アンチセンス核酸(ASO)とは?機構・化学修飾・製造
アンチセンス核酸は、標的のRNAと相補的な配列を持つ短い一本鎖です。18〜20 nt が典型で、配列を決めれば標的が決まる。設計の入口がこれだけ単純な医薬品は、他にあまりありません。20 nt の並びを決めれば、狙う相手が一意に決まります。ところが、そこから先の選択肢は驚くほど多い。

核心は一点です。同じ「ASO」という言葉が、まったく違う二つの働き方を指しています。一方は、結合した相手のRNAを酵素に切らせて壊す型。もう一方は、切らずにその場に居座って、スプライシング前駆体mRNAから不要な部分を除き必要な部分をつなぐRNAの編集。ASOで切り替えを調節できる。詳しく →や翻訳の邪魔をする型です。必要な化学修飾核酸の糖・骨格・末端に施し、安定性・結合力・免疫原性を整える改変。詳しく →も、期待する効果も、副作用の出方も違います。同じ 20 nt でも、別の医薬品だと考えたほうが実情に近い。どちらを作るのかを決めないまま配列の話を始めると、議論が噛み合わなくなります。
この記事では、二つの作用機構を分けてから、ギャップマー中央にDNA部(ギャップ)を、両翼に高親和性修飾を配したASOの構造。中央でRNase Hに標的RNAを切らせる。詳しく →という構造の意味、化学修飾が何を買っているのか、立体異性体という厄介な問題、送達の二つの解、そして製造と規格の順に解説します。二本鎖である siRNA二本鎖の短いRNAで、RISC(Ago2)を介して標的mRNAを分解する核酸医薬。ASOと製造基盤を共有する。詳しく → との対比はsiRNAの製造にまとめてあります。最後に、設計を決める順序を並べます。
- 切る型と邪魔する型では、必要な化学修飾も副作用の出方も違います。
- ギャップマーの真ん中が DNA なのは、切る酵素が DNA と RNA の二本鎖しか認識しないためです。
- 骨格を硫黄に置き換えると、20量体で 52万 通りの立体異性体が生じます。
二つの作用機構 ― 切るか、邪魔するか
働き方の違いは、細胞内の酵素を使うかどうかにあります。
一つ目が、RNase HDNAとRNAが対合した二本鎖のRNA鎖を選択的に切断する細胞内酵素。ギャップマー型ASOの分解作用を担う。詳しく → を利用する型です。この酵素は、DNA と RNA が対合した二本鎖を見つけると、RNA 側だけを切ります。ASO標的RNAに相補的な配列をもつ一本鎖の短い核酸。RNAに結合して働きを抑えたり書き換えたりする。詳しく → が DNA として標的 RNA に結合すれば、酵素がやってきて標的を壊す。壊れた RNA は分解されるので、そのタンパク質は作られなくなります。標的を減らしたいときに使う設計です。
二つ目が、立体的に邪魔をする型です。こちらは RNase H を呼びません。結合した場所に居座って、スプライシングの機構がその位置を認識できないようにする。結果として、本来なら除かれるはずの配列が残ったり、逆に含まれるはずの配列が飛ばされたりします。標的を減らすのではなく、作られるタンパク質の形を変える設計です。
同じ長さの一本鎖なのに、目的が正反対です。減らしたいのか、作り変えたいのか。この問いへの答えが、化学修飾の設計をすべて決めます。
ギャップマー ― 真ん中だけ DNA にする理由
切る型には、構造上の制約があります。
RNase H が認識するのは、DNA と RNA の二本鎖です。ASO を修飾で固めてしまうと、酵素が認識しなくなって切れません。かといって、修飾のない DNA のままでは血中でヌクレアーゼ核酸を分解する酵素です。製造では培養由来の残存DNA/RNAを分解・除去して製品の純度を高める目的で使い、ベンゾナーゼが代表例です。詳しく →に壊されます。安定性と、酵素に認識されることが、正面から衝突します。
解決が、部位を分けることでした。中央部分は修飾を入れない DNA のままにして酵素に認識させ、両端だけを修飾で固めて分解から守る。中央の DNA が 8〜10 nt、両端の修飾部分が 5 nt ずつ、合わせて 18〜20 nt という構成が典型です。真ん中が凹んだ形なので、ギャップマーと呼ばれます。
両端の修飾には、もう一つの役割があります。標的との結合を強めることです。2'位に置換基を入れると二重鎖が安定になり、短い配列でも十分な結合力が得られる。架橋型の修飾なら、1残基あたり融解温度熱で抗体の立体構造がほどける転移の中点にあたる温度。高いほど保存中や製造中の熱ストレスで構造が崩れにくい。詳しく →を 2〜8℃ 押し上げます。ギャップマーは、切られる部分と守られる部分を空間的に分けた設計だと言えます。
化学修飾 ― 何を買っているのか
修飾を入れる目的は、三つに分けて考えられます。
一つ目が、分解への耐性です。骨格のリン酸の酸素を硫黄に置き換えると、ヌクレアーゼに切られにくくなります。これは ASO のほぼ全体に入れるのが通例で、血中での半減期薬の血中濃度が半分に下がるまでの時間。抗体フラグメントでは短く、延長の工夫が要る。詳しく →を実用的な水準まで延ばします。
