核酸医薬基礎知識・分析

qPCRの相対定量とは?正規化で結果が変わる理由

qPCR核酸を増幅しながら蛍光の増え方を追い、標的DNA・RNAの量を測る装置です。増幅の立ち上がりの早さから濃度を求めます。詳しく →の相対定量とは、⁠ある遺伝子の量を絶対値ではなく、対照との比で表す方法です。処理した群と対照群のCt値の差を取り、内部標準検体に加える既知の対照。PCRが阻害されていないかを確認し、偽陰性を防ぐために用います。で正規化して「対照の何倍か」を出します。

手軽で感度が高いため広く使われますが、⁠比を求めている以上、前提がいくつも入っています⁠。その前提が崩れたとき、数字は静かにずれます。増幅そのものが失敗するわけではないので、気づきにくいのが厄介なところです。

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qPCRの相対定量とは?正規化で結果が変わる理由
この記事の要点
  • Ct値は「一定の蛍光量に達したサイクル数」であり、量そのものではありません。
  • ΔΔCt法は、標的と内部標準の増幅効率が同じで、内部標準が処理の影響を受けないことを前提にしています。
  • 逆転写を挟むと、その効率の差がそのまま比に乗ります。

Ct値は量ではない

qPCRでは、サイクルごとに増幅産物が増え、蛍光が強くなります。あらかじめ決めた蛍光の高さに達したサイクル数樹脂を負荷から洗浄・溶出・再生まで1回使うごとに数える回数。寿命管理の基本単位になる。がCt値です。

理想的には1サイクルで2倍になるので、初めの量が2倍違えばCt値は1つずれます。ここから、⁠Ct値の差を2のべき乗に直せば量の比になるという計算が出てきます。これがΔΔCt法の骨格です。

ただし、この換算は増幅効率が100%であることを前提にしています。実際には阻害物質試料に混入し、PCRの増幅反応を妨げてシグナルの低下や偽陰性を引き起こす夾雑物質の総称。やプライマーの設計で効率は変わり、90%や110%になります。効率が違えば、同じCt値の差でも意味する量の比が変わります。したがって、比を出す前に検量線既知濃度の標準から作る定量の基準線。qPCRでサンプル中のDNA量を読み取るのに使う。を引いて効率を確かめるのが基本です。

何で正規化するか

相対定量では、標的の値を内部標準で割ります。使うのはハウスキーピング遺伝子(GAPDH、ACTBなど)が一般的ですが、これは⁠「処理の影響を受けない」と仮定しているにすぎません。

仮定が崩れる場面はあります。

  • 処理そのものが代謝や増殖に影響し、ハウスキーピング遺伝子の発現目的タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞内で転写・翻訳させ、機能的なタンパク質として産生させる工程。も動く
  • 細胞の状態(コンフルエンシー培養容器の底面積に対して細胞が覆っている面積の割合を示す指標で、細胞の増殖状態や感染実験の条件を管理するために用いる。、ストレス)で発現量細胞が目的のタンパク質を作る量。低いと必要量の確保に手間がかかり、製造コストが上がる。が変わる
  • 組織や細胞種によって、適切な内部標準が違う

内部標準が処理で下がると、標的の値は相対的に上がって見えます。⁠正規化は誤差を減らす操作である一方、誤差を持ち込む操作でもあるということです。複数の内部標準を使って、その安定性自体を確認する方法が取られるのはこのためです。

外部から一定量を加えるスパイクイン⁠(合成RNAなど)を基準にする方法もあります。細胞側の状態に依存しない点で有利ですが、抽出効率の差は拾えません。

逆転写を挟むと誤差が増える

RNAを測るときは、まず逆転写でcDNAにします。この一段が入るだけで、次の誤差が乗ります。

  • 逆転写の効率が一定でない⁠:酵素、プライマーの種類(ランダム/オリゴdTmRNA末端のポリA配列を相補的なオリゴdTで捕まえて精製する担体で、mRNA医薬の製造で完全長mRNAを回収するのに使います。詳しく →/遺伝子特異的)、RNAの二次構造αヘリックスやβシートなど、主鎖が局所的に取る規則的な折りたたみ様式。遠紫外CDで割合を推定する。で変わります
  • RNAの分解状態が効く⁠:断片化主鎖が切れて分子が分かれる劣化。低分子量体(LMW)として現れ、酸性側などで進みやすい。したRNAでは、増幅する領域が残っているかどうかで結果が変わります
  • 増幅する場所の選び方が効く⁠:RNAのどこを挟むかで、感度が変わることがあります

3つ目は、RNAを切る操作を評価するときに特に重要です。切断されたRNAでも、⁠プライマーが挟む領域が残っていれば増幅されます⁠。逆に細かく分解が進めば、実際の働きの低下より大きな減少に見えることもあります。同じ試料でも、プライマーの置き場所で結論が変わりうるということです。

絶対定量とddPCRとの使い分け

相対定量が向かないのは、「対照との比」ではなく実数が要る場面です。

絶対定量標準曲線を参照せずに、試料中のターゲット分子の実際のコピー数を直接算出する定量方法。は、既知濃度の標準を並べて検量線を引き、そこから量を読みます。残存DNA残存宿主細胞DNAの定量、AAVのゲノム力価などがこれにあたります。標準物質の質が結果を左右するため、標準品の設定が重要になります。

ddPCR(デジタルPCR)反応を微小区画に分けて分子を数える高感度な定量PCR。低コピーのベクター検出に向く。は、反応液を多数の微小区画に分けて、増幅した区画の数から分子数を数えます。検量線が要らず、阻害物質にも比較的強いため、CAR-Tのベクターコピー数のように絶対値が意味を持つ測定で使われます。

つまり、比で足りるならqPCR、実数が要るならddPCR反応液を無数の微小区画に分けて増幅し、陽性区画の数から核酸の量を絶対値で数える装置です。ごく微量の検出や定量に強みがあります。詳しく →か絶対定量、という整理です。

規格試験に使うときに問われること

医薬品の規格試験にqPCRを据えるなら、分析法バリデーションの各項目を満たす必要があります。とくに次が中心になります。

阻害の確認も要ります。試料由来の物質が増幅を妨げていないかは、既知量を添加した回収試験で見ます。核酸医薬のQCでは、この確認が抜けると数値が系統的に低く出ます。

原理の違う測定を並べる

同じ原理の測定を繰り返しても、系統的なずれは見つかりません。qPCRの前提が崩れているとき、qPCRを何度やっても同じ答えが返ってくるだけです。

見つけるには、原理の違う測定を置くしかありません。

  • 増幅を経ないハイブリダイゼーション相補的な塩基配列を持つ核酸鎖同士が水素結合して二重鎖を形成する反応。
  • 区画に分けて数えるddPCR
  • 配列全体を見るシーケンシング
  • RNAを減らす操作なら、⁠タンパク質量表現型分子が標的に結合するかなど、実際に現れる働き・性質のこと。

分析法を選ぶときは、感度や手間だけでなく「⁠この手法は何を見落とすか⁠」を並べておくと、後で困りにくくなります。

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、核酸医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。