残留溶媒(ICH Q3C)とは?溶媒ごとの限度値はどう決まるのか

残留溶媒とは、医薬品の原薬・添加剤・製剤を作るときに使った有機溶媒のうち、工程で除ききれずに製品に残ったもののことです。どの溶媒をどこまで残してよいかを決めて試験で確かめる仕事に関わり、その基準を国際的にそろえているのが ICH Q3C国際調和会議(ICH)が策定した医薬品中の残留溶媒に関するガイドラインで、溶媒を毒性に応じてクラス分けし限度値を規定する。詳しく → というガイドラインです。
ただし、ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q3C の表に並ぶ濃度の上限は、製剤を毎日決まった量だけ投与すると仮定して計算した値です。実際の投与量と配合から製剤全体で計算する方法も認められているため、同じ溶媒でも、原料ごとに許される濃度は製品によって変わります。
この記事では、残留溶媒とは何か、溶媒がクラスに分かれる理由、上限の濃度の計算のしかた、試験する溶媒の選び方、測り方を順に説明します。
- 残留溶媒とは:医薬品の製造で使ったか生成した有機溶媒のうち、実用的な製造技術では除ききれずに製品に残ったものです。
- 限度値はどう決まるのか:溶媒ごとに決められた1日に摂取してよい量(PDE)を、製剤の1日投与量で割って濃度に直します。表に載っている濃度は、製剤を1日 10 g 投与すると仮定した値です。
- 何で測るのか:試料を密閉した容器で温め、気相に出た溶媒をガスクロマトグラフィー(GC)で分けるヘッドスペースGCが一般的です。
1. 残留溶媒とは何か
残留溶媒とは、医薬品の製造で使ったか生成した有機溶媒のうち、実用的な製造技術では除ききれずに製品に残ったものです(ICH Q3C 1章)。 合成の副反応や分解でできる類縁物質(有効成分に似た構造の不純物)と違い、残留溶媒の多くは、工程で意図して使った溶媒の残りです。
溶媒は反応や結晶の取り出しに使われ、その選び方で収率や結晶形が変わることもあります。一方で、残留溶媒には治療上の利益がありません。そのため Q3C は、製品の規格や GMP医薬品を一定の品質で安全に造るために守るべき製造・品質管理の基準(適正製造規範)です。詳しく → の要求を満たすよう、できる限り除くことを求めています。
添加剤として意図して加える溶媒と溶媒和物(結晶に溶媒が取り込まれたもの)は対象外ですが、その含量も評価して妥当性を示します。

ICH Q3C は、医薬品の規制を日米欧などでそろえる ICH(医薬品規制調和国際会議)がまとめた、残留溶媒の限度のガイドラインです。原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →・添加剤・製剤のすべてと、すべての剤形・投与経路に適用されます。ただし、臨床試験の段階の候補品と、すでに市販されている製品には適用しないとしています(2章)。
このように、溶媒を使う製品では、残る量をできる限り減らしたうえで、溶媒ごとの上限以下であることを示す必要があります。では、その上限は何をもとに分けられているのか。
2. 溶媒はなぜクラス1〜3に分けられているのか
ICH Q3C は、溶媒をヒトの健康へのリスクの大きさで3つのクラスに分け、クラスごとに使ってよいかと限度の決め方を変えています(3.1)。 毒性が重いクラスほど、使うこと自体の制限が強くなります。
- クラス1(使用を避ける):ヒトの発がん物質やその強い疑いがある物質、環境に有害な物質で、製造に使わないよう求めています。治療上の大きな進歩をもたらす製剤にやむを得ず使う場合だけ、溶媒ごとの濃度限度(ベンゼンは 2 ppm抗体1mgあたりの不純物量(ng)のように、100万分の1の比で微量成分の割合を表す単位。詳しく →)以下に抑えます(4.1)。
- クラス2(使用を制限する):遺伝毒性化合物が遺伝子や染色体を傷つける性質。点突然変異や染色体損傷を含み、複数の試験で分担して調べる。詳しく →の無い動物発がん物質や、神経毒性・催奇形性薬が胎児に形態異常(奇形)を引き起こす性質。EFDで検出する重要な所見。などの元に戻らない毒性や重大な毒性が疑われる溶媒です。アセトニトリル、メタノール、ジクロロメタンなどがあり、溶媒ごとの1日に摂取してよい量で管理します(4.2)。
- クラス3(毒性の低い溶媒):エタノール、アセトン、酢酸エチルなどです。1日 50 mg 以下なら正当化なしで許容され、それより多くても、製造能力と GMP に照らして現実的なら許容されることがあります(4.3)。
限度の決め方は、溶媒ごとの濃度(クラス1)、1日量からの換算(クラス2)、共通の目安(クラス3)と、クラスごとに違います。ppm は100万分の1を表す単位で、ベンゼンの 2 ppm は製品 1 g あたり 2 µg に当たります。
Q3C は、実用的な範囲で毒性の低いクラス3の溶媒を使うのが望ましいとしています(1章)。ただし、クラス3の多くには長期毒性やがん原性の試験が無く、短期の試験と遺伝毒性の試験の結果をもとに分類されています(4.3)。
毒性データが不十分で、1日に摂取してよい量を決められなかった溶媒は表4に挙げられ、使う場合は製造者が残留量の妥当性を示します(4.4)。「クラス4」と呼ぶことがありますが、正式な分類はクラス1〜3だけです。
