOは、患者にとっては毒性を持つ成分でもあります。製剤の設計は、この二つの制約の中で進みます。
製剤を担当する人だけでなく、保存液や容器、凍結装置を選ぶ購買や営業の人、出荷や輸送を管理する品質保証の人にも、どこで判断が分かれるかを押さえられる内容です。
除菌ろ過が使えない ― 無菌は混入防止で守る
抗体の注射剤は、最終段の除菌ろ過(0.2µm前後のフィルター)で無菌性を担保します。細胞製品では、有効成分の細胞が数µmから十数µmあり、フィルターを通れないので、この手段が使えません。
そこで、出発材料の採取から充填、凍結まで、閉じた系(クローズド系)で組みます。細胞の洗浄、濃縮、製剤化、充填を、無菌接続とシングルユース使い捨ての樹脂製バッグや容器を用いる製造方式です。洗浄・滅菌の手間を減らせる一方、ステンレス設備と比べて特徴が異なり、目的に応じて選び分けます。詳しく →の流路でつなぎ、外気に触れる場面を最小にします。開放の操作が避けられない箇所は、グレードAの環境(アイソレータ外気と隔てた無菌の作業空間をつくり、その中で無菌操作を行う装置です。RABSも作業域を囲うバリアの一種です。詳しく →やRABS)で行います(無菌充填ラインのバリア選定)。
最終製品は試験に回せる量が少なく、有効期間も短いので、無菌性の裏づけも工夫が要ります。培養中と製剤化の前後のバイオバーデン(微生物数)の管理、迅速法を含む無菌試験製品や細胞に細菌・真菌の汚染がないかを確認する試験。薬局方に準拠して行う。詳しく →、培地充填による無菌操作外部から微生物を入れずに工程を進める操作。最終滅菌できない細胞治療では全工程で無菌性を維持する。詳しく →の妥当性確認を組み合わせます(細胞治療の出荷試験と迅速法、培地充填と環境モニタリング)。出荷の時点で最終の無菌試験の結果が間に合わないことも多く、リスクに基づく出荷判定製造したロットを規格に照らして出荷の可否を決める判断。有効期間の短い製品では時間との戦いになる。詳しく →と、事後の確認で運用します。
無菌性はろ過で「取り除く」のではなく、閉じた系と無菌操作で「入れない」ことで守ります。
凍結保存液 ― 承認品に見る違いと、DMSOの代償
CAR-T患者や健常ドナーのT細胞にCAR(キメラ抗原受容体)を導入し、がん細胞を攻撃させる細胞治療。詳しく →の多くは凍結した状態で届けます。製造地と投与地が離れていて、患者ごとの一回限りの製造で、品質を保った輸送も要るからです。中核が、凍結保存生きた細胞を低温で止めて保管し、後で融解して使えるようにする技術。詳しく →液の設計です。
DMSOは細胞膜を通って細胞の内側に入り、細胞内の氷の結晶ができるのを抑え、凍結で溶質が濃くなるストレスを和らげます。添付文書の例では、YescartaがDMSO 5%とヒトアルブミン2.5%の組成で、袋1つあたり約68 mLです。Kymriahは7.5%のDMSOに、デキストラン40、ブドウ糖、電解質液、ヒトアルブミンを加え、袋の液量は10 mLから50 mLです。デキストランは細胞膜を通らず、細胞の外側で働く保護成分の例です。市販の凍結保存液にも、BioLife SolutionsのCryoStorのように、DMSOが10%、5%、2%の品が並びます。
アルブミンは、細胞膜の保護と緩衝に使います。ヒトの血漿や血清に由来する成分は、提供者による違いとウイルス安全性の管理(ICH Q5A(R2)細胞株由来のバイオ医薬品について、ウイルス安全性評価の枠組みを示すICHガイドライン。詳しく →の考え方)が要るので、可能なら由来の明確な組換えアルブミンなどに替える検討が進みます。保存液の成分は、そのまま患者に投与されます。DMSOの量、アルブミンの由来、pH、浸透圧溶液中の溶質濃度で決まる、水を引き込む圧。培養では上昇が細胞ストレスになる管理項目。詳しく →は、細胞を守るためと患者の安全のためと、両方の面から規格にします。
DMSOは常温では細胞にも毒性があり、融解後に長く置けば生存率と機能が落ちます。患者側でも、悪心、嘔吐、紅潮、血圧の変動が知られ、まれに重い反応が起きます。Kymriahの添付文書は、アナフィラキシーを含む重い過敏反応が、DMSOやデキストラン40に起因しうると注意しています。投与されるDMSOの総量には、体重あたりの上限を置く運用が一般的です。
DMSOを減らす方法の一つは、投与の前に洗って除くことです。ただし洗浄は、遠心と培地交換が加わり、細胞の損失、機械的ストレス、開放操作流路や容器を外気に触れさせて行う操作。その回数が無菌操作品における汚染確率の主な原因になる。詳しく →の増加を招きます。袋のままベッドサイドで点滴する運用では、製剤の段階でDMSOの総量を抑えておく必要があります。DMSOを含まない保存液もありますが、細胞製品で使えるかは、製品ごとの検証で決まります。
