低分子原薬(API)の品質管理とは?類縁物質・残留溶媒・結晶形
低分子原薬の品質管理が、バイオ医薬品抗体・タンパク質・核酸など生体由来の分子を利用して製造された医薬品の総称。詳しく →と決定的に違う点があります。数字が先に決まっていることです。この不純物は何 % まで、この溶媒は何 ppm抗体1mgあたりの不純物量(ng)のように、100万分の1の比で微量成分の割合を表す単位。詳しく → まで、この金属は1日あたり何 µg まで。ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → のガイドラインが具体的な値を置いていて、開発側はその値を満たせるかどうかを確かめる立場に回ります。何を規格にするかで悩む場面が、バイオ医薬品に比べればそもそも少ないのです。

核心は一点です。低分子の規格は、多くが毒性の側から逆算されて決まっています。1日の最大投与量が何 g かによって類縁物質主に低分子医薬で、目的物質に構造が似た不純物や分解物を分離・定量する分析です。純度や安定性を確認します。詳しく →の閾値が変わり、溶媒の毒性の等級によって残留の上限が変わる。つまり、同じ化合物でも投与量が変われば規格が変わります。分析法を決める前に、投与量と毒性の評価が先に来る構造になっていて、この順番を取り違えると測れない規格ができあがります。
この記事では、同定と含量と水分という素性の確定から始めて、類縁物質の閾値、工程から入ってくる残留溶媒と元素不純物医薬品中に金属など元素の形で残る望ましくない微量成分。触媒残留や重金属が代表。詳しく →、キラル純度目的のエナンチオマーと望まない鏡像体の存在比を表す品質特性。立体中心をもつ原薬の光学的な純度を示す。詳しく →、そして結晶形の順に、数字の出どころをたどりながら解説します。結晶形のところでは、規格表に書かれないことがある項目が製品を止めた事例にも触れます。最後に、規格を組む順序を並べます。
- 類縁物質の報告閾値は1日最大投与量で変わり、2 g/day 以下なら 0.05% が出発点です。
- 残留溶媒は毒性の等級で上限が決まり、ベンゼンの 2 ppm から第3類の 5000 ppm まで開きます。
- 結晶形は規格に書かれないことがありますが、リトナビルの事例が示すとおり製品を止めます。
素性を決める三つ ― 同定、含量、水分
まず、その粉が何であるかを確定させます。
同定は複数の方法を重ねます。赤外吸収スペクトルで官能基の並びを、核磁気共鳴磁場の中で原子核が示す共鳴を測り、分子の化学構造や純度を調べる装置です。低分子医薬品の構造確認などに使われます。詳しく →で骨格を、質量分析分子の質量を精密に測る手法。鎖の組み合わせ違いを分子量差として捉え純度評価に使う。詳しく →で分子量を確かめる。単独の方法では、似た構造の化合物を排除しきれないからです。ICH Q6A も、同定は特異性分析法において、共存する不純物・分解物・添加剤などが存在しても目的成分だけを正確に測定できる能力。詳しく →の高い方法を組み合わせることを求めています。
含量は、原薬そのものが何 % かという値です。逆相HPLC疎水性の差でペプチドやオリゴを分離する液体クロマトグラフィーのこと。詳しく →の面積百分率クロマトグラムの全ピーク面積の合計に対する各ピーク面積の割合で不純物量を相対的に示す指標で、項目10(ピーク面積百分率)と実質的に同義であり、重複した定義である。詳しく →で出すのが基本で、Agilent、Waters、Shimadzu、Thermo Fisher Scientific の系が使われます。ただし面積百分率は、検出器が見えないものを勘定に入れません。だから水分や残留溶媒製造で使った有機溶媒が製品に残っていないか調べる試験です。ガスクロマトグラフィーなどで残存量を測り安全性を確認します。詳しく →や無機分を別に測り、差し引いて整合を確かめます。
水分はカール・フィッシャー滴定で測ります。Metrohm や Mettler-Toledo の装置が定番で、容量法と電量法を含水量に応じて使い分けます。水和物として結晶構造に組み込まれている水と、表面に吸着した水では意味が違うので、熱重量分析試料を加熱しながら熱の出入り(DSC)や重量の変化(TGA)を測り、融点・結晶性・水分や分解の挙動を調べる装置です。詳しく →と併せて読むこともあります。
素性の確定は「合っていること」の確認ではなく、「それ以外でないこと」の確認です。
類縁物質 ― 0.05% から報告が始まる
合成の途中でできた副生成物や分解物が、類縁物質です。
ICH Q3A新有効成分を含む原薬中の不純物管理に関する国際的な規制ガイドラインで、報告・同定(構造決定)・資格付与(安全性確認)の各閾値を規定する。詳しく →(R2) は、閾値を1日最大投与量で場合分けしています。2 g/day 以下なら、報告が必要になるのは 0.05% から。構造を同定しなければならないのは 0.10% か 1.0 mg/day のうち低いほうから。毒性を評価して安全性を示さなければならないのは 0.15% か 1.0 mg/day のうち低いほうから。2 g/day を超える場合は、それぞれ 0.03%、0.05%、0.05% に下がります。
ここで効いてくるのが、変異原性の可能性です。DNA と反応しうる構造を持つ不純物は、ICH M7医薬品中のDNA反応性(変異原性)不純物を評価・管理し、発がんリスクを抑えるためのガイドライン。詳しく →(R2) の枠組みに入り、閾値は一気に下がります。生涯にわたる摂取で無視できるとされる TTC が 1日あたり 1.5 µg なので、通常の類縁物質の閾値より二桁から三桁厳しい水準です。構造活性相関分子の構造をどう変えると効き目や毒性がどう変わるかの関係。化合物最適化の指針になる。詳しく →で警告構造を持つと判定された時点で、必要な分析感度が変わります。
