核酸医薬基礎知識・品質管理

核酸医薬の品質管理とは?純度・全長性・配列・不純物の見方

核酸医薬の規格を組もうとすると、低分子の不純物管理だけでも、組換えタンパク質のバイオ管理だけでも足りません。化学合成でつくるオリゴには低分子に近い構造の規定と不純物プロファイリング医薬品中に存在するすべての不純物を網羅的に検出・同定し、その種類と量を把握してリスクを評価する一連の解析作業。詳しく →が要り、酵素法でつくるmRNAやプラスミド大腸菌の中で複製・増幅させる環状DNA。核酸医薬やベクター製造の伝統的な出発材料。詳しく →にはバイオ医薬的なばらつきと生物由来不純物の管理が要ります。片方の経験だけで規格を組むと、必ずどちらかが抜けます。

核酸医薬の品質管理とは?純度・全長性・配列・不純物の見方

核心は一点です。核酸では、純度の上限が合成の化学で先に決まっています。1回のカップリング露出した5'水酸基に次の塩基のアミダイトを結合させ、鎖を1塩基伸ばす工程。詳しく →が 99% 成功する系で 20塩基 を伸ばすと、全長体は 83% にしかなりません。分析法をどれだけ磨いても、この数字のほうは動きません。だから規格を書く前に、自分の分子でどこまでが到達可能かを計算しておく必要があります。到達できない純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →を規格に置けば、その差は精製の損失として毎ロット払い続けることになる。

本稿では、二つの世界にまたがるという構造から始めて、ICH Q6B の枠に何を足すか、カップリング効率固相ペプチド合成においてアミノ酸が前段の鎖末端と反応・結合する割合で、低いと欠損配列が増加する。詳しく →が決める全長性の上限、mRNA固有のキャップとポリA、免疫を立ててしまう dsRNAmRNA製造などで生じる二本鎖RNA(dsRNA)や鋳型DNAなど、製造工程に由来する不純物の残存量を調べる試験です。詳しく →、残る鋳型DNAと試薬、そしてモダリティ抗体・低分子・核酸・細胞治療など、医薬品の種類・創薬手法の区分。詳しく →ごとに何が変わるのかを整理します。最後に、決める順番を並べます。

この記事の要点
  • カップリング効率 99% で 20塩基 なら全長体は 83%、99.5% なら 91% で、ここが純度の上限です。
  • mRNAでは5'キャップの付与率とポリA鎖長が固有の重要品質特性です。
  • 二本鎖RNAは自然免疫を立てるので、量だけでなく翻訳効率への影響まで見ます。

二つの世界にまたがる ― 合成医薬とバイオ医薬

核酸医薬siRNAやASOなど核酸を用い、標的mRNAを分解・抑制して効かせる医薬。詳しく →は、製法で二つに分かれます。

化学合成でつくるのが、siRNA二本鎖の短いRNAで、RISC(Ago2)を介して標的mRNAを分解する核酸医薬。ASOと製造基盤を共有する。詳しく → とアンチセンスオリゴです。固相合成で一塩基ずつ伸ばしていくので、構造は設計どおりに決まり、不純物も合成由来のものが中心です。低分子医薬に近い管理です。

酵素法でつくるのが、mRNA とプラスミドDNA大腸菌の中で増やす環状DNA。細菌バックボーンや抗生物質耐性遺伝子、エンドトキシンを含む点が弱点。詳しく → です。鋳型から転写するので配列は正確に決まる一方、長さのばらつきや酵素と鋳型の残存が問題として残ります。生物薬品に近い管理です。

だから規格の組み方も分かれます。合成側は構造を一義的に規定して不純物を列挙する方向、酵素法転写後に酵素でキャップを付ける方式。高いキャッピング率を得やすい。詳しく →側はばらつきを許容範囲として置く方向。同じ「核酸医薬」という括りの中に、性格の違う二つが同居しています。 どちらの世界の管理を当てるかは、分子の大きさではなく作り方で決まります。

ICH Q6B の枠に何を足すか

規格設定の土台は ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく → です。

同一性出荷ロットが意図した細胞集団であることを、表現型マーカーや追跡記録によって確認する品質項目。詳しく →、含量製品にどれだけの目的物質が含まれるか(含量)や、その生物学的な効き目の強さ(活性)を示す指標です。培養液中の産生量を指す場合もあります。詳しく →と力価、純度、不純物、夾雑物。この五つの枠組みは核酸医薬にもそのまま使えます。問題は、Q6B が直接は想定していない項目がいくつもあることです。

足すべき項目を並べると、配列そのものの確認、全長性、mRNA の5'キャップ構造とポリA鎖長、二本鎖RNAIVTの副生成物などで生じるRNAで、自然免疫を強く刺激するため低減と定量が求められる。詳しく →、合成由来の短鎖体、脱塩基体塩基が外れて生じる核酸の不純物(アバシック)のこと。と異性体。どれも有効性と安全性の両方に効きます。

