抗体医薬基礎知識・製剤

無菌ろ過(除菌ろ過)とは?充填前の最後の無菌化

充填ラインに液を送り込む寸前、あなたの手元には0.22µm前後の除菌フィルター0.2µm前後の細かい孔で液を通し、細菌などの微生物を捕らえて無菌のろ液を得るための除菌用フィルターです。詳しく →が一枚ある。それが、抗体製剤の無菌性を物理的に担保する最後の操作だ。抗体をはじめとする生物製剤は熱に弱く、最終容器に充填したあとで加熱滅菌(最終滅菌容器に充填・密封した後に製品ごと滅菌する方法。熱に弱い抗体では行えず無菌操作が必要になる。)を行えないものが大半です。そのため、ろ過によって無菌性を確保する「無菌操作法aseptic processing外部から微生物を入れずに工程を進める操作。最終滅菌できない細胞治療では全工程で無菌性を維持する。)」が前提となり、その中核を担うのが除菌フィルターによる無菌ろ過です。

基準工程マップ|抗体医薬モノクローナル抗体・製剤・充填この工程を、工程マップで見る選び方ガイド無菌ろ過フィルターの選び方——候補カテゴリ・選ぶ理由・メーカーと製品
無菌ろ過(除菌ろ過)とは?充填前の最後の無菌化

この工程は、配合・希釈を終えた製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。液を充填処方済みの溶液をバイアルやシリンジなどの容器へ無菌的に充填し、封止する製造工程。ラインへ送る直前に置かれます。ここを通過した液はそれ以降、微生物を除去する機会を持ちません。製品の無菌性を担保する「最後の砦」とはそういう意味で、フィルターより下流(充填ニードル、容器、ストッパー)はすべて無菌環境で扱われる前提のもと、ろ過と無菌操作外部から微生物を入れずに工程を進める操作。最終滅菌できない細胞治療では全工程で無菌性を維持する。は一体で設計されます。

ただし、ろ過は単に微生物を止めればよいわけではありません。抗体がフィルター膜へ吸着して回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。が下がる。高濃度・高粘度液体の流れにくさを表す物理的性質で、タンパク質濃度の上昇に伴い非線形に増大する。の液では通液速度が落ちて処理時間が延びる。どちらも製品品質と生産性に直結する問題です。フィルターの材質・面積・前段構成の選定と、ろ過の健全性を保証する完全性試験除菌フィルターに欠陥がなく所定の孔径を保っているかを確認する試験。無菌ろ過の信頼性を裏づける。が、この工程の設計上の要点になります。

この記事の要点
  • 無菌ろ過は充填直前に0.22µm前後の除菌フィルターで微生物を除去する工程です。
  • 下流に除去機会がないため、細菌チャレンジ試験と使用前後の完全性試験で無菌性を保証します。
  • 抗体の膜吸着による回収率低下は、低吸着膜やコンディショニング、フラッシングで管理します。

無菌ろ過の位置づけと役割

無菌ろ過は、製剤液から細菌などの微生物を除去し、後段の無菌充填へ無菌の液を供給するための工程です。生物製剤では最終容器での加熱滅菌が適用できないことが多く、ろ過除菌と無菌操作の組み合わせで無菌性を確保します。除菌フィルターには一般に孔径フィルター膜に存在する細孔の公称上の大きさを示す値で、保持できる粒子・微生物の最小サイズの目安となる指標(ただし実際の保持性能はバクテリアチャレンジ試験で実証される)。0.22µm(製品によっては0.2µm表記)のメンブレンが用いられ、細菌の通過を阻止する性能を持つフィルターとして規定されています。

無菌ろ過の性能根拠となるのが細菌チャレンジ試験(バクテリアチャレンジ微生物を負荷して除菌フィルターが菌を完全に保持できることを確認する性能試験。)です。対象とする微生物を負荷したときにフィルターが菌を完全に保持できることを確認するもので、実生産液や代替液を用い、製造条件に近い負荷で実施されるバリデーション試験法が目的に合う性能を持つことを立証する妥当性確認。正確さ・精度などを評価する。項目として位置づけられます。

充填直前という配置から、無菌ろ過は微生物管理上の最終的な除去操作です。ここで無菌性が担保できなければ後工程で回復する手段はなく、その一点に工程設計の重みがあります。

項目内容
目的製剤液からの微生物除去・無菌液の供給
代表的孔径0.22µm前後(除菌グレード)
位置充填の直前
性能根拠細菌チャレンジ試験微生物を負荷して除菌フィルターが菌を完全に保持できることを確認する性能試験。によるバリデーション
前提下流は無菌操作法最終容器に詰めた後に加熱滅菌しない無菌製造の方式。工程で汚染を持ち込まない設計に依存する。で取り扱う
POINT
無菌ろ過はろ過による物理的な微生物除去であり、加熱滅菌の代替として無菌操作法と一体で設計される。下流に微生物除去の機会はないため、最終的な無菌化操作として位置づけられる。

完全性試験(インテグリティテスト)

ろ過の信頼性は、フィルターが規定どおりの孔径構造を保ち、欠陥(ピンホールや装着不良)がないことに依存します。これを非破壊で確認するのが完全性試験で、バブルポイント試験湿らせた膜の細孔から気体が押し出され始める圧力を測り、最大細孔径の指標とする完全性試験。、拡散流(ディフュージョン)試験、圧力保持試験などが用いられます。バブルポイント湿った膜の孔から気体が押し出され始める圧力。完全性試験で孔径や欠陥の有無を測る指標になる。試験は湿潤させた膜の細孔から気体が押し出され始める圧力を測定し、孔径と相関する指標として規格値と比較する方法です。

