自動電気泳動でmRNAの完全性を測る:RQNのスコアだけで判断しない理由

mRNAの完全性スコア(RQN)が8だったロットは、良いロットでしょうか。スコアだけでは決められません。RQNとRINeは、リボソームRNAを含むトータルRNAの品質を見るために作られた指標で、1種類の配列でできたIVTDNA鋳型から試験管内でRNAを合成する反応。mRNA医薬の製造に用いる。詳しく → mRNAは、その前提から外れるからです。
IVT(試験管内転写)の条件を変えた翌日や、安定性試験出荷時から有効期限まで品質特性が規格内にとどまることを確認する試験。詳しく →の途中で、分解が進んでいないかを、誰が見ても同じ答えで言えるか。目視のゲルは、にじみ方の印象に寄りかかるので、日によっても人によってもぶれます。自動電気泳動なら波形とスコアが自動で出ますが、どこを読むかで結論が変わります。
品質保証の人は規格に何を書くかを、分析の人は測定条件の置き方を、購買や営業の人は装置の違いを聞くときの着眼点を、ここで確かめられます。キャップの測り方はキャッピング効率の測定、ポリAmRNAの3'末端に付くアデニン連続配列。分解からの保護と翻訳の支持を担う。詳しく →の長さはポリAテールの長さ分析で解説しています。
完全性とは ― 切れた分子は翻訳されない
完全性が問うているのは、mRNAが最後まで途切れずにつながっているかです。
キャップがそろって付いていても、コード領域(タンパク質の設計図の部分)の途中で鎖が切れていれば、全長のタンパク質は作られません。切れる場面は、工程と保存のあちこちにあります。IVTでの途中終結、精製での剪断、保存中のRNase(RNA分解酵素)の混入や加水分解、凍結融解です。どれも全長の鎖を減らし、分布を短い側へ寄せます。
開発の初期にも、工程を変えたときにも、強制分解試験や安定性評価にも、同じ物差しで追えることが品質を語る前提です。同じ試料を同じ人が見ても日によって判定が変わる目視のゲルは、その物差しに使えません。
完全性は、キャップやポリAとは別に、全長がどれだけ残っているかを問う品質特性です。
自動電気泳動の仕組み ― 波形とスコア
核酸は負に帯電しているので、電場をかけると、ゲルの中をサイズに応じた速さで動きます。長い全長の鎖はゆっくり、短い断片は速い。この差が、横軸にサイズ、縦軸に蛍光の強さをとった波形(エレクトロフェログラム)になります。既知のサイズのラダー(目盛りになる標準)を一緒に流せば、主ピークが設計どおりの長さに来ているかも確かめられます。分解が進むと、主ピークが低くなり、短い側に裾(スメア)が伸びます。
装置は、方式が二つあります。Agilentのキャピラリー型(Fragment Analyzer)は、細い管を並列に使い、多数の検体を一度に流せます。テープ型(TapeStation)は、使い捨てのゲルテープを使い、少数の検体をその場で回すのに向いています。完全性のスコアの名前も違い、Fragment AnalyzerはRQN、TapeStationはRINeです。どちらも1から10の値で返りますが、算出は装置ごとなので、数字を横に並べて比べません。
波形から自動でスコアを出す段もあります。全長ピークの鋭さ、短い側の裾の量、ベースラインの立ち上がりをアルゴリズムが評価して、1つの数字にまとめます。
多くの検体を回すなら管、少数をすぐ見たいならテープと、装置の選択は検体の数から決まります。
スコアの落とし穴 ― トータルRNA用の物差し
RQNとRINeは、リボソームRNAのピークの比などをもとに、トータルRNAの品質を数字にするために作られました。IVT mRNAは、リボソームRNAを含まない単一の種です。トータルRNAで「7以上なら使える」と言われてきた感覚を、そのまま持ち込めません。RQNが8だから良い、という読み方は、成り立たない場面があります。
そこで実務では、スコアは同じ条件でのロット間や条件間の比べ方、つまり傾向を見る物差しに使います。合否の線は、主ピークの割合など、波形から直接読んだ数字と合わせて引きます。Agilentも、IVT mRNAには、主ピークから純度を出す方法と、範囲を決めてその割合を出すスメア解析を案内しています。全長が8割残っているのか、5割しかないのかは、スコアの小数点以下の違いより、はるかに意味があります。
| 見るもの | 答える問い | 落とし穴 |
|---|---|---|
| スコア(RQN・RINe) | 条件間やロット間で、全体の形が良いか悪いか | トータルRNA用の算出。絶対値で合否を切れない |
| 主ピークの割合 | 全長がどれだけ残っているか | 積分の設定と注入量で動く |
| スメア(短い側)の割合 | 決めた範囲に、分解物がどれだけあるか | 範囲の決め方で動く。範囲を手順で固定する |
| 波形そのもの | 上の数字が何を拾ったか | 数字だけ残すと、あとで見直せない |
