ASOのガッパー設計とは? RNase Hで標的RNAを分解する仕組み
抗体や低分子がタンパク質に作用するのに対し、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)はその手前、RNAの段階で遺伝子の働きに介入します。標的RNAに相補的な20塩基前後の一本鎖DNA二重らせん構造をとらず一本の鎖で存在するDNAで、AAVベクターのゲノムはこの形態でカプシド内に封入されている。/RNA様分子——それがASOです。タンパク質ではなく、その設計図を直接狙う。ここが核酸医薬siRNAやASOなど核酸を用い、標的mRNAを分解・抑制して効かせる医薬。ならではの特徴です。

「修飾を全体にかければ効きが上がるのでは」「siRNAと似たようなもの」——ガッパー(gapmer中央にDNA部(ギャップ)を、両翼に高親和性修飾を配したASOの構造。中央でRNase Hに標的RNAを切らせる。)設計を初めて扱う実務者が陥りやすい思い込みは、おおむねこの二つに集約されます。どちらも直感としては自然ですが、実際の仕組みとはずれています。本稿ではこうしたつまずきを一つずつ取り上げ、実際の仕組みと照らし合わせながらほどいていきます。承認薬の例やsiRNA二本鎖の短いRNAで、RISC(Ago2)を介して標的mRNAを分解する核酸医薬。ASOと製造基盤を共有する。との違いも、その流れのなかで触れます。
- ガッパー型ASOは、中心のDNAギャップと修飾ウイングに役割を分け、標的RNAを減らす設計の核酸医薬です。
- 実際に標的RNAを切るのは細胞側の酵素RNase Hで、ASO自身は消費されず触媒的に働きます。
- 毒性には配列依存(オフターゲット切断など)と化学修飾・骨格依存があり、それぞれ設計段階で対処します。
「両翼を全部修飾で固めれば強い」——中心をDNAのまま残す理由
ASOを安定で強力にしたいなら、全体をがっちり化学修飾で固めればよさそうに思えます。ところがガッパー型ASOは、真ん中をあえて素のDNAのまま残します。典型的には全長18〜20塩基ほどのうち、中心の8〜10塩基をDNA(正確にはデオキシリボヌクレオチド)として残し、その両側5塩基前後ずつだけを化学修飾したヌクレオチド核酸を構成する単量体単位で、塩基・糖・リン酸から成り、DNAやRNAの最小構成要素。で固める。この両翼を「ウイングギャップマー型ASOの両翼部分。高親和性修飾で結合力とヌクレアーゼ耐性を高め、守りに徹する。(wingギャップマー型ASOの両翼部分。高親和性修飾で結合力とヌクレアーゼ耐性を高め、守りに徹する。)」、真ん中にできる素の部分を「ギャップ」と呼びます。
なぜ中心を守らずに残すのか。答えは、後述するRNase HDNAとRNAが対合した二本鎖のRNA鎖を選択的に切断する細胞内酵素。ギャップマー型ASOの分解作用を担う。という酵素が「DNAとRNAが対合した部分」だけを認識して働くからです。中心をDNAのまま残すのは、この酵素に切ってもらう足場を用意するため——全体を修飾で固めてしまうと、この足場が消え、酵素が働けなくなります。
一方で、DNAのままの一本鎖は血中や細胞内ですぐ分解され、標的との結合力も弱い。そこで両翼を修飾で守り、安定性と結合力を稼ぎます。つまりガッパー中央にDNA部(ギャップ)を、両翼に高親和性修飾を配したASOの構造。中央でRNase Hに標的RNAを切らせる。は「中心=酵素に切らせる役」「両翼=守って結合力を上げる役」と役割を分けた設計であり、中心を無防備にしておくのは弱点ではなく前提なのです。
「ウイングは強いほどよい」——結合力を上げすぎる落とし穴
では両翼はどうか。「結合力は強ければ強いほど効く」と考えたくなりますが、実際はそう単純ではありません。ウイングに使う代表的な修飾は糖の2'位を変えたもので、実務では次の三つがよく登場します。
| 修飾 | 略称の由来 | 特徴 |
|---|---|---|
| 2'-MOE核酸の糖の2'位に施す化学修飾。標的との結合親和性とヌクレアーゼ耐性を高める。 | 2'-O-メトキシエチル | 結合力と安定性を高める。毒性面のバランスがよく広く使われる |
| LNA糖の2'-Oと4'-Cを架橋して立体配座を固定した核酸修飾。短い鎖でも非常に強い結合を実現する。 | Locked Nucleic Acid(架橋核酸) | 糖を橋で固定し、結合力が非常に強い。短くても効くが毒性に注意 |
| cEtLNA系の糖修飾の一種。強い結合力と、より扱いやすい毒性プロファイルの両立を狙った設計。 | 制約付きエチル(constrained ethyl) | LNA系の一種。強い結合力と、より扱いやすい毒性プロファイルを狙った設計 |
いずれも狙いは共通で、標的RNAとの結合力(親和性抗体が抗原に結合する強さ。解離定数などで表し、値が小さいほど強く結合することを示す。)を上げ、分解酵素に対する耐性を持たせること。LNAやcEtは結合力が強いため、より短いASO標的RNAに相補的な配列をもつ一本鎖の短い核酸。RNAに結合して働きを抑えたり書き換えたりする。でも標的を捉えられます。ただ、その強さがそのまま利点になるとは限りません。
