環状RNA(circRNA)医薬とは?高い安定性と製造・精製の課題
mRNA医薬が実用化される一方で、この分子には「壊れやすさ」と「発現が長く続きにくいこと」という構造的な弱点が残ります。これを分子の形そのもので解こうとするのが、環状RNA(circular RNA、circRNA)です。名前のとおり、5'末端と3'末端が共有結合でつながって環を閉じた一本鎖RNAで、天然にも細胞内でバックスプライシング前後関係が逆転したスプライシングにより、下流のドナー部位が上流のアクセプター部位と連結して環状RNAを生成する細胞内反応。によって生じますが、医薬用途では目的タンパク質のコード配列を組み込んで人工的に設計します。

通常のmRNAが5'キャップと3'ポリA鎖という末端修飾によって分解酵素から身を守るのに対し、環状RNAはそもそも守るべき末端を持ちません。この違いが、エキソヌクレアーゼDNAを端から削る分解酵素。閉端DNAは耐性を持つため、開放端の不純物を選択的に除くのに使える。に強く発現が持続しうる利点と、キャップに頼らず翻訳を始めなければならない制約、さらに環をどう閉じ純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →を担保するかという製造上の難所を、まとめて生み出します。
本稿では、環状RNAが薬として成立するための三つの論点——末端を持たないことによる安定性、IRESなどによるキャップ非依存翻訳5'キャップ構造を必要とせず、RNA内部の配列・構造にリボソームを直接動員してタンパク質合成を開始する翻訳機構。、そして環化反応と副生成物の除去という精製・品質管理の課題——を、通常mRNAとの違いを軸に整理します。mRNAやキャッピングmRNAの5'末端にキャップ構造を付ける修飾で、安定性や翻訳効率を高めるための末端加工です。詳しく →、品質管理の基礎は既存記事に譲り、環状RNA両端がつながって環状になったRNA。分解されにくく安定した発現が期待され、in vivo CAR-Tで検討される。固有の勘所に絞って解説します。なお本稿は技術的な整理であり、個別製品の有効性・安全性を保証するものではありません。
環状RNAとは:末端を持たない核酸
環状RNAは、直鎖状のRNAの両端が連結して1つの閉じた環になった構造です。線状のmRNAには必ず露出した5'末端と3'末端があり、細胞内のエキソヌクレアーゼ核酸を分解する酵素です。製造では培養由来の残存DNA/RNAを分解・除去して製品の純度を高める目的で使い、ベンゾナーゼが代表例です。詳しく →(末端から順に核酸を削っていく分解酵素)にとってはここが分解の起点になります。環状RNAには削り始める端がないため、5'側・3'側いずれのエキソヌクレアーゼ分解も原理的に受けにくく、細胞内での半減期薬の血中濃度が半分に下がるまでの時間。抗体フラグメントでは短く、延長の工夫が要る。が長くなり、タンパク質発現が長く保たれる可能性があります。
この「末端がない」性質は、キャップやポリAmRNAの3'末端に付くアデニン連続配列。分解からの保護と翻訳の支持を担う。といった末端修飾を必要としないことにもつながります。線状mRNAでは末端修飾の付与率や均一性が品質を左右しますが、環状RNAは発現の持続を分子構造そのものが担う点が発想の転換になっています。
ただし、末端がないことは万能ではありません。分子内部を切るエンドヌクレアーゼや加水分解には弱く、環が一箇所でも切れれば線状化環状のプラスミドを制限酵素で1か所切り、直鎖にすること。して耐性を失います。安定性はあくまで末端分解に対する耐性である点は押さえておく必要があります。
キャップ非依存の翻訳:IRESという仕組み
線状mRNAの翻訳は、5'キャップmRNAの5'末端の構造で、キャップ率が翻訳開始効率や自然免疫の回避に関わる。を翻訳開始因子eIF4Em7Gキャップに結合し、リボソームを呼び込む翻訳開始因子。が認識してリボソームを呼び込む「キャップ依存」の経路で始まります。キャップの役割は mRNAキャッピングとポリA付加 で詳しく扱っていますが、環状RNAにはこのキャップがありません。したがって、別の仕組みでリボソームを配列内部に直接呼び込む必要があります。
