供給者管理と原材料の受入試験とは?CoAをどこまで信じるか
供給者管理とは、原材料製造の起点となる原料で、その品質や持ち込む不純物が最終製品の品質に影響しうるため、規格管理が重視される物質。や資材を買ってくる相手を評価し、選び、その後も監視し続ける一連の活動です。受入試験は、そこから届いたものが期待どおりかを入口で確かめる工程にあたります。
自社の工程をどれだけ作り込んでも、入ってくるものがばらついていれば品質は安定しません。製造の管理は、自社の敷地の外から始まっている——供給者管理はその考え方を制度にしたものです。

- CoA(試験成績書)に依拠するには、その供給者を評価し、自社の試験結果と繰り返し照合した実績が要ります。
- CoAに依拠できる場合でも、同一性の確認だけは受入側で行うのが原則です。
- 管理の濃淡はリスクで決めます。品目ごとに「何を確認し、何を省くか」を根拠とともに残します。
原材料を分けて考える
同じ「買ってくるもの」でも、製品品質への効き方は同じではありません。まず区分すると全体が整理しやすくなります。
| 区分 | 例 | 管理の重さ |
|---|---|---|
| 原薬の出発物質・中間体ゲノムを途中までしか積んでいないAAVカプシド。空でも実でもない中間的な粒子で、測定時にどちらへ数えるかで比率が動く。 | 合成の出発物質、原薬 | 最も重い。GMP医薬品を一定の品質で安全に造るために守るべき製造・品質管理の基準(適正製造規範)です。詳しく →の適用範囲に関わる |
| 生物由来原料 | 血清、トリプシンタンパク質を決まった位置で切ってペプチド断片にする酵素です。質量分析で配列や修飾を確認する前処理に使います。詳しく →、宿主細胞バンク | 由来とウイルス安全性製造工程がウイルスをどれだけ除去・不活化できるかを評価し、製品の安全性を確保する取り組みです。各工程の低減能力を対数の値で示します。詳しく →の確認が加わる |
| 培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。・添加剤 | 培地、緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。成分 | 工程性能に直結する |
| 添加剤(製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。) | 緩衝剤、安定化剤、界面活性剤タンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく → | 製剤の性質を決める |
| 一次包装製剤に直接触れるバイアルやシリンジなどの容器。無菌性と物理化学的安定性を担う。材 | バイアル、ゴム栓、シリンジ | 製品に接触する。E&Lの対象 |
| 工程資材 | シングルユースバッグ、フィルター、樹脂 | 接触するが最終製品には残らない前提 |
| 補助材 | 洗浄剤、潤滑剤 | 残留の管理が論点 |
この区分がそのまま、後述する管理の濃淡の土台になります。
供給者を「認定する」とは何をすることか
供給者管理は一度きりの審査ではなく、周期を持った流れです。
1. 選定と初期評価 何を買うのかを規格として書き下ろし、候補の供給者に対して品質システムの状況を確認します。質問書(アンケート)の送付、品質に関する取り決めの締結、必要なら現地監査を行います。
2. 適格性の確認 実際に届いたものを自社で試験し、規格に適合するかを確認します。1ロットで判断しないのが要点です。連続する複数ロットで、規格内であることに加えてばらつきの幅を見ます。
3. 継続的な監視 認定後も、受入試験の結果、逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →や苦情の件数、納期の遵守状況を追い続けます。傾向が変われば、認定の見直しに入ります。
4. 定期的な再評価 周期を決めて、監査や書面評価をやり直します。周期はリスクに応じて変えます。
この流れで見落とされやすいのが2番目です。認定は「合格した」という一点の記録ではなく、「ばらつきの範囲を把握した」という状態を指します。範囲を知らなければ、後から届いたものが範囲内かどうかも判断できません。
CoAに依拠できる条件
受入試験の実務でいちばん議論になるのが、供給者の試験成績書(CoA:Certificate of Analysis)をどこまで信じてよいかです。
全項目を自社で測り直すのは現実的ではありません。そこで多くの規制の枠組みは、条件付きでCoAへの依拠を認めています。おおむね次のような条件です。
- その供給者を評価していること(監査を含む)
- 自社の試験結果とCoAの値を繰り返し照合し、一致してきた実績があること
- 照合を定期的にやり直すこと
- 供給者の試験方法を把握していること
つまり「CoAがあるから測らない」のではなく、「測ってきた実績があるから、今回は測らない」という組み立てです。実績がリセットされる事象——供給者が試験所を変えた、製造所を変えた、方法を変えた——が起きれば、照合をやり直す判断になります。
