siRNAの製造工程とは?2本の鎖を別々に作って合わせるまで

siRNAsiRNA(small interfering RNA)とは、標的mRNAを配列特異的に分解して遺伝子の発現を抑える、短い二本鎖RNAです。細胞内でRISC(Ago2)に取り込まれて働く核酸医薬で、ASOと製造基盤を共有します。詳しく →の製造工程は、センス鎖とアンチセンス鎖を別々に化学合成して精製し、最後に2本を合わせて二本鎖の原薬にする工程です。そのため、一本鎖のオリゴ核酸DNAやRNAの短い鎖を化学合成でつないだ分子で、核酸医薬原薬の多くを占める。詳しく →を作る仕事と、2本を合わせる仕事の二つがあります。
ただし、鎖ごとの純度が高くても、混ぜる比がずれれば一本鎖が余り、二本鎖の純度は下がります。合成のあとの工程は、プロセス開発の人にも、CDMO医薬品の開発・製造を他社から受託する企業。設備投資を負わずに専門能力を使える。詳しく →に原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →を頼む購買や品質保証の人にも、確かめる点が多い部分です。
この記事では、全体の流れ、切り出しと脱保護合成した核酸を担体から切り出し、保護基を外して純粋な鎖にする工程。詳しく →、精製と脱塩、アニーリング、濃縮・乾燥と製剤化、規格、受託先で確かめる点を順に説明します。
1. 2本を別々に作り、最後に合わせる:siRNAの製造は、どんな流れか?
siRNAの製造は、鎖を作る前半と、2本を合わせる後半に分かれます。
コレステロールを下げる注射薬のインクリシラン(Leqvio)は1つの薬ですが、中身はGalNAc核酸医薬を肝臓の細胞へ届けるために結合させる糖のリガンドです。肝細胞表面の受容体に結びつき、薬物の取り込みを高めます。詳しく →を付けたセンス鎖と、標的のmRNAを狙うアンチセンス鎖の2本です。それぞれを化学合成して精製し、最後に1対1で合わせて二本鎖にします。
インクリシランの維持期は1回284 mgを年に2回投与するので、100万人に使えば、インクリシランとして年に570 kgほど要る計算です。
前半では、センス鎖とアンチセンス鎖を別々のロットで、固相合成、切り出しと脱保護、精製、脱塩の順に仕上げます。後半で2本をほぼ等しいモル数で混ぜ、アニーリング(加熱と冷却で二本鎖に組む操作)をしてから、濃縮とバッファ交換を行い、凍結乾燥凍らせた試料を減圧下に置き、氷を直接水蒸気にして(昇華)水分を除く乾燥の方法です。液のままでは安定性を保ちにくいタンパク質製剤などに使い、使う前に溶かして戻します。詳しく →するか、溶液のまま充填します。

GalNAcのような肝臓へ届けるためのリガンドは、インクリシランではセンス鎖側に付いています。付け方には、鎖の起点になる担体(CPG)にあらかじめ付けておく方法と、鎖の最後に専用のアミダイトオリゴ核酸を化学合成する際、一塩基ずつ鎖に付け足していく反応性のモノマー原料です。核酸合成の基本となる構成単位です。詳しく →で付ける方法があり、担体と原料の調達先がそこで決まります。
比較はGalNAc結合siRNAの合成に譲り、ここでは合成の前に決める項目として押さえておきます。
2本の鎖は別々の原薬として作り、最後に合わせます。工程の設計も、規格も、この二段構えで考えます。
2. 方式は既存の設備で決まる:切り出しと脱保護は、何で選ぶのか?
合成が終わった鎖は、まだ担体につながり、塩基や骨格には保護基化学合成中に反応させたくない官能基を一時的にマスクする化学基で、目的の反応後に除去されてもとの官能基が露出する。詳しく →が付いたままです。鎖の合成そのもの(サイクル、担体、失敗の出方)は、オリゴ核酸の固相合成に分けて書いています。
ここへアンモニア水やメチルアミン系の試薬を加え、担体から切り離しながら保護基を外します。反応は加熱が前提なので、揮発を防ぐ耐圧の設備が要ります。設備選びの分かれ目は、ここ。
従来型は、耐圧のバッチ反応器です。Büchiglasのkiloclaveは0.5〜20 Lの加圧反応システムで、−20℃から250℃までジャケットで温調できます。
一方、時間を縮める装置もあります。Milestoneのマイクロ波反応器wavePREPは、切り出しと脱保護を1工程で行い、処理を約2時間に短縮するとされています。Vapourtecの連続フローシステムは、切り出し液を加熱した管に通して反応時間を数分に縮め、加圧バッチ釜の取り扱いを避けられます。
どれが優れているかは、自社の事情で決まります。高圧のバッチ設備を使いこなした実績があれば、バリデーションの負担は小さく済みます。処理時間の短縮を優先するなら、マイクロ波やフローへの投資に理由があります。
脱保護の方式は、反応そのものより、既存の設備とバリデーションの負担で決まります。
3. 純度は合わせる前に鎖ごとに作る:精製と脱塩は、どう進めるのか?