完全性試験は使用前後の双方で実施するのが一般的です。使用後(post-use)試験は、ろ過中にフィルターが損傷していなかったことを実液通液後に確認するもので、無菌性の保証に直結します。使用前(pre-use)試験は、装着ミスや初期欠陥を充填前に検出する目的で行われます。

完全性試験で規格を外れた場合、そのバッチの無菌性保証は成立せず逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →として扱われます。バリデーションで示されたろ過性能を個々のバッチに結びつける橋渡しの検査、それが完全性試験です。

試験法測定する量主な意味
バブルポイント気泡が連続発生し始める圧力最大細孔径の指標
拡散流一定圧での気体透過流量膜全体の健全性
圧力保持加圧後の圧力低下拡散流の簡便な代替

抗体の吸着と回収率

抗体タンパク質はフィルター膜表面に吸着することがあり、特に低濃度・少量ロットや高価な原薬では回収率の低下が問題になります。吸着量は膜材質とタンパク質・処方の相互作用に依存するため、低吸着を狙ったポリエーテルスルホン(PES)親水性で低吸着のろ過膜材質。抗体の膜吸着による回収率低下を抑える目的で選ばれる。系などの親水性膜が選ばれることが多いです。

吸着の影響を抑える運用として、製剤液の前にプラセボ(緩衝液)でフィルターを通液して吸着サイトを飽和させるプレコンディショニング製剤液の前に緩衝液を通し、膜の吸着サイトを飽和させて抗体の吸着ロスを減らす操作。や、ろ過後に緩衝液で膜を洗い流して残液を回収するフラッシングろ過後に緩衝液で膜や配管を洗い流し、残った製剤液を回収して抗体の回収率を高める操作。チェイスろ過後に緩衝液で膜や配管を洗い流し、残った製剤液を回収して抗体の回収率を高める操作。)が用いられます。回収率と最終的なタンパク質濃度の両方に影響するため、処方確定と併せて検討すべき項目です。

膜面積を過小に設計すると目詰まりや圧力上昇で通液が滞り、過大にすると吸着ロスとデッドボリューム容器やデバイスに残って投与に使われない液量。過充填量を決める際に考慮する。が増えます。膜材質と面積は、タンパク質回収率を左右する設計変数として扱われます。

POINT
抗体の膜吸着は回収率を下げうるため、低吸着膜の選定、緩衝液によるコンディショニングやフラッシングを組み合わせて損失を管理する。膜面積は通液性と吸着ロスのトレードオフで決める。

高濃度・高粘度液の通液性とフィルター構成

近年の抗体製剤は皮下投与に向けた高濃度化が進み、液の粘度が上昇する傾向があります。粘度が高いほど同じ圧力での通液速度は下がり、処理時間が延び、目詰まりも起こりやすくなります。そのため、除菌フィルター(0.22µm)の上流に粗いプレフィルター本ろ過の手前に置き、粗い粒子をあらかじめ取り除いて後段フィルターの目詰まりを防ぎ、寿命を延ばすためのフィルターです。詳しく →を配置し、凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →や微粒子を先に捕捉して下流の負荷を軽減する多段構成が一般的です。

無菌性の冗長性を確保する目的で、除菌フィルターを二段直列にする二重ろ過(redundant filtration除菌フィルターを二段直列にし、一方が不合格でも無菌性を担保できるようにする冗長構成。)構成も採られます。一方のフィルターが万一健全性を満たさなくても、もう一方で無菌性を担保してバッチ救済の余地を残す設計です。構成の選択は、製品価値、処理量、無菌保証の要求水準に応じて判断されます。

通液性は温度(粘度に影響)、ろ過圧、膜面積、プレフィルターの有無で大きく変わります。フィルター構成はスケールアップ小型培養で確立した条件を、より大きなバイオリアクターへ拡大する取り組みです。酸素供給の指標kLaなどを揃え、性能を再現します。詳しく →時に小型試験から面積をスケールして検証するのが基本です。

構成要素役割選定の着眼点
プレフィルター粗大粒子・凝集体の除去下流の目詰まり微粒子や凝集体、タンパク層が膜の孔を塞いでろ過が落ちる現象。プレフィルターでの前段保護が効く。低減
除菌フィルター微生物除去(0.22µm)除菌性能・低吸着・面積
二重ろ過除菌フィルターを二段直列にし、一方が不合格でも無菌性を担保できるようにする冗長構成。無菌性の冗長化バッチ救済・無菌保証要求

まとめ

無菌ろ過は、加熱滅菌できない抗体医薬で無菌性を確保するため、充填直前に0.22µm前後の除菌フィルターで微生物を除去する工程です。下流に除去機会がないことから、細菌チャレンジ試験によるバリデーションと使用前後の完全性試験によって個々のバッチの無菌性が保証されます。抗体の膜吸着による回収率低下は、低吸着膜・コンディショニング・フラッシングで管理します。高濃度・高粘度化への対応としてプレフィルターによる多段化や二重ろ過が検討され、膜材質・面積・構成の選定が処理時間と回収率を左右します。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。