同一性の確認だけは省けない
CoAに依拠する場合でも、受け入れたものが表示どおりの物質であること(同一性出荷ロットが意図した細胞集団であることを、表現型マーカーや追跡記録によって確認する品質項目。)の確認は受入側で行うのが原則です。EU GMP欧州の医薬品製造・品質管理の基準。第1章の品質システムのなかでPQRの実施を求めている。は、原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。に使う出発物質について、原則としてすべての容器から採取して同一性を確認することを求めています。
なぜここだけ扱いが違うのか。理由は、想定しているリスクの種類が違うためです。
- 純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →や含量製品にどれだけの目的物質が含まれるか(含量)や、その生物学的な効き目の強さ(活性)を示す指標です。培養液中の産生量を指す場合もあります。詳しく →のずれは、程度の問題であり、統計的な管理になじむ
- 取り違えは、別物が入っているという質の違いであり、程度の問題ではない
過去に起きた重大な健康被害の多くが、取り違えや意図的な混入に由来してきた——という経験がこの要求の背景にあります。1容器だけ抜き取って確認する方式では、他の容器に別物が入っていた場合に見つかりません。
近年はラマン分光光を当てて分子固有の散乱スペクトルを捉え、培養液中の糖や代謝物などの濃度を無菌のまま連続監視する手法です。抜き取り不要で測れます。詳しく →や近赤外分光赤外光の吸収パターンから分子の官能基や物質を同定する分光法です。ATRは試料を前処理なく手軽に測れる方式です。詳しく →(NIR近赤外や赤外の光の吸収から成分濃度や水分を測る手法です。プロセス中の状態をリアルタイムに監視し、品質の作り込みに使います。詳しく →)を使い、容器を開けずに全容器の同一性を確認する手法が広く使われています。開封に伴う汚染リスクを避けながら全数を確認できるため、実務との相性がよい方法です。
「規格に書かれていない項目」が事故になる
品質をめぐる問題は、規格表の主要項目ではなく、規定されていなかった副次的な項目から生じることがしばしばあります。
たとえば溶媒の純度が99.9%と表示されていても、残りの0.1%に何が入っているかは規格書からは分かりません。不純物の議論では総量より個々の成分が問われますし、残留溶媒(ICH Q3C)の管理では、混入していた別の溶媒が製品に残る経路が生まれます。
実務としては、次のような確認が効きます。
- 規格の項目が、自社の用途にとって十分かを自分で判断する(供給者の標準規格をそのまま使わない)
- 試験方法まで規格に書く。同じ項目でも方法が違えば値が変わる
- 不純物プロファイル製造プロセスに由来する類縁物質・分解物・プロセス関連不純物の種類と量を包括的に把握した品質情報の集合体。を一度は取る。規格項目以外に何が入っているかを知っておく
核酸医薬の原材料のように新しいモダリティ抗体・低分子・核酸・細胞治療など、医薬品の種類・創薬手法の区分。では、そもそも業界標準の規格が固まっていない場合があり、この作業の比重が増します。
変更通知の取り決め
供給者管理でもうひとつ重要なのが、変更を事前に知らせてもらう取り決めです。
供給者から見れば軽微な改善でも、受入側から見れば変更管理の対象になりうる——という非対称があります。製造所の移転、原料の切り替え、工程条件の変更、試験方法の変更。いずれも自社の申請書の記載や工程性能に影響しうるものです。
品質に関する取り決め(Quality Agreement委託者とCDMOの役割・権限・責任分界を定めた文書。逸脱や出荷可否の分担を明確にする。)で、次を明文化しておきます。
- 通知が必要な変更の範囲
- 通知の時期(事前何日前か)
- 通知先と、受入側の評価プロセス
- 合意なく変更した場合の扱い
「知らないうちに変わっていた」が最も困るという点で、この取り決めの実効性は監査で確認する価値があります。
濃淡をつける
すべての供給者に同じ深さの管理を適用すると、資源が足りません。品質リスクマネジメント(ICH Q9)の考え方で濃淡をつけます。
判断の軸は、おおむね次の3つです。
- 製品品質への影響の大きさ:最終製品に残るか、工程性能に効くか、代替が効くか
- 供給の途絶リスク:単一供給者か、在庫はどれだけ持てるか
- 供給者側の成熟度:品質システムの状況、過去の実績、規制当局の査察履歴
軸を決めたら、それぞれの層で何をするかを表にします。現地監査の頻度、受入試験の項目数、ロットごとか定期かの区別。ここまで落とし込んで初めて、リスクベースリスクの大きさに応じて管理の濃淡や頻度を決める考え方。監査証跡レビューの頻度決定に用いる。が運用に乗ります。表を作って終わりにしない——という点は、FMEAなどの手法を使う場面と共通しています。
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