主ピークの割合には、よくある失敗があります。試料の濃度が低すぎて注入される量が少ないと、不純物のピークが小さすぎて積分されず、報告される純度が実際より高く出ます。Agilentの技術資料は、この点を注意し、不純物のピークまで拾えるようソフトウェアの最小ピーク高さを調整することと、試料の濃度を低くしすぎないことを勧めています。
スコアは傾向を見る物差しで、合否の線は主ピークの割合と波形に合わせて引きます。
測れる範囲と前処理 ― 長い構築での読み違い
キットには、サイズの測れる範囲があります。AgilentのFragment AnalyzerのHS RNAキットは、200から6,000塩基です。新型コロナのワクチンのmRNAは4,000塩基ほどなので範囲に収まります。一方、自己増幅型mRNAのように9,000から12,000塩基に及ぶ鎖は、範囲の外にあります。Agilentは、6,000塩基を超えるmRNA向けに、泳動時間を延ばして長鎖用のラダーを使う延長法を用意しています。対象はおよそ9,000塩基までで、不純物とのピークの分かれ方も良くなるとされています。
長い構築ほど、全長と近いサイズの断片が分かれにくくなり、全長ピークの形も読みにくくなります。範囲の上端に近い構築では、スコアの動きよりも、波形の形の変化を先に見ます。
二次構造(RNA自身が折りたたまれる形)がサイズ校正を狂わせないよう、キットの手順に従って、加熱して変性させてから流します。この前処理を省くと、同じ試料でも波形が変わります。
範囲の上端に近い構築ほど、スコアより波形を先に読みます。
得意なことと苦手なこと ― 直交法との分担
自動電気泳動が効くのは、同じ物差しを、開発から品質管理原料・資材・中間体・製品を規格に照らして試験し、使ってよいか、出荷してよいかの合否を決める仕事です。GMPでは製造部門から独立させます。詳しく →まで通す場面です。IVTの条件検討では、反応時間や温度、鋳型の量を振ったときに全長がどれだけ保たれるかを、多検体で追えます。精製と工程内の管理では、各ステップの前後で完全性を確かめ、剪断や分解が起きる場所を切り分けます。安定性では、保存温度や凍結融解の回数に対して、完全性がどう推移するかを時間を追って見られます。
苦手なのは、微量な副生成物の同定と、サイズの近い不純物の分離です。純度の詳細は、イオンペア逆相HPLCによるmRNA分析のような、原理の違う分析法に渡します。サイズ軸で見えるのは鎖長の分布なので、ポリAの長さそのものはポリAテールの長さ分析の担当です。どの特性をどの分析法に割り振るかは、CQA別の分析法選択にまとめています。
自動電気泳動は速く広く見張る網で、直交法異なる原理の手法で同じ対象を測り、結果を突き合わせて検証し合う分析の組み方。詳しく →は詰める道具です。役割を分けて使います。
明日から確かめられること
分析条件の見直しや、受託分析機関への依頼に使える項目です。
- 構築の長さは、使うキットの測れる範囲に入っているか。外れるなら、延長法のような対応があり、自社の構築で確かめた実績があるか
- 記録するのは、スコアだけか。主ピークの割合、短い側の割合、波形も残しているか
- 積分の設定とスメアの範囲は、手順で固定されているか。試料の濃度は、キットの推奨の範囲か
- スコアを、トータルRNAの目安(7以上など)で読んでいないか
- 加熱変性などの前処理は、キットの手順どおりか
- 純度の詳細や、サイズの近い不純物は、別の分析法に渡す約束があるか
装置と受託先はmRNAのキャップ/ポリA・完全性評価とキャピラリー電気泳動装置で比べられます。核酸原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →の品質管理の全体像は核酸原薬のQCにあります。
参考文献
- Agilent, RNA Sample Quality Control Analysis(Automated Electrophoresis)(RQNはFragment Analyzer、RINeはTapeStation。トータルRNAの品質指標)
- Agilent, Fragment Analyzer RNA Kits(HS RNAキットのサイズ範囲)
- Agilent, Best Practices for Analysis of IVT mRNA using the Agilent Fragment Analyzer systems: Sizing, Resolution, and Purity(技術資料 5994-6568EN)(主ピークからの純度、スメア解析、試料の濃度と最小ピーク高さ)
- Agilent, High-Sensitivity IVT mRNA Analysis Using the Agilent Fragment Analyzer Systems(技術資料 5994-7644EN)(6,000塩基を超える場合の延長法)
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