核酸医薬基礎知識・品質管理

核酸医薬の品質管理とは?純度・全長性・配列・不純物の見方

mRNAの品質規格を組もうとすると、低分子医薬の不純物管理だけでも、組換えタンパク質遺伝子組換えで微生物や細胞に作らせた目的タンパク質。宿主により折りたたみやコスト、糖鎖が異なる。のバイオ管理だけでも足りないことにすぐ気づきます。核酸医薬(mRNA・siRNA二本鎖の短いRNAで、RISC(Ago2)を介して標的mRNAを分解する核酸医薬。ASOと製造基盤を共有する。・アンチセンスオリゴ核酸〔ASO〕・プラスミドDNA)は、低分子でも従来型の組換えタンパク質でもない「中間サイズの合成・半合成生体高分子」だからです。化学合成オリゴ(siRNA/ASO)には低分子医薬に近い厳密な構造規定と不純物プロファイリング医薬品中に存在するすべての不純物を網羅的に検出・同定し、その種類と量を把握してリスクを評価する一連の解析作業。が求められ、酵素法でつくるmRNAやプラスミド大腸菌の中で複製・増幅させる環状DNA。核酸医薬やベクター製造の伝統的な出発材料。には生物薬品的なバッチ間ばらつきや生物由来不純物の管理が要ります。「合成医薬の精密さ」と「バイオ医薬のロバストネス」を両輪で回すこと——ここが核酸医薬siRNAやASOなど核酸を用い、標的mRNAを分解・抑制して効かせる医薬。QCの勘所です。

核酸医薬の品質管理とは?純度・全長性・配列・不純物の見方

規制の土台としては、生物薬品の規格設定の考え方を示す ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。 が出発点になります。Q6Bが提示する「同一性・含量/力価・純度・不純物・夾雑物(混入物)」という枠組みは核酸医薬にもそのまま応用できます。ただし核酸医薬には、Q6Bが直接想定していない固有の重要品質特性(CQA)が多数ある。配列(sequence)・全長性(インテグリティ/integrity)・mRNAの5'キャップ構造とポリA鎖長・二本鎖RNA(dsRNA)IVTで副生する二本鎖のRNA。ウイルスの目印として自然免疫を刺激し、mRNAの翻訳を下げる不純物です。不純物・n-1などの合成由来短鎖体・脱塩基体や異性体——これらがその代表です。有効性(翻訳効率・ノックダウン活性)と安全性(自然免疫の活性化、オフターゲット意図した標的以外の似た配列に結合・作用してしまうこと。核酸医薬の毒性や副作用の一因。)の双方に直結するため、モダリティ抗体・低分子・核酸・細胞治療など、医薬品の種類・創薬手法の区分。ごとにCQA製品の有効性や安全性に直結し、規格で管理すべき品質特性。空実比や純度、凝集体などが該当する。を定義し、適切な分析法に紐づける作業が品質設計の中心になります。

核酸医薬のQCは、純度・全長性・配列・不純物という4つの軸に集約されます。mRNA/siRNA/ASO/プラスミドで見るべきものは異なり、UV、IEX/RP-HPLC、CE、LC-MS、qPCR/dPCR核酸を定量する手法で、残留鋳型DNAや力価の測定に使う。dPCRは絶対定量に強い。といった分析手法をどう組み合わせるかも変わってくる。ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。 Q6Bという土台の上に核酸ならではの論点をどう積み上げるか——そこにこのモダリティの品質設計の難しさと面白さがあります。なお本稿は製造・品質の技術的観点に限定し、各製品の効能効果を断定するものではありません。

この記事の要点
  • 核酸医薬のQCは、ICH Q6Bを土台に純度・全長性・配列・不純物の4軸で設計します。
  • mRNA・siRNA・ASO・プラスミドで見るべきCQAが異なり、5'キャップやポリA長、dsRNAなど固有項目が加わります。
  • UV・CE/HPLC・LC-MS・qPCR/dPCRを役割分担で組み合わせ、複数手法で品質を確かめるのが基本です。

