プラスミドDNAの製造工程とは?発酵から精製、調達の確認点まで

2021年8月、Danaher はプラスミド大腸菌の中で複製・増幅させる環状DNA。核酸医薬やベクター製造の伝統的な出発材料。詳しく →DNA、mRNA、タンパク質を受託製造製造をCDMOやCMOなど外部の製造所へ委託すること。委託しても品質への最終的な責任は委託者に残る。詳しく →する Aldevron の買収を、約96億ドルで完了しました。プラスミドDNA(pDNA)は、大腸菌の中で増やす小さな環状のDNAです。見た目は地味な原料が、なぜこれほどの値で取引される産業になったのでしょうか。
答えは、使い道の広さにあります。AAVベクターは、一般的な方法では3種類のプラスミドを細胞に入れて作ります。レンチウイルス分裂していない細胞にも遺伝子を組み込めるレトロウイルスベクター。CAR-Tで広く使われる。詳しく →のパッケージング必要な部品遺伝子を細胞に導入し、ウイルスベクター粒子を組み立てさせる製造工程。詳しく →にも使います。mRNA医薬の多くは、pDNAを鋳型にして試験管内で転写して作ります。DNAワクチン抗原タンパク質をコードするDNAを体内に投与し、宿主細胞内で抗原を発現させて免疫応答を誘導するワクチン。詳しく →のように、pDNAそのものが医薬品になる場合もあります。出発原料製造の起点となる原料で、その品質や持ち込む不純物が最終製品の品質に影響しうるため、規格管理が重視される物質。詳しく →の品質がそろわなければ、その先の工程は始まりません。
製造では環状のDNAを壊さずに取り出す難しさが、購買では研究用からGMP医薬品を一定の品質で安全に造るために守るべき製造・品質管理の基準(適正製造規範)です。詳しく →までのグレードと委託先の選び方が、品質保証では受け入れのときに何を見るかが論点です。
- pDNAは、AAV・レンチウイルス・mRNA・DNA医薬の出発原料です。用途によって、求められる品質が変わります。
- 品質が最も動くのはアルカリ溶解の工程です。収量を取りにいくと、中心指標のスーパーコイル含量が落ちます。
- 買うときは、グレードの中身と成績書の項目、変更の通知を書面で確かめます。
AAV・レンチ・mRNA・DNA医薬では、pDNAに求める姿がどう違うのか?
pDNAは、用途によって求められる姿が違います。
AAVとレンチウイルスの製造では、pDNAを培養細胞に導入(トランスフェクション培養細胞に外来の核酸を導入する操作。ウイルスベクターの一過性の産生などに用いられる。詳しく →)して、ベクターを作らせます。細胞の中で働きやすいのは、輪がねじれて小さく折りたたまれたスーパーコイル型です。使われ方はAAVベクターの製造工程とレンチウイルスの製造工程で追えます。
mRNAでは、pDNAを酵素で切って直線にしてから、鋳型として使います。この場合は、切れ具合や、酵素と混ざる不純物が問題です。詳しくはプラスミド直鎖化とIVTにまとめています。DNAワクチンや遺伝子治療薬では、pDNAそのものが有効成分です。
用途を先に決めないと、規格も、グレードも、委託先も決められません。
発酵・溶解・精製・濃縮のうち、品質が最も動くのはどこか?
抗体のように細胞が外へ出す医薬品と違い、pDNAは大腸菌の中にあります。菌を育てて壊し、DNAだけを取り出す流れです。
| 工程 | 何をするか | 失敗しやすい点 |
|---|---|---|
| 発酵培養 | 大腸菌を増やし、プラスミドも増やす | 菌の量と、プラスミドの量と質の両立 |
| アルカリ溶解 | 菌を壊してDNAを出し、ゲノムDNAなどを沈殿で分ける | 薬液に触れる時間と、混ぜる強さ |
| 清澄化培養液から細胞や破片を取り除いて目的物質を含む上清を回収し、後工程に渡せる清澄な液にする工程です。詳しく → | 沈殿や細胞片を取り除く | 取りこぼすと後段のカラムが詰まる |
| クロマト精製 | RNAやエンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →を落とし、形をそろえる | スーパーコイル型だけを選び取る |
| 濃縮・無菌ろ過細菌を止めることを実証したフィルターに液を通し、無菌のろ液を得る工程です。除菌ろ過・ろ過滅菌とも呼び、菌の数を下げるだけのバイオバーデン低減ろ過とは区別します。0.22µm前後の膜が広く使われます。詳しく → | 処方液に置き換えて、無菌ろ過する | ポンプや膜でのせん断 |
