検出限界(LOD)と定量限界(LOQ)とは?何が違い、どう求めるのか

検出限界(LOD)と定量限界(LOQ)は、分析法がどこまで低い量を扱えるかを示す2つの下限で、不純物のような微量の成分を測る分析法を作り、その性能を確かめるとき(分析法バリデーション試験・分析方法が目的とする測定を正確・精密・再現性よく実施できることを科学的に確認するプロセス。詳しく →)に決める値です。LODその方法で確実に検出できる最小の量。試験法が求める感度を満たすかを評価する指標です。 は分析対象が「ある」と言える最小量、LOQ十分な精度で定量できる最小量。分析法の性能を示すバリデーション項目の一つ。詳しく → は「いくらある」と数値で言える最小量です。
ただし、LOD と LOQ は分析法ごとに1つに決まる数値ではありません。求め方や、ばらつきに何を使うか、どんな試料で求めたかによって、同じ分析法でも値が変わります。
この記事では、2つの下限の違い、どの試験でどちらを使うのか、求め方、値が変わる理由、実際の試料での確かめ方を順に説明します。
- LODとLOQとは:LOD は分析対象が「ある」と言える最小量で、LOQ は「いくらある」と適切な精度と真度で言える最小量です。
- どう求めるのか:S/N比が3対1と10対1以上になる濃度を目安にする方法と、検量線の傾き S と応答の標準偏差 σ から 3.3σ/S、10σ/S で計算する方法の2つを、ICH Q2(R2) が代表に挙げています。
- なぜ値が変わるのか:計算の式、σ に何を使うか、S/N比のノイズの読み方が違うと、同じ分析法でも値が変わるからです。
1. 検出限界(LOD)と定量限界(LOQ)とは何か
LOD は分析対象が「ある」と言える最小量で、LOQ は「いくらある」と適切な精度と真度で言える最小量です。 分析法バリデーションの国際的なガイドライン ICH Q2(R2)分析法バリデーションのガイドライン。分析手順が妥当性を持つことを確認する枠組みを定める。詳しく → の用語集が、こう定義しています。Q2(R2) での略号は、DL(detection limit)と QL(quantitation limit)です。
分析対象をまったく含まない試料(ブランク)を測っても、信号の線(ベースライン)は平らにならず、細かく揺れます。この揺れがノイズで、分析対象がごく少ないと、その信号はノイズに埋もれて見分けられません。
- LOD:目的成分の信号が、ブランクの応答やベースラインのノイズと区別できれば足ります。その濃度で得た数値の精度や真度は問いません。
- LOQ:定量値として報告できるだけの精度(繰り返し測ったときのばらつきの小ささ)と真度(真の値への近さ)が求められます。
どちらもノイズとの見分けで決まる下限ですが、LOQ は LOD より大きな信号を求めます。また、カタログに載る検出器の感度と違い、どちらも試料の調製から計算までを含めた、分析法ごとの性能です。

LOD と LOQ の間の濃度では、分析対象があることは言えても、その数値の精度と真度は保証されません。このように、同じ微量の結果でも、LOQ を超えたかどうかで、数値として報告できるかが分かれます。では、試験ではどちらの下限を使うのか。
2. 試験では、どちらの下限を使うのか
不純物の量を数値で報告する試験では LOQ を、限度を超えるかどうかだけを判定する限度試験では LOD を、その分析法で測れる範囲の下限として確かめます。 ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q2(R2) の表1がこの使い分けを示しており、有効成分の含量や確認の試験では、ふつう評価しません。
ここでいう範囲とは、分析法が適切な精度と真度で結果を出せる幅のことです。旧版の Q2(R1) で独立したバリデーションの項目だった LOD と LOQ は、Q2(R2) では範囲の下限の妥当性確認(3.2.3)として扱われています。
不純物試験では、LOQ を報告の閾値以下に置くよう、Q2(R2) が求めています(3.2.3.5)。報告の閾値とは、その値を超えた不純物を個別に報告する濃度のことです。低分子の新原薬と新製剤では ICH Q3A新有効成分を含む原薬中の不純物管理に関する国際的な規制ガイドラインで、報告・同定(構造決定)・資格付与(安全性確認)の各閾値を規定する。詳しく →(R2)・Q3B(R2) が最大1日投与量に応じて定め、同じく定量限界をその値以下とするよう求めています。
USP〈621〉と日本薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。詳しく →も、分析のたびに流すシステム適合性試験の「システムの感度」として、S/N比測定装置のベースラインノイズに対する目的成分の信号強度の比率で、検出能の指標として用いられる。10に相当する定量限界を報告の閾値以下とするよう求めています。
- LOQ が報告の閾値より高いとき:報告すべき濃度の不純物を、数値で出せません。
- LOQ が規格値に近いとき:分析のばらつきが、合否の判定に大きく効きます。
類縁物質や残存DNA、HCP(宿主細胞由来タンパク質)のELISA(酵素免疫測定法)は、規格値が低い試験です。そのため、これらの試験では、LOQ が規格値の十分下にあることが、その分析法を使う前提です。