核酸医薬のCQAをICH Q6Bの枠で整理する

まず規格項目を、ICH Q6Bの分類(同一性出荷ロットが意図した細胞集団であることを、表現型マーカーや追跡記録によって確認する品質項目。純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →/不純物・含量製品にどれだけの目的物質が含まれるか(含量)や、その生物学的な効き目の強さ(活性)を示す指標です。培養液中の産生量を指す場合もあります。詳しく →/力価・夾雑物)に核酸特有のCQAを当てはめて棚卸しするところから始めます。⁠核酸医薬のQCは「Q6Bの一般項目」と「核酸固有の構造CQA(配列・全長性・キャップ/ポリA・dsRNAmRNA製造などで生じる二本鎖RNA(dsRNA)や鋳型DNAなど、製造工程に由来する不純物の残存量を調べる試験です。詳しく →)」の二層構造で設計するのが要点です。

  • 同一性(Identity):配列確認、鎖長、5'キャップ/ポリA、塩基組成・修飾塩基(プソイドウリジンウリジンの異性体にあたる天然の修飾ヌクレオシドで、m1Ψの母体となる塩基。等)の確認。
  • 純度・不純物(Purity / Impurities):全長品の割合(インテグリティ分子が分解・途切れなく全長で揃っている度合いで、mRNAでは翻訳効率を左右する一次CQA。)、製造工程・分解由来不純物(短鎖/長鎖、n-1、脱塩基、異性体、dsRNA、断片化主鎖が切れて分子が分かれる劣化。低分子量体(LMW)として現れ、酸性側などで進みやすい。体)。
  • 含量・力価(Content / Potency):濃度(A260等のUV)、in vitro生きた動物の体外で、試験管やシャーレなどを用いて細胞・組織・分子レベルで行う実験を指す用語。翻訳・ノックダウン等の生物活性。
  • 夾雑物(Contaminants):残留試薬・溶媒、残留鋳型DNA・酵素、エンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →バイオバーデン工程中に存在する微生物の量。長時間の連続運転では管理の時間軸がバッチより長くなる。

モダリティの違いを押さえると、分析設計の方向性は自然と決まります。化学合成のsiRNA/ASOでは「n-1・n+1・脱保護不全・異性体・ジアステレオマー(ホスホロチオエート)」といった合成由来不純物が主役で、配列・組成評価はイオン対逆相LC-MSが中心です。酵素法のmRNAでは「全長性・キャップ率・ポリA長・dsRNA・残留鋳型」が固有CQAとなり、プラスミドDNAでは「超らせん体(スーパーコイル)含量・残留宿主細胞由来DNA製造に使った宿主細胞に由来するDNAの不純物です。安全性の観点から、精製後にどれだけ残っているかを測る試験です。詳しく →/RNA・残留エンドトキシン」が重視されます。製造工程の理解は分析設計の前提になるため、siRNAの製造解説mRNA-LNPの製造解説 と合わせて読むと、どの工程でどの不純物が生じるかを対応づけやすくなります。

純度と全長性(インテグリティ)の見方

純度は「目的物がどれだけ目的物だけか」、全長性分子が分解・途切れなく全長で揃っている度合いで、mRNAでは翻訳効率を左右する一次CQA。(インテグリティ)は「分子が分解・途切れせず全長で揃っているか」を表し、両者は分けて評価します。⁠特にmRNAでは全長性(%intact分子が分解・途切れなく全長で揃っている度合いで、mRNAでは翻訳効率を左右する一次CQA。)が翻訳効率mRNAがリボソームによりタンパク質に翻訳される際の効率を示す指標。を左右する一次CQAであり、純度だけでなく分子サイズ分布として評価するのが現代的な見方です。

  • mRNA:キャピラリーゲル電気泳動細い管の中でサイズの違いにより分子を分ける手法。ポリAテール長の分布評価などに使われます。(CE、フラグメントアナライザ等)やオンチップ電気泳動でサイズ分布を取り、全長ピーク比率(%intact)と分解断片を定量します。大型mRNAではアガロース/変性ゲルも併用します。mRNA完全性 はこの全長性評価の専用解説です。
  • siRNA/ASO標的RNAに相補的な配列をもつ一本鎖の短い核酸。RNAに結合して働きを抑えたり書き換えたりする。CE-SDS ではなく、オリゴでは変性ポリアクリルアミドCGEや キャピラリー電気泳動、および オリゴ核酸/siRNA 純度・組成分析 に使うイオン対RP-HPLC/LC-MSで全長品(full-length product精製で取り出したい全長品のことで、n-1などの短化した欠損体と分離して比率を見る。, FLP)比率とn-1等の不純物を分離・定量します。siRNAではセンス/アンチセンス鎖それぞれの純度に加え、アニーリング率siRNAのセンス鎖とアンチセンス鎖が二本鎖を形成した割合のこと。(二本鎖形成率)も見ます。
  • プラスミド:アガロースゲルやキャピラリー電気泳動、HPLC(IEX等)で超らせん体・開環体(オープンサーキュラー)・直鎖体の比率を求め、超らせん体含量をCQAとします。

