抗体医薬基礎知識・規制

医薬品の回収(リコール)とは?クラス分類と、範囲を決める根拠

回収(リコール)とは、出荷した製品に問題が見つかったときに、⁠市場から引き取る手続きです。医薬品では製造販売業者が自主的に判断して開始し、当局へ報告する形が基本になります。

「回収」という言葉から行政処分を連想しがちですが、多くは自主回収です。ただし報告と公表が義務づけられているため、社会的な影響は小さくありません。

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医薬品の回収(リコール)とは?クラス分類と、範囲を決める根拠
この記事の要点
  • クラス分類は不良の深刻さではなく、⁠健康被害が起きるおそれの程度で決まります。
  • 対象ロットの範囲を限定できるかどうかは、原因調査でどこまで絞り込めたかにかかっています。
  • 回収は品質部門だけの作業ではなく、流通の追跡と在庫の把握が前提になります。

クラス分類は「健康被害のおそれ」で決まる

回収はその重大性によって3段階に分類されます。日本では薬機法の枠組みで、米国ではFDAが、それぞれ同じ考え方に立った区分を用いています。

クラス判断の基準
クラスI使用により重篤な健康被害または死亡の原因となりうる
クラスII使用により一時的または医学的に治癒可能な健康被害の原因となりうる。重篤な健康被害のおそれはまず考えられない
クラスIII使用しても健康被害の原因となるとはまず考えられない

ここで押さえておきたいのは、⁠分類の基準が製造上の不備の大きさではないという点です。判断の軸は、その製品を使った人にどのような健康被害が起きうるか、という一点にあります。

そのため、次のような一見逆に見える結果が生じます。

  • 表示の取り違えは、製造工程としては単純な誤りだが、⁠別の薬が投与されるため重く分類されうる
  • 含量製品にどれだけの目的物質が含まれるか(含量)や、その生物学的な効き目の強さ(活性)を示す指標です。培養液中の産生量を指す場合もあります。詳しく →がわずかに規格を外れた場合でも、治療域が広い薬なら健康被害のおそれは小さいと判断されうる
  • 注射剤への異物混入は、血管を塞ぐおそれがあるため重く扱われる

つまり分類を判断するには、品質の逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →そのものに加えて、⁠その製品の使われ方と患者の状態を評価する必要があります。医学・薬学の判断が入る理由がここにあります。

回収か、情報提供か

すべての品質上の問題が回収になるわけではありません。実務では、次のような段階が使い分けられます。

  • 回収⁠:市場から引き取る
  • 在庫の出荷停止⁠:流通済みのものはそのままに、以降の出荷を止める
  • 情報提供⁠:使用上の注意喚起にとどめる(回収に該当しない措置)

判断の分かれ目は、⁠引き取ることで健康被害を減らせるかという点にあります。すでに大部分が使用済みで、かつ被害のおそれが小さい場合、回収の実効性は限られます。逆に、供給が止まることで治療機会が失われる側の不利益が大きい製品では、回収の判断そのものが慎重になります。

このため、代替品の供給状況が判断材料に入ります。⁠その製品を止めたとき、患者が困らないか⁠——という観点は、品質部門だけでは判断できない領域です。

対象範囲をどう決めるか

回収の実務でいちばん難しく、そして影響が大きいのが範囲の決定です。

1ロットで済むのか、同じ設備で作った全ロットに広げるのか。この差は、企業の損失としても、供給への影響としても桁が変わります。

範囲を限定するには、⁠限定してよい根拠が要ります。

  • 原因が特定できているか⁠:どの工程の、どの条件で発生したか
  • その条件が特定の期間に限られるか⁠:装置の部品が摩耗した、ある日の作業手順が違った、特定の原料ロットに起因した
  • 他のロットで同じ条件が成立しなかったことを示せるか⁠:記録から確認できるか
  • 他のロットの保存サンプルで問題が出ないか⁠:手元の検体を試験する

つまり範囲の限定は、逸脱調査とCAPAの結論に依存します。原因が「不明」のまま終われば、⁠論理的に範囲を狭められません⁠。1ロットの回収で済ませられるかどうかは、調査の質そのものにかかっています。

この構造は、日々の記録の取り方にも跳ね返ります。どの装置で、どのロットを、どの条件で作ったか。原材料製造の起点となる原料で、その品質や持ち込む不純物が最終製品の品質に影響しうるため、規格管理が重視される物質。のどのロットを使ったか。これらが後から確実にたどれる状態になっていて初めて、範囲を絞る主張が成立します。

流通をたどれるか

範囲が決まっても、実際に引き取るにはどこに何本あるかが分からなければ動けません。

  • 卸売業者への出荷記録
  • 医療機関・薬局への納入
  • 輸出している場合は各国の流通
  • 自社の倉庫在庫、返品在庫

医療用医薬品は流通経路が比較的追いやすい一方、段階が多いほど時間がかかります。回収の進捗は回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。として管理され、当局への報告事項になります。

細胞・遺伝子治療のように患者ごとに製造する製品では、この構造がまったく変わります。誰に投与されるかが最初から決まっているため追跡は容易ですが、⁠代わりの製品が存在しないため、回収の判断そのものが別の難しさを持ちます。

回収は終わりではない

回収の手続きが完了しても、対応は続きます。

  • 是正措置の実施と効果の確認⁠:同じことが再発しない状態にする
  • 当局への報告と、必要に応じた査察対応
  • 供給計画の立て直し⁠:欠品が長引く場合は、供給不足として別の枠組みの報告対象になりうる
  • 再発時の説明責任⁠:同種の回収を繰り返すと、品質システム全体の評価に影響する

とくに最後の点は重く、個別の回収そのものより、「この会社の品質システムは機能しているか」という問いに発展します。査察でOAI(要措置)に相当する評価を受ければ、その施設を製造所とする申請の審査にも影響が及びます。

製造側が事前に備えられること

回収は起きてから対応する事象ですが、備え方はあります。

  • 記録の粒度を上げる⁠:どのロットが、どの装置・どの原料・どの作業者で作られたかを、後から機械的にたどれる形にしておく
  • 保存サンプルを確実に取る⁠:範囲の限定を主張する根拠になる
  • 容器施栓系外観検査の記録を残す⁠:リジェクト率の推移が、異常の発生時期を絞る手がかりになる
  • 回収の手順を実地で確認しておく⁠:模擬回収(mock recall)を行い、実際に何時間で在庫を把握できるかを測る
  • リスクアセスメントで発生源を先に潰す⁠:回収に至る不良は、多くが事前に列挙可能な故障モードから生じている

模擬回収は形式的な訓練に見えますが、実際にやると弱点が出ます。「出荷記録が部門をまたいでいて、集計に半日かかる」⁠といった問題は、平時にしか見つけられません。

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。