高濃度・高粘度の最終(除菌)ろ過:なぜ最後のフィルタで詰まるのか
抗体医薬プロセス解説

高濃度・高粘度の最終(除菌)ろ過:なぜ最後のフィルタで詰まるのか

皮下投与(SC)向けに200 g/L超まで濃くした抗体原薬。上流であれだけ苦労して高力価にして、UF/DFでようやく目標濃度に着地した——その液を、最後の最後、充填の直前に置かれた0.22µm(0.2µm表記もあり)の除菌フィルターに通そうとすると、なぜか流れが粘る。圧力を上げても、思ったほど進まない。「ただ無菌化したいだけ」の一手で、時間と高価な原薬を食われていく。なぜ最後のフィルタで詰まるのでしょうか。

上流で高力価にしたのに、なぜ精製の最後でかえって詰まるのか

まず素朴な疑問から。上流の頑張りで濃い液を作れたのに、その「濃さ」が、最後の除菌ろ過ではむしろ敵に回る。なぜでしょうか。

カギは、最終ろ過が「行き止まり(デッドエンド)」のろ過だという点にあります。UF/DFのクロスフロー(接線流)と違って、最終除菌ろ過は液を膜にまっすぐ押し当てて、全量を膜の向こうへ通す方式です。膜面を液が掃いてくれる仕掛けがない。だから、ここでの勝負は純粋に「圧力で押して、どれだけの速さで液が膜を抜けるか」になります。

そしてその抜ける速さ(フラックス)を決める最大の要因が、粘度です。直感のための言い方をすると——希薄なバッファはサラサラの水、高濃度の抗体液は水あめ。同じ太さのストローで吸うとき、水あめは桁違いに重い。これと同じことが、目に見えない膜の細孔のなかで起きています。

数字で言えば、抗体の粘度は濃度とともにほぼ指数的に上がります。自己会合(分子どうしが緩く寄り合う性質)が効いてくるためで、SC向けの高濃度域では20〜100 cP、あるいはそれ以上に達することがあります(高濃度製剤の課題を整理したShireら、PMID 15124199)。希薄なバッファが概ね1 cP前後であることを思えば、これは数十倍から100倍。流れは粘度に反比例しますから、同じ圧力・同じ面積なら、フラックスは希薄時の数分の1から100分の1まで落ちる、ということです。

ここで効きどころです。これは「膜の穴が塞がったから遅い」のではありません。液そのものが重いから遅い。だから、プレフィルターで微粒子を取れば直る、という性質の問題ではない。最終ろ過が高濃度で手強くなる一次原因は、目詰まりの前に、まず粘度なのです。

POINT
高濃度・高粘度の最終除菌ろ過は、膜に全量を押し当てる「行き止まり」のろ過。流れの速さは粘度に反比例するため、20〜100 cP域では希薄時の数分の1〜100分の1までフラックスが落ちる。本質は「詰まり」ではなく「押し切れない」。

「詰まり」ではなく「圧力律速」——この違いが打ち手を変える

ここが、この記事で一番伝えたい転換点です。普通、ろ過が遅いと聞けば「目詰まりだろう、ならプレフィルターを足そう」と考えますよね。ところが高濃度・高粘度では、診断が逆向きになることがある。詰まっているのではなく、圧力で押し切れていない。だとすると、打ち手も変わります。

整理しましょう。膜にかける圧力(最終ろ過では膜の両側の圧力差、いわゆる差圧)を上げれば、流れは速くなります。ところがこの圧力には上限がある。膜やハウジング(フィルターの容器)が耐えられる圧力は、おおむね4 bar程度が目安です。つまり、いくら粘度が重くても、それを腕力でねじ伏せる圧力は途中で頭打ちになる。

ということは——フラックスが粘度で数十分の1に落ち、しかも圧力は上限で止まる。残された変数は一つだけ、面積です。流れの総量は面積に比例しますから、一本で足りないなら膜を増やせばいい。これが、高濃度の最終ろ過で「とにかくフィルター面積を大きく取る」という設計になりがちな理由です。

