外観検査(目視検査)とは?不溶性異物を全数で見つける仕組み
外観検査(目視検査)とは、注射剤の容器を1本ずつ目で見て、中に異物が入っていないか、容器に欠陥がないかを確かめる工程です。充填処方済みの溶液をバイアルやシリンジなどの容器へ無菌的に充填し、封止する製造工程。が終わった製品が最後に通る関門にあたります。
地味な工程に見えますが、注射剤で異物が問題になったときの影響は大きく、回収に至る事例も続いています。ここでは、この検査が何を保証していて、何を保証していないのかを整理します。

- 不溶性異物(目視で見える大きさ)と不溶性微粒子(見えない大きさ)は、別の試験で管理します。
- 目視検査の検出は確率的です。「全数見た」ことは「全数から異物を除いた」ことを意味しません。
- 検査員も自動検査機も、既知の欠陥品を混ぜた試験セットで適格性を確認したうえで運用します。
「見える異物」と「見えない微粒子」を分けて考える
注射剤の粒子は、大きさによって管理の枠組みが変わります。
| 区分 | 大きさの目安 | 管理の方法 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 不溶性異物(visible particulates) | おおむね数十〜数百µm以上 | 全数の外観検査 | 見つかったものを除く |
| 不溶性微粒子(subvisible) | それより小さい範囲 | 抜き取り、光遮蔽法光をさえぎる粒子を検出して注射剤の不溶性微粒子を数える方法。など | 個数を数えて規格と比べる |
この2つは目的が違います。微粒子試験はロット全体の傾向を数値で押さえるもの、外観検査は1本ずつの排除です。片方が合格でも、もう片方の保証にはなりません。
日本薬局方、USP、欧州薬局方欧州医薬品品質局(EDQM)が発行する、医薬品の品質基準を定めた公定書で、署名国・加盟国の規制に法的効力を持つ。はいずれも注射剤に対して、実質的に「見える異物がないこと」を求めています。ここで注意したいのが、「無い」ことを証明するのは原理的に難しいという点です。この事情が、次の「確率」の話につながります。
検出は確率である
外観検査でいちばん誤解されやすいのが、全数検査という言葉です。全数を検査したことと、全数から異物を除去できたことは同じではありません。
同じ異物入りの容器を繰り返し検査しても、毎回見つかるとは限りません。検出できるかどうかは、次のような条件に左右されます。
- 粒子の大きさと形:小さいほど、また透明なほど見つけにくい
- 粒子の色と屈折率:溶液との明暗差が小さいと埋もれる
- 溶液の性質:着色している、粘度液体の流れにくさを表す物理的性質で、タンパク質濃度の上昇に伴い非線形に増大する。が高い、泡が立ちやすい
- 容器:ガラスの曲率、印字やラベルの位置、表面の傷
- 検査の条件:照度、背景(白と黒を切り替える)、容器を回して粒子を動かす操作、1本あたりの時間
- 検査員の状態:疲労、視力、集中の持続
つまり検査の性能は「見つかる確率」として表されます。100µmの粒子ならほぼ確実に見つかっても、その半分の大きさでは確率が大きく下がる——という形になります。
この前提に立つと、実務での結論はひとつです。検査で除くことを主たる管理手段にしない。 発生源を断つことが本筋であり、外観検査は最後の網にすぎません。
適格性をどう確認するか
検出が確率的である以上、「この検査で、どの程度の異物が、どの程度の確率で見つかるか」を実際に測っておく必要があります。
方法の考え方は共通しています。既知の欠陥品を混ぜた試験セットを用意し、検査員や自動機に流して、どれだけ拾えるかを測るという形です。粒子の大きさ別に検出確率を出せば、その検査系の実力が数値で分かります。この考え方は Knapp と Kushner による研究として知られ、各国のガイダンスの土台になっています。
運用面では、次の点が実務の論点になります。
- 検査員の資格認定と定期的な再確認:一度合格すれば終わりではなく、周期を決めて確認する
- 試験セットの管理:欠陥品そのものが経年で変化する(粒子が溶ける、位置が動く)ため、セットの維持が要る
- 検査時間と休憩:集中が続く時間には限りがあるため、連続作業時間を決める
- 自動検査機の設定:感度を上げれば異物は拾えるが、良品まで弾く。過検出と見逃しのバランスを決める作業が必要になる
自動機を導入しても、人による検査がなくなるとは限りません。自動機が弾いたものを人が再確認する(リジェクト品の再検査)構成が一般的です。
再検査の扱いは、あらかじめ決めておく
現場で判断に迷いやすいのが、いったん弾いた容器の扱いです。
気泡を異物と誤って弾くことは避けられません。そのため再検査そのものは禁じられていませんが、「合格するまで繰り返す」形になってはいけないという制約があります。
このため、手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。の側で次を先に決めておきます。
- 再検査を認める条件と回数の上限
- 誰が判断するか
- 記録に何を残すか
- 弾いた容器の内訳(気泡・異物・容器欠陥)をどう集計するか
内訳の集計は、単なる記録以上の意味を持ちます。弾いた率の変化が工程異常の早期指標になるためです。ある日から急にリジェクト率が上がったなら、上流で何かが変わっています。
異物の種類から発生源をたどる
異物が見つかったとき、逸脱として調査する段階で最初に手がかりになるのは、その異物が何でできているかです。
| 異物の種類 | 想定される発生源 |
|---|---|
| ガラス片 | 容器同士の接触、打栓時の応力、内面の剥離(デラミネーションガラス容器の内壁が薄片状に剥離する現象。微粒子の発生源になる。) |
| ゴム片 | ゴム栓の切削(コアリング)、栓の劣化 |
| 繊維 | 作業衣、清拭材、包装材 |
| 金属片 | 装置の摺動部、punchやニードルの摩耗 |
| タンパク質性の粒子 | 凝集体の成長、シリコーンオイル注射針やプランジャーの滑りを確保する潤滑剤。タンパク質の吸着核となり微粒子・凝集を誘発しうる。との相互作用 |
| 結晶 | 溶解度の限界、保存中の析出 |
最後の2つは、他と性質が違います。製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。そのものに由来するため、除去の対象ではなく処方や容器施栓系の設計で対処する問題になります。プレフィルドシリンジでは、シリコーンオイルと凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →が絡む形で現れることがあります。
異物の同定には、顕微FT-IR赤外光の吸収パターンから分子の官能基や物質を同定する分光法です。ATRは試料を前処理なく手軽に測れる方式です。詳しく →やSEM-EDXといった分析が使われます。組成が分かれば候補が絞られ、どのロットまで影響しうるかを判断する根拠になります。回収の範囲を限定できるかどうかは、この調査の質にかかっています。
設計の側でできること
外観検査の負荷を下げる最も確実な方法は、そもそも異物を持ち込まないことです。
- 容器の取り扱い:ガラス同士を当てない搬送設計、速度の抑制
- 容器と溶液の相性:pHや組成によってはガラス内面の剥離が起きやすくなるため、安定性試験の段階で確認する
- ゴム栓の選定と打栓条件:コアリングを避ける針形状・挿入速度
- 環境管理:繊維や粒子の持ち込みを抑える
- 検査しやすい設計:容器の透明度、ラベル位置、充填量
最後の項目は見落とされがちですが効きます。検査しやすい製品は、検出確率が高い——それは製品設計の段階で決まってしまいます。
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