システム適合性試験とは?なぜ分析のたびに流し、落ちたら何を疑うのか

システム適合性試験(SST)とは、液体クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →などで試料を測る前に標準溶液を流し、その日の装置とカラムが決めた性能を出しているかを確かめる試験です。品質試験で出した数字を、試験結果として使ってよいかを決める仕事に関わります。
ただし、基準を満たさなかった日に流し直して合格させることは認められず、原因を見つけて直してから測り直します。合格しても、分かるのはその日の装置と条件の状態だけです。
この記事では、試験の中身、毎回行う理由、合否を決める指標、不合格のときの調べ方と記録、合格しても分からないことを順に説明します。
- システム適合性試験とは:試料を測る前に標準溶液を流し、その日の装置とカラムが、手順書で決めた性能を出しているかを確かめる試験です。
- なぜ毎回流すのか:分析法バリデーションは方法そのものを導入時に確かめる手続きで、日によって変わる装置と条件の状態までは確かめていないからです。
- 落ちたらどうするのか:試料の結果は試験結果に使わず、確かめるのが早く、しかも起きやすいものから順に、一度に一つずつ原因を調べます。
1. システム適合性試験とは何か
システム適合性試験系がきちんと動いていることを確認するための基準や試験。判定の信頼性を支える。詳しく →試験とは、試料を測る前に標準溶液を流し、その日の装置とカラムが、手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →で決めた性能を出しているかを確かめる試験です。 標準溶液は、成分と濃度が分かっている標準品を溶かした液のことです。通常の品質試験が試料の品質を調べるのと違い、SSTが調べるのは試料ではなく、測る側の装置と条件です。
液体クロマトグラフィー(HPLC)は、試料を液に乗せて細い管(カラム)に通し、成分ごとに出てくる時間の差で分けて測る方法です。成分が出てくるたびに、検出器の記録に山(ピーク)が描かれます。
標準溶液と試料は決めた順に並べ、装置に続けて注入します。この注入の並び(シーケンス)の先頭で、標準溶液を決めた回数続けて注入し、得られたピークを手順書の基準と照らすのがSSTです。基準を満たせば試料の注入に進み、満たさなければ試料には進みません。
分離を見たい試験では、主成分と不純物を混ぜた専用の溶液を使うこともあります。長いシーケンスでは、途中や最後にも標準溶液を挟み、分析の途中で状態が崩れていないかを確かめる方法もあります。

つまり、SSTの記録は、その日の試料の数字を出した装置と条件が使える状態だったことを、試料ごとではなく分析の回ごとに示すものです。では、試験法を導入するときにバリデーションで確かめているのに、なぜ毎回これが要るのか。
2. なぜ分析のたびに確かめるのか
分析法バリデーション試験・分析方法が目的とする測定を正確・精密・再現性よく実施できることを科学的に確認するプロセス。詳しく →は方法そのものを導入時に確かめる手続きで、日によって変わる装置と条件の状態までは確かめていないからです。 分析法バリデーションとは、その試験法が目的の成分を正しく測れることを、決めた項目のデータで示す手続きです(ICH Q2(R2)分析法バリデーションのガイドライン。分析手順が妥当性を持つことを確認する枠組みを定める。詳しく →)。
方法が正しくても、測る側の状態は日ごとに変わります。
- カラム:使うほど汚れや劣化が進み、ピークが広がったり、隣のピークと分かれにくくなったりします。
- 移動相クロマトグラフィーにおいて試料を運ぶ液体(または気体)で、組成や流量が分離性能に大きく影響する。詳しく →:カラムに流す液(移動相)は、調製のたびに混合比やpHが少しずつ違います。
- 装置:送液ポンプ液体を配管を通して、タンクや次の工程など別の場所へ送り移すためのポンプです。詳しく →や注入部、検出器には、その日の調子があります。
これらのずれは、試料の結果だけを見ても気づけません。そのため、答えが分かっている標準溶液で先に確かめます。
SSTの合格は、条件を調整するときの前提にもなります。USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく → 〈621〉は、各条(品目ごとの試験法)で別の指定がなければ、SSTの基準を満たすことを条件に、移動相のpHを±0.2の範囲で調整できるとしています。幅を超える変更は方法を変えたことになるため、確かめ直しが要ります(頑健性)。
つまり、バリデーションの報告書があっても、カラムを替えた日や移動相を作り直した日の状態は、その日のSSTでしか示せません。では、SSTは何を見て合否を決めるのか。
3. 何を見て合否を決めるのか
液体クロマトグラフィーでは、主に分離度・繰り返し精度同一試料を同一条件で複数回測定したときの結果のばらつき度合いを示す精度指標で、通常は相対標準偏差で表す。・ピーク形・感度の4つを、手順書に書いた数字の基準と照らして合否を決めます。 どの指標を入れ、基準をいくつにするかは試験法ごとに違い、試験法の手順書か薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。詳しく →の各条に書かれます。