精製は、2本を合わせる前に、鎖ごとに済ませます。切り出した粗生成物には、全長の鎖のほかに、1塩基短いn-1全長より1塩基短い欠失体で、全長との差が小さく精製でもっとも分離しにくい不純物。詳しく →のような不純物が混ざっています。分け方は、主に二つです。
- イオン交換クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →:鎖が持つ負電荷の数の違いで分けます。
- 逆相クロマトグラフィー疎水性の差でペプチドやオリゴを分離する液体クロマトグラフィーのこと。詳しく →:疎水性の違いで分けます。
合成の最後にDMT基を付けたまま流す「DMTオン」なら、DMTを持つ全長が強く保持され、DMTを持たない失敗配列を先に流せます。ただし、取りこぼしたあとに伸び続けた短鎖もDMTを持つので、DMTオンだけでは分けにくく、イオン交換と組み合わせるのが一般的です。
装置は、研究用から製造用までそろっています。CytivaのÄKTAシリーズは、研究用のpureからプロセススケールのprocessまで展開しています。カラムは、条件検討用の小さなものから製造用の大口径まで線形に大きくできる、RepligenのOPUSのようなプレパックカラム担体があらかじめ充填された状態で届くカラムで、自分で詰める手間や充填品質のばらつきをなくし、すぐに使えるようにしたものです。詳しく →が選べます。
2026年には、DuPontがオリゴ核酸とペプチドの精製向けに、あらかじめ水和した状態で出荷するレジン(AmberChrom XT20 SLとXT30 SL)を発売しました。カラムに詰める前の水和の手間を省くのが目的と、メーカーは説明しています(ニュース)。
精製のあとは、イオン交換で使った塩を除くために、限外ろ過などで脱塩します。
ピークの端まで広く集めれば収率は上がり、純度は下がります。集め方は、規格と原価から先に決めておく項目です。
4. 重要:鎖ごとの純度が高くても、なぜ二本鎖の純度は下がるのか?
アニーリングで混ぜる比がずれると、多いほうの鎖が一本鎖のまま残るからです。 2本を合わせる工程は、混ぜて温度を変えるだけに見えます。
精製した2本を、ほぼ等しいモル数で混ぜ、加熱してから冷ますと、二本鎖ができます。
どれだけ残ったかは、二本鎖を壊さない条件で流すイオンペア逆相イオン対試薬を使い疎水性の差で分ける液体クロマト。一本鎖と二本鎖RNAの分離やdsRNA除去に使われます。詳しく →クロマトグラフィー(非変性条件の測定)で見ます。WatersとJanssenの応用報告は、この測定が、アニーリング条件を詰める中心の手段で、二本鎖のモル比と余った一本鎖を測れると述べています。
ここで間違えやすいのが温度です。YMCの解説によれば、同じカラムでも、65℃では二本鎖が2本の鎖に解けて流れ、25℃では二本鎖のまま流れます。
鎖ごとの純度を見る測定と、二本鎖の状態を見る測定は、装置が同じでも条件が違います。測定条件を書かない報告書は、どちらを見た数字か分かりません。
熱融解温度(Tm)の測定も使われます。島津製作所のTMSPC-8は、8つの試料を同時に測れる核酸専用のTm解析システムで、二本鎖の組み上がりの確認に対応しています。
鎖ごとの純度が高くても、混ぜる比がずれると、二本鎖の純度は下がります。
5. 最終の形で設備が変わる:濃縮・乾燥と製剤化では、何を決めるのか?
