低分子医薬基礎知識・製造工程

ペプチド医薬の固相合成(SPPS)と製造の要点

ペプチドの固相合成化学合成でRNAの鎖を作り、2本を組み合わせて(アニーリング)二本鎖siRNAに仕上げる工程です。固相合成で1塩基ずつ鎖を伸ばしていきます。詳しく →は、単純な作業の繰り返しです。樹脂に固定した鎖の端から保護基化学合成中に反応させたくない官能基を一時的にマスクする化学基で、目的の反応後に除去されてもとの官能基が露出する。詳しく →を外し、次のアミノ酸をつなぎ、また保護基を外す。これを目的の長さまで続けて、最後に樹脂から切り出します。工程としては同じ操作の反復なので、自動化しやすく、装置に任せられる部分も多い。

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ペプチド医薬の固相合成(SPPS)と製造の要点

核心は一点です。同じ操作の繰り返しだからこそ、1回あたりの効率が累乗で効いてきます。縮合効率が 99.0% なら、20量体を組むのに必要な19回の伸長を経た時点で全長は 82.6% しか残りません。これを 99.5% まで上げれば 90.9% で、1回あたり 0.5ポイント の差が最終的に 8ポイント の差として現れます。50量体まで伸ばせば、61.2% と 78.2% で 17ポイント も開きます。長い鎖になるほど、1回の効率が全体を支配していきます。

この記事では、繰り返しの中身を確かめてから、1回の効率が全長に効く構造、Fmoc と Boc という二つの化学、詰まる場面、そして精製の順に解説します。オリゴ核酸DNAやRNAの短い鎖を化学合成でつないだ分子で、核酸医薬原薬の多くを占める。詳しく →の固相合成との対比はオリゴ核酸の固相合成にまとめてあります。最後に、ルートを決める順序を並べます。

この記事の要点
  • 縮合効率 99.0% と 99.5% の差は、20量体で 8ポイント、50量体で 17ポイント に広がります。
  • Fmoc 法が主流になったのは、最終切り出しに HF を使わずに済むからです。
  • 伸びなくなる原因の多くは反応性ではなく、鎖が樹脂上で凝集して反応点が隠れることにあります。

繰り返しの中身 ― 三つの操作

一巡は、三つの操作でできています。

最初が脱保護合成した核酸を担体から切り出し、保護基を外して純粋な鎖にする工程。詳しく →で、鎖の末端にあるアミノ基を覆っている保護基を外し、反応できる状態にします。次が縮合、つまり次のアミノ酸を活性化T細胞を抗原刺激や人工的な刺激試薬で活性化し、増殖・機能発揮できる状態に誘導する操作。詳しく →してつなぐ操作です。最後が洗浄で、余った試薬と副生成物を流し去ります。固相で行う最大の理由がここにあって、鎖が樹脂に固定されているので、洗うだけで精製が済みます。

樹脂の選択で、切り出したときの末端の形が決まります。カルボン酸で終わらせるか、アミドで終わらせるか。ポリスチレン系の樹脂が長く使われてきましたが、極性の高い配列ではポリエチレングリコール系の樹脂のほうが膨潤しやすく、反応が進みます。

縮合には活性化剤核酸を1塩基ずつ伸ばす固相合成で使う、活性化剤・酸化剤・硫化剤などの試薬類です。各サイクルの結合や修飾に用います。詳しく →を使います。この用途で長く使われてきたベンゾトリアゾール系に加え、近年は爆発性の懸念が小さいオキシム系と、カルボジイミドを組み合わせる構成が広がりました。⁠三つの操作のうち、収率を決めるのは縮合ですが、失敗の原因は洗浄の不足にあることも多い。

1回の効率が全長を決める

累乗の効き方を、具体的な数字で見ておきます。

20量体を組むには19回の伸長が要ります。1回あたりの効率が 99.0% なら、全長として残るのは 0.99 の19乗で 82.6% にとどまり、99.5% に上げれば 90.9% まで届きます。

鎖が長くなるほど、この差は開いていきます。50量体なら49回の伸長を経るので、99.0% で 61.2%、99.5% で 78.2%。差は 17ポイント にまで広がります。100量体を化学合成で狙う場合、1回の効率を 99.8% 以上に保たないと、全長が半分も残りません。

残った分はどこへ行くのかというと、伸長が止まった鎖として樹脂の上に残ります。これが欠失配列で、全長と1残基しか違わないため、精製で分けるのが最も難しい不純物です。⁠合成の設計とは、精製で落とせない不純物をどこまで作らずに済ませるかの設計です。

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Fmoc と Boc ― 主流が入れ替わった理由

保護の化学には、二つの系統があります。

Bocα-アミノ基を酸で毎サイクル外し、最終の切り出しに強酸を使うペプチド合成の保護戦略。 法では、末端の保護基を酸で外します。側鎖の保護基はもっと強い酸でしか外れないベンジル系を使い、最後にフッ化水素で一気に切り出す。段階ごとに酸の強さを変えて選択性目的物と不純物を、溶出位置をどれだけ離して分けられるかの度合い。分離の分解能を左右する。詳しく →を出す設計です。合成そのものは堅牢ですが、フッ化水素は極めて危険な試薬で、専用の設備と訓練が要ります。