| 指標 | 見ているもの | 外れたときにまず疑う場所 |
|---|---|---|
| 分離度(resolution) | 隣り合う2つのピークが、谷をはさんで分かれているか | 移動相の調製(混ぜる比率、pH)、カラムの劣化、カラム温度 |
| 繰り返し精度(相対標準偏差(RSD)) | 同じ溶液を続けて注入して、ピークの面積がそろうか | 注入まわり(気泡、試料量の不足、針まわりの漏れ)、送液ポンプ、標準品の溶け残り |
| ピーク形(テーリングクロマトのピークが後ろに尾を引く歪み。非対称性係数が1より大きくなり、床のチャネリングなどが疑われる。詳しく →係数)と理論段数クロマトカラムがどれだけ鋭いピークを保てるかを表す指標で、値Nが大きいほど分離能が高い床を意味する。詳しく → | ピークが尾を引いていないか、鋭いか | カラムの汚れや劣化、配管のつなぎ目のすき間(デッドボリューム)、試料を溶かした液と移動相の差 |
| 感度(S/N比測定装置のベースラインノイズに対する目的成分の信号強度の比率で、検出能の指標として用いられる。) | 小さなピークが雑音と見分けられるか | 検出器のランプの寿命、移動相の汚れ、注入量 |
4つの指標は、分離はカラムと移動相、ばらつきは注入と送液、形はカラムと配管、感度は検出器というように、崩れやすい場所を分けて見ています。
どの試験で、どの指標が効くのか
分離度クロマトグラフィーにおいて、隣り合う二つのピークが互いにどれだけ明確に分かれているかを示す無次元数値。詳しく →は、不純物を測る試験で特に効きます。主成分のすぐ隣に出る小さな類縁物質のピークは、分かれていなければ主成分のピークの裾に隠れ、数字に出ません。
感度は、定量限界(数値として信頼できる最小の量)の近くを測る試験ほど効きます。一方で繰り返し精度は、ロット間の差が本物かどうかを判断する土台です。測り方のばらつきが大きいと、ロットAとBの数字が違っても、差なのか誤差なのか言えません。
基準の数字の出どころ
USP 〈621〉、欧州薬局方欧州医薬品品質局(EDQM)が発行する、医薬品の品質基準を定めた公定書で、署名国・加盟国の規制に法的効力を持つ。詳しく → 2.2.46、日本薬局方の一般試験法 2.01(液体クロマトグラフィー)が、それぞれSSTの考え方を示しています。数字は各薬局方の現行版で確かめます。
自社で作った試験法では、条件を振ったときの結果の揺れを調べる頑健性培養時間や試薬ロットなど条件を少し振っても、アッセイの値が耐えて安定する性質。詳しく →の評価から、分離度などの基準を決める考え方があります(頑健性)。
抗体の分析では
抗体を分子の大きさの順に分けるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)多孔性樹脂の孔に小分子ほど入り込む時間差を利用し、分子をサイズで分けるクロマトグラフィー。詳しく →では、抗体1分子のピークと、2分子がくっついた二量体のピークが分かれて見えることを確かめます。
標準品に含まれる凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →(抗体どうしが集まったもの)の割合がいつもの範囲にあることも、典型的な確認です(凝集体の分析)。
ELISA抗原と抗体の結合を酵素反応による発色などで検出し、目的の物質の有無や量を測る手法です。不純物や力価の測定に広く使われます。詳しく →(抗体を使って目的のたんぱく質を測る方法)にはカラムがありませんが、考え方は同じです。標準曲線既知濃度の標準物質を段階希釈して得た濃度とシグナルの関係曲線で、未知試料の濃度を逆算するために用いる。詳しく →の当てはまりと、低・中・高濃度の対照の値が決めた範囲に入ることで、その日の系が使えるかを確かめます。例は宿主細胞タンパク質(HCP)のELISAで解説しています。
このように、どの指標を重く見るかは、その試験で何を見落とすと困るかで決まります。では、基準を満たさなかった日は、何をするのか。
4. 基準を満たさなかったら、どうするのか
試料の結果は試験結果として使わず、確かめるのが早く、しかも起きやすいものから順に、一度に一つずつ原因を調べます。 どの指標が外れたかで見る場所の見当をつけ(3の表の右の列)、次の順に確かめます。
- 記録と調製:移動相の混合比とpH、使用期限、標準溶液の濃度と溶かし方、試料を入れる小瓶(バイアル)の液量を見直します。移動相は毎回作り直すためずれが入り込みやすく、作り直して流すだけで済むことも多くあります。
- 装置の目に見える異常:圧力が揺れていないか、配管のつなぎ目から液がにじんでいないか、ポンプに気泡が入っていないか、注入の履歴が正常かを見ます。
- カラム:移動相をなじませる時間(平衡化目的物が結合しやすいpH・塩濃度のバッファーでカラム内を整える、ロード前の準備工程。詳しく →)が足りていたか、前に付ける保護用の短いカラム(ガードカラム)が詰まっていないかを確かめます。洗浄で戻らなければ交換します。
- 方法と基準:方法や基準そのものを疑うのは最後です。変えるなら、変更の前に品質への影響を評価して承認する仕組み(変更管理工程・設備・手順などの変更を評価・承認し、品質への影響とともに記録する仕組み。詳しく →)を通します。
どれも、手間の小さい確認で原因を絞ってから、大きな変更に進むための順番です。