ここで打ち手の見極めが効いてきます。もし本当に「詰まり」が主因なら、上流に粗いプレフィルターを足して下流を守るのが正解。でも主因が「粘度による圧力律速」なら、プレフィルターを足してもフラックスはほとんど戻りません(液の重さは変わらないので)。むしろ、温度を上げて粘度を下げる(粘度は温度に強く依存します)、運転圧を上限近くまで使う、そして除菌膜そのものの面積と透過性を見直す——こちらが効く打ち手になります。「詰まりか、圧力律速か」を取り違えると、対策が空振りするわけです。

観点ファウリング(目詰まり)律速圧力(フラックス)律速
主因微粒子・凝集体・タンパク層が孔を塞ぐ高粘度で同じ圧力での流れが出ない
時間の進み方運転とともに流れが落ちていく最初から遅い(圧力上限で頭打ち)
効く打ち手プレフィルター・前段でのろ過面積増・温度で粘度低減・運転圧の見直し
プレフィルターの効果大きい限定的(液の重さは変わらない)
見誤ると過剰な前段で原薬ロスいつまでも流れず時間超過

面積を増やすと、なぜ高価な原薬が逃げていくのか

面積を増やせば流量は稼げる。めでたし——とはいきません。ここに、高濃度ろ過で一番お金に響く落とし穴があります。なぜ、面積を大きく取るほど原薬を失うのでしょうか。

理由は ホールドアップです。フィルターと配管には、ろ過が終わっても膜や流路に残ってしまう液量があります。これがホールドアップ。面積を増やせば膜も配管も増えるので、このデッドボリュームも一緒に増える。普段の希薄なバッチなら誤差の範囲かもしれません。でも高濃度では事情が違います。

考えてみてください。200 g/Lの原薬は、1リットル残るだけで200グラムのタンパク質が逃げる計算です。高濃度バッチは総液量そのものが小さいので、系内に残る数百mLの相対的な重みが跳ね上がる。濃ければ濃いほど、ホールドアップ1mLあたりの損失額が大きくなる。だから、流量のためにフィルターを過大化すると、稼いだ時間の代わりに、回収率という形で高価な原薬を払うことになります。

しかも追い打ちがあります。除菌膜の表面には抗体やポリソルベート(製剤を守るために入れる界面活性剤)が吸着します。タンパク質が膜に吸われればそれは直接の収率ロス。ポリソルベートが膜に取られると、液中の界面活性剤濃度が下がり、抗体を界面ストレスから守る働きが弱まる——つまり活性ロスや凝集の引き金にもなり得ます。膜面積が大きいほど、吸着できる表面積も増えるので、この損失も面積とともに膨らみます。

だから現場ではこうなります。面積は「流れるギリギリ」を狙って詰めたいが、詰めすぎると圧力律速で時間超過。広げれば時間は楽になるが、ホールドアップと吸着で原薬を失う。この綱引きの最適点は、処方ごと・分子ごとに違う。粘度も、膜への吸着の出方も、ポリソルベートの取られ方も処方依存だからです。だからこそ、面積の決定は小スケール試験から実液で検証してスケールするのが基本になります。憶測で大きめに振る、が一番高くつきます。

POINT
面積を増やすと流量は稼げるが、ホールドアップ(系内残液)と膜吸着が一緒に増える。200 g/L級では系内に残る数百mLが直接の収率ロスになり、ポリソルベート吸着は活性ロス・凝集の引き金にもなる。面積は「流れるギリギリ」を実液で詰めるのが鉄則。

せん断・界面ストレス——ろ過の手前ですでに仕込まれている

ここで一歩、視野を広げます。最終ろ過で問題が顕在化しても、その種は実はもっと手前、UF/DFでの長い循環のあいだに仕込まれていることがあります。なぜ「ろ過の前」の話が、ろ過の結果に効いてくるのでしょうか。

SC濃度に到達させるには、何倍もの体積を回し、ポンプ・バルブ・膜流路を通って長時間循環させる必要があります。このあいだ抗体は、せん断(流れのずれ)に繰り返しさらされる。ただし——ここが意外なところで、抗体を本当に壊しているのは、せん断そのものより界面だという研究が増えています。

