核酸医薬基礎知識・製造工程

オリゴ核酸の固相合成とは? ホスホロアミダイト法の4工程を解説

核酸医薬の原薬製造を担当したとき、「なぜ培養ではなく化学合成なのか」と問われることがあります。アンチセンスやsiRNAといった核酸医薬の原薬は、そのほとんどが固相化学合成でできています。生物由来の発酵や培養ではなく、決まった試薬を順番に流す反応の繰り返しで、狙った配列を組み上げる——それがオリゴ核酸(合成オリゴヌクレオチドDNAやRNAの短い鎖を化学合成でつないだ分子で、核酸医薬原薬の多くを占める。)の製法であり、DNAやRNAの短い鎖を一塩基ずつつないでいくという意味でもあります。

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オリゴ核酸の固相合成とは? ホスホロアミダイト法の4工程を解説

いま主流になっているのがホスホロアミダイト法固体担体上で核酸を1塩基ずつ化学的に伸長させる合成法。ASOやsiRNAの製造の中核。です。固相担体(樹脂やガラスビーズ)に最初の一塩基を固定し、そこへ次の塩基を3'側から5'側へと伸ばしていきます。1塩基を足すたびに、脱保護→カップリング→キャッピングmRNAの5'末端にキャップ構造を付ける修飾で、分解を防ぎ翻訳効率を高めます。3'末端のポリA付加とは別の修飾です。詳しく →→酸化(または硫化)という4工程を1サイクルとして回します。20塩基なら約20サイクル。配列長のぶんだけ、このサイクルを積み重ねます。

固相合成化学合成でRNAの鎖を作り、2本を組み合わせて(アニーリング)二本鎖siRNAに仕上げる工程です。固相合成で1塩基ずつ鎖を伸ばしていきます。詳しく →の利点は、洗浄で余分な試薬を流し落とせる点にあります。目的の鎖は担体に固定されたまま動かないので、各工程のあいだに溶媒で洗えば、過剰試薬や副生成物を除いて次へ進める。しかしこれは同時に、1サイクルの取りこぼしが配列全体の純度にそのまま響くことも意味します。各工程をどれだけ完結させ、n-1全長より1塩基短い欠失体で、全長との差が小さく精製でもっとも分離しにくい不純物。などの欠損不純物をどう抑えるか——そこが品質の要です。

この記事の要点
  • 固相ホスホロアミダイト合成は、脱保護・カップリング・キャッピング・酸化(硫化)の4工程を繰り返します。
  • 核酸医薬に多いホスホロチオエート型は、酸化工程を硫化に差し替えて作ります。
  • 純度の要は各サイクルの完結度で、除きにくいn-1はキャッピングと高効率カップリングで上流から抑えます。

ホスホロアミダイト法の4工程サイクル

合成は、固相担体最初の塩基を固定する樹脂やガラスビーズで、目的の鎖を留めたまま洗浄できる。に固定された鎖の5'末端に次の1塩基を足す作業の繰り返しです。1サイクルは4工程で構成されます。伸長方向は3'から5'——溶液合成の生合成方向(5'→3')とは逆である点は、プロセス設計の前提として押さえておく必要があります。

脱保護(detritylation)

サイクルの入口です。伸長中の鎖の5'末端は、DMT(4,4'-ジメトキシトリチル5'水酸基を保護するトリチル系の基で、外れるとオレンジ色を示し効率の指標になる。)基で保護されています。ここへ酸(トリクロロ酢酸など)を作用させてDMT基を外し、次のカップリングに使う5'水酸基を露出させます。外れたDMTはオレンジ色を示すため、その吸光度を測ることで各サイクルのカップリング効率固相ペプチド合成においてアミノ酸が前段の鎖末端と反応・結合する割合で、低いと欠損配列が増加する。を間接的にモニターできます。

カップリング

露出した5'水酸基に、次の塩基のホスホロアミダイトオリゴ核酸を化学合成する際、一塩基ずつ鎖に付け足していく反応性のモノマー原料です。核酸合成の基本となる構成単位です。詳しく →を結合させます。アミダイトは大過剰で加え、活性化剤核酸を1塩基ずつ伸ばす固相合成で使う、活性化剤・酸化剤・硫化剤などの試薬類です。各サイクルの結合や修飾に用います。詳しく →(テトラゾール類)で反応性を高めます。ここで亜リン酸トリエステル(P(III))の結合ができます。反応しきらずに残った5'水酸基は、次のキャッピングで塞ぎます。

