siRNAの化学修飾:安定性・特異性・免疫回避をどう設計するか
siRNA(small interfering RNA、低分子干渉RNA)は、標的とするmRNAを配列特異的に壊すことで、特定のタンパク質がつくられるのを抑える医薬です。抗体が細胞外のタンパク質に働きかけるのに対し、siRNAは「タンパク質になる前の設計図」の段階で発現を止めにいく、という違いがあります。原理は明快なのですが、天然のRNAをそのまま投与しても、まず薬にはなりません。

理由は大きく三つあります。ひとつは、血中や組織にあふれるヌクレアーゼ(RNA分解酵素)にすぐ切られてしまうこと。もうひとつは、外来のRNAを異物として感知する自然免疫(Toll様受容体などのセンサー)を刺激し、炎症性の反応を招きうること。そして三つ目が、狙った遺伝子だけでなく、配列が部分的に似た別の遺伝子まで抑えてしまうオフターゲットの問題です。これらを一つずつ、糖・骨格・末端への化学修飾で手当てしていくのが、siRNA設計の実務です。
本稿では、代表的な修飾である2'-OMe・2'-Fとホスホロチオエート骨格が何を解決するのか、シード領域のオフターゲットをどう抑えるのか、GalNAc抱合とどう噛み合うのか、そして承認された品目が実際にどんな修飾パターンを採っているのかまでを、噛み砕いて整理します。
なぜ天然RNAは薬にならないのか
未修飾のsiRNAは、ヌクレアーゼ分解・自然免疫の刺激・オフターゲットという三つの壁に同時に阻まれます。
体内には、一本鎖・二本鎖のRNAを端から、あるいは内部から切断する多様なヌクレアーゼが存在します。未修飾のRNAはこれらに対してほぼ無防備で、標的組織に届く前に大半が分解されてしまいます。薬として成り立たせるには、まず「壊れにくさ」を確保しなければなりません。
同時に、外来のRNAは自然免疫にとって「感染のサイン」でもあります。エンドソーム内のToll様受容体(TLR7/8/9など)や細胞質のRNAセンサーは、特定の配列や二本鎖構造を手がかりに外来RNAを感知し、インターフェロンや炎症性サイトカインの産生を促します。治療目的では、この反応はできるだけ避けたい副作用です。
そしてRNAi(RNA干渉)の仕組みそのものに由来する課題が、オフターゲットです。siRNAはRISC(RNA誘導サイレンシング複合体)に取り込まれて働きますが、そのガイド鎖の一部分だけが標的と一致しても、まるでマイクロRNAのように無関係な遺伝子を抑えてしまうことがあります。これらを化学修飾で束ねて解決するのが、以下のセクションの中身です。
糖の2'位を変える:2'-OMeと2'-Fの役割
リボースの2'位を2'-OMeや2'-Fに置き換えると、ヌクレアーゼ耐性が上がり、余計な免疫刺激も抑えられます。
RNAとDNAの化学的な違いは、糖の2'位に水酸基(2'-OH)があるかどうかにあります。この2'-OHはRNAの反応性の高さの源であり、多くのヌクレアーゼが切断の足がかりにする部位でもあります。ここを別の基で覆ってしまえば、酵素が近づきにくくなり、分解に強くなります。
代表的な二つが、2'-O-メチル(2'-OMe)と2'-フルオロ(2'-F)です。2'-OMeは2'-OHの水素をメチル基に置き換えたもので、ヌクレアーゼ耐性を高めつつ、二本鎖の安定性にも寄与します。加えて、2'-OMeを適切に配置すると、TLRを介した自然免疫の感知を弱められることが知られており、免疫回避の観点でも重要な役割を担います。2'-Fは水酸基をフッ素に置き換えたもので、標的との結合力(親和性)を保ちやすく、RISC内での働きとも相性が良い修飾です。
実際の設計では、この二つを一箇所に固めるのではなく、鎖の位置ごとに使い分けます。RISCが標的を切る中心付近では活性を損なわない配置を選び、分解を受けやすい末端側は手厚く守る、といった具合に、位置ごとの役割を見ながらパターンを組んでいきます。
2'-OMeと2'-Fは、どちらか一方を全体にかけるのではなく、鎖の場所ごとに使い分けるのが基本です。「守り」と「活性の維持」はしばしば相反するため、位置ごとの最適配置を探ることが設計の核になります。
骨格を守る:ホスホロチオエート(PS)
リン酸骨格の酸素を硫黄に替えるPS修飾は、主に末端の分解を防ぎ、細胞内での取り込みや滞留にも寄与します。
