
mRNA-LNPの製造工程とは?IVTから脂質ナノ粒子・無菌充填まで
mRNA-LNP医薬は、抗体医薬とはまったく違う考え方で作られます。抗体が「細胞に目的のタンパク質を作らせて、それを取り出す」のに対し、mRNA-LNPでは「試験管の中でmRNAを合成し、それを脂質の粒に包んで体内に届ける」という流れをとります。
つまり製造工程は、おおきく「mRNAをつくる」工程と「脂質ナノ粒子(LNP)に包む」工程の2本柱で構成されます。前半は酵素反応と精製、後半は脂質との混合と粒子設計が主役です。生きた細胞を増やすバイオリアクター培養は登場しません。
全体像 ― mRNAを合成し、脂質ナノ粒子に包む
mRNA-LNPの製造は、前半の「mRNA原薬を作るパート」と、後半の「LNPに製剤化するパート」に分かれます。前半ではDNA鋳型からmRNAを酵素的に合成し、不要な成分を取り除いて高純度のmRNAを得ます。後半ではそのmRNAを脂質と急速に混ぜ合わせ、ナノサイズの粒子に封入し、投与できる形に整えます。
工程の全体像を一覧にすると、次のようになります。
| 区分 | 工程 | 主な役割 |
|---|---|---|
| mRNA合成 | DNA鋳型の線状化 | プラスミドを切って転写の鋳型を整える |
| mRNA合成 | in vitro転写(IVT) | T7 RNAポリメラーゼでmRNAを合成する |
| mRNA合成 | キャッピング・ポリA付加 | 翻訳効率と安定性を確保する |
| mRNA合成 | DNase処理 | 残った鋳型DNAを分解して除く |
| mRNA合成 | 精製 | dsRNA・短鎖RNA・酵素・残存DNAを除く |
| LNP製剤化 | LNP化(急速混合) | mRNAを脂質ナノ粒子に封入する |
| LNP製剤化 | 濃縮・バッファ交換(TFF) | 有機溶媒を除き濃度と溶液を整える |
| LNP製剤化 | 無菌ろ過・充填 | 滅菌しバイアルに充填する |
| LNP製剤化 | 凍結保管 | 超低温で保存し品質を保つ |
mRNA-LNPの工程は「合成」と「封入」という性質の違う2つのブロックでできていると捉えると理解しやすくなります。 各工程の詳細はin vitro転写(IVT)以降の工程フローも合わせて確認してください。
mRNAをつくる:in vitro転写(IVT)
mRNAの合成は、生きた細胞ではなく試験管の中(in vitro)で行います。出発点は、目的タンパク質の遺伝子配列を組み込んだプラスミドDNAです。
まず、環状のプラスミドを制限酵素で切って線状化します。環状のままだと転写が止まらず長すぎるRNAができてしまうため、終わりたい位置で切って直線状の鋳型にする必要があります。
線状化した鋳型に、T7 RNAポリメラーゼと4種類の基質(ATP・GTP・CTP・UTP)、マグネシウムなどを加えて反応させると、鋳型配列に沿ってmRNAが合成されます。この反応がIVTです。短時間で大量のmRNAが得られる一方で、副生成物も避けられません。代表的なのが二本鎖RNA(dsRNA)で、自然免疫を過剰に刺激する原因になるため、後の精製で確実に除く対象です。 IVTは収量と同時に、dsRNAなどの不純物プロファイルを左右する工程です。
キャッピングとポリA
合成しただけのmRNAは、そのままでは体内で十分に働きません。天然のmRNAと同じく、5'末端にキャップ構造、3'末端にポリAテールを備えてはじめて、効率よく翻訳され、分解されにくくなります。
キャップ構造には、IVT反応の中で同時に付ける共転写法(キャップアナログを反応液に加える方式)と、転写後に酵素で付ける酵素法の2通りがあります。共転写法は工程が簡潔で、酵素法はキャップ付加率を高めやすいという特徴があり、目的に応じて選ばれます。
ポリAテールは、鋳型DNAにあらかじめポリA配列を組み込んでおく方法と、転写後にポリAポリメラーゼで付加する方法があります。テールの長さは翻訳効率や安定性に影響するため、長さのばらつきを抑えることが品質管理上のポイントになります。 5'キャップと3'ポリAは、mRNAが薬として機能するための必須要素です。
mRNAの精製
IVT反応液には、目的のmRNA以外にもdsRNA、途中で切れた短鎖RNA、反応に使った酵素やヌクレオチド、そしてDNase処理で分解しきれなかった鋳型DNA断片などが含まれます。これらを取り除き、高純度のmRNAを得るのが精製です。
DNase処理で鋳型DNAをあらかじめ分解したうえで、複数の手法を組み合わせて純度を高めます。代表的なのが、ポリAテールに相補的なオリゴdTを使ったアフィニティ精製で、ポリAを持つ完全長mRNAを選択的に捕まえられます。さらにクロマトグラフィーで短鎖RNAやdsRNAを分離し、限外ろ過/透析ろ過(TFF)でヌクレオチドや塩を除いて濃縮・バッファ交換を行います。