保存液は「細胞を守る」と「患者に投与される」を同時に満たす妥協点で、配合は製品ごとに検証して決めます。
凍らせ方と容器 ― 制御速度凍結、バッグとバイアル
凍らせ方も、細胞の生き死にを左右します。速すぎる凍結は、細胞の内側に氷の結晶をつくって膜を壊します。遅すぎる凍結は、外側の氷が育つ間に溶質が濃くなり、細胞が脱水して縮みます。その中間に生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。詳しく →が最も高い速度があり、多くの細胞で、毎分1℃程度の緩やかな凍結が使われています。
この速度を再現よく与える装置が、制御速度凍結機冷却速度を制御しながら細胞をゆっくり凍らせ、凍結による損傷を抑える装置。詳しく →(controlled-rate freezer、CRF)です。庫内の温度を決めた曲線に沿って下げ、水が氷に変わるときの熱の放出による温度の跳ね上がりを補い、必要なら氷の結晶ができるタイミングを意図的に作ります(シーディング)。液体窒素を使わない機種を含め、CytivaのVIA Freeze、Thermo FisherのCryoMed、PlanerのKryoなどがあります。

凍結の曲線、袋やバイアルの熱の伝わり方、庫内の並べ方は、いずれも再現性に響くため、バリデーションの対象です。同じ保存液でも凍結の曲線が変われば結果が変わり、同じ曲線でも容器の熱の特性が変われば、細胞が実際に経験する冷え方が変わります。
容器は、極低温に耐え、無菌の障壁を保ち続けることが条件です。
| 観点 | クライオバッグ | クライオバイアル細胞などを凍結保存するために使う、極低温に耐える小型の容器(チューブ)です。詳しく → |
|---|---|---|
| 充填量 | 中容量から大容量、分割に向く | 少量、多検体に向く |
| クローズド系外気と触れずに培地交換やサンプリングを行う閉鎖された流路。無菌を保ち汚染を防ぐ。詳しく →との相性 | 溶着や無菌接続チューブや容器を無菌状態を保ちながら接続する操作で、専用の溶着装置などを用いて行う。詳しく →で組みやすい | 開放の操作が生じやすい |
| 投与への接続 | 解凍後そのまま点滴しやすい | 移し替えを要する場合がある |
| 極低温での弱点 | フィルムやポートの破損に注意 | 割れ、キャップの緩みに注意 |
| 主な用途 | 治療用の主な用量 | 予備、保管用の検体、小児用量など |
YescartaもKymriahも、容器は袋です。無菌ろ過に頼れない細胞製品では、容器が最後に残る無菌の障壁なので、その完全性(コンテナクロージャーインテグリティ、CCIバイアルやシリンジなど一次包装が無菌と気密を保っている状態・品質特性。無菌性を有効期間中に維持する。詳しく →)の保証が、無菌性の保証に直結します。凍結と解凍の繰り返し、保管、輸送の衝撃を想定して評価し、試験法はUSP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく →の包装完全性評価の章(1207)の考え方に沿います。袋や凍結保存液の製品は、製品データベースの凍結バッグ、クライオバイアル、凍結保存液、プログラムフリーザーで比べられます。
保存液、凍結の曲線、容器は、一組で検証します。一つだけ替えても、解凍後の結果は変わります。
保管・輸送と解凍 ― 気相で持つ理由、30分の時間管理
凍結製剤は、水のガラス転移の温度(おおむね−130℃付近)を下回る、液体窒素の気相(おおむね−150℃以下)で保管し、輸送します。Yescartaは、液体窒素のドライシッパー多孔質材に液体窒素を含ませ、自由液を持たずに気相の超低温を数日から2週間ほど保つ輸送容器。詳しく →に入れて−150℃以下の状態で届けられます。この温度を保っている間は、分子の動きがほぼ止まり、品質が長く安定すると考えられています。逆に温度が上がる逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →は、元に戻らない品質の低下を招きうるため、保管と輸送を通じた温度の連続監視が欠かせません。
液体に浸けず、気相で持つのは、実際に感染が起きたからです。1995年にLancet誌に報告された事例では、共有の保存タンクに骨髄や幹細胞を入れていた患者のうち6人が、25か月のあいだに急性のB型肝炎を発症しました。タンクの液体窒素から、うち4人の感染と一致するHBVのDNAが検出され、最初の感染者の骨髄を入れた袋からの漏れが原因とされました。報告は、一次容器を密封することを教訓に挙げ、英国の指針は、気相での保管を、このリスクを減らす通常の方法として示しています。