出発点は宿主株です。DH5αやDH10Bのような実験室株が選ばれます。DNAを分解する酵素の遺伝子(endA)や、配列を組み換える遺伝子(recA)を欠いた株。そのぶん、収量と安定性が出やすくなります。目的のプラスミドを入れた株は、マスターセルバンク(MCB)とワーキングセルバンク(WCB)MCBを解凍・拡大して作る、日常製造で取り崩す細胞在庫。製造のたびにここから始めます。として凍結保存生きた細胞を低温で止めて保管し、後で融解して使えるようにする技術。詳しく →し、毎回同じ起点から作ります。
発酵では、基質を絞りながら足していく流加培養培養の途中で栄養(フィード)を追加しながら細胞を高密度まで育てる培養方式。詳しく →で、菌を高密度に育てます。プラスミドによっては、培養の後半に温度を上げてコピー数を増やします。
次のアルカリ溶解が、いちばん繊細な工程です。NaOHとSDSで菌を壊し、続けて酢酸カリウムなどで中和します。すると巨大なゲノムDNAとタンパク質は塊になって沈み、小さなプラスミドだけが上清に残ります。問題は、強いアルカリに長く触れたり、強く混ぜたりしたときです。スーパーコイル型は、元に戻らない変性型や、切れ目の入ったオープンサーキュラー(OC)型、線状に変わります。商用でよく使われるのは、流路の中で各液を連続して混ぜる方式です。混合の均一さと滞留時間が、再現性を決めます。
沈殿は、デプスフィルターや遠心で取り除きます(清澄化)。取りこぼすと、後段のレジンが詰まります。
精製の中心は、陰イオン交換クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →(AEX)です。DNAは負に帯電しているので、正に帯電したAEXレジンに結合させ、塩の濃度を上げながら外します。なぜ分けられるのか。プラスミド、RNA、ゲノムDNA、エンドトキシンは負電荷の強さが違い、溶出する位置がずれるからです。仕上げには、大きさの差で分けるサイズ排除分子の大きさの差で分けるクロマトグラフィー。詳しく →や、疎水性の差で分けるHIC分子表面の疎水性の違いを利用して分けるクロマト担体で、高い塩濃度で吸着させ塩を下げて溶出させます。抗体の凝集体除去などに使われます。詳しく →を組み合わせます。プラスミドは巨大な分子で、レジンクロマトグラフィーで目的物や不純物を結合させる粒子状の充填材。精製モードごとに使い分ける。詳しく →の細孔に入りにくいため、貫通孔を持つメンブレンクロマトグラフィーが選ばれることもあります。
最後に、TFFシステムで濃縮し、保存用の液に置き換えます。プラスミドは長い鎖状の分子なので、ポンプや膜面のせん断で切れやすく、流す速さや圧を抑えます。そのあと0.22 µmの滅菌フィルターでろ過して、充填します。

収量を取りにいくほど、プラスミドの形は崩れやすくなります。最も品質が動くのは、アルカリ溶解です。
品質は、スーパーコイル含量と不純物の何で決まるのか?
品質の中心は、スーパーコイル含量プラスミドDNAのうち、しっかりねじれた高品質な形態(スーパーコイル)が占める割合です。原料の品質を示す指標です。詳しく →(ccc%)です。ねじれた形のものが全体の何割かを示し、ほどけたOC型や線状は、不純物として扱います。
あわせて、残存ゲノムDNA、RNA、タンパク質、エンドトキシン(大腸菌の細胞壁に由来する発熱性の物質)を測ります。設計どおりのプラスミドかを見る同一性は、制限酵素DNAの特定の塩基配列を認識して切る酵素です。クローニングやベクター作製でDNAを狙った位置で切るために使います。詳しく →で切った断片の形や配列で確かめます。形の比率は電気泳動やHPLCで、残存DNAはqPCRで測ります。考え方は残存DNA分析と純度分析にあります。
規格値は一つではありません。AAV遺伝子治療で遺伝子を運ぶウイルスベクター。血清型によって集まりやすい組織が異なる。詳しく →の製造に使うのか、mRNAの鋳型に使うのかで、必要な値が違います。供給者のカタログに載っている値は、その供給者の標準品の値です。自社の用途に必要な値とは別に、下流の要求から逆算して決めます。
スーパーコイル含量は、数字だけでなく、どの試験法で測った値かまで一組で見ます。
重要:研究用・HQ・GMPのグレードは、名前だけで比べてよいのか?
