特異性とは?分析法が目的物だけを測れていると、どう示すのか

分析法の特異性とは、試料に不純物や分解物、添加剤などが一緒に入っていても、測定値が目的の物質だけを反映していることです。試験法を作る人にも、その結果で出荷を判断する人にも関わる、分析法バリデーション試験・分析方法が目的とする測定を正確・精密・再現性よく実施できることを科学的に確認するプロセス。詳しく →(試験法が目的に合うことを示す検証)の項目の1つです。
ただし、何を示せば特異性があると言えるかは、成分を分ける手法と、分けずに信号を読む手法とで違います。
この記事では、精度がよくても数字がずれる理由から始めて、手法ごとの示し方、1つの手法で足りないときの補い方、報告書で確かめる順番までを説明します。
- 特異性とは:測定値が、目的物以外の成分を数えていないことです。
- 精度がよければ十分ではないのか:毎回同じようにずれる数字は、精度からは見えません。
- どう示すのか:手法が成分を分けるかどうかで、示す中身が変わります。
1. 繰り返し測って同じ値が出ても、なぜ正しい数字とは言えないのか
ほかの成分の分が毎回同じだけ数字に加わっていても、繰り返しの値はそろうからです。 たとえば分解物のピークが目的物のピークに重なれば、含量は実際より多く出ます。しかも、何回測っても同じように多く出ます。
試料には、測りたい物質(目的物)のほかに、製造の工程から混ざる不純物、保存中にできる分解物、製剤に加えた添加剤が入っています。血液のような生体試料なら、目的物以外を占める成分全体(マトリックス分析対象物が含まれる試料の背景成分(緩衝液・血清・細胞培養液など)の総称で、測定値に影響を与えうる。詳しく →)も信号に重なります。
これらが数字に入り込んでいないこと。それが特異性分析法において、共存する不純物・分解物・添加剤などが存在しても目的成分だけを正確に測定できる能力。詳しく →です。精度が問うのは「繰り返し測って同じ値が出るか」、特異性が問うのは「その値が何を数えているか」です。

似た言葉に選択性(selectivity)があります。分析法バリデーションの国際的な指針 ICH Q2(R2)分析法バリデーションのガイドライン。分析手順が妥当性を持つことを確認する枠組みを定める。詳しく → の用語集では、特異性は目的物だけを間違いなく測れる究極の状態を、選択性は似た成分からの干渉をどこまで避けられるかの程度を指します。指針は2つを1つの項目「特異性/選択性」として扱い、完全に特異的と言えない手法では、干渉を小さく抑えて目的に合うことを示すとしています。
実務で問われるのは、呼び名の区別ではありません。試料に入りうる成分を挙げ、それが数字に入らないことを何で示したかです。
2. 重要:特異性を示していないと、基準に入った数字の何を見落とすのか
基準に入った数字が、目的物から来ているのかを言えなくなります。 2008年に世界で問題になったヘパリンの混入事件が、その例です。
血液が固まるのを防ぐ薬のヘパリンに、本来入っていない過硫酸化コンドロイチン硫酸(OSCS)が混ざっていました。混入品は、凝固を防ぐ働きの強さを調べる力価試験を含め、当時の薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。詳しく →の試験を通っていました。
なぜ通ったのか。力価試験が測っていたのは働きの強さで、その働きがヘパリンだけから来ているかは見ていなかったからです。数字が基準に入ることと、何がその数字を出したかは、別の問題でした。
ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q2(R2) は、試料が目的物であることを確かめる確認試験、不純物の試験、含量や力価の定量のどれでも、特異性を通常確かめる項目に挙げています。確認試験では、通常確かめる項目は特異性だけです。
3. HPLCでは、分解物や不純物のピークが分かれることをどう示すのか
わざと分解物や不純物を含む試料を作って流し、目的物のピークと重ならないことを見せます。 高速液体クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →(HPLC)のように成分を分ける手法では、重なるかどうかがピークの位置で目に見えるからです。
用意する試料は、次の2種類です。
- 壊した試料:熱・酸化・光などのストレスをかけて分解物を作ります(強制劣化試験)。壊す強さは、主成分がある程度残る程度にとどめるのが通例です。
- 混ぜた試料:既知の不純物を加えた試料と、添加剤だけの試料(プラセボ)を測ります。プラセボで目的物の位置に信号が出なければ、添加剤は数字に入っていません。