つまり、使う溶媒の名前からクラスが分かれば、その溶媒を使ってよいかと、限度をどの筋道で決めるかが決まります。では、クラス2の表に並ぶ ppm の値は、どう計算されているのか。
3. クラス2の表のppmは、どう計算されているのか
クラス2の表の ppm は、溶媒ごとに決められた1日に摂取してよい量を、製剤を1日 10 g 投与すると仮定して濃度に直した値です(3.3)。 この量を PDE許容一日曝露量。その量まで毎日摂っても生涯健康影響が出ないとされる量。無毒性量から不確実係数で導く。詳しく →(permitted daily exposure、1日許容曝露量)と呼び、溶媒ごとに mg/日で示されています。
食品の ADI(許容1日摂取量)に似た考え方です。PDE から濃度へは、次の式で換算します。
濃度(ppm)= 1000 × PDE(mg/日)÷ 1日投与量(g/日)
1000 を掛けるのは、製剤 1 g あたりの mg を ppm(µg/g)に直すためです。たとえばアセトニトリルの PDE は 4.1 mg/日なので、1000 × 4.1 ÷ 10 で、表の 410 ppm が求まります。
Q3C はこの表の値をそのまま使う方法をオプション1と呼び、1日投与量が決まっていない場合にも使えるとしています。原薬と添加剤のすべてがこの値以下なら、1日投与量が 10 g を超えない限り、どの配合比で使っても追加の計算は要りません。
つまり、1日の投与量が 10 g 以下の製品なら、原料ごとに表の値と比べ、すべてが値以下であれば判定は済みます。では、原料の一つが表の値を超えたら、その原料は使えないのか。
4. 原料の一つが表の値を超えたら、使えないのか
使えないとは限りません。実際の最大1日投与量と配合から製剤全体の溶媒の量を合計し、PDE 以下なら適合とするオプション2が認められています(3.3)。 オプション1が原料ごとの濃度で比べるのに対し、オプション2は製剤1日分の量(mg)で比べます。
Q3C が挙げる例では、1日 5.0 g 投与する製剤の原薬と添加剤の一つが、アセトニトリルを 800 ppm 含みます。オプション1の 410 ppm を超えていますが、成分ごとの量を足すと製剤全体で 3.64 mg/日となり、PDE の 4.1 mg/日以下なので適合するとしています。
ただし、オプション2の限度は、分析の精度や製造能力、工程の通常の変動に照らして現実的なものにするよう求めています。
オプション2が認められるのは、残留溶媒を実務上の最小限(practical minimum)まで減らしたと示した場合です。製剤全体の合計が PDE 以下という計算だけでは足りません。
合計が PDE を超える場合は、製剤化の工程で溶媒が減ったかを、製剤を試験して確かめることができます。減っていなければ、製剤の製造者が別の手段で溶媒を減らすよう求めています。それでも下がらない例外的な場合に限り、低減の取り組みをまとめ、リスク・ベネフィットの解析で高い残留量を正当化できるとしています。
このように、オプション2の判定は製品の処方と最大1日投与量を前提にしているため、原料の値だけを見ても合否は決まりません。では、製品に含まれうる溶媒のうち、どれを試験すればよいのか。
5. どの溶媒を試験すればよいのか
試験が要るのは、原薬・添加剤・製剤の製造や精製で使ったか生成した溶媒だけです(2章)。 そのうち、どこまで同定して量を測るかは、クラスと「含まれる可能性が高い」かどうかで決まります。
最終の製造工程で使った溶媒は、製品に残る可能性が高いと考えます。それより前の工程で使った溶媒も、バリデートされた工程(一貫して同じ結果を出せると確かめた工程)で一貫して除けていなければ、同じ扱いです。Q3C は、これらを「含まれる可能性が高い(likely to be present)」溶媒と呼んでいます(3.5)。
- クラス1:含まれる可能性が高ければ、同定して定量します。
- クラス2:オプション1の限度を超えて存在する場合に、同定して定量します。
- クラス3:0.5% を超えて存在する場合に、同定して定量します。
毒性の重いクラスほど、少しでも含まれうるなら測る対象に入る組み立てです。
製剤は、原料ごとの残留量を足し合わせて製剤中の量を計算し、限度以下なら製剤の試験は要らないとされています。計算が限度を超える場合と、製剤の製造で溶媒を使った場合は、製剤を試験します(2章)。
そのため、原薬や添加剤を買う側は、供給元の情報を計算に使います。Q3C は供給元が示す情報の例に、「含まれうるのはクラス3の溶媒だけで、乾燥減量は 0.5% 未満」のような記載を挙げています(3.5)。
つまり、試験する溶媒の一覧は、自社と供給元の工程で、どの溶媒をどの段で使ったかを書き出すことから決まります。では、選んだ溶媒は何で測るのか。
6. 残留溶媒は何で測るのか
残留溶媒は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー(HS-GC)で測るのが一般的です。 試料を密閉した容器で温め、気相に出た溶媒をガスクロマトグラフィーで分けます。ガスクロマトグラフィー(GC)は、気体にした成分を細い管(カラム)に流し、出てくるまでの時間の違いで分ける方法です。