濃度・含量はA260のUV吸光(必要に応じA260/A280比で純度の目安)で求めます。ただしUVが見るのは「総核酸量」だけ。全長性や不純物プロファイルは、必ず分離分析(HPLC/CE)で補完する必要があります。

配列確認・5'キャップ・ポリA長の確認

配列は同一性の根幹です。核酸医薬では「設計配列どおりか」「修飾塩基が正しく入っているか」をLC-MSベースで確認するのが標準になっています。⁠mRNAでは配列確認に加えて5'キャップ率とポリA鎖長分布が独立したCQAであり、これらは翻訳開始効率・mRNA安定性に直結します。

  • 配列確認(mRNA):RNase(RNase T1等)で消化して得たオリゴ断片を LC-MS で測定するオリゴマッピング(マスマッピング)で全長配列をカバレッジ確認します。次世代シーケンス(NGS)を併用して塩基置換・欠失を評価する手法も普及しています。
  • 配列・組成(siRNA/ASO):完全長品の精密質量と、RNase/ヌクレアーゼ消化+LC-MS/MSによる配列確認を行い、修飾(2'-OMe、2'-F、ホスホロチオエート、コレステロール等の結合)を確認します。
  • 5'キャップ:RNase Hで5'末端断片を切り出しLC-MSでCap0/Cap1/キャップ無し(5'三リン酸)を区別し、キャッピング率・ポリA長 としてキャップ率(%capped)を求めます。未キャップ・Cap0残存はRIG-I等の自然免疫活性化や翻訳低下に関わります。
  • ポリA長:RNase HでポリA領域を切り出しCE/LC-MSで鎖長分布(中央値・分布幅)を評価します。ポリA長は分布として管理し、短すぎ・不均一はmRNA安定性低下につながり得ます。

不純物の見方:短鎖/長鎖・n-1・脱塩基・異性体・dsRNA

不純物は「合成由来」「酵素法由来」「分解由来」に大別して管理します。⁠核酸医薬の不純物管理で安全性上もっとも重視されるのがmRNAのdsRNA不純物で、自然免疫(TLR3/MDA5/RIG-I等)を介した炎症惹起のリスクから、低減とモニタリングの両方が求められます。

  • 合成由来(siRNA/ASO):n-1(1塩基短い欠失体)、n+1(付加体)、脱保護不全体、脱塩基体(アバシック)、酸化・脱アミノ体、ホスホロチオエートのジアステレオマー(立体異性体)など。イオン対RP-HPLC-UV/MSやイオンモビリティMSで分離・帰属します。共溶出する不純物はLC-MSで質量により判別します。
  • 酵素法由来(mRNA):dsRNA(T7 RNAポリメラーゼの自己プライミング・アンチセンス転写に由来)、長鎖体(リードスルー/連結)、短鎖体(中途終結)、残留鋳型DNA。dsRNAはJ2抗体ドットブロット/ELISA、IP-RP-HPLC、免疫測定(BLI)等で評価し、HPLC精製やセルロース吸着、修飾ヌクレオシド利用で低減します。
  • 分解由来:加水分解・酸化による断片化、脱プリン/脱ピリミジン(脱塩基)。安定性試験で全長性低下としてモニタリングします。

異性体・立体異性体は質量が同じため、UV/通常のLC-MSでは見分けにくい。イオンモビリティMSや高分離CGEが有効です。各不純物は許容基準(規格値)を設け、安全性・有効性への影響評価とともに管理します。

夾雑物と力価:残留試薬・溶媒・エンドトキシン・生物活性

最後に、Q6Bの「夾雑物」と「含量/力価」に当たる項目を確認します。⁠これらは製品の安全性と一貫性を担保する基盤項目であり、配列や全長性が良好でも夾雑物・力価が外れれば製品として成立しません。

