
アンチセンス核酸(ASO)とは?機構・化学修飾・製造
アンチセンス核酸(antisense oligonucleotide, ASO)は、標的RNAに相補的な配列をもつ一本鎖の短い核酸で、配列特異的にRNAへ結合してその働きを抑えたり書き換えたりする医薬モダリティです。抗体が「細胞にタンパク質を作らせる」、mRNA医薬が「タンパク質を作る設計図そのものを届ける」のに対し、ASOは「狙ったRNAをピンポイントで分解する/読み替えさせる」という、RNAレベルで遺伝子の発現を制御する発想に立ちます。
ASOとは何か ― 一本鎖でRNAに結合する核酸
ASOは、おおむね15〜25塩基ほどの一本鎖オリゴヌクレオチドです。標的となるmRNAやpre-mRNAの特定領域に相補的な配列をもち、ワトソン・クリック塩基対合によってその領域にハイブリダイズします。結合した結果として何が起こるかは設計次第で、大きく分けて「標的RNAを分解させる」型と「分解せずにRNAの挙動を変える(スプライシングを切り替える、翻訳を止める)」型があります。
未修飾のDNA/RNAは血中・細胞内のヌクレアーゼで速やかに分解され、また細胞内へ届きにくいため、医薬としてのASOはほぼ必ず化学修飾を施した分子として設計されます。修飾は「分解されにくくする」「標的との結合を強める」「適切な組織へ届ける」という三つの役割を担い、後述するように作用機構の選択とも密接に結びついています。 ASOは「相補配列でRNAに結合する一本鎖核酸」であり、その後に何を起こすかは設計と化学修飾で作り分けるモダリティです。
作用機構(1)RNase H依存型 ― 標的RNAを切る
ASOの代表的な作用機構が、細胞内酵素RNase H1を介して標的RNAを分解させる「RNase H依存型」です。ASOが標的RNAに結合すると、その場にDNA/RNAのヘテロ二本鎖ができます。RNase H1はこのDNA:RNAヘテロ二本鎖のRNA鎖を選択的に切断する酵素で、ASOが結合した部位の標的RNAを切り出します。切断されたRNA断片は通常の細胞内分解経路で処理され、結果として標的遺伝子の発現が下がります。
ここで重要なのは、RNase H1が認識するのは「DNAらしい糖をもつ領域」だという点です。そのため実用的なRNase H依存型ASOは、両端を結合力の高い修飾(後述の2'修飾やLNA/BNA)で固め、中央に連続したDNA型ヌクレオチドを配置した「ギャップマー(gapmer)」構造をとります。中央のDNA部(ギャップ)がRNase Hの切断を担い、両翼の高親和性修飾が標的との結合とヌクレアーゼ耐性を高める、という役割分担です。RNase H1は細胞質だけでなく核内でも働くため、核内に留まるpre-mRNAや非コードRNAも標的にできることが、後述するsiRNAとの違いの一つになります。 RNase H依存型ASOは「中央のDNA部でRNase Hに切らせる」ギャップマー設計が基本で、核内RNAにも届く点が特徴です。
作用機構(2)スプライス調節型 ― 切らずに読み替えさせる
もう一つの主要な機構が、標的RNAを分解せずにその挙動を変える「立体障害(steric block)型」で、その代表がスプライシングを切り替えるスプライス調節型です。pre-mRNAのスプライシングに関わる配列(スプライス部位やエンハンサー/サイレンサー)にASOを結合させ、スプライシング因子の接近を物理的に妨げることで、エクソンの取り込み(exon inclusion)や読み飛ばし(exon skipping)を制御します。
この型ではRNase Hに切らせないことが前提なので、設計思想がギャップマーと正反対になります。中央にDNA部を置かず、分子全体を2'修飾やLNA/BNAなど「RNase Hを起動しない高親和性修飾」で構成し、標的RNAに強く・長く結合させてスプライシングを書き換えます。SMAに対するヌシネルセンは、SMN2遺伝子のpre-mRNAに作用してエクソン7の取り込みを促し、機能的なSMNタンパク質の産生を増やす設計として知られます。立体障害型には、このほか翻訳開始の抑制やmiRNA阻害(antimiR)なども含まれます。 スプライス調節型はRNase Hを起動しない全長修飾型で、RNAを「切らずに読み替えさせる」設計です。
化学修飾 ― 骨格・糖・LNA/BNA
ASOの性能は化学修飾でほぼ決まります。修飾は大きく、リン酸骨格に対するものと、糖(リボース/デオキシリボース)の2'位に対するものに分かれ、固相合成では修飾済みのアミダイトモノマーを使うことで配列の任意の位置に組み込みます。
