特異性とは?分析法バリデーションで「測りたいものだけを測れている」の示し方
分析法における特異性(specificity分析法において、共存する不純物・分解物・添加剤などが存在しても目的成分だけを正確に測定できる能力。)とは、共存しうる成分がある中で、目的とする物質だけを確かに測れていることを指します。不純物や分解物、添加剤、マトリックス分析対象物が含まれる試料の背景成分(緩衝液・血清・細胞培養液など)の総称で、測定値に影響を与えうる。由来の成分が混ざっていても、測定値が目的物質の量だけを反映している——これを示すのが特異性分析法において、共存する不純物・分解物・添加剤などが存在しても目的成分だけを正確に測定できる能力。の評価です。
「感度が高い」「精度がよい」は特異性とは別の話です。まったく別の物質を目的物質と取り違えて測っていても、繰り返せば良い精度は出ます。特異性は、分析法バリデーション試験・分析方法が目的とする測定を正確・精密・再現性よく実施できることを科学的に確認するプロセス。の中で最初に土台として置かれる項目にあたります。

- 特異性は「目的物質だけを測れている」ことの証明であり、精度や感度とは独立した項目です。
- 分離を伴う手法では、強制劣化試験で不純物・分解物を意図的に作り、分離できることを示すのが基本です。
- 単独の手法で示しきれない場合、原理の異なる手法(直交法)を組み合わせて裏づけます。
特異性と選択性——用語の使い分け
この二つは近い意味で使われ、文脈によって重なります。
一般的な整理としては、選択性目的物と不純物を、溶出位置をどれだけ離して分けられるかの度合い。分離の分解能を左右する。(selectivity)は共存成分の影響を受けずに測れる程度を段階的に表す語、特異性(specificity)は目的物質だけに応答することを示す語として使われます。ICH Q2(R2)分析法バリデーションのガイドライン。分析手順が妥当性を持つことを確認する枠組みを定める。 は分析法バリデーション試験法が目的に合う性能を持つことを立証する妥当性確認。正確さ・精度などを評価する。の性能特性として特異性/選択性を扱っており、実務上は「共存成分の影響を受けずに目的の測定対象を評価できること」を示す項目として理解しておけば足ります。
重要なのは呼び方ではなく、何をもって示すかです。
分離を伴う手法での示し方
クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。や電気泳動のように分離を伴う手法では、目的物質のピークが他の成分と分かれていることを示します。
強制劣化試験(forced degradation)
意図的に過酷な条件を与えて分解物を生成させ、それらが目的物質のピークと分離できることを確認します。強制劣化試験で用いられる代表的な条件は次のようなものです。
| 条件 | 狙う分解経路 |
|---|---|
| 酸性・塩基性 | 加水分解、脱アミド化アスパラギンなどが変化して電荷が変わる化学的分解。特定の隣接配列で起きやすい。 |
| 酸化 | メチオニン・トリプトファンの酸化 |
| 熱 | 熱による変性・凝集・断片化主鎖が切れて分子が分かれる劣化。低分子量体(LMW)として現れ、酸性側などで進みやすい。 |
| 光 | 光分解 |
分解を進めすぎると二次的な分解物ばかりになり、実際に起こる分解を反映しません。「主成分がある程度残る」水準にとどめて評価するのが通例です。
ピーク純度の確認
分離できているように見えても、ピークの中に別の成分が隠れている可能性があります。フォトダイオードアレイ検出器でピーク内のスペクトルの一様性を確認する、あるいはLC-MSで質量情報を取る——こうした手段でピークの単一性を裏づけます。
「ピークが1本に見える」ことと「そのピークが単一成分である」ことは別です。特異性の証明では、分離の見た目に加えて、ピークの中身を独立した情報で確認する段階が必要になります。
プラセボ・マトリックスの確認
製剤には添加剤が含まれます。原薬を含まない処方(プラセボ有効成分を含まないが外観・剤形などを実薬と同一に見せた製剤で、対照群への投与や盲検維持のために用いられる。)を同じ条件で測定し、目的物質の位置に応答が出ないことを確認します。生体試料を扱うバイオアナリシスでは、複数ロットのブランクマトリックスで干渉がないことを示す手順が置かれます。
分離を伴わない手法での考え方
免疫測定や生物活性製品にどれだけの目的物質が含まれるか(含量)や、その生物学的な効き目の強さ(活性)を示す指標です。培養液中の産生量を指す場合もあります。詳しく →試験では、「分離して見せる」という示し方ができません。別の論法が必要になります。
免疫測定(ELISA抗原と抗体の結合を酵素反応による発色などで検出し、目的の物質の有無や量を測る手法です。不純物や力価の測定に広く使われます。詳しく →など)では、抗体の結合特異性が測定の特異性そのものになります。近縁の分子や分解物との交差反応ある抗原に対して生じた抗体が、構造の類似した別の抗原にも結合・反応する現象。性を確認する、標的を含まない試料で応答が出ないことを示す、といった評価が中心です。HCP-ELISAの手法選択で抗体カバー率が問題になるのも、この特異性の裏返しにあたります。