  • 残留試薬・溶媒:合成由来のアセトニトリル等の有機溶媒(GCで残留溶媒)、酵素法の残留タンパク質(ELISA)、残留鋳型DNA(qPCR/dPCRで定量)、トリエチルアミン等のイオン対試薬残留。
  • 残留宿主・核酸:プラスミドでは宿主細胞由来DNA/RNA・宿主細胞タンパク質(HCP)をqPCR/ELISAで管理。
  • エンドトキシン・バイオバーデン:LAL試験等でエンドトキシン、培養法でバイオバーデン、無菌性を評価。
  • 力価(Potency):mRNAはin vitro翻訳によるタンパク質発現量(ELISA/レポーター)、siRNA/ASOは細胞系での標的mRNAノックダウン率(qPCR/dPCR)で生物活性を確認。dPCRは絶対定量・低コピー定量に強く、残留DNAや力価関連の定量で活用が広がっています。

比較表:モダリティ別の主なCQAと分析手法

CQA/項目mRNAsiRNAASOプラスミドDNA主な分析手法
同一性・配列オリゴマッピング/NGS精密質量+消化MS精密質量+消化MS制限酵素消化マップ/NGSLC-MS、NGS
全長性・純度%intact(全長比率)FLP比率・n-1FLP比率・n-1超らせん体含量CE/CGE、IEX/RP-HPLC
5'キャップキャップ率(Cap0/Cap1)該当なし該当なし該当なしRNase H+LC-MS
ポリA長鎖長分布該当なし該当なし該当なしRNase H+CE/LC-MS
二本鎖・アニーリングdsRNA不純物(要低減)二本鎖形成率該当なし(超らせん/開環比)J2抗体/ELISA、CE
主な不純物dsRNA・長/短鎖・残留鋳型n-1・異性体・分解n-1・脱塩基・異性体開環/直鎖体・宿主DNAIP-RP-HPLC-MS、IM-MS
残留試薬・夾雑物残留DNA・酵素・エンドトキシン溶媒・イオン対試薬溶媒・イオン対試薬宿主DNA/RNA・HCP・エンドトキシンqPCR/dPCR、GC、ELISA、LAL
力価in vitro翻訳量ノックダウン率ノックダウン率発現量(導入後)ELISA、qPCR/dPCR

(注:表中の「該当なし」は当該モダリティで一般にCQAとして設定しない項目を示します。実際の規格は製品・工程ごとに設定されます。)

まとめ

核酸医薬のQCは、生物薬品の規格枠組みである ICH Q6B⁠(同一性・純度/不純物・含量/力価・夾雑物)を土台にしつつ、配列・全長性・5'キャップ/ポリA長・dsRNAといった核酸固有のCQAを上乗せして設計します。化学合成のsiRNA/ASOではn-1・異性体・脱塩基などの合成由来不純物をイオン対LC-MSやCGEで精密に管理し、酵素法のmRNAでは全長性・キャップ率・ポリA長・dsRNAを、プラスミドでは超らせん体含量と残留宿主核酸を中心に評価します。UVは総量、CE/HPLCは純度・全長性、LC-MSは配列・キャップ・不純物の構造帰属、qPCR/dPCRは残留核酸・力価——という役割分担で複数手法を組み合わせるのが基本です。dsRNAの低減・モニタリングのように安全性(自然免疫)に直結する項目は、製造工程(精製・修飾塩基)と分析の両面で作り込む必要があります。なお具体的な規格値や許容基準は製品・工程依存であり、本稿の記載は技術的な整理であって個別製品の有効性・安全性を保証するものではありません。

参考文献

ガイドライン・基準

  • ICH Q6B「新規バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品の規格及び試験方法の設定(Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products)」, ICH, 1999.
  • ICH Q2(R2)「分析法バリデーション(Validation of Analytical Procedures)」, ICH, 2023.
  • ICH Q5A(R2)「バイオテクノロジー応用医薬品のウイルス安全性評価」, ICH, 2023.
  • 米国薬局方 USP〈1126〉Nucleic Acid-Based Techniques、および USP一般試験法〈85〉Bacterial Endotoxins Test, USP.
  • FDA Guidance for Industry「Considerations for the Development of Chimeric Antigen Receptor (CAR) T Cell Products」ほか核酸・遺伝子製品関連ガイダンス, U.S. FDA.
  • 「再生医療等製品(遺伝子治療用製品等)の品質、非臨床試験及び臨床試験の実施に関する指針」, 厚生労働省/PMDA.

主な文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、核酸医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。