環状RNA医薬:長持ちの理由と、作るときに残る三つの課題
RNAの両端をつないで環にするだけで、細胞の中で長持ちし、免疫の警報装置にも引っかかりにくくなる。環状RNAが注目される理由は、この一点に尽きます。RNAを端から削る分解酵素(エキソヌクレアーゼDNAを端から削る分解酵素。閉端DNAは耐性を持つため、開放端の不純物を選択的に除くのに使える。詳しく →)は、端が無い環には取りつく場所がありません。

ただし、この利点には条件が付きます。Wesselhoeftらは、精製した未修飾の環状RNAが、RIG-I細胞質でウイルス由来の二本鎖RNAを感知する自然免疫センサーで、MDA5とともに働く。詳しく →などの免疫センサーにほとんど見えないことを示しました。同じ論文で、直鎖のRNAがわずかに混ざると強い免疫応答が出ることも示しています。環という形の利点は、環だけを取り出せたときにしか出ません。開発や品質の担当者が向き合う課題は、環化の効率、直鎖の残り、免疫応答の三つで、実はこの三つが一本の線でつながっています。
末端が無いことで得られるもの ― 分解・キャップ・免疫
環状RNA両端がつながって環状になったRNA。分解されにくく安定した発現が期待され、in vivo CAR-Tで検討される。詳しく →の利点は、端が無いことから三つ同時に出ます。
一つ目は、分解されにくいことです。線状のmRNAには5′端と3′端があり、エキソヌクレアーゼはそこから一つずつ削ります。環にはその入口が無いので、この経路では壊れません。マウスの脂肪組織に入れた比較では、環状RNAからの翻訳は、未修飾の線状mRNAや、ウリジンを修飾した線状mRNAより長く続きました(Wesselhoeftら、2019年)。何日続くかは、配列、製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →、組織で変わります。内部を切る酵素や加水分解には環状RNAも弱く、一か所切れれば直鎖になって、この耐性を失います。
二つ目は、5′キャップとポリAmRNAの3'末端に付くアデニン連続配列。分解からの保護と翻訳の支持を担う。詳しく →を付ける工程を省けることです。線状mRNAの翻訳は、キャップに翻訳開始の因子が結合してリボソームを呼び込むことで始まります(mRNAキャッピングとポリA付加)。環状RNAにはキャップが無いので、配列の途中でリボソームを直接呼び込むIRES(内部リボソーム進入部位RNA分子の内部に存在し、5'キャップを介さずにリボソームを直接結合させて翻訳を開始させる機能的RNA構造領域。)を置きます。脳心筋炎ウイルスやコクサッキーウイルス由来のIRESRNA分子の内部に存在し、5'キャップを介さずにリボソームを直接結合させて翻訳を開始させる機能的RNA構造領域。がよく使われますが、翻訳の効率は配列や細胞の種類で大きく動き、キャップ依存の翻訳より出にくいこともあります。
三つ目は、免疫のセンサーに見えにくいことです。RIG-Iは、ウイルスのRNAに特徴的な5′末端の三リン酸を手がかりにするセンサーで、T7ポリメラーゼでつくった直鎖のRNAはこの末端を持っています。環状RNAには5′末端そのものが無いことが、理由の一つと考えられます。精製した未修飾の環状RNAは、RIG-Iやエンドソームの受容体(TLR)に見えず、トランスフェクション培養細胞に外来の核酸を導入する操作。ウイルスベクターの一過性の産生などに用いられる。詳しく →しても目立ったサイトカイン細胞が放出する免疫の情報伝達物質。細胞治療では効果と安全性のリードアウトになる。詳しく →応答を起こさなかったと報告されています。
三つの利点はどれも「端が無い」ことから出ています。中でも免疫に見えにくいことは、環だけを取り出せているときにしか成り立ちません。
環化の効率 ― 100%にならない残り
環を閉じる反応は、方法が違っても、環にならなかった分子を必ず残します。