HS-GC では、容器の上の空間(ヘッドスペース)に出た気体だけを装置に送るため、揮発しない原薬や添加剤は容器に残ります。Q3C は、薬局方の調和された方法を可能なら使うよう求めています(3.4)。米国薬局方米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく →(USP)の一般試験法〈467〉では、次の3つの手順で測ります。
- 手順A(同定と限度試験):USP が G43 と呼ぶ種類のカラムで溶媒を同定し、限度を超えるかを調べます。
- 手順B(確認):限度を超えた溶媒を、極性の違う G16 のカラムで確かめます。片方で重なったピークが、もう片方で分かれることがあるためです。
- 手順C(定量):AとBのうち、ピークの重なりが少なかったほうのカラムで定量します。
同定、確認、定量の順に、対象の溶媒を絞っていく手順です。薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。詳しく →の方法が使えない場合は目的に合うバリデート済みの方法を選び、バリデーションは ICH Q2 の現行版に沿って行います(3.4)。
乾燥減量を使えるとき
クラス3の溶媒しか存在しない場合は、加熱して減った重さを量る乾燥減量のような、溶媒を区別しない方法も使えます(3.4)。乾燥減量は水も含めて揮発する分をまとめて量るため、溶媒ごとの量は分かりません。
2024年1月の現行版 Q3C(R9) は、この方法を適切にバリデートし、溶媒の揮発しやすさの影響を考えることを条件に加えました。R9 で変わったのは Q3C の分析法の節(3.4)だけで、日本の「医薬品の残留溶媒ガイドライン」も2024年4月に同じ改正を受けています。
測るときに気をつける点
- 試料を溶かす液:水に溶けない試料は DMF(ジメチルホルムアミド)などに溶かしますが、溶かす液に使った溶媒はその分析では測れません。工程で DMF を使った製品では、溶かす液の選び方を先に確かめます。
- ヘッドスペースへの出方:気相に出る量は加熱温度や試料の組成で変わるため、試料に既知の量の溶媒を加える標準添加法などで回収を確かめます。
このように、HS-GC の結果を信頼するには、試料を溶かす液と、溶媒が気相に出る割合を製品ごとに確かめておく必要があります。最後に、自分の製品で決める順番をまとめます。
7. 自分の製品では、何から確かめるのか
工程で使う溶媒を洗い出すことから始め、次の順に決めます。
- 溶媒を洗い出す:原薬・添加剤・製剤の各工程で使う溶媒と、反応で生成する溶媒を挙げ、クラスを確かめます。表4の溶媒なら、残留量の妥当性を示す材料も用意します。
- 含まれる可能性が高い溶媒を決める:最終工程で使う溶媒と、前の工程で使い、一貫して除けているとは言えない溶媒を選びます。
- オプションを選ぶ:1日投与量が 10 g 以下で全成分が表の値を満たすならオプション1、そうでなければオプション2で製剤全体の量を計算します。
- 供給元の情報をそろえる:原薬と添加剤の使用溶媒と残留量を供給元から受け取り、製剤中の量の計算に使います。
- 試験法と規格を決める:USP〈467〉や日本薬局方の残留溶媒試験法を使えるかを確かめます。規格に載せる項目と試験の頻度は、ICH Q6A(新しい化学合成医薬品の規格のガイドライン)の考え方で決めます。
どれも、限度の計算と試験の範囲を、工程で使った溶媒の事実から説明できるようにするための作業です。
晶析や乾燥で溶媒を減らす工程は、低分子原薬の製造工程にまとめています。金属触媒などの残りは元素不純物、有効成分に似た構造の不純物は類縁物質で扱っています。
参考文献
- ICH Q3C(R9), Impurities: Guideline for Residual Solvents(Current Step 4 version, 2024年1月24日)(定義と溶媒の選び方 1章、適用範囲 2章、クラスと PDE の定義 3.1、オプション1・2と PDE を超えたときの対応 3.3、分析法 3.4、含まれる可能性が高い溶媒と供給元の情報の例 3.5、クラスごとの限度 4.1〜4.4、表1〜4)
- USP General Chapter〈467〉Residual Solvents(本文は有償。手順A・B・C、G43相と G16相のカラム、試料の溶かし方)
- ICH Q6A, Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for New Drug Substances and New Drug Products: Chemical Substances
- ICH Q2(R2)分析法バリデーションのガイドライン。分析手順が妥当性を持つことを確認する枠組みを定める。詳しく →, Validation of Analytical Procedures
- 厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長通知「医薬品の残留溶媒ガイドラインの改正について」(医薬薬審発0415第1号、2024年4月15日。3⑷ 分析方法の新旧対照). https://www.pmda.go.jp/files/000268162.pdf
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