オリゴdTアフィニティでmRNAを精製:結合容量の読み方と落ちないもの

IVTの反応液には、素性のまるで違うものが混ざっています。転写に使った酵素はタンパク質、未反応のNTPは低分子、鋳型のプラスミド大腸菌の中で複製・増幅させる環状DNA。核酸医薬やベクター製造の伝統的な出発材料。詳しく →はDNA、途中で止まった転写物は目的物と同じRNAです。これを一つずつ別の工程で落とすと、工程の数だけ回収のロスが積み上がります。
一工程で振り分ける手がかりが、mRNAの末尾にあるポリA尾部です。担体に固定したオリゴdT(チミンが並んだ短いDNA)と、A-T塩基対で結びつけて捕まえます。ところが、同じ取っ手を使っていても、担体によって結合容量は何倍も違い、そして二本鎖RNA(dsRNA)IVTで副生する二本鎖のRNA。ウイルスの目印として自然免疫を刺激し、mRNAの翻訳を下げる不純物です。は落ちません。
担体を選ぶ人にも、見積もりを取る購買にも、規格を組む品質保証にも、カタログの数字の読み方と、この工程の担当から外すものの線引きが問われます。
取っ手はポリA尾部 ― 落ちるものと残るもの
mRNAの3'末端にあるポリA尾部mRNAの3′末端に並ぶアデニンの連なりで、翻訳効率と相関するとされる。詳しく →が、担体のオリゴdTと対を作って捕まります。
Thermo Fisher ScientificのPOROS Oligo (dT)25は、チミン25個のリガンド担体ビーズ表面に結合させた官能基やタンパク質で、目的物や不純物と相互作用して分離を担う部分。詳しく →を、平均50 µmのポリスチレン系の粒子に固定した担体です。結合は塩濃度の高い液で行い、溶出は塩を抜いた水か低塩の液で行います。酸もアルカリも使わないので、RNAにはやさしい溶出です。メーカーは、回収率95%超と説明しています。粒子のほかに、膜、モノリス(一体型の多孔質)、ナノファイバーといった形の担体もあり、原理はどれも同じ塩基対DNA二本鎖において互いに水素結合で対をなすヌクレオチドの単位で、DNA断片の長さを表す基本単位として使われる。詳しく →です。
ポリAを持たないものは、種類を問わず素通りします。T7ポリメラーゼやピロホスファターゼ(タンパク質)、未反応のNTP、鋳型のプラスミド。転写が途中で止まった断片も、3'末端に尾部が付いていないので、落ちます。イオン交換のように、性質の近い不純物ごとに条件を詰める必要がないのが、この工程の値打ちです。
一方で、ポリAmRNAの3'末端に付くアデニン連続配列。分解からの保護と翻訳の支持を担う。詳しく →尾部を持ったまま二本鎖になったdsRNAは、普通に捕まります。Sartorius傘下のBIA Separationsは、オリゴdTで捕捉したmRNAにdsRNAが残ることを前提に、捕捉のあとにpH4未満の酸性の液でdsRNAの水素結合をほどき、もう一度カラムに通す方法を示しています。これはメーカーが示している新しい手法で、自社の工程での検証が前提です。
dsRNAは自然免疫病原体を素早く感知して働く生体防御の仕組み。dsRNAをウイルスの痕跡とみなし炎症反応を起こします。詳しく →を強く刺激するので、原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →では管理が要ります。落とす工程は別に置きます(dsRNAのクロマト除去、mRNAのdsRNAを除去する方法)。
オリゴdTが見ているのはポリA尾部の有無だけです。それ以外の不純物を落とす責任は、別の工程に割り当てます。
結合容量の数字 ― 鎖長・滞留時間・緩衝液で動く
カタログの結合容量担体が結合できる目的物の量。大きな粒子は樹脂ビーズの細孔に入りにくく、結合容量を稼ぎにくい。詳しく →を、そのまま比べてはいけません。
1,900〜4,300 ntの4種類のポリA付きmRNAで、Cytivaのナノファイバー担体Fibro、BIA SeparationsのCIMmultus(モノリス)、POROSの動的結合容量(流しながら測る、実際に捕まえられる量)を比べた報告があります。Fibroは、CIMmultusの2〜4倍、POROSの2〜13倍でした。数字だけ見れば決着がついたようですが、条件を変えると景色が変わります。
| 担体の形 | 例 | 上の報告での傾向 |
|---|---|---|
| 粒子 | POROS Oligo (dT)25 | 滞留時間が短いほど、鎖が長いほど、容量が下がる |
| ナノファイバー | Fibro | 容量は最大。滞留時間と鎖長の影響を受ける |
| モノリス | CIMmultus Oligo dT | 滞留時間にも鎖長にも、最も左右されない |
FibroとPOROSは、流速を下げて滞留時間を長く取るほど、またmRNAが短いほど、容量が上がりました。つまり、短い構築をゆっくり流す条件ではFibroが大きく勝ち、長い構築を速く流す条件では差が縮まります。
同じ担体でも、条件で容量は動きます。BIA Separationsの応用資料は、小型のオリゴdTモノリスで、流速と緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →の組成を最適化し、5%が漏れ出す時点の結合容量を1.9 mg/mLから6.8 mg/mLへ引き上げたと報告しています。メーカー自身の応用資料の値です。Cytivaは、Fibro dTの製品ページで、2,000塩基のmRNAに対して6 mg/mL超の容量をうたっています。メーカーの表示で、測定の条件つきの値です。別の報告では、鎖長の違うmRNAでは、担体の細孔の大きさとリガンドの付け方が吸着に効くことが示されています。
結合容量の測り方の考え方は、Protein AのDBC測定と同じです。