二つ目が、結合力です。糖の 2'位にメトキシ基やメトキシエトキシ基を入れる、あるいは糖の環を架橋して構造を固定する。どれも二重鎖を安定にするので、より短い配列で同じ結合力が得られます。短くできれば、合成の歩留まり製造工程で投入した原料や中間体に対し、最終的に規格に合った製品として回収できた割合を指し、低いほどコスト増につながる。詳しく →も上がります。
三つ目が、免疫応答の回避です。修飾のない核酸は自然免疫病原体を素早く感知して働く生体防御の仕組み。dsRNAをウイルスの痕跡とみなし炎症反応を起こします。詳しく →の受容体に認識されやすく、炎症の引き金を引きます。修飾はこれを和らげます。
ただし、硫黄への置換には副作用もあります。血漿タンパク質への結合が強まるため、組織への分布が変わる。これは肝臓や腎臓への集積という形で効き目を助ける一方、腎毒性や血小板減少といった副作用の要因にもなります。修飾は性能を買う操作であると同時に、副作用の性質も一緒に買っている操作です。
修飾の位置と種類の組み合わせは膨大ですが、実際に振れる範囲は合成の歩留まりで制限されます。修飾を増やすほど1回あたりの縮合効率が落ち、20量体でも全長の収率が大きく変わります。設計で理想を追う前に、その配列を合成できる歩留まりを見積もっておく価値があります。
立体異性体という問題
硫黄への置換には、見落とされやすい帰結があります。
リン原子に硫黄が付くと、そのリンが不斉中心です。つまり、立体配置の異なる二通りの分子ができる。骨格の全部を硫黄に置き換えた 20量体なら、19 か所の不斉中心があり、組み合わせは 2 の19乗、およそ 52万 通りです。
通常の合成では、これらが混合物として得られます。原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →は 52万 種類の立体異性体の混ざりものだ、ということになる。しかも、立体配置によって標的との結合力も、RNase H に切られやすさも、代謝の速さも変わります。
規制上は、再現性のある混合物として扱われてきました。合成条件を固定すれば、異性体の分布も再現するという前提です。近年は、立体配置を制御して合成する技術も出てきていて、特定の配置に揃えた原薬のほうが性能が高いという報告もあります。原薬が単一の化合物でないという点は、他の低分子や生物製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →とは違う、この分野特有の事情です。
送達 ― 肝臓と中枢、二つの解
配列と修飾を決めても、届かなければ効きません。
裸の ASO を皮下や静脈に投与すると、肝臓と腎臓に多く分布します。この性質を強めたのが、糖の構造を付ける方法です。皮下投与での用量は 数十 mg から 数百 mg の桁で、月1回 前後の投与設計が成り立ちます。肝細胞の表面に多い受容体を狙った糖をつなぐと、皮下投与から肝臓への取り込みが大きく高まります。肝臓を標的とする疾患では、これが標準の解になりました。
中枢神経系は、別の問題です。血液脳関門血液と脳組織の間で物質の移行を厳しく制限する仕組み。抗体など大きな分子は通りにくい。詳しく →があるので、全身投与では届きません。そこで、髄腔内に直接投与します。脊髄性筋萎縮症の治療薬では、12 mg を髄腔内に投与し、導入期の後は数か月ごとに反復する設計が取られています。導入期は 2週 おきに 4回、その後は 4か月 ごとといった設計です。侵襲的ですが、他に届かせる手段がありません。
それ以外の組織は、いまも課題として残っています。筋肉、心臓、肺。送達ゲノム編集ツールや核酸医薬などを標的細胞・組織まで安全かつ効率よく運ぶための技術・方法論の総称。詳しく →の選択肢が二つしかない、というのが現状です。標的とする組織が肝臓でも中枢でもないなら、そこが最初の関門として立ちはだかります。
製造と規格
製造は、固相合成化学合成でRNAの鎖を作り、2本を組み合わせて(アニーリング)二本鎖siRNAに仕上げる工程です。固相合成で1塩基ずつ鎖を伸ばしていきます。詳しく →が基本です。
樹脂に固定した鎖の端を保護から外し、次のヌクレオチドを縮合し、酸化して結合を作り、洗う。ホスホロアミダイトオリゴ核酸を化学合成する際、一塩基ずつ鎖に付け足していく反応性のモノマー原料です。核酸合成の基本となる構成単位です。詳しく →は ChemGenes や Glen Research、合成機は Biolytic Lab Performance の系が使われ、製造の受託は Nitto のような専業の会社が担います。この一巡を必要な長さまで繰り返します。硫黄を入れる場合は、酸化の段で硫黄化の試薬を使います。1回あたりの効率が 99% なら、20量体で全長は 82.6% しか残りません。原薬をキログラムの単位で作る規模では、この効率が原価に直結します。
不純物は、伸長が止まった短い鎖、脱保護が不完全な鎖、そして立体異性体です。最初の二つは分離の対象ですが、全長と1残基しか違わない鎖は分けにくい。分析には陰イオン交換正に帯電した担体に負電荷の物質を吸着させて分離する手法。フロースルーでDNAやウイルスを除くのに使う。詳しく →とイオン対逆相を組み合わせ、質量分析分子の質量を精密に測る手法。鎖の組み合わせ違いを分子量差として捉え純度評価に使う。詳しく →で帰属します。カラムは 50〜80℃ に上げて二次構造αヘリックスやβシートなど、主鎖が局所的に取る規則的な折りたたみ様式。遠紫外CDで割合を推定する。詳しく →をほどき、純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →は 90% 以上を規格に置くのが一般的です。