ヌクレオチド同士をつなぐリン酸ジエステル結合は、エキソヌクレアーゼ(末端から削る酵素)にとって格好の標的です。この結合中の非架橋酸素の一つを硫黄に置き換えたのが、ホスホロチオエート(phosphorothioate、PS)結合です。PS化するとその結合は酵素に切られにくくなり、とりわけ鎖の両端に数箇所入れることで、末端からの削り取りを効果的に食い止められます。
PS修飾は分解耐性だけでなく、タンパク質との相互作用を通じて細胞への取り込みや組織滞留にも影響します。ただし入れすぎると毒性や非特異的なタンパク結合につながりうるため、糖修飾と同様に「必要な箇所に必要なだけ」が原則です。多くの設計では、各鎖の5'末端・3'末端の数結合に限ってPSを配置します。
こうした2'-OMe・2'-F・末端PSを組み合わせた設計思想は、後述する承認品にも共通して見られ、Enhanced Stabilization Chemistry(ESC)と呼ばれる考え方として体系化されてきました。
オフターゲットを抑える:シード領域の設計
ガイド鎖の2〜8番目(シード領域)が無関係なmRNAと部分一致することがオフターゲットの主因で、ここを狙って手当てします。
siRNAのオフターゲットには、大きく二つの経路があります。ひとつは前述した自然免疫の刺激。もうひとつが、RNAi機構そのものに由来する、配列部分一致による意図しないサイレンシングです。後者の鍵を握るのが、ガイド鎖(アンチセンス鎖)の5'側から数えて2〜8番目にあたるシード領域です。
この短い領域だけが標的外のmRNA(多くはその3'非翻訳領域)と相補的に対合すると、マイクロRNAに似た形で、狙っていない遺伝子の発現まで抑えてしまいます。高用量になるほどこの現象は起きやすく、肝毒性などの安全域を狭める要因になります。
対策として近年広く使われるのが、シード領域に熱的に不安定化する修飾を一つ入れて、部分一致による対合を起きにくくするアプローチです。代表例がグリコール核酸(GNA、glycol nucleic acid)を用いる方法で、これをESCに組み合わせたものはESC+と呼ばれます。査読論文では、ガイド鎖のシード領域(6〜7番目付近)に、配列に応じてGNAを一つ導入することで、標的への活性を保ったままオフターゲット由来の肝毒性を大きく減らせたと報告されています(Schlegel et al., Nucleic Acids Research, 2022, PMID: 35736224)。「シードだけを狙って、狙わない対合を選択的に弱める」という発想が要点です。
シード領域のオフターゲットは、配列を変えずに一箇所の不安定化修飾で緩和できる場合があります。全体を強く固めるのではなく、狙って弱めるという逆方向の設計が効くのが、この領域の面白いところです。
センス鎖とアンチセンス鎖を作り分ける
RISCに使ってほしいアンチセンス鎖を残し、余計なオフターゲットを生むセンス鎖を退場させるよう、二本鎖を非対称に修飾します。
siRNAは二本鎖で投与されますが、実際に標的認識を担うのは片方のアンチセンス鎖(ガイド鎖)です。もう一方のセンス鎖(パッセンジャー鎖)は、本来なら役目を終えて外れるべき鎖ですが、これがガイド鎖として誤ってRISCに取り込まれると、それ自体が新たなオフターゲット源になります。
そこで設計では、どちらの鎖がRISCに選ばれるか(鎖選択)を修飾で誘導します。一般に、末端の熱力学的な安定性が低い側の5'末端の鎖がガイドに選ばれやすいため、末端の安定性を左右する修飾でこのバランスを傾け、アンチセンス鎖が優先されるようにします。加えてセンス鎖の側には、RISCに乗りにくくする、あるいは早く分解されるような修飾配置を選ぶことで、パッセンジャー由来のオフターゲットを抑えます。二本鎖を対称にではなく、役割に応じて作り分けるのがポイントです。
GalNAc抱合と修飾が支え合う関係
GalNAc抱合で肝細胞へ届けるという送達戦略は、siRNA本体が化学修飾で十分に安定でなければ成立しません。
肝臓を標的とする現行のsiRNA医薬の多くは、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)を複数個まとめて結合させています。GalNAcは肝細胞の表面にあるアシアロ糖タンパク質受容体(ASGPR)に強く結合し、siRNAを肝細胞内へ効率よく取り込ませる「宛名ラベル」として働きます。これにより、脂質ナノ粒子(LNP)のような大きな運び手を使わず、皮下注射で肝臓へ送達できるようになりました。
