IVT後の鋳型DNAを消す:DNase IとPlasmid-Safeの使い分け

mRNAワクチンの最初の審査で、欧州医薬品庁(EMA)は、鋳型DNAを分解するDNase処理残った鋳型DNAを分解酵素DNaseで除く工程。IVT後のmRNAから不要なDNAを取り除くために行います。詳しく →の頑健性は、包括的に示されたとは言えないと評価しました。一方で報告書は、有効成分の出荷試験に、残った鋳型DNAのqPCRが入っていることも書いています(Comirnaty、EMA/707383/2020)。分解の工程は、やったことより、効いたことを測って示す工程です。
IVTでmRNAを作ったあとも、材料に使った鋳型DNAは反応液に残ります。放っておけば、残存DNAの試験で規格を外れます。消す酵素にはDNase I、Plasmid-Safe、Benzonase核酸を分解する酵素です。製造では培養由来の残存DNA/RNAを分解・除去して製品の純度を高める目的で使い、ベンゾナーゼが代表例です。詳しく →などがあり、切る相手がそれぞれ違います。選び違えると、残したいものまで削るか、消したいものが残ります。
開発の人は酵素の選び方を、品質保証は消えたことの示し方を、購買は仕様の聞き方を押さえられます。IVTDNA鋳型から試験管内でRNAを合成する反応。mRNA医薬の製造に用いる。詳しく →を含む工程全体はmRNA-LNPの製造工程に、残存DNAの数字の読み方は残存DNAとはにあります。
鋳型DNAを消す工程が問われる ― EMAの審査報告書から
Comirnatyの審査報告書は、残存する鋳型DNAを、IVTに使った直鎖状の鋳型に由来する工程由来不純物と位置づけています。有効成分の規格にqPCRの試験があり、日常的な管理は入っています。その一方で、DNase処理の工程の頑健性は、包括的に示されたとは言えないとされています。日常的な試験で守っていることと、工程そのものが安定して効くことを示すことは、別の話だということです。
報告書は、頑健性を高めるための試験が進んでいることを確かめたうえで、その結果の提出を申請者に求めています。
見るべきは、DNAの量だけではありません。DNase処理は鋳型を細かく切るので、どんな長さまで切れたかも、一緒に見ます。
「DNaseを入れた」では足りず、どれだけ、どんな長さまで切れたかを示す工程です。
酵素の使い分け ― 何を切って、どこで使うか
酵素は、切る相手で選びます。
| 酵素 | 切る相手 | 使う場面 | 注意 |
|---|---|---|---|
| DNase I | 一本鎖も二本鎖も、環状も直鎖も、DNAを内側から切る | IVTのあと、鋳型DNAを分解する | 二価の陽イオンが要り、EDTAで止まる。酵素自体も後で除く |
| Plasmid-Safe(LGC Biosearch) | 端の開いた直鎖の二本鎖DNA。環状は、ニックDNA鎖に入った切れ目で、多いと不完全な転写産物を生みやすい。詳しく →が入っていても残す。一本鎖には効率が下がる | プラスミドの仕上げ、閉端DNAの精製 | ATPとMg2+が要る |
| Exonuclease V(NEB) | 一本鎖と二本鎖の直鎖DNAを、両端から | 一本鎖の混入まで疑うとき | ATP依存 |
| Benzonase(Merck) | DNAもRNAも、形を問わず内側から切る | 細胞を壊した液など、目的物が決まる前 | RNAも切るので、mRNAが目的物の段階には向かない |
IVTのあとの鋳型の分解で標準的なのは、DNase Iです。NEBのHiScribeキットの手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →にも、転写のあとにDNase Iを加える工程があり、PromegaのRQ1 RNase-Free DNaseのような製品が、IVT用酵素・試薬に並びます。目的のmRNAを残して、DNAだけを切る、という使い方です。
Plasmid-Safeが活きるのは、残したいDNAに端がない場面です。プラスミド大腸菌の中で複製・増幅させる環状DNA。核酸医薬やベクター製造の伝統的な出発材料。詳しく →の調製では、大腸菌のゲノムDNAが断片になって混じります。この酵素は、環状のプラスミドを残して、端の開いた断片だけを削るので、長くこの仕上げに使われてきました。両端が閉じたdbDNAのような閉端DNAの精製も、同じ理屈です(閉端直鎖状DNAとは)。
Benzonaseは、正反対の性格です。末端を選ばず、RNAも区別しないので、細胞破砕後の粘度の高い液から、宿主の核酸を一括で減らすのに向きます(エンドヌクレアーゼ処理とは)。mRNAが液の中にいる段階では、目的物まで切ってしまいます。
切る相手で選びます。まず、何を残したいかを決めます。
Plasmid-Safeが効く条件 ― ATP、Mg2+、EDTA
カタログの「環状DNAには作用しない」を、スーパーコイルだけの話と読むのは誤りです。ニックの入って緩んだ環状も、メーカーの情報では、分解を免れます。二本鎖DNAでは、酵素が見ているのは立体構造ではなく、遊離した末端があるかどうかです。つかむ場所がなければ、ねじれていても、緩んでいても、削れません。
