siRNAの製造工程とは?固相合成からアニーリング・精製まで
siRNA医薬は、抗体やmRNA-LNP試験管内転写(IVT)でmRNAを作り、脂質ナノ粒子(LNP)に封入して製剤化する一連の工程です。詳しく →とはまた違う作り方をします。抗体が「細胞にタンパク質を作らせる」、mRNAが「試験管で長いRNAを酵素合成する」のに対し、siRNAは「化学反応でヌクレオチド核酸を構成する単量体単位で、塩基・糖・リン酸から成り、DNAやRNAの最小構成要素。を1個ずつつないで短いRNA鎖を組み立てる」という、いわば有機合成に近い作り方をとります。

siRNAは21〜23塩基ほどの2本のRNA鎖(センス鎖とアンチセンス鎖)が対になった二本鎖です。製造では、この2本をそれぞれ別々に化学合成し、精製してから、最後に2本を結合(アニーリング)させて二本鎖に仕上げます。同じ固相合成の系で作るアンチセンス核酸(ASO)標的RNAに相補的な配列をもつ一本鎖の短い核酸。RNAに結合して働きを抑えたり書き換えたりする。が一本鎖で完結するのとは、ここが大きく違う点です。
出発点はホスホロアミダイト法固体担体上で核酸を1塩基ずつ化学的に伸長させる合成法。ASOやsiRNAの製造の中核。による固相合成。そこから固相からの切断・脱保護、イオン交換/逆相での精製、二本鎖アニーリング、限外ろ過/透析ろ過(UF/DF)、凍結乾燥へと進んでいきます。この流れを工程の順にたどりつつ、2'-O-メチルやホスホロチオエート骨格の酸素をイオウに置き換えた結合で、ヌクレアーゼ耐性を高める狙いがある。といった化学修飾、全長純度や n-1/n+1 不純物といった核酸医薬siRNAやASOなど核酸を用い、標的mRNAを分解・抑制して効かせる医薬。ならではの品質管理遺伝子治療製品の品質・安全性・有効性を保証するために製造・出荷の各段階で実施する試験・管理の総体。にも触れていきます。
- siRNAの製造は、ホスホロアミダイト法でセンス鎖とアンチセンス鎖を別々に固相合成し、精製後にアニーリングで二本鎖へ仕上げます。
- 全長純度はカップリング効率と n-1/n+1 の分離で決まり、精製にはイオン交換と逆相クロマトグラフィーを用います。
- 2'-O-メチルやホスホロチオエートといった化学修飾の入り方が、薬効・安定性と不純物プロファイルを左右します。
全体像 ― 1本ずつ化学合成し、最後に二本鎖へ
siRNA二本鎖の短いRNAで、RISC(Ago2)を介して標的mRNAを分解する核酸医薬。ASOと製造基盤を共有する。の製造は、大きく「鎖を化学合成して精製するパート」と「2本を二本鎖に組み上げるパート」に分かれます。前半ではセンス鎖・アンチセンス鎖をそれぞれ固相合成し、高純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →に精製します。後半では精製した2本を化学量論どおりに混ぜてアニーリングし、塩を整えて最終形にします。
工程の全体像を一覧にすると、次のようになります。
| 区分 | 工程 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 鎖の合成 | 固相合成(ホスホロアミダイト法)固体担体上で核酸を1塩基ずつ化学的に伸長させる合成法。ASOやsiRNAの製造の中核。 | 担体カラムに充填する多孔質ビーズ。表面のリガンドと成分の相互作用差で目的物と不純物を分離する。上で3'→5'方向に1塩基ずつ伸長する |
| 鎖の合成 | 切断・脱保護合成した核酸を担体から切り出し、保護基を外して純粋な鎖にする工程。 | 担体から切り離し保護基化学合成中に反応させたくない官能基を一時的にマスクする化学基で、目的の反応後に除去されてもとの官能基が露出する。を外す |
| 鎖の合成 | 精製(IEX分子の電荷の違いを利用して分離するクロマトグラフィー。フラグメントなど定型ツールが効かない分子でも使える。/逆相) | 全長鎖を n-1全長より1塩基短い欠失体で、全長との差が小さく精製でもっとも分離しにくい不純物。・n+1 などから分離する |