どういうことか。液本体のなかを流れるだけのせん断では、抗体はそうそう変性しません。問題は、空気と液の境目(気液界面)や、配管壁・膜表面・泡といった「面」に抗体が吸着し、剥がれ、また圧縮される——この界面での出入りと圧縮の繰り返しです。ぜん動ポンプ(チューブをしごいて送るポンプ)で気液界面が周期的に圧縮されると、ある圧縮の度合いを超えたところから粒子の発生が一気に増える、という臨界的な振る舞いが報告されています(高濃度原薬製造のレビュー、Holsteinら、PMID 32687221)。

高濃度はこれを悪化させます。分子が混み合っているぶん衝突の頻度が上がり、いったん核ができた凝集体は速く育つ。しかも高粘度・高差圧の運転はポンプにより大きな負荷をかけるので、界面にさらす機会そのものが増える。つまり、循環が長く・濃く・粘くなるほど、界面で凝集の種が蒔かれやすい。

そして最終ろ過は、その「種」をあぶり出す関所になります。循環中にできた微小な凝集体や粒子が、最後の0.22µm膜で捕まり、孔を塞ぐ。ここで初めて「ファウリング律速」が顔を出すわけです。だとすると、最終ろ過のろ過性を守る打ち手は、膜の選定だけではない。界面保護のための界面活性剤、穏やかなポンプ、空気の巻き込みを減らす運転——上流の凝集対策が、そのまま下流のろ過性を守る、という一本の線でつながります。どの分子が高濃度で凝集しやすいかを上流で見抜く視点も、ここで効いてきます。

だから、高濃度向けに最適化された除菌膜が出てきた

ここまでをまとめると、高濃度の最終ろ過には三つの圧力がかかっています。粘度でフラックスが落ち、面積を増やせばホールドアップと吸着で原薬を失い、上流由来の凝集が孔を塞ぐ。この三つを少しでも緩めようと、近年メーカー各社は「高濃度・高粘度向けに最適化した除菌膜」を出してきました。何が効きどころなのでしょうか。

狙いは三点に集約されます。(1)同じ面積でより多くの液を流せる 高スループット、(2)抗体やポリソルベートを取られにくい 低吸着、(3)止め・再開や厳しい条件でも完全性(健全性)に余裕がある 高いバブルポイント。バブルポイントとは、湿らせた膜の細孔から気体が押し出され始める圧力のことで、完全性試験で孔のサイズや欠陥の有無を測る指標です。これが高いほど、運転の余裕も完全性の余裕も大きい、と理解してください。

具体例を挙げます。CytivaのPall系ブランドから出たSupor Prime(0.2 µm PESメンブレン)は、PES(膜の素材であるポリエーテルスルホン)の除菌膜を、UF/DF後・原薬充填・最終製剤充填といった「最も厳しい無菌工程」向けに作り込んだ製品です。メーカーは、最大220 g/L濃度・30 cP粘度のフィードで高いスループットを実証したとし、同等の競合フィルターに対して体積スループット約2倍、面積あたりスループットがMillipore Express SHCやSartopore Platinumより高い(自社ベンチマーク、p<0.01、n=17)と謳っています(いずれもメーカー主張)。形式は47 mmディスク、Kleenpak Spectrumカプセル(3 cm²から4 m²)、カートリッジ(0.13〜4.02 m²)が用意されます。

吸着と濡れ性に振った設計もあります。SartoriusのSartopore Platinum(第3世代0.2 µm PES除菌フィルター)は、PES表面に特許の恒久的親水化処理を施し、高い濡れ性と低いタンパク吸着を狙った製品です。濡れ性が高いとフラッシング(洗い流し)に使う水量を減らせるとされ、メーカーは最大約95%の水量削減を謳います。さらにTwinPleatという折り構造で有効面積を稼ぎ、設置面積を抑えると説明します(いずれもメーカー主張)。完全性の余裕を上げたHBバリアント(高バブルポイント、4.1 bar以上)は、止め・再開を含む厳しい運転向けと位置づけられています(メーカー主張)。