その中心となるのが IRES(internal ribosome entry siteRNA分子の内部に存在し、5'キャップを介さずにリボソームを直接結合させて翻訳を開始させる機能的RNA構造領域。、内部リボソーム進入部位RNA分子の内部に存在し、5'キャップを介さずにリボソームを直接結合させて翻訳を開始させる機能的RNA構造領域。)です。IRESRNA分子の内部に存在し、5'キャップを介さずにリボソームを直接結合させて翻訳を開始させる機能的RNA構造領域。はRNA内部に置かれた構造で、キャップを介さずにリボソームを動員して翻訳を開始させます。ウイルス由来のIRES(脳心筋炎ウイルスやコクサッキーウイルス由来のものなど)がよく用いられ、このほかにも一部の内部修飾を利用したキャップ非依存の開始機構が検討されています。
翻訳効率はIRESの種類や配列文脈、細胞の種類によって変わるため、環状RNAの設計では「どのIRESを、どの配置で使うか」が発現量細胞が目的のタンパク質を作る量。低いと必要量の確保に手間がかかり、製造コストが上がる。を左右します。キャップ依存翻訳に比べて開始効率が出にくい場合もあり、コード配列との組み合わせ最適化が実務上の課題です。
環化の方法と副生成物
環状RNAをつくるには、まずIVT(in vitro生きた動物の体外で、試験管やシャーレなどを用いて細胞・組織・分子レベルで行う実験を指す用語。 transcription、試験管内転写DNA鋳型から試験管内でRNAを合成する反応。mRNA医薬の製造に用いる。)で線状の前駆体RNAを合成し、その両端を連結して環を閉じます。IVTDNA鋳型から試験管内でRNAを合成する反応。mRNA医薬の製造に用いる。の流れは mRNA-LNPの製造解説 と共通する部分が多いため、ここでは環化のステップに絞ります。環化の方式は自己触媒型と酵素・スプリント型の2系統に大別できます。
リボザイム(自己スプライシング)法
グループIイントロングアノシンを補因子として自己スプライシングを行う触媒RNAの一群で、環状RNA製造における環化反応に応用される。などのリボザイム(触媒活性を持つRNA)の自己スプライシンググループIイントロンなどのリボザイムが、外部の酵素を借りずにRNA自身の触媒活性でイントロンを切り出し末端を連結する反応。能を利用する方式です。前駆体の両端にイントロン由来の配列を並べ替えて配置しておくと、転写後にRNA自身がスプライシング前駆体mRNAから不要な部分を除き必要な部分をつなぐRNAの編集。ASOで切り替えを調節できる。反応を進めて末端どうしを連結し、環を閉じます。外部のタンパク質酵素を必要とせず、比較的大きな配列も環化できるのが利点で、反応の副産物として切り出されたイントロン断片が生じます。
スプリント法・酵素法
前駆体の5'末端と3'末端を近づけて、RNA/DNAリガーゼで連結する方式です。とくに、両端に相補的なDNAオリゴ(スプリント)を橋渡しとしてハイブリダイズさせ、リガーゼで継ぐ手法はスプリント法(splint ligation短い相補的DNAオリゴ(スプリント)でRNAの両端を近接させ、リガーゼで共有結合として連結するRNA環化手法。)と呼ばれます。反応位置を規定しやすい一方、連結効率や橋渡しオリゴの残留が管理点になります。
いずれの方式でも、目的の環状体だけがきれいに得られるわけではありません。環化しきれずに残った線状前駆体、環が一箇所切れて開いたニック体(開環体)環状RNAの環が一箇所で切断されて線状化した分子で、環状体と配列・サイズが極めて近いため除去が難しい副生成物。、複数分子がつながった連結体(コンカテマー目的配列が数珠つなぎに連なった長い直鎖状DNA。ローリングサークル増幅の産物。)、リボザイム自己切断能をもつRNA。キャップ末端の切り出しにも使われる。法では切り出されたイントロン断片などが副生成物として混在します。
精製と品質管理:線状前駆体・ニック体の除去
環状RNA医薬の製造で最も難しいのが、この副生成物の除去と、目的物が本当に環状であることの確認です。環状体・線状前駆体・ニックDNA鎖に入った切れ目で、多いと不完全な転写産物を生みやすい。体は塩基配列がほぼ同じで分子サイズも近いため、通常のクロマトグラフィーやゲル電気泳動だけでは分離しきれないことがあります。
有力な手がかりになるのが、まさに環状RNAの特徴であるエキソヌクレアーゼ耐性です。線状RNAだけを分解し環状RNAを残すエキソヌクレアーゼ(RNase Rなど)で処理すれば、線状前駆体やニック体を選択的に減らせます。加えてサイズ排除やイオン対逆相などのHPLC分取、ゲル精製で目的物を回収します。環状性の確認には、エキソヌクレアーゼ耐性の有無、電気泳動での移動度の違い、連結部(バックスプライス接合部環状RNAの環化によって形成される、通常の直鎖mRNAには存在しない逆向きのスプライス連結部位で、環状性の証明に利用される。)をまたぐ逆転写・配列解析などが用いられます。