骨格修飾の代表がホスホロチオエート(PS)です。リン酸ジエステル結合の非架橋酸素の一つを硫黄に置き換えることで、ヌクレアーゼ耐性を大きく高め、さらに血漿タンパク質との結合を介して体内動態や細胞取り込みにも寄与するとされます。ほとんどの治療用ASOがPS骨格を基本としています。糖の2'位修飾には、2'-O-メチル(2'-OMe)、2'-O-メトキシエチル(2'-MOE)、2'-フルオロ(2'-F)などがあり、結合親和性とヌクレアーゼ耐性を高めます。さらに親和性を高める修飾としてLNA(locked nucleic acid)/BNA(bridged nucleic acid)があり、糖の2'-Oと4'-Cを架橋して立体配座を固定することで、短い鎖でも強い結合を実現します。ギャップマー型では両翼にこれらの高親和性修飾を、立体障害型では全長にわたって配置するのが典型です。 修飾は「PS骨格で耐性を、2'修飾やLNA/BNAで親和性を」与える組み合わせ設計であり、作用機構の選択と一体です。
なお、PS修飾はリン原子に不斉が生じるため立体異性(Rp/Sp)を含み、また硫黄化が不十分だと一部がリン酸ジエステルのまま残るPO体不純物となります。修飾の入れ方そのものが不純物プロファイルに直結するため、品質管理上の重要点となります。
送達 ― GalNAcによる肝指向と髄腔内投与によるCNS送達
裸のASOは全身投与しても標的組織に十分届きにくく、送達は核酸医薬全体の最大の課題です。実用化が進んだ突破口の一つが、肝細胞表面に高発現するアシアロ糖タンパク質受容体(ASGPR)を狙うGalNAc(N-アセチルガラクトサミン)複合体です。三価のGalNAcリガンドをオリゴに結合させると、皮下投与でも効率よく肝細胞に取り込まれることが報告されており、肝臓を標的とする核酸医薬の標準的な送達手段になりました。GalNAc複合体はsiRNAで先行して確立し、ASOにも展開されています。
肝臓以外、とくに中枢神経系(CNS)への送達は、血液脳関門が大きな障壁となります。これを回避する実際的な手段が髄腔内(くも膜下腔)投与で、ASOを脳脊髄液に直接投与することでCNS組織への分布を図ります。ヌシネルセンが髄腔内投与で用いられるのはこの考え方に基づきます。送達の改良は、化学修飾・複合体(バイオコンジュゲート)・ナノキャリアの組み合わせで進められており、肝外組織への効率的送達が引き続き大きな研究課題です。 送達では「GalNAcで肝細胞へ、髄腔内投与でCNSへ」という経路が実用化の鍵となっています。
製造 ― 固相合成から脱保護・精製・凍結乾燥まで
ASOの製造は、siRNAと同じく化学合成が中核です。固体担体(CPGや高分子ビーズ)に最初の1塩基を固定し、ホスホロアミダイト法で3'末端から5'末端へ1塩基ずつ伸長する固相合成を行います。1サイクルは、脱トリチル化→カップリング→キャッピング→酸化(PS導入部では硫黄化)の4反応からなり、これを塩基数だけ繰り返します。1サイクルあたりのカップリング効率の積が全長純度を決めるため、長鎖になるほどわずかな効率差が品質に大きく響きます。
合成後は、アンモニア水やメチルアミン系試薬で担体からの切断と塩基・骨格の脱保護をまとめて行い、純粋なオリゴ鎖を溶液として回収します。精製では、リン酸骨格の負電荷(鎖長)の差で分離するイオン交換(IEX)と、疎水性の差で分離する逆相(RP-HPLC)を用い、目的の全長鎖を n-1/n+1 や脱保護不完全体、PS体に混じるPO体などの類縁物質・不純物から分離します。精製後はUF/DFで脱塩・濃縮し、溶液製剤あるいは安定性を高めた凍結乾燥品として最終形に整えます。質量と同一性の確認にはLC-MS、全長純度や異性体の評価にはキャピラリー電気泳動が欠かせません。 ASO製造は固相合成→脱保護→IEX/RP精製→UF/DF→凍結乾燥という流れで、全長純度と不純物の作り込みが品質を左右します。
一本鎖ASOと二本鎖siRNAの異同
ASOとsiRNAはどちらもRNAを標的とする核酸医薬で、固相合成という製造基盤も共通しますが、分子の形と作用経路が異なります。下表に技術・品質の観点から要点を整理します。
| 観点 | 一本鎖ASO | 二本鎖siRNA |
|---|---|---|
| 分子形態 | 一本鎖(15〜25塩基程度) | 二本鎖(21〜23塩基程度、センス/アンチセンス) |
| 主な作用機構 | RNase H依存型分解/立体障害(スプライス調節等) | RISC(Ago2)を介したRNAi分解 |
| 標的の局在 | 核内・細胞質の両方(pre-mRNA・非コードRNAも) | 主に細胞質のmRNA |
| 製造の二本鎖化 | 不要(一本鎖で完結) | 必要(最後に等モルでアニーリング) |
| 共通する化学修飾 | PS骨格、2'修飾、(ASOではLNA/BNAも多用) | PS骨格、2'-OMe/2'-F が中心 |
| 共通する送達手段 | GalNAc複合体・髄腔内投与など | GalNAc複合体など |