ポリA尾部の設計 ― 分割尾部、長さの分布、尾部のないRNA
取っ手の側の設計も、結合に効きます。
mRNAワクチンのポリA尾部は、一続きとは限りません。BNT162b2は、アデノシン30個、10ntのリンカー、アデノシン70個を並べた分割型で、合わせて110ntです(欧州医薬品庁の評価報告書)。25量体のリガンドなら、どちらの区画とも対を作れます。ただし、区画がもっと短い設計では、結合の強さが変わりえます。
尾部の長さにも分布があります。短い尾部の分子は保持が弱く、回収率が揺れる一因になりえるので、ポリA尾部の分析で分布を押さえておきます。
そもそも尾部を持たない構築には、この工程は使えません。環状RNAがその例で、別の捕捉方法を選びます。取っ手の設計は分子設計の側で決まりますが、その決定がそのまま精製の選択肢を決めています。
よくある失敗
1つめは、鎖長の違う条件で測ったカタログ値で、担体の量を決めることです。自社の構築で測り直さないと、サイクル数樹脂を負荷から洗浄・溶出・再生まで1回使うごとに数える回数。寿命管理の基本単位になる。詳しく →も見積もれません。
2つめは、処理時間を縮めようとして流速を上げることです。粒子やナノファイバーは、滞留時間が短くなると容量が下がります。捕まえきれなかった分は、素通りして失われます。
3つめは、オリゴdTを通したからdsRNAは大丈夫、と考えることです。回収率と純度だけで合否を見ると、dsRNAの残りを見落とします。前後で測っても、数字は大きくは動かないのが普通です。
4つめは、回収率が揺れた理由を担体だけに求めることです。ポリA尾部の長さの分布が、先に揺れている場合があります。
5つめは、洗浄や再使用の条件を、別の担体の手順から持ち込むことです。POROS Oligo (dT)25の取扱説明書は、使えるpHの範囲を2〜13とし、0.5 Mの水酸化ナトリウムも使える添加剤の例として挙げています。一方で、次亜塩素酸のような強い酸化剤は避けるよう注意しています。洗浄の条件と再使用の回数は、この資料と、自社の容量の経時データで決めます。
6つめは、溶出液をそのまま次の工程に渡すことです。低塩の溶出液は薄いので、限外ろ過半透膜で目的物質を濃縮したり(限外ろ過)、緩衝液を目的の組成に置き換えたり(ダイアフィルトレーション)する工程です。膜面に沿って液を流すTFF方式が使われます。詳しく →で濃縮し、必要な緩衝液に置き換えます(UF/DF)。
明日から確かめられること
担体の選定や、メーカーとの打ち合わせに使える項目です。
- 自社の構築の鎖長と、ポリA尾部の設計(連続か分割か、長さの分布)は把握しているか
- 提示された結合容量は、何ntのmRNAを、何分の滞留時間、どの緩衝液で測った値か
- 担体の形(粒子、膜、モノリス、ナノファイバー)で、滞留時間と鎖長への依存の違いを見たか
- 自社の鎖長と滞留時間で、結合容量を実測したか
- 洗浄と再使用の条件は、取扱説明書と自社データで決めているか
- この工程が担当しない不純物(dsRNA、二量体、3'末端の異常)を、どの工程が受け持つか決めているか
担体はmRNA精製用クロマト担体とメンブレンクロマトグラフィーで比べられます。dsRNAを測るキットはdsRNA ELISAに、落とすセルロース担体はセルロース担体の一覧にあります。担体の選び方の全体像は精製担体の選び方、形式ごとの違いはメンブレンクロマトグラフィーとは?で解説しています。この工程の前にある転写の分かれ道は、T7 IVTの収率と品質にあります。
参考文献
- Thermo Fisher Scientific, POROS Oligo (dT)25 Affinity Resin 取扱説明書(25量体リガンド、約50 µm粒子、回収率95%超、使用できるpHの範囲)
- Improved mRNA affinity chromatography binding capacity and throughput using an oligo-dT immobilized electrospun polymer nanofiber adsorbent, J Chromatogr A. 2024(1,900〜4,300 ntでの担体間比較)
- Enhanced adsorption performance of varying-length mRNA on Oligo dT affinity resins through optimal pore size and grafting, Biochem Eng J. 2024(鎖長と細孔径・リガンドの付け方)
- BIA Separations, Optimization of Preparative-Scale mRNA Capture Using Small-Scale Oligo dT Affinity Monoliths(流速と緩衝液の最適化で結合容量が1.9から6.8 mg/mLへ。メーカー資料)
- BIA Separations, A Novel Approach for dsRNA Removal Using Oligo dT Affinity Chromatography by Targeting Hydrogen Bonding(酸性での変性によるdsRNA除去の試み。メーカー資料)
- Cytiva, Fibro dT(2,000塩基のmRNAで6 mg/mL超の容量をうたう。メーカー表示)
- EMA, Comirnaty EPAR Public Assessment Report(ポリA尾部の構成)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/oligo-dt-affinity-mrna-purification-application