頑健性(ロバストネス)とは?分析条件のずれを、なぜ同時に変えて試すのか

頑健性培養時間や試薬ロットなど条件を少し振っても、アッセイの値が耐えて安定する性質。詳しく →(ロバストネス)とは、移動相の pH やカラム温度のような分析条件が少しずれても、分析法が求められる性能を保てるかを表す性質です。分析法の開発、手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →に書く条件と許容幅、日常の試験結果の信頼性に関わります。
ただし、条件を1つずつずらして試すだけでは、2つの条件が同じ日にずれたときにだけ起きる変化を見逃します。
以下では、どの条件をどの幅でずらし、何回の試験で調べ、その結果を手順書のどこに反映するかを説明します。
- 頑健性とは:日常の運用で起こりうる程度に条件がずれても、性能が保たれるかを表す性質です。
- なぜ条件を同時に変えるのか:2つの条件が同時にずれたときにだけ表れる影響を見るためです。
- 結果は何に使うのか:手順書の許容幅や、システム適合性試験の判定基準を決める根拠にします。
1. 頑健性は、ICH Q2(R2) のどの定義で何を見る評価なのか?
頑健性は、手順書の条件が日常で起こりうる程度にずれたとき、分離度などの性能が基準を満たし続けるかを見ます。 分析法の国際ガイドライン ICH Q2(R2)分析法バリデーションのガイドライン。分析手順が妥当性を持つことを確認する枠組みを定める。詳しく → は、通常の使用で期待される性能基準を満たす能力と定義し、分析条件を意図的に変えて試すとしています。
試験室では、条件を毎回まったく同じにはできません。緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →の pH は調製のたびにわずかにずれ、カラムもロットが替わります。頑健性が扱うのはこうした小さなずれです。事故や誤操作による大きな逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →は含みません。
評価では、手順書の設定値を中心に幅を決め、その両端まで条件をずらして測ります。下の図は pH 6.0 の移動相クロマトグラフィーにおいて試料を運ぶ液体(または気体)で、組成や流量が分離性能に大きく影響する。詳しく →の例で、pH を合わせるときの不確かさ ±0.02 に係数5を掛けた ±0.1 を試しています。この決め方は Vander Heyden らの指針が示すもので、移管先の試験室で起こりうるずれをやや広めに含む幅です。

ずらす条件は pH だけではありません。ICH Q14分析法の開発を扱うガイドライン。方法のライフサイクル全体と、科学・リスクに基づく変更管理を扱う。詳しく → の 5.1 は、リスク評価と既存の知識から結果に影響しそうな条件を選ぶとしています。ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q2(R2) の付属書2は、分離分析の例として、カラムのロット、移動相の組成と pH、カラム温度、流速、検出波長、試料の抽出や希釈の条件を挙げています。
どの条件でも基準を満たせば、その幅のずれに対して頑健だと言えます。ただ、幅は広すぎても狭すぎても評価として役に立ちません。広すぎれば日常では起こらない条件で「頑健でない」と出て、狭すぎれば移管先で起こるずれを試さないまま終わるからです。
2. 室内再現精度では、なぜ頑健性の代わりにならないのか?
室内再現精度の試験では条件が日常で自然に生じる範囲でしか変わらないため、pH が 0.1 ずれたときに結果がどれだけ変わるかは読み取れないからです。
室内再現精度は、バリデーションで試験日・試験者・装置を替え、手順書どおりに繰り返したときの結果のばらつきです。対して頑健性は、条件を決めた幅で意図的に動かします。
| 用語 | 変えるもの | 変え方 |
|---|---|---|
| 頑健性 | pH、温度、流速、移動相の組成、カラムのロットなどの分析条件 | 意図的に、決めた幅で変える |
| 室内再現精度 | 試験日、試験者、装置 | 通常の運用のまま、日や人を替えて繰り返す |
分析法の開発を扱う ICH Q14 は、室内再現精度などのバリデーションのデータが頑健性の評価を補えるとしています。補えるのは、ばらつきが実際に小さかったことの裏付けまでです。どの条件を手順書で厳しく指定すべきかは、条件を意図的に動かした結果からしか決められません。
堅牢性(ruggedness)は文献によって意味が違います。多くは頑健性と同じ意味で使われますが、1995年の米国薬局方(USP 23)は試験室・試験者・装置・日が替わったときの再現性をこう呼びました(Vander Heyden ら, 2001)。ICH Q2 はこの言葉を使いません。
3. 条件を1つずつずらすと、交互作用のどこを見逃すのか?
