遺伝子治療基礎知識・製造工程

プラスミドDNAの製造工程とは?大腸菌発酵から精製まで

AAVベクター製造の三重トランスフェクションHEK293系細胞に3種のプラスミドを同時導入し、一過性にAAVを産生させる代表的な手法。、レンチウイルスのパッケージング、mRNA医薬の転写鋳型、そしてDNAワクチンそのもの。これら遺伝子・核酸医薬のすべてが、出発原料としてプラスミドDNA大腸菌の中で増やす環状DNA。細菌バックボーンや抗生物質耐性遺伝子、エンドトキシンを含む点が弱点。(pDNA)の品質と供給量に直接依存しています。pDNAとは細菌の中で自律的に複製する環状の二本鎖DNAのことで、もともとは遺伝子組換え遺伝子組換え技術を用いて微生物や細胞に目的タンパク質を産生させることで製造された成分を指し、動物由来成分を含まない点が特徴。の道具でしたが、いまではそれ自体が医薬品原料として重要な位置を占めています。下流モダリティ抗体・低分子・核酸・細胞治療など、医薬品の種類・創薬手法の区分。の成否は、ここで決まると言っても過言ではありません。

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プラスミドDNAの製造工程とは?大腸菌発酵から精製まで

「大腸菌を培養して、その中で増えたプラスミドだけを高純度で取り出す」。言葉にするとシンプルですが、実際にプロセスに向き合うと話は変わります。大腸菌一個あたりプラスミドの何百倍も存在するゲノムDNA、大量のRNA、細胞壁由来のエンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →、タンパク質——これらをすべて除きながら、目的のプラスミド大腸菌の中で複製・増幅させる環状DNA。核酸医薬やベクター製造の伝統的な出発材料。を壊さずに回収しなければなりません。ここに難しさが凝縮されています。

さらに事態を複雑にするのが、プラスミドの「形」の問題です。最もコンパクトに巻かれたスーパーコイル(ccc:covalently closed circular)型が薬効上もっとも望ましく、この含量(ccc%)が品質の中心指標になります。大腸菌の発酵からTFF濃縮まで、工程を順に追っていくと、なぜスーパーコイル含量プラスミドDNAのうち、しっかりねじれた高品質な形態(スーパーコイル)が占める割合です。原料の品質を示す指標です。詳しく →と不純物除去が プラスミドDNAの工程フロー の核心になるのかが見えてきます。

この記事の要点
  • プラスミドDNA製造は、大腸菌内で増やしたプラスミドを、桁違いに多いゲノムDNA・RNA・エンドトキシンから選り分けて取り出す工程です。
  • 最大の山場はアルカリ溶解で、混合せん断とNaOH接触時間の制御が、品質の中心指標であるスーパーコイル含量(ccc%)を左右します。
  • AEXとメンブレン/SECで核酸と形態を仕上げ、pDNAはAAV・レンチ・mRNAの出発原料としてその品質規格を下流の要求から逆算して設計します。

プラスミドDNA製造の全体像

pDNA製造は、大腸菌を培養してプラスミドを増やす上流(アップストリーム抗体製造のうち、細胞を増やして抗体を作らせる培養までの上流工程。ハーベスト以降の下流と区別する。)と、菌体を壊して目的物を取り出す下流(ダウンストリーム培養液から抗体を分離・精製する下流工程。清澄化からProtein A、ポリッシュ、UF/DFまでを指す。)に分かれます。抗体や培養由来の生物製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。と異なり、目的物が「細胞の中」にあるため、菌体を回収してから穏やかに溶解する工程が前半の山場です。

