抗体医薬基礎知識・品質管理

校正|許容を外れた測定器の結果を、どこまで遡るか

定期校正に出した温度計が、許容範囲を0.6℃外れて戻ってきたとします。器差の調整を受けて、校正証明書が発行されて、現場に戻る。ここで終わりにしたくなりますが、終わりではありません。前回の校正からこの日までの数か月、その温度計は狂ったまま使われていた可能性があります。その間に記録した温度で、いくつのロットが判定されたのか。

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校正|許容を外れた測定器の結果を、どこまで遡るか

校正(calibration)は、測定器が示す値と真の値とのずれを、既知の基準器を使って確かめる行為です。調整して合わせることではなく、まず確かめることに本質があります。日本語では調整(adjustment)までを含めて校正と呼ぶ場面が多く、そこが混ざると、ずれていた事実そのものが記録から消えます。核心にあるのは一点、校正が保証するのは「これから先」ではなく「前回の校正からこの校正までの間」だという時間の向きです。この向きを取り違えると、校正外れが見つかったときに何を調べるべきかが見えなくなります。

本稿では、トレーサビリティ要求と検証を一対一で結びつけ追跡できるようにすること。抜け漏れと過剰検証の両方を防ぐ。詳しく →という鎖が何をつないでいるかから、校正周期の決め方、許容範囲と判定の線引き、校正外れが見つかったときの遡及調査の範囲、適格性評価製造装置やユーティリティが意図どおりに据え付けられ、動き、性能を出せることを文書で裏づける活動。詳しく →との違い、そして現場で問題になりやすい測定器まで、順に整理します。

この記事の要点
  • 校正が保証するのは次回までの精度ではなく、前回の校正からこの校正までの区間にさかのぼる妥当性です。
  • 校正外れが見つかったら、前回の正常な校正まで遡って影響範囲を特定し、ずれの向きから重さを判断します。
  • 校正は測定器が正しいかを問い、適格性評価は設備が意図した性能を出すかを問うもので、置き換えはききません。

トレーサビリティ ― 基準につながっている鎖

校正が意味を持つのは、比べる相手が確かだからです。

現場の温度計は、より正確な標準温度計と比べられます。その標準温度計は、さらに上位の基準と比べられている。この連鎖をたどっていくと、最後は国家計量標準、そして国際単位系(SI)に行き着きます。トレーサビリティ(traceability、計量トレーサビリティ)とは、この切れ目のない鎖のことを指します。

鎖の各段階には不確かさが付きまといます。上位の基準器が持つ不確かさは下位に伝わるので、現場の測定器の精度は、鎖のどこかが緩めば一緒に緩む。校正証明書に不確かさが記載されているのは、そのためです。証明書を受け取ったときに、数値が許容内に入っているかだけでなく、不確かさが自分たちの許容範囲に対して十分小さいかを見る必要があります。不確かさが許容範囲と同じ桁なら、その校正は判定に使えません。

校正証明書は合否だけの紙ではなく、どの基準に、どれだけの確かさでつながっているかを示す記録です。

校正周期の決め方 ― 使用頻度と逸脱の履歴

周期は、最初は機器の仕様や供給者の推奨から置きます。

ただしそれは出発点でしかありません。同じ型式の温度計でも、恒温槽に入れっぱなしのものと、現場を持ち回るものでは、ずれの進み方が違う。周期を見直す根拠になるのは、その機器自身の校正履歴です。毎回ほとんどずれていないなら周期を延ばせますし、たびたび許容の端に寄るなら縮めます。

見直しを支えるのが、校正時の「受入時(as found)」の記録です。調整する前の値、つまり現場で使われていたままの状態を先に測って残す。ここを省いて調整後の値だけを記録すると、その機器がどれだけずれやすいかが永久に分からなくなり、周期の根拠が仕様書の受け売りから動かせなくなります。

POINT

受入時の値は、周期見直しの材料であると同時に、遡及調査の唯一の証拠でもあります。調整してしまってからでは、どれだけ外れていたかを再現できません。「as found / as left」を両方記録することは、手続きの形式ではなく、後で調べられる状態を残す行為です。

許容範囲と判定 ― 合格と不合格を分ける線

許容範囲は、機器の性能から決まるのではなく、その機器で何を判定しているかから決まります。

規格の幅が±5℃の工程を、±2℃の許容で校正した温度計で見ているなら余裕があります。規格が±1℃なら、同じ温度計では足りない。許容範囲は工程側の要求から逆算するもので、機器のカタログ値をそのまま写すものではありません。