つまり、LOD と LOQ は、報告の閾値や規格値と並べて初めて、足りるかどうかを判断できる値です。では、その値はどう求めるのか。
3. S/N比では、どう求めるのか
S/N測定装置のベースラインノイズに対する目的成分の信号強度の比率で、検出能の指標として用いられる。比で求めるときは、S/N比が3対1になる濃度を LOD、10対1以上になる濃度を LOQ の目安にします。 S/N比は、目的成分の信号の大きさを、ベースラインのノイズの大きさで割った値です。ICH Q2(R2) の 3.2.3.2 がこの目安を示し、旧版の Q2(R1) が LOD に挙げていた「3対1または2対1」は、3対1に改められました。
この方法は、クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →のようにベースラインにノイズが現れる分析法に向き、既知の低濃度の試料の信号をブランクと比べて求めます。計算式は薬局方が定めており、USP〈621〉、Ph. Eur.欧州医薬品品質局(EDQM)が発行する、医薬品の品質基準を定めた公定書で、署名国・加盟国の規制に法的効力を持つ。詳しく → 2.2.46、日本薬局方は S/N比を 2H/h としています。
H はピークの高さ、h はブランクを注入したクロマトグラムで読んだノイズの最大値と最小値の差で、2H/h はピークの高さを揺れの幅の半分で割った値です。ノイズを読む区間は、ピークの半値幅(高さの半分の位置での幅)の5倍以上と決められています。
説明用の例として、HPLC-UV(高速液体クロマトグラフィーに紫外吸光の検出器をつないだ測定)で 0.05 µg/mL の標準液を注入したとします。H が 0.6 mAU、h が 0.4 mAU なら、S/N比は 2 × 0.6 ÷ 0.4 = 3 で、この濃度が LOD の目安です。S/N比を10にするには H が 2.0 mAU 要り、ピークの高さが濃度に比例するとみなせば、0.05 × 2.0 ÷ 0.6 ≒ 0.17 µg/mL が LOQ の見込みです。
このように、S/N比はクロマトグラムの上で読める方法ですが、ベースラインのノイズを読めない測定には使えません。では、検量線既知濃度の標準から作る定量の基準線。qPCRでサンプル中のDNA量を読み取るのに使う。詳しく →からはどう求めるのか。
4. 検量線からは、どう求めるのか
検量線から求めるときは、検量線の傾き S と応答の標準偏差 σ から、LOD = 3.3σ/S、LOQ = 10σ/S で計算します。 ICH Q2(R2) の 3.2.3.3 が示す式で、σ は低濃度域での応答のばらつき、S は検量線(濃度と応答の関係を表す線)の傾きです。ノイズを直接読めない測定でも使えます。
傾きが急なほど、濃度が少し変わっただけで応答が大きく変わるので、同じばらつきでも低い濃度まで区別できます。式で S が分母にあるのは、この関係を表すためです。
ただし、この式は、低濃度域で応答が濃度に比例する直線の検量線を前提にしています。ELISA抗原と抗体の結合を酵素反応による発色などで検出し、目的の物質の有無や量を測る手法です。不純物や力価の測定に広く使われます。詳しく → の検量線は4パラメータロジスティック(4PL)式のような S 字の曲線になることが多く、傾き S を1つの値に決められません。
その場合や、推定に頼らないときは、次の方法をとります。
- ブランクのばらつきを濃度に換算する:ブランクを繰り返し測った応答の平均に標準偏差の何倍かを足し、その応答を検量線で濃度に読み替える方法です。
- LOQ の候補で直接確かめる:推定値を使わず、候補の濃度で真度と精度を実際に測り、基準を満たすことを示します(3.2.3.4)。
- 目視で判断する:既知の濃度の試料を測り、確実に検出・定量できる最小の濃度を、目で見て判断する方法です(3.2.3.1)。
つまり、ノイズを読めるか、検量線が直線かで選べる方法が変わり、選んだ方法によって出てくる値も変わります。では、同じ分析法で、なぜ値が変わるのか。
5. なぜ同じ分析法でも値が変わるのか
計算の式、σ に何を使うか、S/N比のノイズの読み方が違うと、同じ分析法でも LOD と LOQ の値が変わります。 S/N比で求めた値と検量線で求めた値も、同じ試料で一致するとは限りません。
式とσの選び方
ICH Q2(R2) の式で同じデータから求めると、LOQ は LOD のおよそ3倍(10 ÷ 3.3)の濃度に出ます。一方で、市販のキットの添付文書に載る値は、この式で求めたものとは限りません。
たとえば Cygnus Technologies の大腸菌 HCP医薬品を作る宿主細胞に由来するタンパク質の不純物です。安全性に関わるため、精製後の残存量を測ります。詳しく → 測定用 ELISA キットの添付文書は、LOD を、濃度ゼロの標準液の平均値より標準偏差の2倍高い信号に当たる濃度として、約0.2 ng/mL としています。LOQ は、変動係数(CV)が20%未満になる最低濃度として約1 ng/mL で、定義が違うので比も約5倍です。
σ の取り方も、Q2(R2) は1つに決めておらず、例として次の3つを挙げています。