測るのは逆相HPLCイオン対試薬を使い疎水性の差で分ける液体クロマト。一本鎖と二本鎖RNAの分離やdsRNA除去に使われます。詳しく →で、検出限界と定量限界を閾値より十分下に置く必要があります。質量分析を併用すれば構造の推定まで進めますが、面積百分率で定量するなら応答係数の確認が要ります。詳しくは類縁物質にまとめています。
類縁物質の規格は化合物ごとではなく、投与量ごとに決まります。
工程から来るもの ― 残留溶媒と元素不純物
合成に使った試薬が、原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →に残ります。
残留溶媒は ICH Q3C国際調和会議(ICH)が策定した医薬品中の残留溶媒に関するガイドラインで、溶媒を毒性に応じてクラス分けし限度値を規定する。詳しく →(R8) が毒性で三つに分類しています。第1類は発がん性などの理由で使用を避けるべき溶媒で、ベンゼンは 2 ppm、四塩化炭素は 4 ppm と極端に低い。第2類は制限付きで使える溶媒で、メタノール微生物発酵でエネルギー源となる糖類などの炭素源と、目的遺伝子の発現を促す誘導物質のことです。詳しく →が 3000 ppm、アセトニトリルが 410 ppm、ジクロロメタンが 600 ppm といった水準です。第3類は毒性が低いとされる溶媒で、5000 ppm、つまり 0.5% が一律の目安です。
測定はヘッドスペースGC気化させた成分をカラムで分離して検出する分析装置です。製造工程で使った溶媒の残留量を測る残留溶媒分析などに使います。詳しく →が標準です。バイアルを加熱して気相に出てきた溶媒を注入する方法で、GERSTEL のような自動サンプラーで多検体を回します。詳細は残留溶媒とヘッドスペースGCにあります。
元素不純物は ICH Q3D元素不純物をどの元素・投与経路でどこまで管理するかを、毒性データに基づき国際的に定めたガイドライン。詳しく →(R2) の管轄です。触媒として使った金属や、装置や容器から溶け出した金属を対象に、1日許容曝露量で上限が置かれます。経口ならカドミウムと鉛が 5 µg/day、ヒ素が 15 µg/day、水銀が 30 µg/day。注射剤ではさらに低くなります。測定は ICP-MS高温プラズマで試料を原子化し、金属などの元素の種類と量を高感度に測る手法です。医薬品の元素不純物の管理に使われます。詳しく → が主流で、元素不純物に詳細があります。
残留溶媒も元素不純物も、最終の原薬で測るだけでは管理になりません。どの工程段階で入り、どこで抜けるかをリスク評価で押さえ、必要なら中間体で管理する。ICH Q3D が求めているのはこの考え方で、ICH Q7 の工程管理ともつながります。
キラル純度 ― 鏡像体を作り分ける
不斉中心があれば、もう一つ項目が増えます。
鏡像の関係にある二つの分子は、物理的性質がほとんど同じで、通常のHPLCでは分かれません。それでも体内では別の化合物として振る舞い、片方だけが効く場合も、片方が有害な場合もあります。だから作り分けと、その確認が要ります。
分離には、キラル固定相を使います。Daicel の CHIRALPAK や CHIRALCEL が事実上の標準で、多糖誘導体を担体に固定した系です。移動相の組み合わせを変えながら、目的の異性体が分かれる条件を探していきます。超臨界流体クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →を使えば、分取まで含めて効率が上がります。
規格は光学純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →で置きます。不要な鏡像体を 0.5% 以下、あるいは 0.1% 以下といった水準です。合成ルートが不斉合成なのか、ラセミ体を分割するのかで、到達できる純度も原価も変わります。
結晶形 ― リトナビルが教えたこと
同じ分子でも、並び方が違えば別の固体です。
結晶形が変わると、溶解度も溶解速度も変わります。溶けなければ吸収されないので、生物学的利用能投与した薬のうち、未変化のまま全身循環に到達する割合。静脈内投与を100%として比較する。詳しく →がそのまま動く。そして厄介なのは、より安定な結晶形が後から現れることがある点です。
実例があります。抗HIV薬のリトナビルは 1996年 に承認されましたが、1998年 に、それまで知られていなかったより安定な結晶形が製造中に出現しました。この形は溶解度が低く、既存の製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →では必要な血中濃度が得られない。製品は回収され、処方をやり直すことになりました。結晶形の管理が、製品を止めうることを示した事例として語り継がれています。
だから、開発の早い段階で多形スクリーニングを回します。溶媒、温度、冷却速度、貧溶媒の加え方を振って、出てくる形を洗い出す。同定は粉末X線回折が基本で、Rigaku や Malvern Panalytical の装置を使います。示差走査熱量測定温度を上げながら分子がほどける際の熱の出入りを測り、融解温度(Tm)を求める手法。詳しく →で転移の温度を、熱重量分析で溶媒和物かどうかを確かめる。TA Instruments や Mettler-Toledo の熱分析系が組み合わされます。
粒子径も併せて管理します。溶解速度は表面積に効くので、レーザー回折で D10、D50、D90 を測り、粉砕条件と紐づけます。結晶形と粒子径は、規格表では地味な項目ですが、製剤の性能を直接に決めます。
規格を組む順序
低分子原薬の規格を組むとき、次の順で決めると無駄が減ります。