結合力を上げすぎると、狙い以外の似た配列にも結合しやすくなり、オフターゲットや毒性の懸念が増します。「強い修飾=良い設計」ではなく、修飾の種類・長さは効果とリスクのバランスで選ばれます。
もう一つ見落としやすいのが、ウイング部分はRNase Hに認識されない、という点です。修飾された糖は酵素の基質にならないため、切断は中心のDNAギャップに限定される。これはガッパー設計の前提であり、ウイングが「守り」に徹していることの裏返しでもあります。
「ASOが標的を壊す」——実際に切るのは細胞側の酵素
ガッパー型ASOが標的RNAを「分解する」と言うと、ASO自身がハサミのように標的を切るイメージを持たれがちです。実際に切るのはASOではなく、細胞にもともと備わっている酵素RNase H(リボヌクレアーゼH)です。
RNase Hは、「DNA:RNAのハイブリッド(対合した二本鎖)」を見つけると、そのRNA鎖を切断します。ヒト細胞での主役はRNase H1DNAとRNAが対合した二本鎖のRNA鎖を選択的に切断する細胞内酵素。ギャップマー型ASOの分解作用を担う。と考えられています。ガッパー型ASOが標的mRNAに結合すると、中心のDNAギャップの部分にDNA:RNAハイブリッドができ、RNase H1がここでRNA側を切る。切られたmRNAはその後、細胞内でさらに分解されて消えます。
もう一つ誤解しやすいのが、ASOが標的とともに消費される、という思い込みです。実際にはASO自体は消費されません。切断が終わればASOは標的から外れ、次の標的分子に結合してまた切らせる。この触媒的な働きのおかげで、少量のASOでも多数の標的RNAを減らせます。
作用する場所にも、直感を裏切る特徴があります。RNase Hは核にも存在するため、ガッパー型ASOは細胞質だけでなく核内のRNA——まだ加工前の前駆体mRNAスプライシング前のmRNA。核内に存在し、ギャップマー型ASOなどの標的になりうる。や核内に留まる非コードRNAも標的にできます。細胞質細胞内部の区画。大腸菌では還元的で、そのままではジスルフィド結合ができにくい。で働くsiRNA(後述)にはやや不得手な領域です。
「ASOはどれも同じ仕組み」——分解型と読み替え型は正反対の設計
「ASO=RNAを分解するもの」とひとくくりにするのも、よくある取り違えです。ASOには大きく二つの働き方があり、構造は正反対になります。一つが本稿のガッパー型で、RNase Hに標的を切らせて「減らす」もの。もう一つがスプライス調節型RNAを切らずに結合し、スプライシングの選ばれ方を変えるASO。全長を修飾しRNase Hを起動しない。で、標的を切らずに前駆体mRNAへ結合し、スプライシング前駆体mRNAから不要な部分を除き必要な部分をつなぐRNAの編集。ASOで切り替えを調節できる。(mRNAの編集)の選ばれ方を「変える」ものです。
スプライス調節型では、RNase Hを働かせては困ります。切ってしまえば読み替えができないからです。そこで設計は正反対になり、全長を2'-MOEなどで均一に修飾し、DNAギャップを作らない——RNase Hが認識するハイブリッドを、あえて作らない構造です。
| 観点 | ガッパー型(分解) | スプライス調節型(読み替え) |
|---|---|---|
| 目的 | 標的RNAを減らす | スプライシングの選択を変える |
| 機序 | RNase Hによる切断 | 立体障害分子が近接して結合したとき、かさばりによって互いの結合を妨げ合う現象。競合として現れる。でスプライス部位を隠す |
| 構造 | DNAギャップ+修飾ウイング | 全長を均一に修飾(ギャップなし) |
| 代表例 | ミポメルセン、イノテルセン | ヌシネルセン、エテプリルセン |
脊髄性筋萎縮症に使われるヌシネルセン(スピンラザ)は、後者の代表例です。同じ「ASO」という言葉でも、目的が「壊す」か「読み替える」かで構造が大きく変わる。それがここでの要点です。
「配列は相補的なら効く」「オフターゲットは完全一致だけ」——設計現場の二つの落とし穴
効くASOを作る難しさは、標的をよく減らす配列を選びつつ、狙い以外への作用を抑える点にあります。配列設計の段階で、二つの思い込みが実務を惑わせます。
一つ目は「相補的な配列を選べば効く」という期待です。標的RNAのどこに結合させるかで効きは大きく変わり、狙った通りに効く配列は事前予測が難しいのが実情です。RNAは折りたたまれて構造を作るため、配列上は良さそうでも実際には結合しにくい箇所もある。そのため、多数の候補を作って細胞で試すスクリーニングが実務の基本になります。
二つ目は「配列が完全一致でなければオフターゲット意図した標的以外の似た配列に結合・作用してしまうこと。核酸医薬の毒性や副作用の一因。は起きない」という油断です。ASOは配列で標的を選びますが、似た配列を持つ別のRNAにも結合してしまうことがあります。数塩基のミスマッチがあっても、RNase Hが切ってしまう場合があるため、ゲノム全体・トランスクリプトーム全体を見渡して、意図しない相手に当たらないかを配列設計の段階で確認します。