Fmocα-アミノ基を塩基で外し、側鎖保護と樹脂からの切り出しを酸で行う、現在主流のペプチド合成法。詳しく → 法では、末端の保護基を塩基で外します。20% のピペリジン溶液で処理するのが標準で、側鎖は酸で外れる保護基を使う。酸と塩基という異なる性質で使い分けるので、選択性がはっきりします。最後の切り出しはトリフルオロ酢酸で済み、フッ化水素は要りません。

この安全性の差が、そのまま主流の入れ替わりを決めました。いまの製造はほぼ Fmoc 法で、装置も試薬もこちらを前提に整備されています。CEM や Biotage、Gyros Protein Technologies の合成機、Iris Biotech や Chem-Impex のアミノ酸誘導体天然アミノ酸の側鎖や末端を化学修飾することで電荷や疎水性を調整した化合物群。は、いずれも Fmoc 法の系です。⁠化学的な優劣ではなく、扱える設備かどうかで選択が決まりました。

POINT

Fmoc 法の弱点は、塩基性条件で起きる副反応です。アスパラギン酸とグリシンが隣り合う配列では、脱保護のたびに環状の副生成物ができて、そこから異性体が生じます。配列にこの並びがあると分かった時点で、保護基の選択か脱保護の条件を変える判断が要ります。合成に入る前、配列を眺めた段階で予見できる種類の問題です。

詰まる場面 ― 凝集、エピマー化、環化

伸びなくなる理由は、反応性だけではありません。

いちばん多いのが凝集で、伸びてきた鎖どうしが樹脂の上で水素結合を作り、シート状に重なってしまいます。こうなると反応点が内側に隠れて試薬が届かず、縮合を二度繰り返しても伸びないまま時間だけが過ぎます。対策としては、擬プロリンと呼ばれる特殊な二残基単位を途中に入れて構造を折り曲げる方法や、主鎖の窒素を一時的に保護する方法があります。加熱して構造をほどく手もあり、マイクロ波で 50〜90℃ に上げながら合成する装置が使われます。

エピマー化という副反応も付いて回ります。活性化されたアミノ酸は、立体が反転しやすい状態に置かれています。とくにシステインとヒスチジン弱酸性域で電荷が変わるアミノ酸。タンパク質の中では pH が下がると結合の仕方を変える要になり、製剤では弱酸性域の緩衝剤として抗体の安定化に使われる。詳しく →で起きやすく、生じた異性体は全長と質量が同じなので、質量分析分子の質量を精密に測る手法。鎖の組み合わせ違いを分子量差として捉え純度評価に使う。詳しく →では区別できません。逆相での保持がわずかに違うことを頼りに分けます。

これらはどれも配列に依存する現象です。⁠同じ長さでも、配列によって合成の難度は桁で変わります。だから工程の設計は、配列を読むところから始まります。

精製 ― 似たものから分ける

粗生成物には、全長と、それによく似た分子がいくつも混ざっています。

欠失配列、異性体、切り出しのときに保護基が残ったもの、酸化された分子。どれも全長と構造が近いので、分離は逆相クロマトグラフィー疎水性の差でペプチドやオリゴを分離する液体クロマトグラフィーのこと。詳しく →に頼ります。有機溶媒の勾配をかけて溶出させ、目的の峰だけを集める。YMC や Daicel、Phenomenex の分取用カラムが使われ、製造規模では一度に 10 kg を超える量を処理する系もあります。

純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →の目標は品目で変わりますが、原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →として 95〜98% 以上を狙うのが一般的です。ここに到達するまでに、粗生成物の段階で 60〜70% の純度があれば一回の精製で届きますが、40% を切っていると二段の精製が要り、収率が大きく落ちます。

溶媒の量も無視できない要素です。合成でも精製でも大量の有機溶媒を使い、製造規模では 1 kg の原薬に対して数百 kg の溶媒を消費します。⁠合成の効率を上げることは、精製の負担と溶媒の消費を同時に下げることでもあります。

ルートを決める順序

ペプチド複数のアミノ酸がペプチド結合でつながった中分子化合物で、タンパク質より鎖が短いものを指す。詳しく →の製造ルートを決めるとき、次の順で判断します。

一番目は、配列を読むことです。 鎖の長さ、疎水性の連なり、アスパラギン酸とグリシン結晶性が高く、凍結乾燥品でしっかりした形のケーキをつくる増量剤として使われるアミノ酸。詳しく →の並び、システインの数。ここに合成の難度がほぼ書き込まれています。難配列があるなら、その対策を織り込んだ見積もりが要ります。

二番目に、必要となる量を見積もります。研究用の少量なら固相合成で十分ですが、トンの単位が要るなら、組換えで骨格を作ってから化学修飾核酸の糖・骨格・末端に施し、安定性・結合力・免疫原性を整える改変。詳しく →するハイブリッドのルートのほうが安く上がることがあります。三番目が、断片を作って後でつなぐかの判断です。長い鎖を一気に伸ばすより、20残基ほどの断片を別々に作ってから連結するほうが、全体の収率が高くなる場合があります。

四番目に、精製を何段組むかを見積もります。粗生成物の純度の見込みから、一段で足りるか二段要るかが決まり、そこで原価が大きく動きます。⁠最後に、使う溶媒の量を出します。合成の設計は化学の問題に見えますが、製造規模では溶媒の調達と廃棄が制約として先に来ます。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、低分子医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。