Q2(R2)は、いちばん近くに出る2つの成分のあいだの分離度クロマトグラフィーにおいて、隣り合う二つのピークが互いにどれだけ明確に分かれているかを示す無次元数値。詳しく →(2つのピークの離れ具合を表す数値)で特異性を示せるとしています。保存中の変化を捉える分析法には、分解物を含む試料を検討に入れるよう求めています。例に挙がっているのは、加えた試料、ストレスをかけた試料、長く保存した実際の試料です。

4. 1本に見えるピークは、1つの成分だけでできているのか
そうとは限らないため、ピークの中身を別の情報で確かめます。 分離の条件によっては、2つの成分がほぼ同じ位置に出て、1本のピークに見えることがあるからです。
1本のピークが1つの成分だけでできているかを確かめることを、ピーク純度主成分のピークの中に分解物が隠れていないこと。フォトダイオードアレイや質量分析で確認する。の評価と呼びます。よく使うのは、波長ごとの吸収をまとめて記録するフォトダイオードアレイ検出器で、ピークの始まりから終わりまでスペクトルが変わらないかを見る方法です。
弱点は、スペクトルがよく似た成分を見分けにくいことです。その典型が抗体の単量体と二量体で、スペクトルはほぼ同じ。そのときは、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)で質量を測ります。抗体の大きさの違いなら、分子の大きさで分けるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)多孔性樹脂の孔に小分子ほど入り込む時間差を利用し、分子をサイズで分けるクロマトグラフィー。詳しく →に多角度光散乱の検出器をつなぎ、分子量を実測する方法(SEC-MALSSECに多角度光散乱検出を組み合わせ、溶出した成分の絶対分子量を測る手法。凝集体などの評価に使う。詳しく →)で確かめます(SEC-MALS)。
ピークが1本に見えることと、そのピークが1つの成分だけでできていることは別です。分離の見た目だけで「純粋」と結論しないようにします。
5. ELISAや細胞の試験は、ピークが無いのに何で示すのか
目的物以外のものに応答しないことを、応答しないはずの試料を測って示します。 酵素免疫測定法抗原と抗体の結合を酵素反応による発色などで検出し、目的の物質の有無や量を測る手法です。不純物や力価の測定に広く使われます。詳しく →(ELISA)や細胞を使う試験は成分を分けずに信号を読むため、ほかの成分が入り込んでも、ピークのように目に見える形では現れないからです。
ELISAは、抗体で目的物を捕まえ、発色などの信号に変える測定法です。何に結合するかが抗体で決まるため、目的物によく似た分子や分解物に反応しないか(交差反応ある抗原に対して生じた抗体が、構造の類似した別の抗原にも結合・反応する現象。詳しく →)と、目的物を含まない試料で信号が出ないかを確かめます。
製造に使った細胞から混ざるタンパク質(HCP)のような、工程由来の不純物を測るELISAでは、確かめることが1つ増えます。Q2(R2)は、製品そのもの(抗体医薬なら抗体)に対しても干渉が無いことを確かめなければならないとしています。キットの抗体が認識できないHCPは、そもそも数字に乗りません(HCPのELISA)。
細胞を使う力価試験(バイオアッセイ細胞を使って生物活性を見る試験。作用機序に合わせて抗体の効力を評価する。)では、応答が薬の狙った作用から来ていることを示します。標的を持たない細胞で応答が出ないことや、作用を妨げる物質で応答が下がることを根拠に使います(バイオアッセイ)。
分けない手法では、特異性の根拠は「何に応答し、何に応答しないか」を確かめた記録の中にしかありません。どの試料で確かめたかが報告書に書かれていなければ、示したことにはならないのです。
6. 1つの手法で見分けきれないときは、原理の違う手法で補う
測定の原理が違う2つ目の手法で同じ試料を測り、結果がそろうことを示します。 原理が違えば、ほかの成分の入り込み方も違うため、2つがそろえば片方だけより確かさが増します。
Q2(R2)は、1つの手法で特異性が足りないなら、ほかの手法を加えるべき(should)としています。また、できれば測定の原理が違う、よく性質の分かった2つ目の手法と結果を比べることも、特異性を示す方法の1つに挙げています。こうした2つ目の手法が、直交法異なる原理の手法で同じ対象を測り、結果を突き合わせて検証し合う分析の組み方。詳しく →(orthogonal)です。では、不純物や分解物を用意できず、加えて確かめられないときは? その場合も直交原理(物差しの向き)の異なる手法を重ねて品質を評価する考え方。単一手法の死角を減らす。詳しく →法との比較で示せるとしたうえで、その方法をとった理由を示すべきだとしています。