輸送のドライシッパーは、液体窒素を吸着材に含ませて、こぼれない状態で気相の極低温を保つ容器です。温度ロガーで全行程を記録します。自家CAR-Tでは、患者から採った細胞を製造施設へ運び、製品を投与施設へ戻すので、取り違えを防ぐ管理(チェーン・オブ・アイデンティティ細胞製品を特定の患者と正しく結びつけ、取り違えを防ぐ患者識別の管理。詳しく →)とコールドチェーン製品を凍結・低温のまま保管・輸送する仕組み。細胞治療では生細胞率の維持に直結する。詳しく →が二重に効きます(凍結保存とロジスティクス、細胞の凍結保存とコールドチェーン)。
解凍は、品質の一部です。添付文書では、約37℃の湯浴かドライの解凍装置で、袋の中の氷が見えなくなるまで温めます。解凍の後は速やかに投与し、Kymriahでは解凍して室温になってから30分以内、Yescartaでは袋の中身の全量を30分以内に注入するよう、時間が書かれています。背景には、DMSOが常温で細胞に毒性を持つことがあります。規格の中心は、解凍後の生存率と、機能を反映する力価です。解凍で細胞が一定数失われる前提で、凍結前の細胞密度と充填量に余裕を持たせます(規格の考え方はICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく →に沿います)。
明日から確かめられること
製剤の仕様書や、保存液、容器、凍結装置の提案を前にしたら、次の点を確かめてみてください。
- 保存液の組成(DMSOの濃度、アルブミンの由来、ほかの成分)と、患者に投与されるDMSOの総量
- DMSOとアルブミンのグレード、由来、供給元。ヒトや動物の血漿由来の成分が入っていないか
- 凍結の曲線と、袋やバイアルの庫内の並べ方が、バリデーションされているか
- 容器のCCIを、極低温を含む条件で評価しているか
- 気相での保管と、ドライシッパーでの輸送で、許容する温度の逸脱と記録の方法は決まっているか
- 解凍の方法、解凍から投与までの時間、投与の現場で再現できる手順か
- 解凍後の生存率と力価の規格は何か。凍結前の細胞密度と充填量に、余裕を見ているか
製造工程の全体はCAR-T細胞療法の製造工程に、自動化した閉鎖系の製造は閉鎖系・自動化CAR-T製造に載せています。取り違えを防ぐ仕組みは細胞治療のチェーン・オブ・アイデンティティで解説しています。
参考文献
- FDA, YESCARTA(axicabtagene ciloleucel)添付文書(保存液の組成、液量、−150℃以下での供給、解凍と投与の手順)
- FDA, KYMRIAH(tisagenlecleucel)添付文書(保存液の組成、液量、DMSOとデキストラン40による過敏反応の注意、解凍と投与の手順)
- Tedder RS, et al. Hepatitis B transmission from contaminated cryopreservation tank. Lancet. 1995;346:137-140.(共有の保存タンクを介したB型肝炎の伝播)
- UK Government, Guidance on the microbiological safety of human organs, tissues and cells used in transplantation, Chapter 11: Microbiological risk of cryopreservation of donations(気相保管と密封容器)
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく →, Q5A(R2) ウイルス安全性評価(バイオテクノロジー応用医薬品)
- ICH, Q6B 生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定
- USP, General Chapter 1044 Cryopreservation of Cells
- USP, General Chapter 1207 Package Integrity Evaluation, Sterile Products
- FDA, Considerations for the Development of Chimeric Antigen Receptor (CAR特定の抗原を認識するよう設計し、細胞に導入して指向性を与える人工の受容体。詳しく →) T Cell Products(最終ガイダンス、2024年1月)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/cart-fill-finish-cryoformulation