一番目は、1日最大投与量を確定させることです。 ここが決まらないと、類縁物質の閾値も元素不純物の上限も置けません。2 g/day を挟んで閾値が変わるので、境界付近なら両方を見込んでおきます。二番目に、合成ルートから入りうるものを洗い出します。使った溶媒、触媒の金属、想定される副生成物。ここはリスク評価工程や製品に潜在するリスクの種類・発生可能性・影響度を系統的に特定・分析し、優先的に管理すべき項目を決定する手続き。詳しく →であって分析ではありません。
三番目に、変異原性の可能性を評価します。警告構造を持つ不純物があれば、ICH M7 の 1.5 µg/day を満たす感度が要るので、分析法の設計が変わります。四番目が多形スクリーニングです。製剤設計有効成分を安定に保ち投与しやすくするため、pH・緩衝剤・添加剤などの処方を検討して決める工程です。詳しく →が固まる前に、どんな形が出うるかを洗い出しておく。ここを後回しにすると、リトナビルと同じ場所に立たされます。
最後に分析法を決めます。システム適合性を含めて手順を固め、閾値に対して十分な検出限界があるかを確かめる。規格値は分析の都合ではなく毒性の側から来るので、分析法は「その値を測れるか」という条件で選ばれます。順番を逆にすると、測れない規格ができあがります。
参考文献
ガイドライン・基準
- ICH Harmonised Guideline Q3A(R2): Impurities in New Drug Substances. International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use. https://database.ich.org/sites/default/files/Q3A(R2)%20Guideline.pdf
- ICH Harmonised Guideline Q3C(R8): Impurities — Guideline for Residual Solvents. ICH. https://database.ich.org/sites/default/files/ICH_Q3C-R8_Guideline_Step4_2021_0422_1.pdf
- ICH Harmonised Guideline Q3D(R2): Guideline for Elemental Impurities. ICH. https://database.ich.org/sites/default/files/Q3D-R2_Guideline_Step4_2022_0308.pdf
- ICH Harmonised Guideline M7(R2): Assessment and Control of DNA Reactive (Mutagenic) Impurities in Pharmaceuticals to Limit Potential Carcinogenic Risk. ICH. https://database.ich.org/sites/default/files/ICH_M7(R2)_Guideline_Step4_2023_0216_0.pdf
- ICH Harmonised Guideline Q6A: Specifications — Test Procedures and Acceptance Criteria for New Drug Substances and New Drug Products: Chemical Substances. ICH. https://database.ich.org/sites/default/files/Q6A%20Guideline.pdf
- FDA Guidance for Industry: ANDAs — Pharmaceutical Solid Polymorphism (Chemistry, Manufacturing, and Controls Information). U.S. Food and Drug Administration. https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/andaspharmaceutical-solid-polymorphism-chemistry-manufacturing-and-controls-information
主な文献
- Bauer J, Spanton S, Henry R, et al. Ritonavir: an extraordinary example of conformational polymorphism. Pharm Res. 2001;18(6):859-866. PMID: 11474792. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11474792/
- Singhal D, Curatolo W. Drug polymorphism and dosage form design: a practical perspective. Adv Drug Deliv Rev. 2004;56(3):335-347. PMID: 14962585. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14962585/
- Bercu JP, Dobo KL, Gocke E, McGovern TJ. Overview of genotoxic impurities in pharmaceutical development. Int J Toxicol. 2009;28(6):468-478. PMID: 19966139. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19966139/
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