そして毒性です。ガッパー型ASOでは、投与後に肝臓に集まりやすいことから、肝毒性(トランスアミナーゼ上昇など)が注意点として知られています。この毒性の一部はオフターゲットのRNase H切断に由来すると考えられており、配列や修飾の調整で軽減が図られます。また、全身投与では腎臓への集積や、後述するPS骨格リン酸骨格の酸素の一つを硫黄に置き換えた核酸の修飾。分解耐性を高め、体内動態にも寄与する。に関連した血液・補体系への影響、注射部位反応なども品質・安全性評価の対象になります。
ガッパー型ASOの毒性には、「配列に依存する毒性(オフターゲット切断など)」と「化学修飾や骨格に依存する毒性(クラス共通の性質)」の二種類があります。前者は配列設計で、後者は修飾設計で対処する——この切り分けが実務の考え方です。
「PS骨格は分解を防ぐだけ」——留めて運ぶ役割と、その代償
ASOのもう一つの重要な修飾が、糖と糖をつなぐリン酸部分(骨格)を変えたホスホロチオエート骨格の酸素をイオウに置き換えた結合で、ヌクレアーゼ耐性を高める狙いがある。(PS)結合です。「分解から守るための修飾」とだけ理解すると、半分しか見ていないことになります。
PS結合は、天然のリン酸(ホスホジエステル)結合の酸素の一つを硫黄に置き換えたもので、たしかにヌクレアーゼ核酸を分解する酵素です。製造では培養由来の残存DNA/RNAを分解・除去して製品の純度を高める目的で使い、ベンゾナーゼが代表例です。詳しく →による分解を大きく遅らせます。さらにPS骨格はタンパク質と結合しやすく、血中に留まって組織へ運ばれやすくなる利点もあります。守るだけでなく、体内に留めて運ぶ役割も担っているわけです。ガッパー型ASOでは、全長にわたってPS化するのが一般的です。
その一方で、この「タンパク質と結合しやすい」性質には代償もあります。PS化には、タンパク質との相互作用に由来する副作用(補体活性化T細胞を抗原刺激や人工的な刺激試薬で活性化し、増殖・機能発揮できる状態に誘導する操作。や凝固への影響など、クラス共通の性質)があり、程度は設計や投与量で管理されます。利点と副作用が同じ性質から生まれている——そこが理解のポイントです。
こうした設計思想は、実際に承認された分解(RNase H)型ASOにも表れています。
- ミポメルセン(mipomersen):家族性高コレステロール血症を対象に、apoB-100のmRNAを標的とする2'-MOEガッパー。2013年にFDA承認。
- イノテルセン(inotersen):トランスサイレチン型アミロイドーシスを対象に、TTRのmRNAを標的とする2'-MOEガッパー。2018年にFDA承認。
いずれも肝臓や全身の標的タンパク質を、その設計図であるmRNAの段階で減らす発想です。最後に、よくある混同にふれておきます。同じ疾患を標的にしたsiRNA(パチシランなど)も存在しますが、ASOとsiRNAは「どちらもRNAを標的にする」だけで同じではありません。機序(RNase H対RNAi二本鎖RNAが配列特異的に標的mRNAを分解する仕組み。siRNAの作用機構の基盤。)、投与経路、送達の考え方が異なり、目的とする臓器・標的・投与形態に応じて使い分けられています。ガッパー設計の各所に見た「あえて残す」「守りに徹する」「留めて運ぶ」といった選択は、いずれもこの使い分けを支える工夫だと見ると、腑に落ちやすいはずです。
参考文献
- Crooke ST, Liang XH, Baker BF & Crooke RM, Antisense technology: A review (J. Biol. Chem., 2021)
- Bennett CF & Swayze EE, RNA Targeting Therapeutics: Molecular Mechanisms of Antisense Oligonucleotides as a Therapeutic Platform (Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., 2010)
- Roberts TC, Langer R & Wood MJA, Advances in oligonucleotide drug delivery (Nat. Rev. Drug Discov., 2020)
- Frazier KS, Antisense oligonucleotide therapies: the promise and the challenges from a toxicologic pathologist's perspective (Toxicol. Pathol., 2015)
- FDA, Drugs@FDA: Approved Drug Products — ミポメルセン・イノテルセン等の添付文書・審査情報
- EMA, Medicines — 欧州における核酸医薬の評価情報
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