FMEAとは?医薬品製造でのリスクアセスメントの進め方と落とし穴
FMEA(Failure Mode and Effects Analysis各パラメータの影響度・発生度・検出度を評点し、品質リスクの優先順位を付ける手法です。:故障モード影響解析)とは、「どこがどう壊れうるか」を先に洗い出し、その影響と起こりやすさを見積もって、対策の優先順位を決める手法です。もとは工業製品の設計で使われてきた考え方で、医薬品では品質リスクマネジメント(ICH Q9)の枠組みの中で広く用いられています。

- FMEAは「壊れ方(故障モード)」を単位に分解する手法で、工程の各ステップに紐づけて使います。
- RPN(S×O×D)は優先順位づけの道具であり、絶対値そのものに意味はありません。
- 評価は工程や原料が変われば並び順が変わります。更新の周期と引き金を先に決めておきます。
ICH Q9が挙げる手法の中での位置づけ
ICH Q9リスクに基づいて品質を判断する、品質リスクマネジメントの考え方を示すICHのガイドライン。は特定の手法を義務づけてはおらず、目的に応じて選ぶことを求めています。よく使われるものを並べると、向き不向きが見えてきます。
| 手法 | 出発点 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| FMEA起こりうる故障モードとその影響を洗い出して優先度づけする、リスクアセスメントの手法。 | 個々の要素の壊れ方 | 工程や装置を順に追い、網羅的に洗う |
| FMECAFMEAに致命度の評価を加え、影響の重大さをより明示的に扱う拡張版のリスク手法。 | FMEAに致命度を加える | 影響の重さを明示的に区別したい |
| FTA(故障の木解析) | 起きてほしくない結果 | 既に起きた事象の原因をさかのぼる |
| HACCP工程全体で危害要因を洗い出し、重点管理すべき重要管理点を特定して監視する手法。 | 危害と管理点 | 工程の流れの中で重要管理点を決める |
| HAZOP | 設計意図からのずれ | 設備・配管の設計レビュー |
| PHA | 予備的な危険分析 | 情報が少ない初期段階 |
FMEAは「下から積み上げる」型、FTAは「上からさかのぼる」型という違いが最も大きな分かれ目です。新しい工程を設計するときはFMEA、逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →の原因を探るときはFTA——という使い分けが自然になります。
FMEAの手順
進め方は概ね次の順になります。
1. 対象と範囲を決める どの工程の、どこからどこまでを見るか。ここを曖昧にすると、粒度がばらついて比較できない表になります。
2. 工程を分解する 工程フロー図を作り、ステップに分けます。装置単位で見るのか、操作単位で見るのかを揃えます。
3. 故障モードを挙げる 各ステップで「どう壊れうるか」を列挙します。これがFMEAの核心です。「悪い結果」ではなく「壊れ方」を書くのが要点で、たとえば「製品が汚染される」は結果であり、故障モードは「フィルターが破損する」「接続部が緩む」といった形になります。
4. 影響・原因・現状の管理を書く その故障モードが起きたら何が起きるか(影響)、なぜ起きるか(原因)、いまどう防いでいるか(現状の管理)。
5. 点数をつける 重大性(Severity)、発生頻度(Occurrence)、検出性(Detection)を尺度に沿って評価します。
6. 優先順位をつけ、対策を決める 高いものから対策を立て、対策後に再評価します。
RPNの立て方と、その限界
3つの点数を掛けたものが RPNFMEAで影響・発生・検出の評点を掛け合わせた値。リスクの高さをランク付けする指標です。(Risk Priority Number)です。
RPN = S(重大性) × O(発生頻度) × D(検出性)
検出性の向きに注意が要ります。 検出しにくいほど点数が高くなるよう尺度を組むのが一般的で、直感と逆になりやすい箇所です。
この数値には、知っておくべき性質がいくつかあります。
- 絶対値に意味はない:RPN=120 が危険で 119 が安全、という線引きは成立しません。順位づけの道具です
- 掛け算が実態を隠す:S=10, O=1, D=1(めったに起きないが起きたら致命的)と S=2, O=5, D=1 は、どちらもRPNが10になります。前者を後者と同列に扱ってはいけません
- 尺度の定義がすべてを決める:1〜5なのか1〜10なのか、各段階が何を指すのかを先に文書化しないと、評価者によって値が変わります
このため実務では、RPNだけで判断せず、重大性が高いものは発生頻度によらず対策の検討対象とするといった補助的なルールを併用します。
何のためにやるのかを見失わない
FMEAが形骸化する典型は、表を完成させること自体が目的になる状態です。数百行の表を作り、承認し、保管して、その後は開かれない——という経緯をたどります。
避けるには、出口を先に決めておくのが有効です。FMEAの結果は、次のような具体的な意思決定に接続してはじめて意味を持ちます。
- 重要工程パラメータ(CPP)製品の品質に影響するため管理すべき操作条件。管理範囲を定めて工程を制御する。の特定:どのパラメータを管理範囲として設定するか
- 工程内管理の設計:どの点を常時監視し、どこは定期確認でよいか
- プロセスバリデーションの範囲:どの条件を、どれだけの回数で確認するか
- 分析法の選択:どの品質特性を、どの感度で測る必要があるか
- 逸脱調査の深さ:どの逸脱を重く扱うか
- 供給者管理の濃淡:どの供給者を現地監査するか
「この評価はどの判断に使うのか」を最初に書いておくと、粒度も自然に定まります。
検出性を過大評価しない
実務でよく起きるのが、検出できるから大丈夫という判断です。検出の仕組みがあることを理由に、Dの点数を低くして全体のRPNを下げる——という流れになります。
ここには2つの落とし穴があります。
ひとつは、検出そのものが確率的であること。たとえば外観検査は全数実施しても、粒子の大きさによって見つかる確率が変わります。「全数検査しているから検出できる」は成り立ちません。
もうひとつは、検出は発生を防がないこと。見つけて排除する運用は、その分だけ廃棄と手戻りが発生します。発生頻度が高いまま検出でしのぐ設計は、コストとして跳ね返ります。
順序としては、発生を減らす対策 → 検出の強化の順に検討するのが原則です。
いつ更新するか
評価は一度作って終わりではありません。しかし「定期的に見直す」とだけ書くと、実際には見直されません。
周期に加えて、引き金(トリガー)を決めておくと運用に乗ります。
- 工程や設備を変更したとき
- 原材料製造の起点となる原料で、その品質や持ち込む不純物が最終製品の品質に影響しうるため、規格管理が重視される物質。や供給者を切り替えたとき
- 想定していなかった逸脱が起きたとき
- 苦情や市場での不具合が発生したとき
- 一定期間ごと(周期は製品のリスクに応じて)
とくに3番目が重要です。FMEAで挙がっていなかった事象が起きたというのは、その評価に漏れがあったことの直接的な証拠にあたります。逸脱の調査を、FMEAの更新へ結びつける経路を作っておくと、評価が実態に追いつきます。
誰でやるか
最後に、実務上いちばん結果を左右する点に触れておきます。FMEAの質は、参加した人の顔ぶれでほぼ決まります。
品質部門だけで作った表は、現場で実際に起きる壊れ方を捉えられません。製造、品質、エンジニアリング、分析——立場の違う人が同じ表を見ることで、はじめて「そこはよく詰まる」「その測定はあてにならない」といった実態が入ります。
会議体として重いのは事実ですが、この手法の価値の大半は、点数ではなく、そこで交わされる議論のほうにあるといえます。
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