抗体医薬では、SECで測った凝集体の量を、遠心力で沈む速さから大きさを見る分析超遠心遠心中の試料の沈み方を光で測り、分子の大きさや会合状態を調べる分析装置です。純度や凝集の評価に使います。詳しく →で確かめる使い方があります(凝集体をどの分析で見るか)。ヘパリンの事件のあと、米国薬局方(USP)は2008年6月に、力価試験とは原理の違う1H NMR(プロトン核磁気共鳴)とキャピラリー電気泳動細い管(キャピラリー)に電圧をかけ、分子の電荷やサイズの違いによる移動速度の差で成分を分離する分析法です。詳しく →の試験を規格に加えました。
ただ、足した手法にも盲点はあります。キャピラリー電気泳動ではOSCSとヘパリンの分離が部分的にとどまると指摘され、その後も規格の見直しが続きました。組み合わせる手法を選ぶときは、それぞれが見分けられない成分を挙げ、重ならない組み合わせにします。
7. 「特異性あり」の結論が崩れやすいのは、どんなときか
確かめたときの試料や条件から、いまの試料や条件が離れたときです。 報告書の結論は、そのとき使った試料と条件の範囲でしか成り立ちません。
- 処方や工程が変わった:新しい添加剤や、工程から来る新しい不純物が、目的物の位置に重なることがあります。
- カラムのロットや試薬の供給元が変わった:分離の様子や、抗体の結合の仕方が変わることがあります。
- 壊す強さが合っていなかった:壊しすぎて二次的な分解物ばかりを見ていたり、壊さなさすぎて「分解物は出なかった」と書いていたりすると、実際の保存で出る分解物を確かめていません。
- 1つのブランクで済ませた:生体試料は個体ごとに中身が違うため、複数の個体のブランクで確かめます。
分析のたびに流すシステム適合性試験系がきちんと動いていることを確認するための基準や試験。判定の信頼性を支える。詳しく →試験は、決めた成分どうしの分離などを確かめる試験です。変更で新しく現れた成分を見分けられるかまでは示しません(システム適合性)。別の試験室へ移すときも、装置や試薬が変われば分離が変わりうるため、確かめ方を移管の計画で決めます(分析法の移管)。
備えとして、変更の前に品質への影響を評価する手順(変更管理工程・設備・手順などの変更を評価・承認し、品質への影響とともに記録する仕組み。詳しく →)に、特異性を確かめ直すかを判断する項目を入れておきます。そうすれば、こうした崩れを見落としにくくなります。
8. 報告書では、この順に特異性の根拠を確かめる
最初に確かめるのは、その試験が何の判断に使われるかです。 用途によって、確かめるべき成分と示し方が決まるからです。
- 試験の用途:確認試験・不純物の試験・含量や力価の定量のどれか。Q2(R2)の対象は出荷試験と安定性試験出荷時から有効期限まで品質特性が規格内にとどまることを確認する試験。詳しく →に使う分析法で、工程内の試験や開発中の分析法には、リスクと段階に応じて当てはめます。
- 入りうる成分の一覧:不純物、分解物、添加剤、マトリックスを挙げ、どれで干渉を確かめたかを報告書と照らします。
- 成分を分ける手法の記録:壊した試料と混ぜた試料のクロマトグラム、壊した強さ、いちばん近いピークとの分離度、ピーク純度の結果があるかを見ます。
- 成分を分けない手法の記録:交差反応、目的物を含まない試料、標的を持たない細胞で、信号が出ないことを示しているかを見ます。
- 原理の違う手法での裏づけと、確かめ直しの手順:主要な品質特性に直交法の裏づけがあるか、変更のあとに確かめ直す手順があるかを見ます。
「特異性は確認済み」の一文だけで、どの成分をどの試料で確かめたかが書かれていなければ、この5つのどこが抜けているかを先に問い合わせます。試験の用途ごとにどの分析法を割り当てるかは、重要品質特性(CQA)に対する分析法の選び方で説明しています。
参考文献
- ICH, Q2(R2): Validation of Analytical Procedures(2023年11月。1.2 対象、2.4 安定性を示す試験、3.1 特異性/選択性、表1、用語集)
- USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく →, The US regulatory and pharmacopeia response to the global heparin contamination crisis(2016)(2008年のOSCS混入、力価試験の通過、1H NMR磁場の中で原子核が示す共鳴を測り、分子の化学構造や純度を調べる装置です。低分子医薬品の構造確認などに使われます。詳しく →とCEの追加)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/analytical-specificity-selectivity