方法は大きく二つあります。一つは、グループIイントロングアノシンを補因子として自己スプライシングを行う触媒RNAの一群で、環状RNA製造における環化反応に応用される。という自己触媒性のRNAを使う自己スプライシンググループIイントロンなどのリボザイムが、外部の酵素を借りずにRNA自身の触媒活性でイントロンを切り出し末端を連結する反応。法で、PIE(permuted intron-exon)法と呼ばれます。前駆体の両端にイントロンの断片を並べておくと、転写後にRNA自身の反応で両端が連結されます。外から酵素を加えずに、5 kbほどの長さまで環にできると報告されています。もう一つがスプリント法短い相補的DNAオリゴ(スプリント)でRNAの両端を近接させ、リガーゼで共有結合として連結するRNA環化手法。で、前駆体の両端に橋渡しの短いDNAを対合させ、リガーゼ(RNAをつなぐ酵素)で連結します。反応の位置を決めやすい代わりに、連結の効率と、橋渡しのDNAの残りが管理点です。
PIE法の効率は、前駆体の配列の設計で動きます。同じ方法でも、配列の作り込みしだいで、環になる割合は変わります。
ところが、収率がどれほど高くても、100%にはなりません。残りは環にならなかった分子です。直鎖の前駆体、環が一か所開いたニックDNA鎖に入った切れ目で、多いと不完全な転写産物を生みやすい。詳しく →体、切り出されたイントロンの断片が、反応液に混ざります。前駆体とニック体は、目的の環と長さも配列もほぼ同じなので、サイズだけでは分けにくい。
環化の効率は、高いほどよいという数字ではなく、残りの分子が何で、どう落とせるかまで含めて読むものです。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べる直鎖の残り ― RNase Rで落としきれない分
直鎖を落とす定番の手は、直鎖だけを分解する酵素、RNase R3'から5'方向にRNAを分解するエキソリボヌクレアーゼで、末端を持つ線状RNAを選択的に消化し環状RNAを残すため純度確認に使われる。です。環は端が無いので残り、直鎖は端から削られます。
原理がきれいなだけに、「RNase Rで処理したから直鎖は消えている」と思いがちです。ところが、細胞から環状RNAを取り出す研究では、標準的な条件のRNase Rで、高発現の直鎖RNAの20%超が分解されずに残ったと報告されています(XiaoとWilusz、2019年)。G四重鎖(グアニンに富む配列がつくる固い構造)や、構造をとった3′端が、酵素の進行を止めるためです。カリウムイオンをリチウムイオンに置き換える、ポリA尾部mRNAの3′末端に並ぶアデニンの連なりで、翻訳効率と相関するとされる。詳しく →を付けてから処理する、といった改良で、取りこぼしは大きく減りました。
この報告は、細胞から取り出したRNAでの結果です。IVT(試験管内転写DNA鋳型から試験管内でRNAを合成する反応。mRNA医薬の製造に用いる。詳しく →)でつくる環状RNAでも、構造をとりやすい直鎖は残りやすい、と考えて精製を組むのが安全です。精製は、RNase R単独では完結しません。サイズ排除分子の大きさの差で分けるクロマトグラフィー。詳しく →や逆相のHPLCイオン対試薬を使い疎水性の差で分ける液体クロマト。一本鎖と二本鎖RNAの分離やdsRNA除去に使われます。詳しく →、ゲルでの分離を重ね、環かどうかは、電気泳動での移動度や、連結部をまたぐ配列の解析で確かめます。測り方の例は自動電気泳動でmRNAの完全性を測るとイオン対逆相HPLCでmRNAの純度を測るにあります。カラムはサイズ排除HPLCの製品ガイドから探せます。
RNase Rに耐えたことは、環であることの証拠の一つにすぎません。直鎖が残っていないことの証明は、別の測定で取ります。
免疫応答 ― 直鎖の混入量と結果の読み方
「環状RNAは免疫原性薬そのものが患者の免疫応答を誘発しやすい性質。凝集体や不純物、投与経路、患者背景などが要因になる。詳しく →が低い」という言い方は、半分だけ正しい。純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →の話を抜くと、結論が変わります。
Wesselhoeftらの2019年の報告は、二つのことを同時に示しました。精製した未修飾の環状RNAは、RIG-IやTLRエンドソーム内でRNAを見張るToll様受容体群で、TLR3・7・8がRNAに反応する。詳しく →などのセンサーに見えず、目立ったサイトカイン応答を起こさなかった。一方で、直鎖のRNAがごく少量混ざると、強い免疫応答が出た。環という形が免疫に見えにくいのは本当ですが、その利点は、純度が低いと簡単に打ち消されます。