工程区分主な目的
宿主株・セルバンク準備安定した産生株を確保する
発酵培養培養大腸菌とプラスミドを増やす
ハーベスト培養液から細胞や破片を取り除いて目的物質を含む上清を回収し、後工程に渡せる清澄な液にする工程です。詳しく →(菌体回収)移行培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。から菌体を集める
アルカリ溶解移行菌体を壊しプラスミドを放出する
清澄化精製細胞片・沈殿物を除く
キャプチャー精製の最初に、目的の抗体を担体にまとめて捕まえ一気に純度を上げる工程。Protein Aが代表。AEX正の電荷を帯びたクロマト担体で、負に帯電した分子を静電的に吸着して分離します。タンパク質精製や、DNA・不純物の除去に使われます。詳しく →精製プラスミドを選択的に捕捉する
ポリッシュ精製の仕上げ段階。イオン交換や疎水性相互作用で凝集体や電荷異性体などの微量不純物を除く。SEC分子を天然に近い条件でサイズにより分ける液体クロマトグラフィー。凝集体の主要な定量法。/メンブレン)精製残存核酸・形態を整える
濃縮・バッファ交換(TFF膜面に液を平行に流しながらろ過し、目詰まりを抑えつつ濃縮やバッファ交換を行う限外ろ過(クロスフロー)装置一式です。詳しく →精製濃度と処方液を整える
無菌ろ過微細な孔のフィルターに液を通し、菌などの微生物を取り除く工程です。加熱できない製品を無菌にする手段で、0.22µm前後の膜が広く使われます。詳しく →充填処方済みの溶液をバイアルやシリンジなどの容器へ無菌的に充填し、封止する製造工程。製剤最終製品にする

抗体医薬の Protein A精製 に相当する「最初の選択的捕捉」がAEXキャプチャー、それに続くポリッシュで形態と純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →を仕上げる、という骨格は他のモダリティと共通です。 pDNA製造では、菌体内に大量併存するゲノムDNA・RNA・エンドトキシンの除去と、スーパーコイル型の維持を両立させることがプロセス全体を規定します。

出発点:宿主株とセルバンク

すべての品質はどの大腸菌で作るかから始まる。pDNA生産には、組換えに不利な変異を持つ実験室株が選ばれます。代表例がDH5αやDH10Bで、内在するヌクレアーゼ活性が低くプラスミドの収量・安定性が高い系統です。配列の組換え・再編成を抑えるrecA、精製時のDNA分解を防ぎ収量・純度を保つendA(エンドヌクレアーゼ核酸を分解する酵素です。製造では培養由来の残存DNA/RNAを分解・除去して製品の純度を高める目的で使い、ベンゾナーゼが代表例です。詳しく →I)などの遺伝子が不活化ウイルスの感染性を失わせること。低pH保持や溶媒/界面活性剤処理で、エンベロープウイルスに効きやすい。されている点が要点になります。

宿主株に目的プラスミドを導入したら、それをマスターセルバンク(MCB)/ワーキングセルバンク(WCB)MCBを解凍・拡大して作る、日常製造で取り崩す細胞在庫。製造のたびにここから始めます。として凍結保存し、毎回同じ起点から製造を始めます。微生物由来製品でも、二段階のセルバンク目的物質を作る細胞をあらかじめ大量に凍結保存し、製造のたびに同じ素性の細胞を使えるようにした細胞の在庫(MCB/WCB)のことです。詳しく →体制と特性解析(株の同一性、抗生物質耐性マーカー、プラスミドの制限酵素DNAの特定の塩基配列を認識して切る酵素です。クローニングやベクター作製でDNAを狙った位置で切るために使います。詳しく →地図など)は、生物製剤と同じ考え方で管理します。セルバンクの考え方は セルバンク(MCB/WCB) と共通です。

POINT
宿主株は endA-/recA- など「DNAを壊さない・配列を崩さない」性質で選びます。GMPでは抗生物質選択をどう扱うか(抗生物質フリー系への移行を含む)も早期に決めておくべき設計事項です。

発酵培養:プラスミドを増やす

WCBから起こした菌を、まず小スケールで前培養し、本培養タンクへスケールアップ小型培養で確立した条件を、より大きなバイオリアクターへ拡大する取り組みです。酸素供給の指標kLaなどを揃え、性能を再現します。詳しく →します。pDNAでは細胞そのものではなくコピー数の高いプラスミドを増やしたいので、培地・温度・供給戦略細胞培養中に栄養素や補助成分をいつ・どれだけ添加するかを定めた計画で、生産性や品質に大きく影響する。を「菌体量とプラスミド収量の両立」に向けて設計することになります。