キャッピング

カップリングで反応しなかった5'水酸基を、無水酢酸などのキャッピング試薬mRNAの5'末端に「キャップ」構造を付けるための試薬です。キャップはmRNAの安定性や、タンパク質への翻訳効率を高める働きをします。詳しく →でアセチル化して塞ぎます。塞いでおかないと、その鎖は次のサイクルで再び伸長に参加してしまい、途中で1塩基抜けた配列(欠損体)が生まれます。キャッピングはこの欠損体の発生を抑え、後で除きやすい短鎖にとどめる役割を持ちます。

酸化(または硫化)

カップリングでできた亜リン酸トリエステル(P(III))は不安定なため、安定なリン酸トリエステル(P(V))へ変換します。天然型のリン酸ジエステル結合を作る場合はヨウ素・水・塩基による酸化を、核酸医薬で多いホスホロチオエート結合核酸をヌクレアーゼによる分解から守る化学修飾のひとつ。修飾sgRNAの末端などに用いる。(S化した骨格)を作る場合は硫化剤(Beaucage試薬など)による硫化を行います。 この工程で結合の化学(酸素型かイオウ型か)が決まります

POINT

1サイクルは脱保護→カップリング→キャッピング→酸化(硫化)の4工程。伸長は3'→5'方向で、酸化を硫化に置き換えるとホスホロチオエート骨格になります。

核酸医薬の原薬に多いホスホロチオエート骨格の酸素をイオウに置き換えた結合で、ヌクレアーゼ耐性を高める狙いがある。型は、ヌクレアーゼ核酸を分解する酵素です。製造では培養由来の残存DNA/RNAを分解・除去して製品の純度を高める目的で使い、ベンゾナーゼが代表例です。詳しく →耐性の付与などを狙って骨格の酸素をイオウに置き換えたものです。合成上は酸化工程を硫化工程に差し替えて作りますが、この配列は詳しくはアンチセンス核酸の設計思想と密接に関わります。

n-1などの欠損不純物

固相合成の純度は、各サイクルのカップリング露出した5'水酸基に次の塩基のアミダイトを結合させ、鎖を1塩基伸ばす工程。効率に強く依存します。1サイクルでわずかに反応が取りこぼされると、その鎖は全長より短い配列として残り続けます。

各カップリングで伸長しきれなかった鎖が積み重なることで、全長(n)に対して1塩基少ないn-1、2塩基少ないn-2といった欠損配列(ショートマー全長より短い欠損配列の総称で、n-2以下は除きやすいがn-1は分離が難しい。)が生じます。全長体の割合はサイクル効率の累乗で効いてくるため、配列が長くなるほど全長体の取り分は下がります。1サイクルの効率が同じであっても、塩基数が増えるほどその影響は無視できません。

  • n-1⁠:1塩基抜けた配列。脱保護合成した核酸を担体から切り出し、保護基を外して純粋な鎖にする工程。やカップリングの不足で生じます。全長との差が1塩基しかなく、後述の精製でもっとも分離しにくい不純物です。
  • n-2以下のショートマー⁠:2塩基以上短い配列。全長との性質差が大きく、クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。で比較的除きやすい部類です。
  • キャッピング由来の短鎖⁠:キャッピングで途中終結させた鎖。伸長には参加しないため、除去対象として扱いやすくなります。

もっとも手強いのはn-1です。 全長体との差が1塩基しかないため分離が難しく 、後工程の精製だけでは対処しきれません。だからこそ、キャッピングで欠損を短鎖側に追いやり、脱保護とカップリングを高い効率で完結させることが、上流での純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →づくりの基本になります。

スケールと固相担体(CPG)

固相合成のスケールは、使う担体カラムに充填する多孔質ビーズ。表面のリガンドと成分の相互作用差で目的物と不純物を分離する。の量と、そこに担持できる最初の塩基の量で決まります。研究用の数nmol〜数μmolから、医薬品原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。向けの大規模まで、基本の4工程サイクルは変わりません。