| 鎖の合成 | 脱塩・濃縮(UF/DF半透膜で目的物質を濃縮したり(限外ろ過)、緩衝液を目的の組成に置き換えたり(ダイアフィルトレーション)する工程です。膜面に沿って液を流すTFF方式が使われます。詳しく →) | 塩・低分子を除き溶液を整える |
| 二本鎖化 | アニーリング | センス鎖とアンチセンス鎖を対合させる |
| 二本鎖化 | 限外ろ過/充填・凍結乾燥製剤から水分を抜いて乾燥させ、長期安定性を高めた剤形。使用時に溶かして戻す。 | 濃度・溶液を整え保存形態にする |
センス鎖とアンチセンス鎖は配列も修飾も異なるため、前半の合成・精製は2本それぞれで別ロットとして走らせるのが基本です。 siRNA製造は「2本を別々に作り、最後に1つに合わせる」と捉えると全体像がつかめます。 各工程の詳細はsiRNAの工程フローもあわせて確認してください。
固相合成:ホスホロアミダイト法
オリゴヌクレオチドの化学合成は、固体の担体(CPGや高分子ビーズ)に最初の1塩基を固定し、その上に塩基を1個ずつ付け足していく固相合成で行います。現在の主流はホスホロアミダイトオリゴ核酸を化学合成する際、一塩基ずつ鎖に付け足していく反応性のモノマー原料です。核酸合成の基本となる構成単位です。詳しく →法で、自動合成機の中で4つの反応を1サイクルとして繰り返します。
1サイクルは、(1) 末端の保護基(DMTr基)を酸で外して反応点を出す脱トリチル化、(2) 次の塩基にあたるアミダイトモノマーをテトラゾール系活性化剤とともに結合させるカップリング、(3) 反応しなかった末端を無水酢酸で封じて伸長を止めるキャッピングmRNAの5'末端にキャップ構造を付ける修飾で、分解を防ぎ翻訳効率を高めます。3'末端のポリA付加とは別の修飾です。詳しく →、(4) 三価のリンを五価に変える酸化(または硫黄化)、という流れです。この4ステップを塩基の数だけ繰り返して、目的の配列を3'末端から5'末端へと組み上げます。
ここで効いてくるのが、1サイクルあたりの反応効率(カップリング効率固相ペプチド合成においてアミノ酸が前段の鎖末端と反応・結合する割合で、低いと欠損配列が増加する。)です。仮に効率が99%でも、20塩基をつなぐと全長で残るのは0.99の19乗で約82%、効率が98%なら約68%まで落ちます。鎖が長くなるほど、わずかな効率差が全長純度に大きく響きます。 長鎖オリゴでは、各サイクルのカップリング露出した5'水酸基に次の塩基のアミダイトを結合させ、鎖を1塩基伸ばす工程。効率の積が全長純度を決めます。
化学修飾:2'-O-メチル/2'-F とホスホロチオエート
未修飾のRNAは血中や細胞内のヌクレアーゼ核酸を分解する酵素です。製造では培養由来の残存DNA/RNAを分解・除去して製品の純度を高める目的で使い、ベンゾナーゼが代表例です。詳しく →で速やかに分解され、また自然免疫を刺激しやすいため、siRNA医薬ではほぼ必ず化学修飾核酸の糖・骨格・末端に施し、安定性・結合力・免疫原性を整える改変。を施します。修飾は安定性・送達性・特異性分析法において、共存する不純物・分解物・添加剤などが存在しても目的成分だけを正確に測定できる能力。を高めるための設計の中核であり、固相合成では修飾済みのアミダイトモノマーを使うことで配列の任意の位置に組み込みます。
代表的な修飾は次の3種類です。糖の2'位に導入する 2'-O-メチル(2'-OMe)と 2'-フルオロ(2'-F)は、ヌクレアーゼ耐性を高めつつ二本鎖を安定化します。リン酸ジエステル結合の酸素を硫黄に置き換えるホスホロチオエート(PS)リン酸骨格の酸素の一つを硫黄に置き換えた核酸の修飾。分解耐性を高め、体内動態にも寄与する。修飾は、分解耐性を大きく高め、末端付近に配置されることが多い修飾です。これらをセンス鎖・アンチセンス鎖の各位置にどう配置するかが、医薬としての性能を決めます。