規格の枠組みは、低分子とも生物製剤とも完全には重なりません。類縁物質の考え方は使えますが、閾値の設定は個別の議論に委ねられます。原薬が異性体の混合物であることを前提にした規格の書き方が、この分野の実務の難しさです。
設計を決める順序
ASO の開発を始めるとき、次の順で決めます。
一番目は、標的を減らすのか作り変えるのかを決めることです。 減らすならギャップマー、作り変えるなら全体を修飾した型。ここで構造の骨格が決まり、以降の選択肢が絞られます。
二番目に、標的組織を確かめます。肝臓なら糖をつないで皮下投与、中枢なら髄腔内。どちらでもないなら、送達の手段から検討し直す必要があります。三番目が配列の選択で、標的の配列と、似た配列を持つ他の遺伝子への影響を計算で絞ります。
四番目に修飾を決めます。結合力と安定性と免疫応答の釣り合いを取りつつ、合成できる歩留まりの範囲に収める。最後に分析法を組みます。異性体の分布まで含めて再現性を示す必要があるので、分析法の設計は合成条件の固定と一体で進めます。
参考文献
ガイドライン・基準
- ICH Q6B "Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products"
- ICH Q3C 残留溶媒製造で使った有機溶媒が製品に残っていないか調べる試験です。ガスクロマトグラフィーなどで残存量を測り安全性を確認します。詳しく →のガイドライン(原薬の不純物を扱う Q3A は、適用範囲でオリゴヌクレオチドを除外している。不純物の枠組みは下の EMA ガイドラインを見ること)
- FDA Guidance "Clinical Pharmacology Considerations for the Development of Oligonucleotide Therapeutics"
- EMA ガイドライン(オリゴヌクレオチド系医薬品の品質・非臨床に関する文書)
- PMDA(医薬品医療機器総合機構) ―核酸医薬siRNAやASOなど核酸を用い、標的mRNAを分解・抑制して効かせる医薬。詳しく →品の品質・安全性に関する各種ガイドライン
主な文献
- Crooke ST. Molecular Mechanisms of Antisense Oligonucleotides. Nucleic Acid Ther. 2017;27(2):70-77. PMID: 28080221. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28080221/
- Bennett CF, Krainer AR, Cleveland DW. Antisense Oligonucleotide Therapies for Neurodegenerative Diseases. Annu Rev Neurosci. 2019;42:385-406. PMID: 31283897. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31283897/
- Finkel RS, Mercuri E, Darras BT, et al. Nusinersen versus Sham Control in Infantile-Onset Spinal Muscular Atrophy. N Engl J Med. 2017;377(18):1723-1732. PMID: 29091570. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29091570/
- Nair JK, Willoughby JLS, Chan A, et al. Multivalent N-Acetylgalactosamine-Conjugated siRNA Localizes in Hepatocytes and Elicits Robust RNAi-Mediated Gene Silencing. J Am Chem Soc. 2014;136(49):16958-16961. PMID: 25434769. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25434769/
- Roberts TC, Langer R, Wood MJA. Advances in oligonucleotide drug delivery. Nat Rev Drug Discov. 2020;19(10):673-694. PMID: 32782413. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32782413/
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