担体としてよく使われるのがCPG核酸を化学合成するとき、鎖の一端を固定しておく多孔質の担体です。CPG(多孔質ガラス)などが使われ、合成が終わると鎖を切り出します。詳しく →(Controlled Pore Glass、細孔径フィルター膜に存在する細孔の公称上の大きさを示す値で、保持できる粒子・微生物の最小サイズの目安となる指標(ただし実際の保持性能はバクテリアチャレンジ試験で実証される)。制御ガラス)です。高純度シリカからなり、細孔径をそろえて作れるため、試薬が担体の内部まで均一に行き渡りやすいという特徴があります。細孔径は用途に応じて選び、長い配列を作るときほど大きめの細孔が使われる傾向があります。ポリスチレン系の樹脂担体が使われることもあります。

項目内容
担体CPG(細孔径制御ガラス)/ポリスチレン系樹脂など
伸長方向3'末端を担体に固定し、5'側へ伸長
スケール研究用の数nmol〜μmolから原薬向け大規模まで
サイクル脱保護→カップリング→キャッピング→酸化(硫化)

合成が終わると、鎖を担体から切り出し、塩基や骨格の保護基を外します。この切り出しと脱保護には、濃アンモニアグルタミンの代謝と化学分解で生じる代謝副産物。蓄積すると増殖・生存を落とし、糖鎖の質にも影響する。水を用いて加熱する条件が広く使われます(55℃前後で十数時間といった条件が一例ですが、配列や修飾によって条件は変わります)。切り出した粗生成物には前述のショートマーや脱保護副生成物が混ざっているため、続いて精製に進みます。

精製:HPLCとイオン交換

粗生成物から全長体を取り出す精製では、逆相HPLCとイオン交換クロマトグラフィー電荷の違いで分けるイオン交換クロマト。酸性・主・塩基性ピークとして電荷バリアントの量を管理する。が代表的な手法です。いずれも、全長体と欠損体の性質差を利用して分けます。

  • イオン交換分子の電荷の違いを利用して分離するクロマトグラフィー。フラグメントなど定型ツールが効かない分子でも使える。クロマトグラフィー⁠:オリゴ核酸DNAやRNAの短い鎖を化学合成でつないだ分子で、核酸医薬原薬の多くを占める。の骨格が持つ負電荷(リン酸基)の数の違いで分けます。塩基数が多いほど電荷が多いため、全長体と短鎖を電荷差で分離できます。分離できる鎖長には上限があり、一定より長い配列では効きにくくなります。
  • 逆相HPLC疎水性の差でペプチドやオリゴを分離する液体クロマトグラフィーのこと。⁠:疎水性の差で分けます。合成後にDMT5'水酸基を保護するトリチル系の基で、外れるとオレンジ色を示し効率の指標になる。基を残したまま精製する「トリチルオン(DMTオン)精製」では、全長体だけがDMTの疎水性分子が水と親和せず、油脂や非極性溶媒と相互作用しやすい性質で、二本鎖RNAと一本鎖RNAではその程度が異なり分離の指標となる。を持つため、疎水性の差を大きくして欠損体と分けやすくします。精製後にDMTを外して仕上げます。

トリチルオン精製は、長い配列で全長体と失敗配列の疎水性差を作りやすく、比較的長い鎖でも使える方法として知られます。一方、いずれの精製でもn-1の除去は難しく、上流のサイクル効率で全長体の割合をあらかじめ高めておくことが最終的な純度を左右します。精製と品質管理の考え方は、同じ核酸医薬でも二本鎖を扱うsiRNAの製造プロセスとも共通する部分が多いです。

POINT

精製は「全長体と欠損体の性質差」を使います。イオン交換は電荷、逆相HPLC(特にトリチルオン)は疎水性。ただしn-1は差が小さく、上流のサイクル効率での作り込みが前提になります。

まとめ

オリゴ核酸の固相ホスホロアミダイト合成は、脱保護→カップリング→キャッピング→酸化(硫化)の4工程を、配列長のぶんだけ繰り返すプロセスです。核酸医薬で多いホスホロチオエート型は、酸化を硫化に差し替えて作ります。

品質の要は、各サイクルの完結度です。取りこぼしはn-1やショートマーとして残り、とくにn-1は精製で除きにくい——だからこそ、キャッピングと高効率のカップリングで上流から抑えることが基本になります。スケールはCPGなどの担体量で決まり、切り出し・脱保護を経て、イオン交換や逆相HPLC(トリチルオン精製を含む)で全長体を取り出します。上流の合成と下流の精製を一体で設計する視点が、安定した原薬づくりにつながります。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、核酸医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。