これらの分析法をまとめた文書として、USP が mRNA ワクチンの品質に関する分析法の指針を出しています。2023年4月に第2版、2024年8月には治療用も対象に含めた第3版が公開され、キャッピング率mRNAの5'末端にキャップが付いた割合と、3'末端ポリA鎖の長さです。安定性や翻訳効率に関わる品質指標です。詳しく →を見る RP-LC-MS/MS やポリA鎖長を見る LC-MS液体クロマトグラフで成分を分離したうえで質量分析計にかけ、分子量を測って物質の同定や定量を行う手法です。詳しく → の手順が加えられました。規制文書ではありませんが、何をどう測るかの共通言語として使えます。

Q6B は骨格で、核酸固有の項目はそこへ乗せる。この順で組むと、抜けが見えやすくなります。

全長性 ― カップリング効率が決める上限

化学合成オリゴでは、純度の上限が合成の段階で決まります。

固相合成化学合成でRNAの鎖を作り、2本を組み合わせて(アニーリング)二本鎖siRNAに仕上げる工程です。固相合成で1塩基ずつ鎖を伸ばしていきます。詳しく →は一塩基ずつ伸ばす反応の繰り返しです。1回のカップリングが失敗すれば、その分子はそこで一塩基短い n-1全長より1塩基短い欠失体で、全長との差が小さく精製でもっとも分離しにくい不純物。詳しく → 体になる。だから全長体の割合は、カップリング効率を伸長回数だけ掛け合わせた値です。

数字を入れてみます。20塩基 のアンチセンスオリゴなら、カップリングは 19回。効率が 99.0% なら、0.99 の19乗で 82.6%。効率が 99.5% まで上がれば 90.9% です。長さが 25塩基 になると 24回 のカップリングが要るので、99.0% では 78.6% まで下がります。

siRNA ではさらに厳しくなります。21塩基 の二本鎖なので、両方の鎖が全長でそろう必要がある。片方の鎖の全長体が 83% なら、二本ともそろう確率は掛け合わせて 68% です。

だから精製が欠かせません。逆相や陰イオン交換正に帯電した担体に負電荷の物質を吸着させて分離する手法。フロースルーでDNAやウイルスを除くのに使う。詳しく →のHPLCイオン対試薬を使い疎水性の差で分ける液体クロマト。一本鎖と二本鎖RNAの分離やdsRNA除去に使われます。詳しく →で全長体を分け、規格に届く純度まで上げる。siRNAの製造で扱っているとおり、収率の多くはここで失われます。 全長体の純度は分析法の性能ではなく、合成の効率と鎖長で先に決まっています。

POINT

規格を置く前に、自分の分子の鎖長と実測のカップリング効率から全長体の理論値を出しておきます。理論値が 80% の分子に対して純度 95% という規格を置けば、精製で半分近くを捨てることになる。規格と収率は同じ計算の両端にあります。

mRNA の固有項目 ― キャップとポリA

酵素法でつくる mRNA では、別の項目が中心に来ます。

5'末端のキャップ構造は、分解からの保護と翻訳の開始に要ります。付与されていない分子は翻訳されないだけでなく、自然免疫を刺激する側にも回る。だからキャッピング率が重要品質特性として規格に入ります。Cap0 と Cap1 の区別も論点で、ヒト細胞では Cap1 が自己と認識されます。TriLink の CleanCap共転写で一段にCap 1を得るためのキャップアナログ試薬。詳しく → のように、転写と同時にキャップを付ける試薬が使われます。

3'末端のポリA鎖mRNAの3'末端に付くアデニン連続配列。分解からの保護と翻訳の支持を担う。詳しく →は、安定性と翻訳効率mRNAがリボソームによりタンパク質に翻訳される際の効率を示す指標。詳しく →に効きます。長さは 100〜150塩基 の範囲に置く設計が一般的で、鋳型にあらかじめ書き込む方法と、酵素で後から付ける方法があります。後者では長さが分布するので、平均と分布の広がりの両方を見ます。

測り方は、キャッピングmRNAの5'末端にキャップ構造を付ける修飾で、分解を防ぎ翻訳効率を高めます。3'末端のポリA付加とは別の修飾です。詳しく →率もポリA長も LC-MS が主力です。末端を切り出して質量で読む。キャッピング率とポリA長の分析はここに集約されます。

全長性分子が分解・途切れなく全長で揃っている度合いで、mRNAでは翻訳効率を左右する一次CQA。詳しく →はmRNAの完全性として、キャピラリー電気泳動細い管(キャピラリー)に電圧をかけ、分子の電荷やサイズの違いによる移動速度の差で成分を分離する分析法です。詳しく →で見ます。Agilent の Fragment Analyzer や SCIEX の系が使われる領域です。 mRNA の品質は、配列の正しさではなく両端の仕上がりで決まる部分が大きい。

dsRNA という不純物 ― 免疫を立ててしまう

mRNA 固有の不純物で、最も厄介なのが二本鎖RNAです。

試験管内転写では、鋳型に相補的な鎖が生じたり、転写産物が折り返したりして二本鎖の構造ができます。細胞はこれをウイルス由来と認識し、I型インターフェロン自然免疫の活性化で誘導される、抗ウイルス応答や炎症を担うサイトカインのこと。詳しく →と炎症性サイトカイン細胞が放出する免疫の情報伝達物質。細胞治療では効果と安全性のリードアウトになる。詳しく →を出す。狙った以外の免疫が立ち上がります。