調べるときは、一度に一つだけ変えます。移動相もカラムも替えて合格しても、どちらが原因か分からず、同じことがまた起きます。
つまり、何を疑い、どれを変えて直ったかが記録に残っていれば、同じ不合格が次に起きたときに最初に見る場所が分かります。では、落ちた注入の記録はどう扱うのか。
5. 落ちた注入の記録は消してよいのか
落ちた注入の記録は消さず、注入したすべての記録を残して、レビューで見られる状態にしておきます。 手順書で6回と決まっているSSTの標準溶液を、7回流していた会社があります。
2017年にFDAが出した警告書によると、最後の1回は装置の記録から消されていました。担当者は、手順より多く流して都合の悪い結果を消すのが試験室の習慣だと、調査官に話したと書かれています。
警告書は、この削除を、試験で得たすべてのデータを残していなかった例として挙げています。
記録が完全で、一貫していて、正確であることを、データインテグリティ記録が正確で完全・改ざんされていないことを保証する考え方で、ALCOA+などの原則で健全性を管理します。詳しく →と呼びます。装置やソフトは、だれがいつ何をしたかの履歴(監査証跡いつ誰が何をしたかを記録し、改ざんや削除ができないようにした操作履歴。記録の信頼性を支える。詳しく →)を自動で残します。全部の注入がこの履歴に残り、レビューで見られている状態が、データインテグリティの基本です(データインテグリティ、監査証跡レビュー)。
つまり、注入の回数を手順書で決めても、多く注入したときの扱いと、その記録を見る手順まで決めておかないと、決めた回数が守られた証拠にはなりません。では、合格した日の結果は、どこまで信じてよいのか。
6. 合格すれば、その日の結果は正しいと言えるのか
合格して言えるのは、その日の装置と条件が決めた性能を出していたことまでです。 試料の前処理に失敗していても、試料の中の別の物質が目的のピークに重なっていても、標準溶液の結果には出ません。
試料の中の物質を区別して測れることは、バリデーションの特異性・選択性で別に示します。
一方で、合格の記録は、規格外試験結果が規格の範囲を外れること。原因調査の対象になる。詳しく →(OOS)の結果が出たときの調査でも使います。SSTに合格した日にOOSが出たときは、その日の装置の不調を原因として説明しにくくなります。調査の進め方は逸脱・OOS・CAPA(是正措置・予防措置)で解説しています。
試験室を移すときも同じで、移管先で同じ基準を通せることは、同じ結果を出せる証拠のひとつにとどまります。移管の確かめ方は分析法の移管で解説しています。
このように、SSTの合格は試験結果の正しさを保証するものではなく、装置の不調を原因と説明できるかどうかを左右する材料です。最後に、自分の試験室で何から確かめるかを並べます。
7. 自分の試験室では、何から確かめるのか
判定基準の根拠から始め、不合格のときの手順、記録の残り方、日々の値の使い方の順に確かめます。 どれも、手元の手順書と記録で確かめられます。
- 判定基準の根拠:判定基準が数字で書かれ、その根拠をバリデーションや頑健性のデータまでたどれるかを見ます。
- 不合格のときの手順:調べる順、再注入してよい条件、報告先が書かれているかを確かめます。
- 多く注入したときの扱い:手順より多く注入したときの扱いが決まっていて、その理由が記録に残るかを見ます。
- 監査証跡:全部の注入が監査証跡に残り、レビューの対象になっているかを確かめます。
- 日々の記録:理論段数やテーリング係数の値を日ごとに並べ、少しずつ動く傾向をカラム交換の目安に使っているかを見ます(OOT(傾向外れ))。
- カラムのロット替え:新しいロットのカラムで基準を通せるかを、替える前に確かめているかを見ます。
1から4は落ちた日の扱いを決めておく項目で、5と6は落ちる前にカラムの劣化や切り替えの影響に気づくための項目です。
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)のカラムや装置は、製品データベースで比べられます。逆相HPLCカラムとSEC-HPLC(サイズ排除クロマトグラフィー)の2つのページがあります。
参考文献
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q2(R2) Validation of analytical procedures(2023年11月 Step 4)
- FDA, Warning Letter(2017年)(システム適合性の標準溶液を手順の6回より多く注入し、最後の1回を監査証跡上で削除していた事例)
- USP 〈621〉 Chromatography、欧州薬局方 2.2.46 Chromatographic separation techniques、日本薬局方 一般試験法 2.01 液体クロマトグラフィー(いずれも各薬局方の現行版。本文は有償または各局の公開版を参照)
- FDA, Data Integrity and Compliance With Drug CGMP: Questions and Answers(2018年12月。データインテグリティを、データの完全性・一貫性・正確性と定義)
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