最大の製造上の違いは、ASOが一本鎖で完結するのに対し、siRNAはセンス鎖・アンチセンス鎖を別々に合成・精製し、最後に等モルでアニーリングして二本鎖に仕上げる工程が必要な点です。固相合成・脱保護・精製・脱塩までの流れはほぼ共通で、ASOではアニーリング工程が省かれると捉えると整理しやすくなります。siRNAの製造工程の詳細はsiRNAの製造解説を参照してください。 両者は「一本鎖でRNase H/立体障害」のASOと「二本鎖でRISC」のsiRNAという作用経路の違いがあり、製造ではアニーリングの有無が分岐点になります。
まとめ
アンチセンス核酸(ASO)は、標的RNAに相補的な一本鎖核酸で、RNase H依存型では中央のDNA部(ギャップマー)でRNAを切断させ、スプライス調節型などの立体障害型ではRNase Hを起動せずRNAの挙動を書き換えます。性能はホスホロチオエート骨格・2'修飾・LNA/BNAといった化学修飾でほぼ決まり、作用機構の選択と修飾設計は一体です。送達ではGalNAc複合体による肝細胞指向と髄腔内投与によるCNS送達が実用化の鍵となっています。
製造は固相合成(ホスホロアミダイト法)→切断・脱保護→IEX/RP精製→UF/DF→凍結乾燥という流れで、siRNAと製造基盤を共有しつつ、一本鎖で完結する分だけアニーリング工程を要しない点が分岐点です。本稿は技術・品質の観点に絞って整理したものであり、個々の製品の効能や安全性は各製品の承認情報・添付文書に拠る必要があります。
参考文献
ガイドライン・基準
- ICH Q6B "Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products"
- ICH Q3A(R2)/Q3C(R8) 不純物・残留溶媒に関するガイドライン
- FDA Guidance "Clinical Pharmacology Considerations for the Development of Oligonucleotide Therapeutics"
- EMA ガイドライン(オリゴヌクレオチド系医薬品の品質・非臨床に関する文書)
- PMDA(医薬品医療機器総合機構) ―核酸医薬品の品質・安全性に関する各種ガイドライン
主な文献
- Crooke ST. Molecular Mechanisms of Antisense Oligonucleotides. Nucleic Acid Ther. 2017;27(2):70-77. PMID: 28080221. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28080221/
- Bennett CF, Krainer AR, Cleveland DW. Antisense Oligonucleotide Therapies for Neurodegenerative Diseases. Annu Rev Neurosci. 2019;42:385-406. PMID: 31283897. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31283897/
- Finkel RS, Mercuri E, Darras BT, et al. Nusinersen versus Sham Control in Infantile-Onset Spinal Muscular Atrophy. N Engl J Med. 2017;377(18):1723-1732. PMID: 29091570. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29091570/
- Nair JK, Willoughby JLS, Chan A, et al. Multivalent N-Acetylgalactosamine-Conjugated siRNA Localizes in Hepatocytes and Elicits Robust RNAi-Mediated Gene Silencing. J Am Chem Soc. 2014;136(49):16958-16961. PMID: 25434769. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25434769/
- Roberts TC, Langer R, Wood MJA. Advances in oligonucleotide drug delivery. Nat Rev Drug Discov. 2020;19(10):673-694. PMID: 32782413. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32782413/