二本鎖になった溶液は、最終の濃度とバッファに合わせます。
インクリシランの製品は、1 mLあたり189 mgの溶液を、1本に284 mg入れたプレフィルドシリンジです。この濃さまで、TFF(タンジェンシャルフローろ過)の限外ろ過とダイアフィルトレーション半透膜で目的物質を濃縮したり(限外ろ過)、緩衝液を目的の組成に置き換えたり(ダイアフィルトレーション)する工程です。膜面に沿って液を流すTFF方式が使われます。詳しく →で濃縮し、バッファを入れ替えます。
少量での条件検討には、MerckのCogent µScaleのようなベンチ機があり、Pellicon 3カセットを最大3枚(264 cm²)使えます。限外ろ過の考え方はUF/DFとはにあります。
溶液のまま充填するか、凍結乾燥して粉末にするかは、保存中の安定性で決めます。凍結乾燥の設計は凍結乾燥サイクル設計で解説しています。
原薬と、無菌充填の製剤は、別の会社が受け持つこともあります。2026年8月には、スイスのCDMO ten23 healthが、siRNAなどの無菌製造のGMP医薬品を一定の品質で安全に造るために守るべき製造・品質管理の基準(適正製造規範)です。詳しく →認証を取得したと報じられました(ニュース)。
原料から原薬までを1社で引き受ける動きもあり、2026年9月に保土谷化学が核酸医薬のCDMO子会社NuChordを設立しています(ニュース)。委託先を選ぶときは、どこからどこまでを1社で見てくれるのかが、確かめる点です。
6. 一本鎖の規格に、二本鎖の項目を足す:規格には何が加わるのか?
二本鎖の原薬の規格は、一本鎖の規格に、二本鎖としての項目を足したものです。
足すのは、二本鎖の含量と、余った一本鎖の量です。2本の鎖それぞれについては、同一性(質量の確認)と純度、n-1などの関連不純物を見ます。
質量の確認には、Watersの統合LC-MS液体クロマトグラフで成分を分離したうえで質量分析計にかけ、分子量を測って物質の同定や定量を行う手法です。詳しく →システムBioAccordのように、オリゴ核酸の確認に対応した装置があります。残留溶媒は、合成に大量に使うアセトニトリルが代表です(残留溶媒の管理)。
規制の側でも整理が進んでいます。欧州医薬品庁(EMA)は2024年7月に、合成オリゴヌクレオチドの開発と製造に関するガイドライン案を公表しました。
この案は製造工程、特性解析、規格、分析管理を扱う文書で、意見募集は2025年1月31日まで続きました。核酸医薬の品質管理原料・資材・中間体・製品を規格に照らして試験し、使ってよいか、出荷してよいかの合否を決める仕事です。GMPでは製造部門から独立させます。詳しく →の全体像は核酸医薬の品質管理で解説しています。
7. 受託先の工程説明や規格書では、何を確かめるのか?
受託先の工程説明や見積書、規格書を読むときは、次の順に確かめます。
- 規格の二段:規格を鎖ごとと二本鎖になったあとで別々に持っているかと、余った一本鎖の量が規格にあるかを確かめます。
- 混ぜる比と測定条件:2本を混ぜる比をどの測定で決め、許容の範囲がいくつかを確かめます。二本鎖の測定条件が変性か非変性か、カラムの温度が何度かも見ます。
- GalNAcの導入:GalNAcを担体とアミダイトのどちらで導入するかと、その鎖の収率と純度を確かめます。
- 脱保護と精製:脱保護の方式が既存の設備に合うか、バリデーションの範囲がどこまでかを確かめます。精製の段数とピークの切り方で、収率がどう変わるかも見ます。
- 最終の形と担う会社:最終が溶液か凍結乾燥かと、原薬と製剤を担う会社が同じか別かを確かめます。
装置や試薬は、製品データベースのクロマトグラフィーシステム、プレパックカラム、TFFシステム、凍結乾燥機、オリゴ核酸の脱保護試薬で比べられます。二本鎖の確認に使うLC-MSやオリゴ核酸の純度・組成分析も同じ場所にあります。修飾の入れ方はsiRNAの化学修飾に載っています。
参考文献
- Novartis, LEQVIO(inclisiran)添付文書(米国)(二本鎖siRNAで、センス鎖にGalNAcを抱合した構造)
- Novartis, LEQVIO 添付文書(シンガポール)(1本に284 mg、1 mLあたり189 mgの溶液)
- Novartis, LEQVIO 用法・用量(初回、3か月後、以降6か月ごと)
- Waters, Analysis of siRNA Duplexes at Non-Denaturing UPLC Conditions Using MaxPeak Premier Column Technology(Application Note, 2021。非変性条件の測定で二本鎖のモル比と余った一本鎖を測る)
- YMC Europe, How to choose the optimum conditions for analysis of siRNA under denaturing and non-denaturing conditions(カラム温度による二本鎖の状態の違い)
- EMA, Development and manufacture of oligonucleotides(Scientific guideline、ガイドライン案)
- 製品情報(各社): Büchiglas kiloclave、Milestone wavePREP、Vapourtec R-Series、Cytiva ÄKTA、Repligen OPUS、Merck Cogent µScale、島津製作所 TMSPC-8、Waters BioAccord
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/sirna-process