影響は安全性だけではありません。自然免疫が立つと翻訳そのものが抑えられるので、有効性も落ちます。2011年の報告では、修飾ヌクレオシドを使った mRNA を HPLC で精製して二本鎖RNAを取り除くと、免疫の活性化が消え、翻訳が大きく改善しました。修飾塩基を入れるだけでは残っていた免疫応答が、精製で解消したという結果です。

測り方は、二本鎖特異的な抗体を使った免疫化学的な検出や、クロマトグラフィーでの分離が使われます。定量の標準化はまだ進行中の領域です。

二本鎖RNAは、量を規格に置くだけでなく、その量で翻訳が落ちていないかまで確かめる対象です。

残るもの ― 鋳型DNA、試薬、溶媒

酵素法では、原料と試薬が残ります。

最も重く扱われるのが鋳型DNAです。線状化したプラスミドを鋳型に転写するので、反応後に DNase で分解しますが、完全にはゼロになりません。WHO が示している目安は、1回投与あたり 10 ng まで。qPCR や dPCR で残存量を測り、断片の長さも併せて評価します。Bio-Rad の droplet digital PCR や Thermo Fisher Scientific の系が使われる領域です。

酵素そのものも残ります。T7 RNAポリメラーゼ、DNase、キャッピング酵素。それぞれ ELISA で定量し、規格に入れます。

化学合成側では、残留溶媒が論点です。アセトニトリルをはじめとする有機溶媒の残存は ICH Q3C の枠組みで管理します。合成で使う試薬や保護基の残存も、不純物として個別に評価します。

そしてどちらにも共通するのが、エンドトキシンと無菌性、そして外観と含量です。 核酸固有の項目に目が行きがちですが、規格の行数としては残留物の管理のほうが多くなります。

モダリティで見るものが変わる

四つのモダリティで、重心が違います。

アンチセンスオリゴでは、全長体の純度と n-1 などの短鎖体、脱塩基体、そしてジアステレオマーの比率が中心です。リン酸骨格を硫黄に置き換えたホスホロチオエートでは、各結合に立体異性が生じるので、異性体の分布そのものが品質特性です。

siRNA では、これに二本鎖のアニール率が加わります。センス鎖とアンチセンス鎖が正しく対をなしているか。片鎖の残存も不純物です。

mRNA では、全長性とキャッピング率とポリA長、そして二本鎖RNA。鋳型DNAの残存が最大の夾雑物です。

プラスミドDNAでは、超らせん体の比率が中心です。開環体や直鎖体との比を見る。宿主由来のゲノムDNA、RNA、タンパク質、エンドトキシンの残存も管理対象です。

分析装置の側は共通する部分が多く、UV、逆相と陰イオン交換のHPLC、キャピラリー電気泳動、LC-MS、qPCR と dPCR。オリゴ核酸の純度分析やキャピラリー電気泳動の組み合わせで大半が覆えます。

装置は共通でも、何を規格に置くかはモダリティごとに別に設計します。

POINT

モダリティが変わると、同じ装置で測っていても意味が変わります。キャピラリー電気泳動で見る「全長性」は、オリゴでは合成の成否を、mRNAでは転写と分解の両方を反映している。装置と手順を他のモダリティから借りるときは、その値が何を映しているかを読み替える作業が要ります。

決める順番

最後に、順番を並べます。

先に決まるのは製法です。化学合成か酵素法か。ここで、当てる管理の世界が分かれます。 作り方が決まらないうちに規格の案を書くと、想定していない不純物が後から出てきます。

次に、到達可能な純度を計算します。合成なら鎖長とカップリング効率から全長体の理論値を出す。酵素法なら、全長性とキャッピング率の実測から出発点を置く。 理論値より高い規格を置けば、その差は精製での損失として払うことになる。

そのうえで、核酸固有の項目を列挙します。配列、全長性、キャップ、ポリA、二本鎖RNA、異性体。ICH Q6B の五つの枠に、このモダリティの分を足していきます。

最後に残留物を洗い出します。鋳型DNA、酵素、溶媒、試薬、エンドトキシン。規格の行数としてはここがいちばん多くなるので、工程で使うものを一つずつ書き出す作業から始めます。

参考文献

この記事に関連する工程

mRNA-LNP全20工程全工程を見る →
  1. 合成・反応3工程
  2. 精製5工程
  3. 製剤・充填4工程
  4. 品質特性・分析8工程
この工程で名前の挙がるメーカー
より詳しい工程情報を見る
  • 20工程の基準法と、その選び方の根拠
  • 各工程の装置・試薬とメーカー
  • 代替・補完の選択肢 57件

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、核酸医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。