もう一つの条件は、反応液の中身です。LGC Biosearchの製品情報では、この酵素はATPとMg2+がそろって初めて働き、ATPは最終濃度1 mMで加えるよう指定されています。反応は37℃で進み、70℃で30分の加熱で失活します。
典型的な落とし穴は2つあります。ATPは、IVTの原料として使われて減るので、反応液に残っている量を当てにできません。手順書には、ATPを最終1 mMになるよう足す工程があります。もう1つがEDTAで、Mg2+を捕まえて酵素を止めます。前の工程の緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →にEDTAが入っていれば、酵素を足しても分解は進みません。
メーカーに聞くなら、「ATPが何mM以下だと分解が進まなくなるか」のような、自社の反応液で確かめられる形で聞きます。
効かないときは、酵素を替える前に、ATPとEDTAを疑います。
測る ― qPCRで見えるものと見えないもの
分解したあとは、残存DNAをqPCRで測ります。ここに1つ、注意があります。
qPCRが数えるのは、標的の配列が、増やせる長さのままつながって残っているDNAだけです。DNaseで細かく切れた断片は、標的の長さより短くなると、数に入りません。数字が下がったことは、長いDNAが減ったことを示しますが、DNAが消えたことの証明にはなりません。断片化を調べる試験が別に要るのは、このためです。

もう一つ、DNase処理の効果と、後ろの精製の効果は、混ざって見えます。2025年の報告では、イオン対逆相クロマトグラフィー疎水性の差でペプチドやオリゴを分離する液体クロマトグラフィーのこと。詳しく →が、dsRNAや対合した断片に加えて、残った鋳型DNAも落としました(dsRNAをクロマトで落とす)。精製の後の数字だけを見ていると、DNase処理がどれだけ効いたのかが分かりません。DNase処理の前後でも測ります。
加えた酵素そのものも、新しい不純物です。分解に使った酵素を、どう除き、どう測るかも決めておきます(残存ヌクレアーゼのELISA)。
数字が下がったことと、DNAが消えたことは別です。何塩基ぶんの長さを数えている数字なのかを、一緒に持ちます。
明日から確かめられること
受託先の報告書や、メーカーとの打ち合わせで聞ける項目です。
- 鋳型DNAの分解に使う酵素は何か。残したいものは何か
- 反応液に、ATP(Plasmid-Safeなら最終1 mM)とMg2+は足りているか。前の工程のEDTAは残っていないか
- 残存DNAは、どの長さの標的で測っているか。断片化の程度を見る試験はあるか
- DNase処理の前後と、精製の後で、残存DNAを分けて測っているか
- 加えた酵素を、どう除き、どう測るか
- 製造用なら、酵素はGMPグレード医薬品の製造品質管理基準(GMP)に適合した製造管理と品質試験のもとで製造・出荷された試薬・原料の品質区分。詳しく →か
酵素はエキソヌクレアーゼ・Plasmid-Safe DNase、ヌクレアーゼ(ベンゾナーゼ等)、測定は残存DNA定量(qPCR)で比べられます。転写の条件はT7 IVTの収率と品質、鋳型をプラスミドから替える選択肢はdbDNA/ceDNAをIVT鋳型に使うと何が変わるか、鋳型の切り方はプラスミド直鎖化とIVTにあります。
参考文献
- EMA, Comirnaty EPAR Public assessment report(EMA/707383/2020。残存DNA鋳型の位置づけ、qPCRの規格、DNase処理の頑健性)
- LGC, Biosearch Technologies, Plasmid-Safe ATP-Dependent DNase(MBENZ-002)
- New England Biolabs, Exonuclease V (RecBCD)(M0345)
- New England Biolabs, HiScribe T7 High Yield RNA Synthesis Kit(マニュアル、転写後のDNase I処理)
- Merck (Sigma-Aldrich), Benzonase Salt Tolerant Endonuclease, Emprove Expert(データシート)
- Reverse-phase chromatography removes double-stranded RNA, fragments, and residual template to decrease immunogenicity and increase cell potency of mRNA and saRNA, Mol Ther Nucleic Acids. 2025
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/plasmid-safe-exonuclease-residual-dna