pH と温度のように、2つの条件が同じ日にずれたときにだけ表れる影響を見逃します。
たとえば、pH だけ、または温度だけが少しずれても隣のピークとの分離は保たれるのに、両方が同じ日にずれるとピークが重なる。なぜか。pH の影響の大きさが、そのときの温度によって変わっているからです。ある条件の影響が別の条件の値によって変わるこの現象が、交互作用です。
条件を1つずつ変えるやり方(OFAT一度に一つのパラメータだけ動かす従来の実験の進め方。相互作用を捉えにくい弱点があります。、one factor at a time)では、両方がずれた組み合わせを測りません。下の図の左側で、四隅が空いているのがそれにあたります。

そこで、あらかじめ組んだ表に沿って複数の条件を同時に変え、各条件の影響をまとめて推定します。この方法が実験計画法(DoEパラメータを変えたときCQAがどう応答するかを効率よく調べる実験計画法。詳しく →、design of experiments)です。右側のように四隅を測れば、各条件の影響に加えて交互作用も分かります。
4. 7つの条件を調べるのに、128回を12回まで絞れるのか?
すべての組み合わせを測れば128回ですが、頑健性の試験では12回ほどに絞る計画も使えます。 ただし、回数を絞るほど分かることは減ります。
条件ごとに高めと低めの2水準をとり、すべての組み合わせを測る計画が要因計画(full factorial)です。条件が k 個なら 2 の k 乗回。7条件なら128回になります。
回数を減らす計画は2つあります。
- 一部実施要因計画(fractional factorial):組み合わせの一部だけを測ります。どの効果どうしが重なって区別できなくなるかは、計画の分解能で決まります。
- Plackett–Burman 計画:N 回の試験で最大 N−1 個の条件を調べられ、12回なら11条件まで扱えます。代わりに、2つの条件の交互作用が各条件の影響と重なり、分けられません。
では、交互作用を分けられない計画を使ってよいのでしょうか。Vander Heyden らの指針は、頑健性の試験で扱う小さな幅なら交互作用は無視できると考えてよいとして、この計画を含めています。
ただし、pH と温度のように交互作用が起きそうな組み合わせが分かっているなら、その条件は要因計画か、分解能 V 以上の一部実施要因計画で調べます。分解能 V 以上なら、3つ以上の条件の交互作用を無視できるとみなす前提で、2つの条件の交互作用も分けて推定できます。
結果から何を読むのか
各条件の影響(効果)は、その条件を高めにした試験の平均と、低めにした試験の平均の差です。この差が偶然のばらつきより大きいかどうかは、室内再現精度や、計画の中のダミーの列(どの条件も割り当てない列)から見積もった誤差と比べて判断します。
あわせて、最も不利な組み合わせでも分離度などの基準を満たすかを確かめます。どの条件が、どの向きに、どれだけ結果を動かすかが分かれば、手順書で何を厳しく決めるかを選べます。
5. 結果から、手順書の許容幅とSSTの判定基準を決める
結果を大きく動かす条件は、手順書で狭く指定する、毎回の試験の確認項目に入れる、装置側でずれを抑える、のいずれかで管理します。毎回の確認にあたるのが、システム適合性試験(SST)です。試験当日にその装置で、分析系が意図どおりに機能しているかを分離度クロマトグラフィーにおいて、隣り合う二つのピークが互いにどれだけ明確に分かれているかを示す無次元数値。詳しく →などで確かめる試験です。
旧版の ICH Q2(R1) は、頑健性の評価の結果として、分離度のような SST のパラメータを設定すべきだとしていました。Vander Heyden らは、予測される最も不利な条件での分離度などから、SST の判定基準を決める方法を示しています。
こうして決めた基準なら、pH のずれが分離度に表れた日に、試料の分析に進む前に不適合と分かります。反対に、SST の項目に表れないずれは、この確認では見つかりません。結果に影響するのに SST に表れない条件は、手順書の指定か装置側の制御で抑えます。
条件をどこまで調整してよいのか
米国薬局方(USP)の〈621〉では、移動相の水系成分の pH は、各条で別に指定がなければ ±0.2 の範囲で調整できます。条件は、調整後もシステム適合性試験系がきちんと動いていることを確認するための基準や試験。判定の信頼性を支える。詳しく →の基準を満たすことです。〈621〉は、追加の試験で性能を確かめる必要がある場合があることと、複数の調整を組み合わせると影響が積み重なることにも注意を促しています。