前駆体もIVTでつくるので、二本鎖RNAIVTの副生成物などで生じるRNAで、自然免疫を強く刺激するため低減と定量が求められる。詳しく →の副生も、直鎖のmRNAと同じように気にする対象です。二本鎖RNAがなぜできるのか、どう測るのかはmRNAのdsRNAに書きました。
免疫応答の比較は、純度とセットで読みます。「環状RNAは免疫応答が小さい」という結果を見たら、どの精製を経たロットなのか、直鎖の残りをどう測ったのかを確かめます。精製が足りないロットで同じ試験をすれば、違う結論が出ることがあります。
環の形は免疫に見えにくくしますが、その状態を守るのは精製です。
明日から確かめられること
論文や提案資料、受託先の説明を読むときに、次を確かめます。
- 「長持ち」の比較相手を見ます。未修飾の線状mRNAと比べたのか、修飾した線状mRNAと比べたのか。どの組織で、何日まで追ったのか。
- 環化の収率と内訳を見ます。反応後の環、前駆体、ニック体、イントロン断片が、別々の数字で報告されているか。
- 精製の組み立てを見ます。RNase R単独か、HPLCやゲルを重ねているか。直鎖の残りを、どの方法で何%と測っているか。
- 免疫応答を見たロットを見ます。最終の精製ロットで試験しているか、二本鎖RNAも測っているか。
- 線状mRNAで足りないかを見ます。発現目的タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞内で転写・翻訳させ、機能的なタンパク質として産生させる工程。詳しく →を長く保つ価値が、環化、精製、環状性の証明という工程を足す負担に見合うか。線状mRNAの工程はmRNA-LNPの製造工程にあります。
規格にするときは、環状性の証明を、連結部をまたぐ配列の解析と電気泳動の移動度のどちらでどの頻度で行うかまで決めます。この証明が無いまま進めると、直鎖やニック体が混ざったロットを環状体として出荷しかねません。品質管理遺伝子治療製品の品質・安全性・有効性を保証するために製造・出荷の各段階で実施する試験・管理の総体。詳しく →の枠組みは核酸医薬の品質管理、前駆体をつくる段階はT7 IVTの収率と品質が入口です。
参考文献
- Wesselhoeft RA, Kowalski PS, Anderson DG. Engineering circular RNA for potent and stable translation in eukaryotic cells, Nat Commun. 2018;9:2629
- Wesselhoeft RA, Kowalski PS, Parker-Hale FC, et al. RNA Circularization Diminishes Immunogenicity and Can Extend Translation Duration In Vivo, Mol Cell. 2019;74(3):508-520
- Xiao MS, Wilusz JE. An improved method for circular RNA purification using RNase R that efficiently removes linear RNAs containing G-quadruplexes or structured 3' ends, Nucleic Acids Res. 2019;47(16):8755-8769
- Kristensen LS, Andersen MS, Stagsted LVW, Ebbesen KK, Hansen TB, Kjems J. The biogenesis, biology and characterization of circular RNAs. Nat Rev Genet. 2019;20(11):675-691
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/circular-rna-therapeutics