dbDNA/ceDNAをmRNAのIVT鋳型に使うという選択肢

- mRNAのIVT鋳型は直鎖化プラスミドが定番ですが、無細胞合成の閉端直鎖状DNA(dbDNA/ceDNA)で置き換える選択肢があります。
- 利点は細菌バックボーンやエンドトキシンの持ち込みを避けられ、立ち上がりが速いことです。
- dsRNAや残存DNAの管理、目的物精製など下流の要件は共通で残るため、鋳型変更は工程全体で評価します。
mRNAのIVT鋳型を、どう用意するか
mRNA製造プロセスを設計するとき、鋳型の調製工程がボトルネックになることは少なくありません。T7 RNAポリメラーゼ試験管内転写(IVT)でmRNAを合成するために使う酵素や試薬類です。T7 RNAポリメラーゼやNTP、鋳型を分解するDNaseなどが含まれます。詳しく →で転写してmRNAを作るためのDNA鋳型(T7 in vitro転写の収率と品質)として、現在最も広く使われているのは、大腸菌で増やしたプラスミドDNAを制限酵素DNAの特定の塩基配列を認識して切る酵素です。クローニングやベクター作製でDNAを狙った位置で切るために使います。詳しく →で1か所切って直鎖化環状のプラスミドを制限酵素で1か所切り、直鎖にすること。したものです(プラスミド直鎖化とIVT)。実績のある方法ですが、大腸菌発酵に伴う細菌バックボーンプラスミドに含まれる、複製起点や耐性遺伝子など目的配列以外の大腸菌由来の領域。やエンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →の持ち込み、直鎖化の切れ残り管理といった手間がセットでついてきます。
そこで選択肢として浮上するのが、酵素だけで無細胞合成生きた細胞を使わず、細胞抽出液などの反応系にDNAやRNAを加えて試験管内でタンパク質を合成する手法です。詳しく →する閉端直鎖状DNA——doggybone DNA(dbDNA)やceDNAAAVのITRを末端に持つ閉端直鎖状DNA。AAVの複製酵素Repの働きで複製・切り出して作る。です。発酵工程を経ずにIVT鋳型試験管内転写でmRNAを合成する際に用いる元となるDNA分子のこと。を用意できる。それがこのアプローチの核心です。
狙いは「鋳型を無細胞で用意する」こと。細菌を使わないため、細菌バックボーン配列やエンドトキシンの持ち込み経路そのものを断てます。発酵・セルバンク構築を挟まないぶん、立ち上げも速い。新規配列の開発フェーズで迅速に鋳型を調達したい場面では、この差が効いてきます。
直鎖化プラスミドとの違い
| 直鎖化プラスミド環状プラスミドを制限酵素で1か所切断して線状にしたDNAで、主にmRNA合成のための転写鋳型として使用される。鋳型 | 閉端直鎖状DNA両端が共有結合で閉じた直鎖状の二本鎖DNA。分解酵素に強く、細菌バックボーンを含まないのが利点。鋳型(dbDNA環状鋳型をローリングサークル増幅し、プロテロメラーゼで末端をヘアピン状に閉じる酵素法の閉端直鎖状DNA。/ceDNA) | |
|---|---|---|
| 作り方 | 大腸菌培養 → 精製 → 制限酵素で直鎖化 | 酵素反応で無細胞合成(RCA+プロテロメラーゼ特定の配列を切って末端をヘアピン状に閉じる酵素。doggybone DNAの末端形成に使う。) |
| 細菌バックボーン | 含む | 含まない |
| エンドトキシン | 混入リスクあり | 原理的に低い |
| 立ち上がりの速さ | 発酵・セルバンクが必要 | 発酵を経ず速い |
| 末端の状態 | 制限酵素の切断端(開放端) | 両端が閉じている |
運用面での利点もあります。無細胞生きた細胞を使わず、試験管内の酵素反応だけで目的物を合成・増幅する方式。合成の鋳型は配列中に制限酵素サイトを設計する必要がなく、目的配列の直後で転写を止めるラン・オフ設計も組み込みやすい。制限酵素切断の副産物を気にしなくてよい分、工程がシンプルになります。
品質・実務での留意点
ただし、鋳型を置き換えれば課題が消えるわけではありません。IVT反応そのものが持つ本質的な問題は、鋳型の種類に関わらず残ります。鋳型DNAmRNA製造などで生じる二本鎖RNA(dsRNA)や鋳型DNAなど、製造工程に由来する不純物の残存量を調べる試験です。詳しく →の純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →は下流での二本鎖RNA(dsRNA)生成量に影響するため、どの鋳型を選んでも純度管理は必須です。転写後はDNase処理残った鋳型DNAを分解酵素DNaseで除く工程。IVT後のmRNAから不要なDNAを取り除くために行います。などで鋳型を分解し、残存DNAとして定量管理します。目的mRNAの回収に使うオリゴdTアフィニティー精製なども共通の工程として残ります。
無細胞合成の鋳型を採用する判断には、合成の正確さ(末端構造・目的配列の忠実度)に加え、スケール・コスト・供給安定性の評価も欠かせません。既存のプラスミド大腸菌の中で複製・増幅させる環状DNA。核酸医薬やベクター製造の伝統的な出発材料。系プロセスからの切り替えであれば、mRNA-LNPの製造プロセス全体との整合を確認したうえで判断するのが実務的です。
まとめ
- mRNAのIVTDNA鋳型から試験管内でRNAを合成する反応。mRNA医薬の製造に用いる。鋳型は、直鎖化プラスミドが定番だが、無細胞合成の閉端直鎖状DNA(dbDNA/ceDNA)で置き換える選択肢がある。
- 利点は、細菌バックボーン・エンドトキシンの持ち込みを避けられること、立ち上がりが速いこと。
- ただしdsRNA管理・残存DNA製造に使った宿主細胞に由来するDNAの不純物です。安全性の観点から、精製後にどれだけ残っているかを測る試験です。詳しく →管理・目的物精製といった下流の要件は共通で残るため、鋳型変更は工程全体で評価する。
参考文献
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