名前だけでは比べられません。pDNAのグレードは、大きく研究用、HQ(High Quality)、GMPの3つに分けて語られます。
研究用は、細胞を使った実験には足りても、臨床の製造に必要な記録や規格がそろっていません。GMPは、製造記録、工程の管理、出荷時の試験がそろった状態です。間にある HQ は、GMPではないが研究用より品質と製造記録を整えた、という意味で一部の供給者が使う呼び名です。ただ、その中身に決まった定義はなく、供給者ごとに違う。HQ と書かれていたら、何を満たしているのかを書面で聞きます。
規制の考え方は、まだ整理の途中です。EMA は2021年2月のQ&A(EMA/246400/2021)で、プラスミドのように遺伝物質を運ぶための生物由来の出発原料について、製造所にGMP適合証明書は求めないものの、GMPの原則はリスクに応じて適用するとしています。USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく →は、プラスミドDNAを出発原料として使うときの品質を扱う一般章〈1040〉のドラフトを、2023年11月に意見募集に出し、その後も内容の改訂を進めています。
どのグレードを、いつ選ぶかは、開発の段階で変わります。初期は研究用やHQで進め、後期にGMPへ切り替える例が多くあります。ただ、途中で供給者や製法が変わると、同じ性能であることを示すデータの取り直しが増えます。そのため、早い段階からGMPで始める開発者もいます。切り替えの考え方は研究用グレードからGMPグレードへ、いつ切り替えるかで解説しています。
内製か外注かの判断は、バイオ医薬の製造委託(CDMO)とウイルスベクター製造のCDMOの選び方を読むと整理できます。供給の面では、アジア太平洋で細胞・遺伝子治療の開発が増える一方、プラスミドの製造拠点が足りず、欧米の外部委託に頼る状況が続いていると報じられました(アジア太平洋の上流供給)。納期と数量は、品質と同じくらい早めに詰めておく項目です。
mRNAの鋳型では、大腸菌を使わず、酵素で線状のDNAを作る方法も出ています(Aldevron の Alchemy)。違いはdbDNA/ceDNAをmRNAのIVT鋳型に使うという選択肢にあります。
グレードの名前ではなく、その名前の裏にある書類と試験の中身で比べます。
製造・調達・品質保証では、どんな失敗が起きやすいのか?
製造で起きやすいのは、アルカリ溶解で混ぜすぎたり、薬液に触れる時間が延びたりして、スーパーコイル含量が落ちる失敗です。TFFでも、流速や圧を上げすぎると、せん断で鎖が切れます。収量を急ぐと、品質が先に崩れます。
調達で起きやすいのは、グレードを切り替える時期を逃すことです。臨床が近づいてから供給者を替えると、データの取り直しが一気に増えます。
品質保証で起きやすいのは、成績書の数字だけを見て、試験法を見ないまま受け入れることです。スーパーコイル含量は、測り方によって数字が変わり得ます。
見積・受け入れ・契約では、何を書面で確かめるのか?
見積依頼や受け入れの確認に使える項目です。
- 用途:AAV、レンチ、mRNAの鋳型、DNA医薬のどれか。規格は、その用途から逆算しているか
- グレード:研究用、HQ、GMPのどれか。HQなら、何を満たす意味か書面があるか
- 成績書の項目:同一性、濃度、スーパーコイル含量、残存ゲノムDNA・RNA・タンパク質、エンドトキシン、微生物試験が入っているか
- 試験法:スーパーコイル含量は、どの試験法で測った値か
- セルバンク目的物質を作る細胞をあらかじめ大量に凍結保存し、製造のたびに同じ素性の細胞を使えるようにした細胞の在庫(MCB/WCB)のことです。詳しく →:マスターセルバンク製造の起点となる細胞を段階的に均質に凍結保存した在庫(マスター/ワーキングセルバンク)。詳しく →の履歴と、選択に使う抗生物質の扱いは確認できるか
- 変更通知:製法、規模、製造所が変わるときに、事前に通知を受ける取り決めがあるか
- 供給:納期と、継続して買える数量はどうなっているか
- 保管:保管条件と使用期限は、安定性のデータにもとづいているか
選択に使う抗生物質は、カナマイシンが多く使われます。抗生物質を使わない選択方式も出ています。最終品に残らないかも、確認項目に入れます。
装置・資材の比較は、シングルユースバイオリアクター、TFFシステム、エンドトキシン試験などの製品ページで見られます。発酵の装置選びまで踏み込むなら、プラスミドDNAの製造工程(発酵から精製まで)が次の1本です。
用途、グレード、試験法、変更通知の4点は、見積の段階で書面にしてもらうと、受け入れ後の食い違いを防げます。
参考文献
- Danaher, Danaher Completes Acquisition of Aldevron(2021年8月30日)
- EMA, Questions and answers on the principles of GMP for the manufacturing of starting materials of biological origin used to transfer genetic material for the manufacturing of ATMPs (EMA/246400/2021, 2021年2月24日). EMA
- USP 一般章〈1040〉Quality Considerations for Plasmid DNA as a Starting Material for Cell and Gene Therapies(プラスミドDNAを細胞・遺伝子治療の出発原料として使うときの品質の考え方。Pharmacopeial Forum で2023年11月にドラフトを意見募集。その後に改訂されており、最新の版は USP–NF で確認)
- BioPharma APAC, Vectors, Plasmids and the CGT Trap: APAC's Cell and Gene Therapy Ambitions Face an Upstream Bottleneck
次に読む
遺伝子治療/プラスミドDNAこの工程を、製造の流れのどこに当たるかで見るこの記事から広げる
この分野の新着を、メールで受け取る
こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを毎週水曜の朝にお届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。
登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。閲覧の記録(どのページから、どの会社のサイトへ移ったか)を、ご案内のために使います。
目次・関連閉じる
Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/plasmid-dna-process