商用規模では、グルコースなどの基質を絞りながら供給する流加(フェドバッチ種培養で増やした細胞を大型の培養槽に移し、目的物質を本格的に産生させる最終段階の培養です。栄養を追加しながら育てるフェドバッチが広く使われます。詳しく →)培養で高密度に菌を育てるのが一般的です。培養後半に温度を30℃から37〜42℃へ上げてコピー数を増やす、温度誘導型のプラスミドも使われます。培養装置はステンレスの撹拌槽撹拌翼で機械的に混ぜ、スパージャーで通気する最も標準的なバイオリアクターの型式。のほか、近年は シングルユースバイオリアクター を用いた微生物発酵も実用化が進み、洗浄・滅菌バリデーション試験法が目的に合う性能を持つことを立証する妥当性確認。正確さ・精度などを評価する。の負荷を下げる選択肢になっています。

発酵では溶存酸素、pH、温度、基質濃度をリアルタイムに監視し、過剰な酸素供給や急激なpH変動がプラスミドの安定性やスーパーコイル比に影響しないよう管理します。 発酵の良し悪しは、培養液1リットルあたりのpDNA収量(mg/L)と、回収後のスーパーコイル含量という二つの数字に集約されます。

ハーベストとアルカリ溶解:もっとも繊細な工程

培養が終わったら、遠心または精密ろ過で菌体を回収します。ここからがpDNA製造の心臓部——アルカリ溶解(alkaline lysis)です。

古典的な手順は三液法と呼ばれ、次の順で進みます。

主な成分役割
再懸濁液Tris/EDTA/RNase菌体を分散し、後でRNAを分解する
溶解液NaOH/SDS細胞壁・膜を壊しDNAを変性させる
中和液酢酸カリウムなどpHを戻しゲノムDNA・タンパク質を沈殿させる

仕掛けはpHの操作にあります。強アルカリ条件では二本鎖DNAが一旦ほどけますが、コンパクトに巻かれたスーパーコイルプラスミドは完全には分離しません。そこへ中和液でpHを素早く下げると、巨大で絡み合ったゲノムDNAやタンパク質、SDSは不溶性の塊として沈殿し、小さなプラスミドだけが正しく対合して上清に残ります。プラスミドとゲノムDNAを大きく分離できるのはこの原理によるものです。

ただしアルカリ溶解には限界があります。アルカリ条件に長く晒すとスーパーコイル型がほどけ、切れ目の入ったオープンサーキュラー(OC)型や線状(linear)型へ変質します。NaOHの濃度・接触時間・混合の強さ(せん断)を厳密に制御しなければ、ccc%は一気に落ちます。商用では人手のピペット操作ではなく、流路内で各液を連続的に合流・滞留させる連続フロー溶解が使われ、混合の均一性と滞留時間が再現性の鍵になります。

POINT
アルカリ溶解は「強く壊す」と「優しく扱う」を両立する工程です。NaOH接触時間と混合せん断を抑えるほどスーパーコイル含量は守られますが、溶解が不十分だと収量が下がります。ここがpDNA製造でもっともプロセス感度が高い場所です。

清澄化:沈殿物を取り除く

中和で生じた大量の沈殿(ゲノムDNA・タンパク質・SDS-カリウム塩・細胞壁片)を取り除く工程です。沈殿物は軽くて浮きやすいフロック状になることが多く、抗体培養液の清澄化とは性質が異なります。

実務では、沈殿を浮上分離させてからデプスフィルターで受ける、あるいは遠心と組み合わせる構成がとられます。ここで沈殿を取りこぼすと、後段のクロマトグラフィー樹脂が目詰まりし、純度も収量も悪化します。 清澄化はクロマトの前処理であると同時に、エンドトキシンとゲノムDNAの初期負荷を下げる最初の純度向上ステップでもあります。

キャプチャーとポリッシュ:核酸を見分けて分ける

清澄化した溶液には、まだRNA断片、残存ゲノムDNA、エンドトキシンがプラスミドと混在しています。いずれも「核酸・負電荷の分子」という点で共通しているため、サイズや電荷のわずかな違いを手掛かりに分けていく必要があります。

最初の捕捉に広く使われるのが陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)です。DNAはリン酸骨格により負に帯電するため、正電荷を持つ AEX(陰イオン交換)レジン に塩濃度(導電率)の低い条件で結合させ、塩を上げながら溶出します。プラスミド、RNA、ゲノムDNA、エンドトキシンは負電荷の強さが異なるため、塩濃度勾配で溶出位置がずれ、これを利用して分離します。結合・溶出条件は導電率に強く依存するため、工程では 導電率計 によるバッファ管理が欠かせません。