| 修飾 | 位置 | 主な目的 |
|---|---|---|
| 2'-O-メチル核酸の糖2'位に施す化学修飾。安定性や免疫原性の調整に用いる。 | 糖の2'位 | ヌクレアーゼ耐性・免疫刺激の低減 |
| 2'-フルオロ | 糖の2'位 | 二本鎖の安定化・耐性向上 |
| ホスホロチオエート | 骨格のリン酸結合 | 分解耐性の付与(主に末端) |
なお、PS修飾を導入する位置は合成サイクルの「酸化」を「硫黄化」に置き換えて作り込みます。硫黄化が不十分だと一部がリン酸ジエステル結合のまま残り、PS体の中に微量のPO体が混じる不純物となるため、修飾の入れ方そのものが品質管理の対象になります。 化学修飾はsiRNAの薬効と安定性を作り込む工程であり、修飾の入り方がそのまま不純物プロファイル製造プロセスに由来する類縁物質・分解物・プロセス関連不純物の種類と量を包括的に把握した品質情報の集合体。に直結します。
切断・脱保護
合成が終わった鎖は、まだ固相担体最初の塩基を固定する樹脂やガラスビーズで、目的の鎖を留めたまま洗浄できる。に結合したままで、塩基や骨格に保護基が付いた状態です。これらを外して、純粋なオリゴ鎖を溶液として回収するのが切断・脱保護です。
一般にはアンモニアグルタミンの代謝と化学分解で生じる代謝副産物。蓄積すると増殖・生存を落とし、糖鎖の質にも影響する。水やメチルアミン系の試薬で処理し、担体からの切り離しと塩基部・リン酸部の脱保護をまとめて行います。RNAの場合は、糖の2'位を守っていた保護基(TBDMSなど)をフッ化物試薬で追加的に外す工程が必要で、ここを丁寧に行わないと脱保護が不完全な不純物が残ります。脱保護の条件が強すぎても弱すぎても副生成物が増えるため、温度と時間の設定が品質に効いてきます。 切断・脱保護は「合成した鎖を壊さずに保護基だけ外す」バランスが問われる工程です。
精製:イオン交換と逆相クロマトグラフィー
固相合成では、目的の全長鎖のほかに、1塩基短い n-1 体、1塩基多い n+1 体、脱保護が不完全な体、分解物などが必ず混じります。これらから全長鎖を分離して純度を引き上げるのが精製で、核酸医薬の品質を決める最重要工程のひとつです。
主に使われるのはイオン交換(IEX)リン酸骨格の負電荷(鎖長)の差で核酸を分離する精製法。目的の全長鎖を不純物から分ける。と逆相(RP)の2つのモードです。IEXはリン酸骨格の負電荷の数、すなわち鎖長の差で分離するため、n-1/n+1 のような長さ違いの不純物を分けるのに向きます。逆相は疎水性の差で分離し、合成末端にDMTr基を残したまま分離してから外す「DMTr-on精製」と組み合わせると、全長鎖を選択的に取りやすくなります。実際の製造では、目的と純度要求に応じてクロマトグラフィーシステムとプレパックカラムを用い、必要なら複数モードを直列に組みます。移動相に使う塩・有機溶媒の濃度や pH は分離に直結するため、バッファー調製装置で組成を安定させることが再現性の前提になります。
精製後は塩や有機溶媒を含むため、TFFシステムによる限外ろ過/透析ろ過(UF/DF)で脱塩・濃縮し、次のアニーリングに適した溶液に整えます。この「目的物だけを取り出して溶液を整える」という流れは、抗体精製の考え方とも共通します。
精製で n-1・n+1 をどこまで分離できるかが、siRNA原薬の全長純度を決めます。
アニーリング:二本鎖への組み上げ
精製・脱塩したセンス鎖とアンチセンス鎖を、ここで初めて1つに合わせます。2本を適切なバッファ中でほぼ等モルで混合し、加熱してから徐々に冷却すると、相補的な配列どうしが対合して二本鎖(デュプレックス)を形成します。これがアニーリングです。
ポイントは、2本の鎖を化学量論どおり(おおむね1:1)に正確に合わせることです。どちらかが過剰だと、対を組めなかった一本鎖が残留不純物になります。混合比、加熱・冷却の温度プロファイル、塩濃度を管理し、二本鎖がきちんと形成されたかを確認します。二本鎖の形成率や残存一本鎖の量は、非変性のクロマトグラフィーや電気泳動で評価します。 アニーリングは2本を正確に等モルで合わせ、一本鎖を残さず二本鎖に仕上げる工程です。