この「目的物だけを高純度で取り出す」という発想は抗体の精製とも共通します。考え方の参考として、抗体精製の代表工程もあわせて押さえておくとよいでしょう。
残存DNA・dsRNA・短鎖RNAをどこまで下げられるかが、mRNA原薬の品質を決めます。
脂質ナノ粒子(LNP)化
精製したmRNAは、そのままでは細胞に取り込まれず、血中ですぐ分解されてしまいます。そこでmRNAを脂質の膜で包み、ナノサイズの粒子(LNP)に封入します。これがmRNA-LNPの後半の主役です。
LNPは通常、4種類の脂質で構成されます。マイナス電荷のmRNAを包み込み、細胞内でmRNAを放出させる役割を担うイオン化脂質、膜構造を安定させるヘルパー脂質(リン脂質)、粒子の剛性を保つコレステロール、そして粒子表面を覆って凝集を防ぎ血中での安定性を高めるPEG脂質です。
LNP化では、脂質をエタノールに溶かした有機相と、mRNAを含む酸性の水相を、マイクロ流体デバイスなどで急速に混合します。混ぜ合わせる瞬間に脂質が自己組織化し、mRNAを取り込んだ粒子が一気に形成されます。混合の速度や流量比、pHが、粒子径と封入率を左右します。製品の品質では、粒子径(おおむね数十〜100nm程度)と分散の均一さ、そしてmRNAをどれだけ包めたかを示す封入率が重要な指標です。粒子径や分布は動的光散乱(DLS)で測定して管理します。 LNP化は「混ぜ方」で粒子の品質が決まる、繊細で再現性が問われる工程です。
濃縮・バッファ交換と無菌充填・保管
LNP化の直後の液には、混合に使ったエタノールが残り、形成時の酸性バッファのままになっています。そこでTFFシステムによる限外ろ過/透析ろ過で、エタノールを除き、投与に適した中性付近のバッファへ置き換え、必要な濃度まで濃縮します。
その後、最終製剤を滅菌フィルター(一般に0.22µm)で無菌ろ過し、無菌環境下で容器に充填します。ここで注意したいのは、LNPは粒子であるため、ろ過によって粒子の一部が失われたり、目詰まりが起きたりしないかを確認しておく必要がある点です。充填はバイアル充填装置を使い、充填量と無菌性を管理しながら行います。
充填後は、品質を保つために低温で保管します。mRNA-LNPは温度に敏感で、品目によっては超低温フリーザーでの凍結保管が必要です。出荷から投与までコールドチェーンを途切れさせないことが品質維持の前提です。 TFFでの溶媒除去と、低温を保つコールドチェーンが、mRNA-LNP製剤の品質を支えます。
まとめ
mRNA-LNPの製造は、DNA鋳型からのIVTでmRNAを合成し、キャッピングとポリAで機能を整え、精製で不純物を除く前半と、そのmRNAを脂質ナノ粒子に包み、濃縮・無菌充填・凍結保管へと進む後半の、2本柱で成り立っています。
抗体医薬のような細胞培養はなく、酵素反応と粒子化が中心となる点が大きな特徴です。各工程ではdsRNAや残存DNA、粒子径や封入率といった、その工程ならではの品質指標を管理し続けることが求められます。
工程ごとの位置づけをつかんでおくと、個々の技術や分析の話も整理して理解できます。
参考文献
- 日本薬局方(第十八改正)「生物薬品〔バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品〕」関連各条および一般試験法
- USP <1235> Vaccines for Human Use ― Polysaccharide and Glycoconjugate Vaccines ほか、核酸・脂質関連の各条
- European Pharmacopoeia, General chapter 5.2.1 "Terminology used in monographs on biological products" ほか
- ICH Q5A(R2) "Viral Safety Evaluation of Biotechnology Products Derived from Cell Lines of Human or Animal Origin"
- ICH Q6B "Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products"
- WHO "Evaluation of the quality, safety and efficacy of messenger RNA vaccines for the prevention of infectious diseases: regulatory considerations"