品質管理では、環化効率(目的の環状体の割合)、残存する線状前駆体・ニック体の量、イントロン断片やスプリント由来オリゴの残留、二本鎖RNA(dsRNA)IVTで副生する二本鎖のRNA。ウイルスの目印として自然免疫を刺激し、mRNAの翻訳を下げる不純物です。などの免疫原性不純物が重要項目です。環化で生じる副生成物や不完全な構造は自然免疫センサー外から来たRNAなどを異物として感知し、炎症性のシグナルを立ち上げる細胞側のセンサー群。に認識されて炎症を惹起しうるため、純度は有効性だけでなく安全性にも直結します。dsRNAの低減はmRNAと共通の課題で、mRNAの二本鎖RNA除去 の手法が参考になります。核酸医薬に共通する純度・全長性・不純物の考え方は 核酸医薬の品質管理 を土台に、環状RNAでは「環状性の証明」と「線状・ニック体の除去」という固有項目を上乗せして規格を組み立てます。
通常mRNAとの違いと使いどころ
環状RNAと線状mRNAは、同じタンパク質をコードできても、性質と製造の勘所が異なります。要点を対比すると次のようになります。
| 観点 | 線状mRNA | 環状RNA(circRNA) |
|---|---|---|
| 末端構造 | 5'キャップ・3'ポリA | 末端なし(共有結合で閉環) |
| エキソヌクレアーゼ耐性 | 末端修飾で保護 | 末端がなく原理的に高い |
| 翻訳開始 | キャップ依存(eIF4E) | キャップ非依存(IRES等) |
| 発現の持続 | 相対的に短い傾向 | 長く続きうる |
| 主な製造課題 | キャップ率・ポリA長・dsRNA | 環化効率・線状/ニック体除去 |
線状mRNAは、キャッピングとポリA付加という確立した工程の上に高い立ち上がりの発現が得やすく、開発・製造の知見も厚く蓄積されています。一方の環状RNAは、末端修飾に頼らず安定性と発現持続を分子構造で担える点が魅力で、より長い発現が望ましい用途で選択肢になります。反面、環化反応と副生成物の除去、環状性の証明という工程が加わり、製造・品質管理の難度は上がります。
つまり両者は優劣ではなく使い分けの関係にあり、発現の持続時間・翻訳効率・製造の成熟度を天秤にかけて選びます。環状RNAはまだ発展途上のモダリティであり、環化効率と純度を再現性よく作り込むことが実用化に向けた共通の論点です。
まとめ
環状RNAは、5'末端と3'末端が閉じて末端を持たないことで、エキソヌクレアーゼによる分解を受けにくく、発現が持続しうる核酸です。キャップを持たないためIRESなどによるキャップ非依存翻訳を用い、製造ではIVTで得た線状前駆体をリボザイム法やスプリント法で環化します。この環化は線状前駆体・ニック体・連結体・イントロン断片といった副生成物を必ず伴い、これらは目的の環状体とサイズ・配列が近いため、エキソヌクレアーゼ耐性を利用した処理やHPLCで除去し、環状性を証明する必要があります。線状mRNAとは優劣ではなく使い分けの関係にあり、純度は有効性と安全性の双方に直結するため、環状性の証明と線状・ニック体の除去を軸にした品質設計が、このモダリティの中心になります。
参考文献
- Wesselhoeft RA, Kowalski PS, Anderson DG. Engineering circular RNA for potent and stable translation in eukaryotic cells. Nature Communications. 2018;9:2629.
- Wesselhoeft RA, Kowalski PS, Parker-Hale FC, et al. RNA Circularization Diminishes Immunogenicity and Can Extend Translation Duration In Vivo. Molecular Cell. 2019;74(3):508-520.
- Kristensen LS, Andersen MS, Stagsted LVW, Ebbesen KK, Hansen TB, Kjems J. The biogenesis, biology and characterization of circular RNAs. Nature Reviews Genetics. 2019;20(11):675-691.