ポリソルベートの吸着に正面から向き合った製品もあります。SartoriusのSartopore Evo(0.8/0.2 µm二層PES)は、表面コートしたPES膜で、タンパク質や添加剤(ポリソルベートなど)の吸着を最小化すると謳う製品です。0.8 µmのプレフィルター層と0.2 µmの最終層を組み合わせた非対称構造で、容量はSartopore 2 XLG相当、PVDF(フッ化ビニリデン系の膜素材)フィルターより大幅に高いとされます。フォーム&フィル(成形充填)で廃棄するバイアル数を減らせること、PVDFと違い意図的にPFAS(有機フッ素化合物)を使わない構成であることも訴求点です(いずれもメーカー主張)。

前段保護で容量を稼ぐ古典的かつ堅実なアプローチもあります。MilliporeSigmaのMillipore Express SHC(0.5/0.2 µm)は、0.5 µmのPESプレフィルター膜を一体化して、下流の0.2 µm除菌膜を早期閉塞から守る二層オールPES膜です。濃縮タンパク質や無血清培地など、目詰まりしやすい液で容量を最大化しろ過の頑健性を高める設計だと説明されています(メーカー主張)。前述のSartopore Evoと同様、「粗い層で先に受けて、細かい除菌層を守る」という二層構成は、ファウリング律速が効く液で素直に効く考え方です。

選定の勘所はこうです。律速が「圧力(粘度)」寄りなら、高スループット・高バブルポイントの単層〜二層膜で面積効率を稼ぐのが効く。律速が「ファウリング」寄りなら、二層構成で前段保護を厚くする。回収率と活性が最優先なら、低吸着・低ポリソルベート吸着をうたう膜を選ぶ——どれも、これまで見た三つの圧力のどれを最も緩めたいか、で決まります。性能数値はすべてメーカー主張ですから、必ず自社の処方・条件で小スケール検証してから面積をスケールしてください。

選びたい効果効きどころ該当しやすい設計(メーカー主張)
とにかく流量・面積効率圧力(粘度)律速を緩める高スループット単層PES(Supor Prime:220 g/L・30 cP実証)
目詰まりへの頑健性ファウリング律速を緩める二層構成で前段保護(Millipore Express SHC、Sartopore Evo)
回収率・活性の保護吸着ロス・ポリソルベート吸着を抑える低吸着膜(Sartopore Platinum、Sartopore Evo)
完全性・運転の余裕止め/再開・厳条件への耐性高バブルポイント(Sartopore Platinum HB:4.1 bar以上)

まとめ

高濃度・高粘度の最終除菌ろ過で「最後のフィルタが詰まる」感覚の正体は、多くの場合、目詰まりではなく 圧力で押し切れないことにあります。最終ろ過は液の全量を膜に押し当てる行き止まりのろ過で、流れの速さは粘度に反比例する。20〜100 cP域では希薄時の数分の1から100分の1までフラックスが落ち(Shireら、PMID 15124199)、運転圧には膜・ハウジングの上限(おおむね4 bar程度)があるので、打ち手は実質「面積を増やす」に収れんします。ところが面積過大化は、ホールドアップ増と膜吸着増を連れてきて、200 g/L級では高価な原薬の回収ロスとして跳ね返る。さらにポリソルベートの膜吸着は活性ロスや凝集の引き金にもなります。加えて、UF/DFの長い循環で界面ストレスにより蒔かれた凝集の種が、最後の膜で初めてファウリングとして顕在化する(高濃度原薬製造レビュー、Holsteinら、PMID 32687221)ため、上流の凝集対策が下流のろ過性を守る一本の線でつながっています。だからこそ近年、高スループット・低吸着・高バブルポイントを掲げた高濃度向け除菌膜(Supor Prime、Sartopore Platinum/Evo、Millipore Express SHC)が登場しました。律速が圧力寄りかファウリング寄りか、回収率と活性のどれを最優先するかで選ぶ膜は変わります。性能数値はすべてメーカー主張ですから、自社処方で小スケール検証してから面積をスケールするのが、時間超過と原薬ロスの両方を避ける王道です。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。
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