ポリッシュ(仕上げ)では、目的に応じて次の手法を組み合わせます。

手法主に分けるもの原理
サイズ排除(SEC)RNA断片・形態(ccc/OC)分子の大きさの差
疎水性相互作用(HIC)エンドトキシン・OC型疎水性の差
メンブレンクロマト残存DNA・エンドトキシン大型分子の高流速捕捉

近年は樹脂充填カラムに代えて メンブレンクロマトグラフィー を採用する例が増えています。プラスミドのような巨大分子は樹脂の細孔内部に入りにくく結合容量が出にくいのに対し、貫通孔を持つメンブレンは大型分子でも高流速で処理でき、エンドトキシンや残存ゲノムDNAの除去に向くためです。AEXとメンブレンを組み合わせ、最終的にスーパーコイル含量と残存核酸を規格内へ追い込むのが典型的な構成です。 クロマト工程の目的は「不純物を落とす」ことと「スーパーコイル型を選び取る」ことの二つにあります。

濃縮・バッファ交換(TFF)と無菌ろ過

精製を終えたプラスミド溶液は、濃度が低く塩を含む状態です。これを最終処方の濃度・バッファへ整えるのがタンジェンシャルフローろ過(TFF/UF・DF)です。限外ろ過膜で水と塩を抜いて濃縮し、続くダイアフィルトレーションで保存バッファ(多くはTEや生理食塩水ベース)へ置換します。TFFの基本は 限外ろ過・透析ろ過(UF/DF・TFF) で詳しく扱っています。

プラスミドは長い鎖状分子のため、ポンプや膜面でのせん断でスーパーコイルが切れやすい。クロスフロー速度や膜間差圧(TMP)を抑え、せん断を最小化する運転条件を選ぶことが重要です。装置選定は TFFシステム の選び方が参考になります。

最後に 滅菌フィルター(0.22µm)で無菌ろ過し、充填します。目詰まりやせん断による収量ロスを防ぐには、前段までにエンドトキシンと微粒子をどれだけ落とし込めているかが直接響いてきます。

品質:何を、どこまで測るか

GMPグレードのpDNAはAAV・レンチ・mRNAの出発原料として使われるため、その品質は下流の安全性をそのまま規定します。主要な品質項目は次のとおりです。

項目代表的な指標目安・考え方
スーパーコイル含量ccc%高いほど良い(目安として90%以上を狙うことが多い)
残存ゲノムDNAng/mg pDNA などqPCRで定量し規格内へ
残存RNA電気泳動で実質非検出RNase処理+クロマトで除去
残存タンパク質µg/mg pDNA比色法・ELISA等
エンドトキシンEU/mg用途に応じ厳格化
同一性制限酵素地図/配列設計どおりか確認

スーパーコイル・OC・線状の比率はアガロースゲル電気泳動やキャピラリー電気泳動、HPLCで評価します。残存ゲノムDNAは 残存DNA(qPCR) で定量し、考え方は 残存DNA分析 に整理しています。純度・形態の評価全般は 純度分析 の手法選択が参考になります。エンドトキシン試験の基礎は薬局方の手法(リムルス試験など)に従います。また、RNA分解に加えたRNaseなどのヌクレアーゼが製品に残らないことも確認対象で、残存ヌクレアーゼのELISA定量が用いられます。 pDNAの品質規格は単独で決まるのではなく、それを原料に使う下流モダリティ(AAV/レンチ/mRNA)の要求から逆算して設定されます。

このpDNAが実際にどう使われるかは、 AAVベクターの製造工程レンチウイルスの製造工程 を合わせて読むとつながりが見えてきます。

まとめ

プラスミドDNA製造は、大腸菌の中で増やしたプラスミドを、桁違いに多いゲノムDNA・RNA・エンドトキシンから選り分けて取り出す工程です。最大の山場はアルカリ溶解で、混合せん断とNaOH接触時間の制御が品質の中心指標であるスーパーコイル含量(ccc%)を決めます。AEXとメンブレン/SECで核酸と形態を仕上げ、せん断を抑えたTFFで処方を整え、無菌ろ過して完成。pDNAはAAV・レンチ・mRNAの出発原料であり、その品質規格は下流モダリティの要求から逆算して設計される点が、他の医薬品原料と大きく異なります。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、遺伝子治療に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。