ただしGalNAc抱合は「届ける」役割であって、「壊れない・免疫を刺激しない・狙いを外さない」性質は、あくまでsiRNA本体の化学修飾が担います。裸に近いsiRNAをそのままGalNAcで送っても、細胞に届く前後で分解されたり免疫を刺激したりしては意味がありません。つまり送達(GalNAc)と本体の安定化・特異性(2'修飾・PS・シード設計)は、どちらか一方では完結しない補完関係にあります。この組み合わせが成熟したことが、皮下投与で数か月に一度という利便性の高い投与間隔を可能にした背景です。なお、初期に承認された品目では、GalNAcではなくLNPで肝臓へ送達する方式が採られていました。
承認siRNAに見る修飾パターン
実際に承認された品目は、2'-OMe・2'-Fの使い分け、末端PS、GalNAc抱合、シード対策という共通の設計言語を、程度を変えて採用しています。
米国では複数のsiRNA医薬がすでに承認されています。最初のパチシラン(patisiran、ONPATTRO、2018年承認)は、遺伝性トランスサイレチン型アミロイドーシスを対象とし、LNPによる肝送達(点滴静注)と、2'-OMeを中心とした比較的控えめな修飾を組み合わせた設計でした。
その後に登場したギボシラン(givosiran)、ルマシラン(lumasiran)、インクリシラン(inclisiran)、ブトリシラン(vutrisiran)、ネドシラン(nedosiran)は、いずれもGalNAc抱合による皮下投与型で、2'-OMe・2'-Fを鎖全体にわたって細かく配置し、末端にPSを入れた、より作り込まれた修飾パターンを採っています。ブトリシランなど新しい世代では、シード領域のオフターゲットを抑える設計思想も取り入れられています。2025年には、凝固阻害因子であるアンチトロンビン(SERPINC1)を標的とするフィツシラン(fitusiran、QFITLIA)も承認され、対象疾患の幅が広がりました(Alnylam プレスリリース, 2025)。
流れとしては、LNP+控えめな修飾から、GalNAc+高度に作り込んだ修飾へ、そしてオフターゲットをより積極的に抑える方向へと進んできた、と整理できます。個々の配列や修飾位置は品目ごとの機密性も高いため、本稿では各承認品の正確な修飾位置の全図までは踏み込みませんが、設計の「共通言語」は上のとおり収束しつつあります。抗体やADC、mRNA-LNPと違って、siRNAでは分子そのものへの化学修飾が薬効・安全性・薬物動態のすべてを直接規定する点が、モダリティとしての大きな特徴です。
参考文献
- Schlegel MK, et al. "From bench to bedside: Improving the clinical safety of GalNAc–siRNA conjugates using seed-pairing destabilization." Nucleic Acids Research, 2022. PMID: 35736224
- Setten RL, Rossi JJ, Han SP. "The current state and future directions of RNAi-based therapeutics." Nature Reviews Drug Discovery, 2019. PMID: 30846871
- Hu B, et al. "Therapeutic siRNA: state of the art." Signal Transduction and Targeted Therapy, 2020. PMID: 32561705
- Egli M, Manoharan M. "Chemistry, structure and function of approved oligonucleotide therapeutics." Nucleic Acids Research, 2023. PMID: 36881759
- U.S. Food and Drug Administration. ONPATTRO (patisiran) 添付文書・承認情報(NDA 210922). Drugs@FDA 添付文書PDF
- Alnylam Pharmaceuticals. "FDA Approves Qfitlia (fitusiran)." プレスリリース, 2025. 投資家向けリリース