- ブランクの標準偏差:ブランク試料を何回か測った応答のばらつきです。
- 回帰直線の残差標準偏差:検量線の各点が、直線から外れる大きさを表します。
- y 切片の標準偏差:検量線を何本か作ったときの、切片のばらつきです。
検量線から σ を求めるときは、LOD・LOQ 付近の濃度の試料で作った検量線を使うよう、Q2(R2) は求めています。分析法の全範囲で作った検量線の残差では、低濃度域のばらつきを正しく反映しないことがあります。
S/N比の計算の設定
データ処理ソフトには、2H/h のほかに H/h や二乗平均平方根(RMS)のノイズを使う計算もあり、同じクロマトグラムでも S/N比の値は同じではありません。H/h で計算すれば、2H/h の半分の値です。
ノイズを読む区間も、USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく → と Ph. Eur. は2023〜2024年、日本薬局方は2026年の第十九改正で、半値幅の20倍から5倍以上に改めました。区間の長さが違えば読み取る h も変わりうるので、どの規定で計算しているかをソフトの設定で確かめます。
キットやカタログの LOD・LOQ を自社の値と比べるときは、まず定義と、求めた試料(溶媒に溶かした標準品か、自社と同じ組成の試料か)をそろえます。
このように、LOD・LOQ の数字は求め方と組みで読むもので、求め方の書かれていない「検出せず」からは、どの濃度まで無いと言えるのかが読み取れません。では、計算で出した値は、実際の試料でどう確かめるのか。
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- 6. 計算した値は、実際の試料でどう確かめるのか
- 7. 自分の分析法では、どの順番で決めるのか
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ほかの会員向けの記事を見る →参考文献
- ICH Q2(R2), Validation of Analytical Procedures(2023年11月1日 Step 4、2023年11月30日 表の誤記訂正。用語集の定義(DL・QL、範囲)、表1、3.2.3 範囲の下限の妥当性確認。3.2.3.2 はノイズを決めた区間で、できれば目的のピークが出る位置の前後に均等にとって読むよう求めている)
- ICH Q2(R1), Validation of Analytical Procedures: Text and Methodology(旧版。LOD の S/N比に「3対1または2対1」を挙げていた)
- EMA, ICH Q2(R2) Validation of analytical procedures - Scientific guideline(欧州での適用は2024年6月14日から)
- 厚生労働省 医薬局医薬品審査管理課長通知「分析法バリデーションに関するガイドライン」(令和7年10月9日、医薬薬審発1009第1号)。同日付で「分析法の開発に関するガイドライン」(医薬薬審発1009第2号、ICH Q14分析法の開発を扱うガイドライン。方法のライフサイクル全体と、科学・リスクに基づく変更管理を扱う。詳しく →)
- ICH Q3A(R2) Impurities in New Drug Substances/Q3B(R2) Impurities in New Drug Products(Q3A(R2) は4章、Q3B(R2) は3章の Analytical Procedures。報告の閾値と、定量限界を報告の閾値以下とする記載)
- USP General Chapter 〈621〉 Chromatography/Ph. Eur. 2.2.46 Chromatographic separation techniques(S/N比 = 2H/h、システムの感度。調和版のUSP の掲載文。現行版は有償の公定書)
- 島津製作所, Compliance with the General chapter of the Pharmacopoeia(USP は2023年4月、Ph. Eur. は2024年1月から、ノイズを読む区間を半値幅の20倍から5倍以上に改めた経緯。日本薬局方は第十八改正の追補の時点で20倍、第十九改正で5倍以上)
- 厚生労働省, 第十九改正日本薬局方 通則〜一般試験法(2026年4月10日告示。2.00 クロマトグラフィー総論の SN比 = 2H/h:ノイズはピーク高さの中点におけるピーク幅の少なくとも5倍の範囲で測る。システムの感度:定量限界(SN比10に相当)は報告の閾値以下)
- USP General Chapter 〈1225〉 Validation of Compendial Procedures(USP–NF 収載。有償の公定書。分析法バリデーションの枠組み)
- Cygnus Technologies, E. coli HCP ELISA Kit (F410) Product Insert(LOD・LOQ の定義と値)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/lod-loq-detection-quantitation-limit