生物活性(力価)試験では、応答が目的とする作用機序薬が効果を発揮する仕組み。抗体医薬ではADCCやCDCなどが該当し、アッセイで裏づける。に由来することを示します。標的を欠いた系で応答が消えること、既知の阻害剤トランスポーターの働きをふさぐ薬。他の基質薬の輸送を妨げ、短期間で濃度を変える。で応答が抑えられることなどが根拠になります。細胞ベースの機能解析では、この設計自体が特異性の説明になります。
直交法という裏づけ方
単独の手法では特異性を示しきれない場面があります。そのとき用いられるのが、原理の異なる手法で同じ対象を測るという方法です。
たとえばSECで測った凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →の値を、原理の異なる分析超遠心(AUC)で確認する。ある不純物の量をクロマトグラフィーと質量分析分子の質量を精密に測る手法。鎖の組み合わせ違いを分子量差として捉え純度評価に使う。の双方で追う。マルチアトリビュートメソッド(MAM)のように、質量情報を軸に複数の品質特性を一度に見る設計も、この考え方の延長にあります。
原理が違えば、干渉の入り方も違います。両方で同じ結論になれば、片方だけの結果より確からしさが高まる——これが直交法異なる原理の手法で同じ対象を測り、結果を突き合わせて検証し合う分析の組み方。の論理です。
規格試験と特性解析では要求が違う
同じ「特異性」でも、その手法が何に使われるかで求められる水準が変わります。
- 規格試験(出荷判定製造したロットを規格に照らして出荷の可否を決める判断。有効期間の短い製品では時間との戦いになる。に使う):判定を誤らないことが直接の要件になります。分解物が主成分に重なって見えないことを、強制劣化を含めて示す必要があります
- 工程内管理工程の途中で中間体の力価や純度などを確認する管理。最終規格の前に品質を作り込む要素。:短時間で判断できることが優先され、規格試験ほどの分離能を要求しない場合があります
- 特性解析規格試験より高い分解能で製品の品質特性を詳しく調べること。比較可能性の評価などで用いる。:構造や性質を明らかにする目的であり、複数手法の組み合わせが前提になります
CQAに対する分析法の選択を設計するとき、どの用途にどの手法を割り当てるかで、示すべき特異性の深さが決まります。分析法の技術移転で受け入れ側が同じ特異性を再現できるかを確認するのも、同じ理由からです。
まとめ
特異性は、分析法が「測りたいものだけを測れている」ことの証明です。精度や感度とは独立した項目であり、ここが崩れると他の性能特性は意味を失います。
分離を伴う手法では、強制劣化試験で分解物を意図的に作り、それらと目的物質が分離できることを示します。加えて、ピーク純度主成分のピークの中に分解物が隠れていないこと。フォトダイオードアレイや質量分析で確認する。の確認によって「1本に見えるピークが単一成分か」を裏づけ、プラセボやブランクマトリックスで共存成分の干渉がないことを確認します。
免疫測定や生物活性試験のように分離を伴わない手法では、交差反応性の確認や作用機序に基づく応答の説明が特異性の根拠になります。単独で示しきれない場合は、原理の異なる直交原理(物差しの向き)の異なる手法を重ねて品質を評価する考え方。単一手法の死角を減らす。法で同じ結論に至ることを示します。
求められる水準は用途で変わります。規格試験、工程内管理、特性解析——それぞれで判断の重みが違うことを踏まえて設計するのが実務的な進め方です。
参考文献
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。, Q2(R2): Validation of Analytical Procedures
- ICH, Q14: Analytical Procedure Development(Step 4 プレゼンテーション資料)
- EMA, ICH Q2(R2) Validation of analytical procedures — Scientific guideline
- FDA, Analytical Procedures and Methods Validation for Drugs and Biologics(Guidance for Industry)
- ICH, Q6B: Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products
- USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。, General Chapter <621> Chromatography
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