この規定は、薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。詳しく →に収載された試験法についてのものです。自社で作った試験法では、どこまでの調整を認めるかを、頑健性の結果を根拠に示します。
ICH Q14 の 5.2 は、評価の結果から、設定値と次の2つの範囲を定める考え方を示しています。
- PAR(proven acceptable range):ほかの条件を一定にして1つの条件を動かしても、性能基準を満たす範囲です。
- MODR(method operable design region):2つ以上の条件の範囲の組み合わせで、性能基準を満たす領域です。
申請者が提案した PAR や MODR は規制当局の承認の対象になり、承認された範囲の中で条件を動かすことは届け出を要しません。日常の調整で済むか変更の手続きが要るかは、この範囲で分かれます。承認後の変更の扱いは、CTD(承認申請書の国際共通様式)と承認申請で扱っています。
6. 自分の試験法では、開発の記録のどこを確かめるのか?
バリデーションの報告書に頑健性のデータが見当たらなければ、開発の記録を確認します。 ICH Q2(R2) は、頑健性を通常はバリデーションの前に、開発の一部として評価するとしています。ICH Q14 も、開発の段階で評価していれば、バリデーションで繰り返す必要はないとしています。
記録では、次の順に確かめます。
- 変えた条件と幅:変えた条件、幅、その幅の根拠が記録されているか。試料溶液と標準溶液が、試験に要する時間のあいだ安定かを確かめたかも見る(Q2(R2) 3.4)。
- 計画の種類:Plackett–Burman 計画を使ったなら、交互作用が起きそうな条件の組み合わせを別に確かめたか。
- カラムのロット:ロット違いを試したか。別のメーカーのカラムに替える話が出たとき、試した範囲の中か外かを言えるかも見る。
- 管理の方法:結果を大きく動かす条件を、システム適合性試験(SST)の項目か手順書の指定で管理しているか。手順書の「pH 6.0±0.1」のような許容幅が、頑健性の結果と食い違っていないかも確かめる。
- 移管先への伝達:どの条件に敏感かを移管先へ伝えたか(分析法の移管)。
記録から「どの条件のずれなら結果のばらつきを説明できるか」を示せれば、規格外の結果が出たときの調査も早く進みます。 説明できない条件があれば、その条件を優先して追加で評価します。
参考文献
- ICH Q2(R2), Validation of Analytical Procedures(Step 4、2023年11月1日。2章で頑健性は通常バリデーションの前に開発の一部として評価するとし、3.4 で、必要に応じて試料溶液・試薬の安定性も含めて示すとする。用語集の頑健性・室内再現精度の定義。付属書2 表3 の頑健性で変える条件の例)
- ICH Q2(R1), Validation of Analytical Procedures: Text and Methodology(旧版。2005年11月。頑健性の評価の結果として分離度などのシステム適合性のパラメータを設定すること)
- ICH Q14, Analytical Procedure Development(Step 4、2023年11月1日。5.1 頑健性(開発段階で評価すればバリデーションで繰り返す必要はないこと、室内再現精度のデータが補えること)、5.2 PAR・MODR と、承認された範囲の中での移動は届け出を要しないこと)
- Vander Heyden Y, Nijhuis A, Smeyers-Verbeke J, Vandeginste BGM, Massart DL. Guidance for robustness/ruggedness tests in method validation. J Pharm Biomed Anal. 2001;24:723-753.(著者所属機関の掲載版。幅の決め方、Plackett–Burman 計画と交互作用、効果の推定、SST の判定基準の導き方、ruggedness の定義の違い)
- USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく → General Chapter 〈621〉 Chromatography(2022年12月から適用の調和版。認められる調整の範囲、追加の検証と複数の調整の積み重なりへの注意を含む。USP の掲載文。現行版は有償の公定書)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/method-robustness-doe