実務では、許容範囲のほかにもう一本、内側に線を引いておくことがあります。許容には収まっているが端に寄ってきた、という状態で気付けるようにするためです。傾向外れ(OOT)で規格の内側にアラートリミットを引くのと同じ発想で、外れてから動くのではなく、外れそうだと分かった段階で周期や機器の見直しに入れます。

許容範囲は機器の仕様ではなく工程の要求から決まり、そこに余裕がどれだけあるかが遡及調査の重さを左右します。

校正外れが見つかったとき ― 遡及調査の範囲

校正外れ(out of tolerance、OOT と略されることもあるが傾向外れ個々の結果は規格内でも、時系列の傾向から外れた変化。じわじわ進む異常の兆候として捉える。詳しく →とは別物)が判明したら、調べる範囲を決めるところから始めます。

区間の始まりは、前回の校正で正常だったことを確認できた日です。終わりは、今回の校正で外れを検出した日。この間に、その測定器で取ったすべてのデータが対象になります。温度計なら保管庫の温度記録、培養槽の温度、オートクレーブ高温高圧の飽和蒸気を使い、器具や培地などに付いた微生物を死滅させて滅菌する装置です。詳しく →の到達温度。天秤なら秤量記録すべてです。

影響の重さは、ずれの向きで変わります。温度計が実際より低い値を示していた場合、現場は「まだ足りない」と判断して加温を続けていたことになり、実際の温度は狙いより高かった。滅菌なら過剰なので安全側ですが、生物製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →の保管なら劣化を進めていた可能性があります。逆に高く示していたなら、滅菌では未達の疑いが出ます。同じ0.6℃の外れでも、向きと用途の組み合わせで結論がまるで違うところが、この調査の難しさです。

ずれの大きさが工程の許容幅に対して十分小さいと示せれば、製品への影響は無いと結論できます。ここで効いてくるのが前節の余裕で、工程側に余裕があるほど調査は短く済みます。結論は逸脱と変更管理の記録として残し、影響が否定できないロットがあれば出荷判定製造したロットを規格に照らして出荷の可否を決める判断。有効期間の短い製品では時間との戦いになる。詳しく →に戻します。

調べる範囲は「いつ外れたか」ではなく「いつ正常だったと確認できたか」から決まるので、前回の校正記録の質がそのまま調査の広さになります。

校正と適格性評価 ― 問うているものの違い

校正と適格性評価(IQ/OQ/PQ)は、しばしば同じ話として扱われますが、問うているものが違います。

校正が問うのは、測定器が示す値が正しいかどうかです。対象は測る道具に限られ、鎖の先にあるのは国家標準になります。適格性評価が問うのは、設備が意図した性能を出すかどうかです。オートクレーブなら、庫内のどこでも狙いの温度と時間に到達するか。そこで使う温度計が校正されていることは前提であって、結論ではありません。

順番も決まっています。校正されていない温度計で測ったデータでは、適格性評価の結論が立たない。校正が先で、適格性評価が後です。逆に、適格性評価を通った設備であっても、そこに付いている計器の校正が切れれば、日々の記録の裏付けは失われます。

校正は測る道具の話、適格性評価は設備の性能の話で、どちらかがもう一方を代替することはありません。

現場で問題になりやすい測定器 ― 天秤・温度計・圧力計

同じ校正でも、機器によって落とし穴の場所が違います。

天秤では、校正した重量範囲と実際に使う範囲がずれていることがあります。校正は中央付近の分銅で行い、現場では下限に近い少量を秤取している、という組み合わせです。天秤の相対誤差は秤量が小さいほど大きくなるので、使用範囲の下限で確認しておかないと、いちばん誤差が乗るところが未検証のまま残ります。

温度計では、校正したのはセンサー単体で、現場では長いケーブルと表示器を介して使っている、という切り分けの問題が起きます。系として校正するのか、部品ごとに校正して合算するのかを決めておく必要があります。

圧力計では、設置してからの姿勢や配管の応力で指示がずれることがあります。持ち出して校正室で測ると合格し、現場に戻すと合わない。据え付けた状態での確認をどこまでやるかが論点になります。

POINT

校正の対象を「計器」ではなく「測定系」で定義しておくと、こうした取りこぼしが減ります。センサー、ケーブル、変換器、表示器、記録計のどこまでを一つの系として扱い、どこで区切るかを機器ごとに文書で決めておく。区切りが曖昧なまま運用すると、校正証明書はあるのに現場の値の裏付けが無い、という状態が生まれます。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。