UF/DF・充填と凍結乾燥
二本鎖にしたあとは、最終原薬・製剤として整えます。再度 UF/DF で塩濃度やバッファを最終仕様に合わせ、必要な濃度まで濃縮します。溶液製剤として充填する場合もあれば、安定性を高めるために凍結乾燥(凍結乾燥品)にする場合もあります。
凍結乾燥は水分を除いて長期保存性を高める一方、乾燥ストレスで二本鎖が一部解離しないか、再溶解後にきちんと元の二本鎖に戻るかを確認しておく必要があります。最終製剤では、含量、全長純度、二本鎖形成率、残存溶媒、無菌性などを規格として管理します。 最終工程は溶液を仕様に合わせ、保存に耐える形へと整える段階です。
品質管理:純度と不純物をどう測るか
核酸医薬の品質管理は、目的の配列・鎖長・修飾を持つ全長二本鎖がどれだけの割合で含まれるかを確認することに尽きます。中心となるのは全長純度(full-length %)で、これを陰イオン交換HPLCやキャピラリー電気泳動で評価します。
質量の確認にはLC-MSが欠かせません。鎖長や修飾が設計どおりかを正確な質量で確かめ、n-1/n+1 や脱保護不完全体、PS体に混じるPO体といった不純物を分離・同定します。代表的な管理項目を整理すると次のようになります。
| 確認したいこと | 主な手法 | 検出対象 |
|---|---|---|
| 全長純度 | IEX-HPLC/キャピラリー電気泳動 | n-1・n+1・分解物 |
| 同一性・質量 | LC-MS | 鎖長・修飾の確認、不純物の同定 |
| 二本鎖形成率 | 非変性クロマト/電気泳動 | 残存一本鎖 |
| 残存物 | GC・ICP-MS など | 残留溶媒・金属・触媒残渣 |
これらの試験項目は、最終的にはsiRNAの工程フローで示す各工程の管理点と対応します。なお、ここまでの固相合成・切断・精製・脱塩の流れは、一本鎖のアンチセンス核酸(ASO)でもほぼ共通で、ASOではアニーリング工程が省かれる点が主な違いです。 siRNAの品質管理は、全長純度・質量・二本鎖形成率を組み合わせて立体的に確認するのが基本です。
まとめ
siRNAの製造は、ホスホロアミダイト法による固相合成でセンス鎖・アンチセンス鎖を1塩基ずつ組み上げ、切断・脱保護、イオン交換/逆相精製、脱塩を経て高純度の鎖を得る前半と、2本を等モルでアニーリングして二本鎖に仕上げ、UF/DF・凍結乾燥で保存形態に整える後半で成り立っています。
細胞培養も酵素的な転写も使わず、化学反応でヌクレオチドをつなぐ点が大きな特徴です。カップリング効率、化学修飾の入り方、n-1/n+1 の分離、二本鎖形成率といった、核酸医薬ならではの品質指標を各工程で管理し続けることが求められます。同じ固相合成系で作るASOとあわせて、工程ごとの位置づけをつかんでおくと、個々の技術や分析の理解が整理しやすくなります。
参考文献
- 日本薬局方/PMDA(医薬品医療機器総合機構)―核酸医薬品の品質・安全性に関する各種ガイドライン
- USP 一般試験法 USP <1132> 関連ほか、オリゴヌクレオチド・核酸関連の各条
- ICH Q6B "Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products"
- ICH Q3A(R2)/Q3C(R8) 不純物・残留溶媒に関するガイドライン
- FDA Guidance "Clinical Pharmacology Considerations for the Development of Oligonucleotide Therapeutics"
- EMA ガイドライン(オリゴヌクレオチド系医薬品の品質・非臨床に関する文書)
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